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『異世界転生した製鉄所主任、雷魔法と鉱物生成で成り上がる ~未知の世界は面白いことだらけでした~』~幼少期・王立学園編~  作者: 黎明の星
王立学園編

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それぞれの目標

戦闘実践の授業があった日から、少し時間が過ぎていた。

4年魔法組の教室では、午前の授業を終えた生徒たちが、それぞれ昼食へ向かう支度をしていた。

クロードが教本を鞄へ入れていると、後ろからガレスの声が聞こえた。

「ベン、お前まだそれ見てるのか?」

振り返ると、ベンが机の上にノートを広げていた。

その隣からガレスが覗き込んでいる。

「さっきの授業の続きじゃないよ」

「じゃあ何だ?」

「光魔法の方。前に書いたことを見直してたんだ」

「ふうん。あ、回復の方も書いてる」

ガレスが頁の端を指した。

「そこ、前から気にしてたよな」

「うん。3年になった時に、グレイン先生からも練習するように言われただろ」

ベンはノートを少し回してガレスにも見えるようにした。

クロードも自分の鞄を閉じ、二人の近くへ寄る。

「回復魔法のこと?」

「そう。光魔法って、それだけじゃないけどね」

「お前の光、戦ってる時にも結構助かってるぞ」

ガレスはあっさり言った。

ベンが顔を上げる。

「急にどうしたの?」

「いや、実際そうだろ。光を出した時、相手がそっちを見ることもあるし」

「あれ、味方まで見づらくなる時もあるんだけどね」

「それは俺も困ったことあるな!」

「自分で言うんだ」

クロードが笑うと、ガレスも笑った。

ベンは開いた頁を指先で押さえた。

「だから、どこで使うかはもっと考えたいんだよ」

「回復魔法を練習するのとは別に?」

「別っていうか、両方かな」

ベンは少し考えてから答えた。

「回復が必要になる時もあるだろうけど、最初からそればかり考えて戦うわけじゃないし」

「そりゃそうだな」

ガレスは頷く。

「この前だって、お前はカイルの方へ行ってたしな」

「あの時は、そっちが空いたからね。ザナトスまで来るとは思わなかったけど」

「俺ならそのまま斬り込むな!」

「だから、ガレスは追いすぎるんだって」

「またそれか!」

笑い声につられて、少し離れた席にいたピアが顔を上げた。

「何の話?」

「ガレスが、また前に出る話」

ベンが答える。

「俺の話じゃなかっただろ!」

「今はベンの光魔法の話だったの」

クロードが説明すると、ピアはベンのノートへ目を向けた。

「回復魔法も?」

「うん。前から考えてること、整理してたんだ」

「そっか」

ピアは少し考えてから、自分の鞄の横に置いていたノートを持ち上げた。

「私も昨日、ちょっと書いてた」

「何を?」

「水魔法のこと」


◇


食堂へ向かう生徒たちで、教室は少しずつ静かになっていった。

エクリアとノーゼスは先に席を立ち、クロードたちへ声を掛けて廊下へ出ていった。

「じゃあ、私たちも早く行こうよ」

ピアが言うと、ガレスは大きく頷いた。

「そうだな! 腹減った!」

「さっきまで元気に喋ってたのに」

ベンがノートを閉じる。

四人は鞄を持って教室を出た。

第1食堂へ向かう途中、ピアが自分のノートを軽く叩く。

「この前の戦闘実践、横で見てた時間もあったでしょ」

「うん。ピアは別の区画にいたよね」

クロードが答える。

「そう。みんなが動いてるのを見てたら、また考えちゃって」

「水を出す場所?」

ベンが聞いた。

「それもあるけど、自分がどこへ動くか、かな」

ピアは廊下を歩きながら、空いた方の手を小さく動かした。

「《ウォーターボール》を使う時、相手が動けば狙う場所も変わるでしょ」

「変わるね」

「私も動いてるから、思ったところへ出せそうでも、そのままじゃ届かない時があるの」

「だったら近づけばいいんじゃないか?」

ガレスが言った。

「近づいて木剣を使う時だってあるよ」

ピアはすぐに答えた。

「でも、水を使いたいから近づくのか、木剣で行きたいから近づくのかで、立つ場所も違うでしょ」

「ああ……そう言われると」

ガレスが腕を組む。

「この前、タンガと戦ってた時も、横から入ろうとしたら別の相手が来たんだ」

「うん。そういう時に、私も自分で次の場所を決めたいなって」

「今だって決めてるじゃない」

ベンが言う。

「決めてるよ。でも、あとから『あっちの方がよかったかな』って思うこともあるの」

ピアは照れたように笑った。

「前に出るのも、水を使うのも好きだから、どっちも上手くなりたいんだ」

クロードは頷いた。

自分も雷を使うか木剣にするかで、思ったように動けないことがある。

ただ、ピアはピアで、違うところを考えているらしい。

「この前は、ピアがいなかったら僕が動けなかった場面もあったよ」

