手を替える
休日が明けてからも、クロードたちの授業はいつもどおり続いていた。
その日の戦闘実践では、4年魔法組の18人が第2運動場へ集まっている。
運動場には結界用のポールがいつもより多く並べられ、演習区画が3つに分かれていた。
「今日は6人対6人じゃないんだな」
ノーゼスが区画を見渡す。
「ずいぶん狭いわね」
エクリアもポールの間隔を確かめていた。
生徒たちが防具を着け終わる頃、グレインが全員を呼び集めた。
その両脇にはラディスとセリアナがいる。
「今日は2限使って、2人ずつ組んで戦ってもらう」
「2対2ですか?」
ベンが尋ねる。
「ああ。4人が中へ入って、残る2人は外から見る。途中で組み合わせを替える」
グレインが3つの区画を指した。
「それぞれ教師がつく。結界の中で使う魔法は今日は既習の初級までだ」
ガレスが木剣を握りながら笑う。
「人数が少ないなら、相手がよく見えそうだな!」
「お前もよく見られるけどな」
隣のベンが返した。
「それはそうか!」
近くで笑いが起こった。
グレインは話を続ける。
「最初にやろうと思ったことが、途中でできなくなる場合もある。その時にどう動くかを見ておけ」
「止まって考えてる間に相手は待ってくれないぞ」
ラディスが付け加える。
「終わったら、外から見ていた人の話も聞きましょう」
セリアナの言葉に生徒たちが頷いた。
組み合わせが告げられ、クロードはベンと並んで一番手前の区画へ向かった。
向かい側にはザナトスとカイルがいる。
その区画で最初の組を見守るのは、ノーゼスとエクリアだった。
「やっと2人でやれるな!」
ザナトスが木剣を肩に担ぐ。
「カイルもいるけどね」
クロードが答えると、カイルは苦笑した。
「俺まで忘れられると困るんだけど」
「忘れてないって!」
ザナトスはそう言いながら木剣を下ろした。
◇
グレインが防具と区画の内側を確かめ、4人へ開始の合図を出した。
ザナトスが正面から一歩近づく。
カイルは少し横へ開き、ベンとの距離を測っていた。
クロードは右手に木剣を構え、ザナトスの肩と足元を見た。
「そっち行くぞ!」
ザナトスが踏み込む。
木剣が一度ぶつかり、クロードは受けた勢いを逃がしながら横へ下がった。
ベンがその横へ入ろうとすると、カイルも間合いを詰めてくる。
「ベン、そっち!」
「見えてる!」
ベンは木剣を向け直してカイルの前に立った。
クロードの前が一瞬空いた。
ザナトスは木剣を構えたまま、少し距離を取っている。
今なら雷を使えるかもしれない。
クロードは木剣を左手へ持ち替え、右手で《サンダーボール》の《印》を組み始めた。
指が動き、手元に青白い光が集まる。
「雷か!」
ザナトスは横へ動いた。
クロードが向きを直そうとした時、カイルの方から声が飛んだ。
「ベン、そっちへ行くのか?」
ベンがカイルとの距離を取り、ザナトスの背後へ回ろうとしている。
そのままなら、雷を放つ先にベンが入る。
クロードは魔力を止め、残った雷を消した。
けれど、そこで足を止めなかった。
木剣を右手へ戻し、ザナトスとの距離を詰める。
「おっ、そっちか!」
ザナトスも木剣を上げた。
2本の木剣が当たる。
クロードが次の一歩を出す前に、ザナトスは木剣を引いて横へ回った。
「ベン、後ろ!」
クロードの声でベンが振り向く。
ザナトスはベンの方へ進みかけていた。
ベンはカイルを追うのをやめ、ザナトスの前へ木剣を向けた。
「こっちまで来るのかよ!」
「そっちが空いてたからな!」
ザナトスが笑う。
その後ろでカイルが右手を上げた。
水魔法の《印》を組んでいる。
クロードはカイルへ向きを変えたが、すぐには近づけない。
間にはザナトスとベンがいる。
「水、行くぞ!」
カイルが声を掛け、ベンの進もうとする前方へ水の球を放った。
ベンが横へ外れる。
カイルは空いた場所へ踏み込み、木剣を構え直した。
クロードはその進路へ回ろうとした。
ところが、ザナトスもベンから離れてクロードの方へ向きを変える。
「今度はこっちだ!」
ザナトスの木剣が伸びた。
クロードは受け止めたものの、足をそろえるのが一瞬遅れた。
続く一撃を避けるため、大きく後ろへ下がる。
せっかくカイルの方へ進めそうだった場所が、もう遠い。
「クロード、右!」
ベンが呼ぶ。
今度はカイルがこちらへ動いていた。
クロードが木剣を向け直したところで、グレインの声が響いた。
「そこまで」
4人は木剣を下ろし、息を整えた。
◇
「お前、雷をやめてすぐ来たよな」
ザナトスは防具の肩を直しながらクロードを見た。
「うん。ベンが前に動いたから」
「もう少し離れてると思ったんだよ。木剣が来て驚いた」
「でも、そのあと横へ行かれたよ」
「あそこは行けると思ったからな!」
ザナトスは得意そうに笑った。
ベンはカイルを振り返る。
「途中でお前から離れたら、すぐ水が飛んできたな」
「ベンがザナトスの方へ行ったから、空いたところを狙ったんだ」
カイルも木剣を下ろして答える。
「でも、クロードがこっちへ向いた時は、撃つのを続けるか迷ったよ」
「俺はカイルまで見てなかったな」
ザナトスが言った。
