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『異世界転生した製鉄所主任、雷魔法と鉱物生成で成り上がる ~未知の世界は面白いことだらけでした~』~幼少期・王立学園編~  作者: 黎明の星
王立学園編

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いつもの場所へ

「……終わったんだよな?」

ガレスは肩を回しながら、足元に置いた荷物を見た。

「グレイン先生がそう言っただろ」

ノーゼスの返事に、ガレスが頷く。

「分かってるけどさ、まだこれがあるんだよな」

「置いていくわけにはいかないからね」

ベンが笑って、まとめてある道具の方へ目を向けた。

クロードも足元の荷物から手を離し、周囲を見回した。

遠征の終了が告げられても、生徒たちがすぐに寮へ向かうわけではない。

グレインたちの指示に従って、持ち帰った野営道具と装備を整理する仕事が残っていた。

「こっちの布は、もうまとめてあるわよ」

エクリアが折り畳まれた雨よけを示す。

「じゃあ、縄はこっちだね」

ピアが袋を確かめ、ベンと一緒に残った道具を揃えていく。

ガレスも支柱を持ち上げたが、すぐに顔をしかめた。

「今なら、木の棒一本でも重く感じるな」

「さっきまで平気な顔して背負ってたじゃない」

「さっきまでが長かったんだよ!」

そう言いながらも、ガレスは支柱を落とさず運んだ。

クロードとノーゼスも、運びやすいように布と縄のまとまりを整えた。

昨日は自分たちで組み立てた雨よけも、今は布と支柱と縄に分かれていた。

グレインは片づけを終えた六人を見て、短く頷いた。

ほかの二班もそれぞれの整理を終え、生徒たちはようやく自分の荷物を持って寮へ向かえるようになった。

「よし、今度こそ休める!」

ガレスが背筋を伸ばす。

「さっきも同じこと言ってなかった?」

ピアが笑った。

「今度は本当だからな」

「それ、また何か見つけたら言いそうね」

エクリアの言葉に、ガレスは少しだけ眉を寄せた。

「もう見つけないでくれよ」

六人の間に笑いが起こった。

寮へ向かう道を進み、男子寮と女子寮へ分かれるところで足を止める。

「じゃあ、また教室でね」

ピアが男子四人へ手を振った。

「うん、またね」

クロードも手を振り返す。

エクリアはノーゼスの方を見て、少し笑った。

「今日は見張りをしなくていいんだから、ちゃんと休みなさいよ」

「言われなくてもそうするよ」

ノーゼスが答える。

「お前たちもな」

「もちろん」

エクリアとピアは女子寮へ向かい、クロードたち四人は男子寮への道を進んだ。

「今夜は、途中で誰かを起こさなくていいんだよな」

ノーゼスが言った。

「それだけで、かなり違うね」

クロードが答える。

「俺は起こされても寝る自信あるぞ」

ガレスが胸を張った。

「見張りの交代だったら困るよ」

ベンが返すと、ガレスは首を振った。

「だから、もう見張りは終わったって話だろ!」

「そうだったね」

ベンは笑い、少し遅くなった歩調をガレスに合わせた。

男子寮の建物が見えてくる。

昨日は雨よけを立てる場所から自分たちで選んだ。

今は、見慣れた建物の中に自分の部屋がある。

クロードは入口を見上げ、自然と足を少し速めた。

寮に入ると、ガレスとベンはそれぞれ自分の部屋へ向かっていった。

ノーゼスも廊下で立ち止まる。

「じゃあ、またな」

「うん、おやすみ……って言うには早いかな」

「眠い時なら、いつ言ってもいいんじゃないか?」

ノーゼスが笑う。

クロードも笑って、二人はそこで別れた。

自室の扉を開けると、いつもの机と寝台が目に入った。

一晩しか離れていなかったのに、妙に久しぶりな気がする。

クロードは荷物を床へ下ろし、椅子に腰を掛けた。

肩から重さは消えたが、腕も足もまだ疲れている。

少し休んでから荷物をほどこうかと思ったところで、机の上のノートが目に留まった。

「あ……」

思わず声が出た。

書いておきたいことがあったのだ。

クロードはまず持ち帰った自分の物を片づけ、ノートを机の上に開いた。

遠征へ出る前に書いていた頁の続きには、まだ余白がある。

何から書こうか迷い、ペンを持ったまま少し考えた。

最初に浮かんだのは、プレーリーベアへ放った《サンダーアロー》だった。

命中はした。

けれど、当たったあとの雷は、狙ったところだけに留まらなかった。

クロードは見たままのことを書き、下に短く付け足した。

『当たったあと、どこへ散るか』

そこまで書くと、もう一つ思い出した。

グレインから受け取って、初めて自分の手で持った《魔素石》。

あの時は、持ってみても分からないことがたくさんあった。

前に見せてもらった時とは違って、自分の手の中にあったというだけでも不思議だった。

クロードはそのことも書き留めたが、魔素の量や石の性質については何も書き足せなかった。

分かっていないものを、分かったことにはできない。

「……あとで、もっと調べたいな」

口に出してから、クロードは次の頁をめくった。

白い紙を前にすると、まだ書けそうな気がする。

ところがペンを動かそうとした途端、大きなあくびが出た。

「……あれ?」

眠いことは分かっていたのに、さっきより目が重い。

