道を選ぶ
木立が近づくにつれ、六人の足元には小さな石や木の根が増えてきた。
さっきまで遠くから見ていた道も、近くまで来ると少し違って見える。
ガレスは先ほどの言葉どおり、みんなと歩調を合わせていた。
「この辺なら、そんなに急じゃないな!」
「まだ道の入口だよ」
ベンが返すと、ガレスは木々の奥へ目を向けた。
「分かってるって。ほら、あっちへ続いてるだろ?」
道は木立に沿って緩く曲がり、その先は幹や枝に隠れている。
クロードも少し首を伸ばしてみたが、見える範囲はほとんど変わらなかった。
「ここからじゃ、どこまで回るのか分からないね」
エクリアが足を止めた。
「でも、さっき見た上り道より傾きは小さそうね」
「上りが少なくても、遠回りなら結構歩くぞ」
ノーゼスは背負った荷物を持ち上げるように肩を動かした。
「どっちも楽じゃなさそうだな」
「まだ歩いてないのに?」
ピアが笑う。
「歩く前だから考えてるんだよ」
「それはそうだね」
ピアは道の端へ目を向けた。
土から浮き出た木の根が、道を横切るように伸びている。
「こっちは根が多いかな。踏むところは選ばないと」
「でも、避ける場所はあるね」
クロードは根の周囲を見て答えた。
大きな段差はないが、荷物を背負ったまま足を引っかければ簡単には踏み直せない。
少し離れたところで、グレインが二つの道と周囲の木々を順に確かめていた。
「見終わったか?」
声を掛けられ、六人は顔を上げた。
「まだ、どっちがいいか迷ってます」
クロードが答えると、グレインは頷いた。
「なら、何をしにここへ来たか考えろ」
ガレスがすぐに顔を上げる。
「遠征です!」
「それは知ってる」
ベンの返事に、ガレスも笑った。
グレインは二人のやり取りを聞いてから、丘の先へ目を向けた。
「目指すのは、この先の指定された地点だ。そこへ着いて、全員で無事に帰ってくる」
クロードはもう一度、目の前の分かれ道を見比べた。
先へ進めばいいだけではない。
帰る時も、剣を下げて荷物を背負って歩くことになる。
「だったら、上の道の方が近そうじゃないか?」
ガレスが丘の斜面を指した。
道はまっすぐ高い方へ伸びており、木立沿いの道より先がよく見える。
「上り切れれば、あっちの方が先まで見えそうだし!」
「上り切れれば、ね」
ベンは坂の下から上まで視線を動かした。
「帰りはあそこを下りるかもしれないんだよ?」
「下りなら上りより楽じゃないか?」
「荷物を背負って急な坂を下りるのも大変だと思うけど」
「そうか?」
「じゃあ、ガレスだけ荷物を二つ持って下りてみる?」
「なんで二つなんだよ!」
ノーゼスが吹き出し、クロードも笑った。
エクリアは二人の方へ目を向けてから、木立沿いの道を見た。
「こっちは帰りも同じくらい緩やかに歩けそうだけど、どれくらい回るか分からないわ」
「そうなんだよな」
ノーゼスも頷く。
「曲がった先で、もっと上るかもしれないし」
「そこで確かめればいいんじゃない?」
ピアが言った。
「ここからは見えないけど、道が曲がるところまでは歩けそうだよ」
「その先が駄目だったら?」
ガレスが尋ねる。
「戻って、また考える」
ピアはあっさり答えた。
「えっ、戻るのか?」
「進めないのに、ずっと行くわけにはいかないでしょ」
「そりゃそうだけど」
ガレスは少し考え込んだ。
クロードはもう一度、二つの道の入口を見た。
上り道には見晴らしのよさがあり、木立沿いには傾きの緩やかさがある。
どちらも、ここから先まで確かめたわけではない。
「僕は、まず木立沿いを進んでみたいな」
クロードが言った。
「どうして?」
エクリアが尋ねる。
「今見えてるところなら、六人で荷物を背負って歩けそうだから。曲がった先は、そこまで行って確かめたい」
「戻ることも考えてる?」
ピアが聞く。
「うん。通りにくかったら、その時に考え直せばいいと思う」
「俺もそっちかな」
ノーゼスは肩に掛かる紐を直した。
「急な上りは、まだ後でも選べるし」
「私も、木立の方を見てみたいわ」
エクリアが続ける。
「ただ、曲がるところでは立ち止まりたい。そこから先はまだ見えていないもの」
「僕も賛成」
ベンはガレスの方を見た。
「どうする?」
「俺は上の道も気になるけどな」
ガレスは急坂を見上げてから、みんなの方へ向き直った。
「でも、こっちを進んでみてからでもいいか!」
「さっきみたいに一人で行かなければね」
「もう分かってるって!」
また笑い声が上がる。
グレインは六人の話が途切れるのを待ってから口を開いた。
「木立沿いを選ぶんだな」
「はい」
クロードが答え、ほかの五人も頷いた。
「理由は?」
「今見えている範囲では、荷物を持ったまま歩きやすそうだからです」
エクリアが答えた。
「でも、先の道は見えていません。曲がったところでもう一度確かめます」
グレインは木立の方を見た。
少しの間、道と周囲に目を向けてから頷く。
「いいだろう。行ってみろ」
「はい!」
ガレスが返事をし、今度はみんなが動き始めるのを待った。
六人は道の幅に合わせて間隔を取り、木立に沿って歩き出した。
グレインも近くで周囲を確かめながらついてくる。
最初の数歩は、遠くから見たとおり緩やかな上りだった。
ただ、踏むたびに地面の高さが少しずつ違う。
クロードは足元の石を避け、腰の鞘が脚に当たらない位置を確かめながら進んだ。
前を歩くガレスが、出っ張った根をまたいだ。
「ここ、ちょっと足上げるぞ!」
「見えてるよ」
ベンが返したが、自分も根を越える時には少し歩幅を変えた。
「……思ったより高かった」
「だから言っただろ!」
ガレスが得意そうに振り返る。
「前見て歩いて」
ピアに言われ、ガレスはすぐに顔を戻した。
クロードはそのやり取りを聞きながら、道の外側へ目を向けた。
木々の間から、先ほど見上げた丘の斜面がところどころ見える。
こちらの道は上りが少ない分、丘を回り込むように続いていた。
「本当に遠回りしてるな」
ノーゼスが言った。
「でも、今のところは歩きやすいね」
ピアが足元を確かめながら答える。
「この先もそうとは限らないけどね」
ベンが言うと、エクリアも頷いた。
「もうすぐ曲がるわ。そこから先が見えるかもしれない」
ガレスは少し速度を緩めた。
木立が濃くなり、道は右へ曲がっている。
その手前で六人は足を止めた。
クロードは曲がった先へ目を向ける。
さっきまで枝に隠れていた地面が、今度は少し先まで見えていた。
道は消えていない。
けれど、その先も同じように歩けるのかは、まだ分からない。
「どうする?」
ノーゼスが隣で尋ねた。
クロードは五人を見た。
「もう少し、みんなで確かめようか」
「よし!」
ガレスが笑い、ベンも荷物を背負い直した。
エクリアとピアが道の先を確かめてから、六人は再び歩き始めた。