「ベンがこっちに来たから、そっちを止めたくて」
グレインは4人の話を聞いてから、クロードへ視線を向けた。
「雷をやめてから、何を見て動いた?」
「ザナトスとの距離です。近づけそうだったので、木剣に戻しました」
「そのあと、カイルへ行こうとした時は?」
「ザナトスが間に来たので、すぐには行けませんでした」
クロードは自分の足元を見る。
「戻すのは前より早くできたんですけど、相手の動きの方が早い時もあります」
「そうだな」
グレインは頷いただけだった。
外から見ていたノーゼスが口を開く。
「カイルが水を撃つ前、俺はクロードが間に合うと思ってた」
「私は、ザナトスが戻ってくるのが見えたわ」
エクリアが答える。
「でも、クロードがそっちを見ていたかまでは分からなかった」
「僕はカイルを見てたからね」
クロードが言うと、ザナトスが笑った。
「じゃあ、俺が来て正解だったな!」
「今のは、ザナトスがうまかったと思うよ」
クロードが返すと、ザナトスは少し驚いた顔をした。
「……そりゃどうも」
「珍しく素直だな」
カイルが言い、4人で笑った。
グレインが次の組み合わせを告げる。
「今度はクロードとエクリア、ノーゼスとカイルだ。ベンとザナトスは外から見ろ」
「俺もすぐ入りたいんだけどなあ」
「さっき入っただろ」
ベンが笑うと、ザナトスは肩をすくめた。
◇
次の演習では、クロードとエクリアが同じ側へ立った。
向かいにはノーゼスとカイルがいる。
「今度は俺が壁を使うからな」
ノーゼスが言う。
「使う前から言っていいの?」
エクリアが尋ねた。
「言わなくても知ってるだろ」
「そうだけど、どこへ出すかは分からないもの」
ノーゼスは笑って木剣を構えた。
合図が掛かり、カイルがエクリアの方へ進む。
クロードはカイルを追おうとしたが、ノーゼスがその間へ動いた。
「こっちだ!」
クロードは木剣を合わせ、一度足を止めた。
エクリアの方では水の球が放たれ、カイルが横へ避けている。
その先へクロードが出ようとすると、ノーゼスが右手を上げた。
地面から土の壁が立ち上がり、進もうとした方向が塞がれる。
「そっちへは行かせないぞ!」
「じゃあ、こっち!」
クロードは壁の端へ向きを変えた。
しかし、ノーゼスもそのまま立っていたわけではなかった。
壁の反対側へ回り、木剣を構え直している。
クロードは魔法の《印》へ移ろうとした手を下ろし、そのまま木剣で応じた。
「今、撃たないの?」
エクリアが横から声を掛ける。
「近いから、こっち!」
クロードが木剣を合わせると、エクリアも位置を変えてカイルの前へ出た。
最初に考えた進路とは違っている。
それでも、クロードは立ち止まったままにはならなかった。
二度目の終了の声が掛かった時、今度はノーゼスも肩で息をしていた。
「壁を出したあとも、思ったより動かされるな」
「俺もエクリアを追うつもりだったのに、途中からクロードを見てたよ」
カイルが言う。
「こっちも同じね」
エクリアは木剣を下ろして笑った。
そのあとも区画ごとに組み合わせが替わり、木剣の音や短い声が運動場に響いた。
隣の区画ではガレスがタンガと木剣を合わせ、ピアが少し離れたところで《印》を組んでいる。
ほかの組も、休憩と交代を挟みながら演習を続けた。
◇
授業の終わりに、18人は防具を外して教師たちの前へ集まった。
「今日は何度も組み合わせを替えたな」
グレインが言う。
「同じ人と組んだ時も、相手が変われば動き方が変わったはずだ」
ガレスが手を挙げた。
「俺は途中で相手を追いかけすぎました!」
「それ、俺が言おうと思ってた」
ベンが返す。
「お前はいつもそれを言うな!」
「毎回見えてるからね」
二人のやり取りに笑いが起きた。
ラディスが向こうの区画へ目を向けた。
「最初に決めた動きだけで最後まで行けた奴は、そんなにいないだろ」
ザナトスが木剣の柄を持ち直す。
「俺はクロードが雷をやめた時、もっと下がると思ってました」
「でも、木剣が来た?」
グレインが尋ねる。
「はい。だから俺も横へ変えました」
「僕はそこからカイルへ行けると思ったんですけど、間に合いませんでした」
クロードが言うと、ベンも頷いた。
「俺も、カイルを見てたらザナトスがこっちへ来たんだ」
「それで俺が水を使えたんだよ」
カイルが笑う。
セリアナは生徒たちを見渡した。
「見ている時に考えたことも、実際に動いて分かったことも、両方持ち帰ってください」
「はい」
エクリアが答える。
「見ていた時は分かると思ったところも、中へ入ると違いました」
グレインは頷き、片づけを指示した。
生徒たちは木剣と防具を戻し始める。
クロードも木剣を運びながら、さっきのザナトスの動きを思い返した。
雷をやめて木剣へ戻すことはできた。
けれど、持ち替えて動いたあとにも、相手は次の場所へ移っていた。
「クロード!」
ザナトスが少し離れたところから呼んだ。
「次は、あそこで逃がさないからな!」
「僕も次は違うところへ行くよ!」
そう答えると、ザナトスは笑って木剣を返しに行った。
クロードも自分の木剣を置き、仲間たちの方へ歩いていった。