「どこ?」

「プレーリーベアの時。水が当たって、向きが変わったところ」

「ああ、あの時ね」

ピアは少し驚いた顔をしてから頷いた。

「当たったのに、なかなか止まらなかったよね」

「うん。僕もどう動けばいいか迷った」

「私も。だから、次に水を使うなら何を狙うか、もっと考えておきたいな」

ガレスが二人を見比べた。

「お前ら、そういうのよく覚えてるな」

「ガレスだって覚えてるでしょ」

ベンが返す。

「そりゃ覚えてるよ! あんな大きいの、忘れられないって!」

「それはそうだね」

四人は笑いながら食堂へ入った。


◇


昼食を終えて教室へ戻ると、まだ午後の授業までは時間があった。

ベンは自分の席に戻り、ノートをもう一度開いた。

ピアも近くの椅子を引いて座る。

「ベンは、回復魔法のことをどんなふうに考えてるの?」

「うーん……」

ベンはすぐには答えず、頁の隅を見た。

「最初は、先生に言われたからっていうのもあったよ」

「そうなんだ」

「でも、実際に学園の外へ行ってみると、怪我をしたら困るっていうのは分かるから」

「プレーリーベアの時、みんな無事だったけどね」

「そう。あの時はね」

ベンは頷き、少しだけ声を落とした。

「俺も剣を使ったけど、もし誰かが怪我してたら、今度は違うことを考えなきゃいけなかったと思う」

「うん」

「だから、使えることは増やしたい。ただ、光を使うのも剣を使うのも、やめたいわけじゃないんだ」

ピアは笑った。

「ベンらしいね」

「そうかな?」

「だって、いつも一つだけに決めないもの」

「そんな格好いい話じゃないよ」

ベンも笑った。

「ガレスが前へ行ったら、一緒に行くこともあるし、止めた方がいいと思う時もあるし」

「それ、俺がいないところでも言ってたのか?」

戻ってきたガレスが、二人の後ろから声を掛けた。

「聞こえたんだ」

「最後だけな!」

「じゃあ、ちょうどよかった」

ベンは笑ってノートを閉じる。

「ガレスは何をもっと練習したいの?」

「木剣だな!」

「即答なんだ」

「そりゃそうだろ。もっと上手く当てられるようになりたいし、相手に避けられたあとも追いつきたい!」

「追いかけすぎない練習もいるんじゃない?」

ピアが言った。

ガレスは一瞬だけ黙る。

「……それもだな!」

三人が笑ったところへ、クロードも教本を持って戻ってきた。

「楽しそうだね」

「ガレスが、次も追いかけるって」

「ちょっと違うだろ!」

ガレスは抗議したが、すぐに笑い出した。

クロードはベンの閉じたノートと、ピアの開いている頁へ目を向ける。

「二人とも、まだ考えてたんだ」

「うん。なんか話してたら増えちゃって」

ピアが言う。

「私は次の戦闘実践で、もう少し自分の足の動きも確かめたいな」

「俺は、光を使うところも、木剣に持ち替えるところもかな」

ベンも答える。

「回復魔法のことは?」

クロードが尋ねた。

「もちろん、それも続けるよ」

ベンは机の端に置いたノートを指で叩いた。

「一つできれば、ほかを考えなくていいってわけじゃないからね」

「そっか」

クロードが頷くと、ピアが顔を上げた。

「クロードは?」

「僕?」

「次に何をしたいか」

「……たくさんあるけど、魔法を止めたあとにもう少し早く動けるようになりたいかな」

「この前のザナトスとの時みたいに?」

「うん」

「じゃあ、みんなやることあるな!」

ガレスが大きく笑った。

その時、廊下から午後の授業へ向かう生徒たちの声が聞こえてきた。

四人も教本を持ち直し、席を整える。


◇


午後の授業が終わり、教室の窓から差す光が少し傾いていた。

ベンが鞄へノートをしまっていると、ピアが近くへ来た。

「さっきの話、ありがとう」

「何か言ったっけ?」

「一つだけに決めなくていいっていう話」

「そんなふうに言ったかな」

「言ってたよ」

ピアは笑った。

「私も水を使うのが好きだから、もっといろんなことができたらいいなって思った」

「うん。俺も同じだよ」

ベンは鞄の口を閉じた。

「じゃあ、次の授業でも何か分かるといいね」

「すぐに上手くいくかは分からないけど」

「それは俺もだよ」

二人が笑っていると、廊下からガレスが顔を出した。

「ベン、帰るぞ!」

「今行く!」

ベンは立ち上がり、ピアと一緒に教室を出た。

廊下の先で、男子寮へ戻る生徒たちと女子寮へ戻る生徒たちの行き先が分かれている。

「じゃあ、また明日ね」

「うん、また明日」

ピアが手を振り、ベンも振り返した。

ガレスが少し先からまた名前を呼ぶ。

「今行くってば!」

ベンが返すと、ピアは小さく笑った。

自分のノートには、まだ書き足したいことがいくつもある。

ベンにも、きっと同じくらいあるのだろう。

ピアは鞄を肩に掛け直し、女子寮へ続く道を歩き出した。

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