クロードは机に置いた腕をゆっくり伸ばした。

思い返したいことは、まだいくつもある。

けれど、今日はこれ以上書いても、途中で何を考えていたのか分からなくなりそうだった。

ノートを閉じ、ペンを置く。

「続きは、休んでからでいいか」

クロードは寝台へ身体を預けた。

今度は外から誰かを起こす声も、見張りに立つ順番もない。

それが少し嬉しくて、クロードは目を閉じた。


◇


遠征から少し日が経つと、学園にはいつもどおりの授業の日々が続いていた。

クロードが教室へ入ると、あちこちから話し声が聞こえてきた。

教本を開いている者もいれば、隣の席の相手と話している者もいる。

昨日までと変わらないように見えて、机の上には書きかけの課題やノートが増えていた。

「クロード、おはよう」

先に来ていたピアが顔を上げた。

「おはよう、ピア」

「もう疲れは取れた?」

「うん、だいぶ」

「よかった」

ピアは笑って、手元の紙を揃えた。

近くではベンとガレスが何かを話している。

「だから、そこで一回止まった方がよかったんだって」

ベンの声に、ガレスが首を傾げた。

「でも、止まったら間に合わなくないか?」

「何の話?」

クロードが聞くと、ガレスが手を振った。

「この前の授業でやった動きだよ」

「今、ベンとどっちがよかったか話してたんだ」

「別にどっちか一つに決めたいわけじゃないんだけどね」

ベンが笑う。

「それを先に言えよ!」

「言ったよ」

クロードは二人のやり取りを聞きながら、自分の席へ向かった。

ノーゼスはすでに教本を開き、脇に置いた紙へ小さな線を何本か描いていた。

「何描いてるの?」

「壁の場所」

ノーゼスが紙を少し傾ける。

「前に《ロックウォール》を出した時、出す場所を決めてから相手が動いたんだよな」

「うん」

「壁をちゃんと出しても、そこに誰もいなかったら意味ないだろ」

「でも、近すぎると味方の邪魔にもなるよね」

クロードの言葉に、ノーゼスが頷いた。

「そう、それ」

「どっちへ動くか見てから出すのも、遅かったら間に合わないし」

「難しいね」

「だから今、考えてる」

ノーゼスは線の一本を消して、少し離れたところに引き直した。

その向こうからエクリアがやってきた。

「二人とも、もう魔法の話?」

「まだ何も使ってないぞ」

ノーゼスが答える。

「そういう意味で言ったんじゃないわよ」

エクリアは呆れたように笑い、ノーゼスの紙を覗き込んだ。

「壁の位置?」

「うん、今のうちに考えとこうと思って」

「位置を決めても、みんな動くものね」

「そうなんだよ」

エクリアは自分の教本を机に置いた。

その左手が、何かを確かめるように小さく動く。

「エクリアも、練習してるの?」

クロードが聞くと、エクリアは指を止めた。

「《印》の順番だけよ」

「反対の手でも、途中で迷わないようにしたくて」

「もう最後までできるの?」

ノーゼスが尋ねる。

「できる時もあるけど、まだ途中で止まるわ」

「水と風でも違うから、どっちをやってるか考えてないとね」

エクリアはそう言って、指先をもう一度動かした。

魔力は流さず、動きだけを確かめている。

「クロードは?」

エクリアが顔を上げる。

「何か考えてるの?」

「《サンダーランス》かな」

クロードは自分のノートを取り出した。

「形は作れたことがあるけど、動きながらだとまだ崩れるから」

「戦ってる時に、そこでずっと止まってられないものね」

「うん」

「でも、急いで作ろうとすると《印》も変になるんだ」

ノーゼスは紙から顔を上げた。

「結局、俺たちみんな、使う時のこと考えてるんだな」

「前からそうだったでしょ」

エクリアが返す。

「そうなんだけどさ、こうして話すとまだいっぱいあるなって」

「いっぱいあるね」

クロードはノートの頁をめくった。

そこには、遠征から戻った日に書いた短い記録も残っている。

けれど、今開いているのはその続きではない。

普段の授業で確かめたいことも、まだたくさんあるのだ。

「お前ら、何の話してるんだ?」

ザナトスが近づいてきた。

「魔法の使いどころだよ」

ノーゼスが答えると、ザナトスは紙の線を見た。

「また壁か?」

「またって何だよ」

「前も考えてただろ」

「前と同じ場所に出すわけじゃないからな」

ザナトスは少し笑って、クロードの方を見た。

「クロードも何かやるつもりか?」

「できないところを練習したいなって」

「だったら俺も負けてられないな」

「まだ何も勝負してないよ」

「これからだろ」

そのやり取りに、近くの席からも笑い声が上がった。

教室の前の方では、ほかの生徒たちが机の上を片づけ始めている。

教師が入ってくる気配に、ザナトスも自分の席へ戻っていった。

ノーゼスは線を引いた紙を教本の間に挟む。

エクリアも手を止め、授業の準備を整えた。

クロードは目の前に教本とノートを並べた。

遠征で見たことも、まだうまくできない魔法のことも、少しずつ書き留めていけばいい。

クロードは新しい頁を開き、先生の言葉を聞くために顔を上げた。

いつもの教室で、いつもの授業が始まった。

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