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『異世界転生した製鉄所主任、雷魔法と鉱物生成で成り上がる ~未知の世界は面白いことだらけでした~』~幼少期・王立学園編~  作者: 黎明の星
王立学園編

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帰る道

グレインが三班の方へ目を向けると、ラディスとセリアナも準備が整ったことを確かめて頷いた。

「行くぞ」

その声を合図に、18人が歩き始めた。

クロードも荷物を背負ったまま、ノーゼスたちの後に続く。

少し進んで振り返ると、昨日六人で選んだ場所はもう木々の間に隠れかけていた。

あそこには、火を使った跡も雨よけも残していない。

一晩過ごした場所なのに、離れるのはあっという間だった。

「クロード、足元」

すぐ近くでピアの声がした。

クロードは顔を戻し、道に出ていた木の根を避ける。

「ありがとう」

「さっきから後ろばっかり見てるから」

ピアが笑う。

「もう少し見えると思ったんだけどね」

「昨日はあそこを見つけるまでが長かったものね」

エクリアも背後を一度見てから、歩く方へ向き直った。

昨日はこれから休む場所を探していた。

今は帰る道を歩いている。

同じように荷物を背負っていても、足の裏に残る疲れは昨日の朝と少し違っていた。

ガレスは先の方を見て、大きく歩き出した。

「よし、帰るぞ!」

「もう帰ってるだろ」

ノーゼスが返す。

「気分の問題だよ」

「それなら足も少しゆっくりにしてくれない?」

ベンの声に、ガレスが振り返った。

「速かったか?」

「さっきより前に出てる」

ベンは自分たちの間と、少し後ろを歩くピアたちとの距離を見た。

ガレスも振り返ってから、歩幅を狭める。

「これくらい?」

「うん、今はそれくらいでいいと思う」

「俺だけ速くなってたのか?」

「こっちが少し遅くなったのもあると思う」

ピアが言った。

「荷物が動くから、さっきから直してたんだ」

言いながら背負い紐を引き直す。

「言ってくれればよかったのに」

ガレスの声に、ピアが小さく笑った。

「今、言ったよ」

「それもそうだな」

クロードは二人の横で、自分の肩に掛かる紐を確かめた。

まだ歩ける。

けれど、今の自分が楽な速さで歩けば、後ろの仲間も同じように歩けるとは限らない。

それは今までも授業や野外実習でやってきたことだった。

今日は、少し気を抜くと自分の足ばかり見てしまう。

「ノーゼスは大丈夫?」

「大丈夫だけど、昨日より口数は減るかもな」

「さっきから結構しゃべってるわよ」

エクリアが言うと、ノーゼスが肩越しに振り返った。

「じゃあ、もうしゃべらない」

「それはそれで変よ」

クロードも笑った。

その間も、前方ではグレインが時折道の脇へ目を向けている。

ラディスは列の横を歩き、セリアナも生徒たちの間隔を確かめていた。

教師たちが周囲を見る中で、18人も足元と前後の仲間を見ながら歩き続けた。


◇


休憩の声が掛かると、クロードは道を塞がない場所で荷物を下ろした。

肩が軽くなり、思わず大きく息が出る。

隣でガレスが腕を回した。

「さっきまでは、早く歩けば早く着くと思ってたんだけどな」

「そりゃ早く歩けば早く着くよ」

ベンが答える。

「みんながその速さで歩ければね」

「分かってるって」

ガレスは苦笑いして腰を下ろした。

ノーゼスも荷物を置き、足を伸ばす。

「今日は、休憩のたびに座りたくなるな」

「昨日だって座ってたじゃない」

「昨日は立ってる方が多かっただろ」

エクリアが少し考えてから頷いた。

「確かにそうね」

エクリアも足を伸ばし、少しだけ膝を曲げた。

「私も、朝になればもう少し楽になると思ってたわ」

「エクリアも疲れてる?」

クロードが聞く。

「疲れてるわよ。一晩外にいたんだから」

言いながらも、エクリアは小さく笑った。

クロードは腰に収まった実剣が邪魔にならないようにして座った。

歩いている間は足元を見るのに忙しかったが、座ると周囲の音がよく聞こえた。

ほかの班でも、荷物を下ろした生徒たちが水を飲んだり、足を伸ばしたりしている。

「クロード!」

声の方を見ると、ザナトスがカイルと一緒に近づいてきた。

「まだ歩けるか?」

「うん、まだ大丈夫だよ」

「何だ、もっと疲れてるかと思った」

「疲れてはいるよ」

クロードが答えると、ザナトスは満足そうに頷いた。

「なら、俺と同じだな」

「お前も疲れてるんじゃないか」

カイルが横から言った。

「そりゃ、一晩外にいたんだからな」

「だったら、クロードばっかり聞くなよ」

「別にいいだろ」

ザナトスは笑い、それからノーゼスの方を見た。

「夜の見張り、どうだった?」

「最初は何でも音が気になった」

ノーゼスは少し考える。

「でも、何も起きない時間の方が眠かったな」

「俺も、ずっと起きてるのは思ったよりきつかった」

カイルが言った。

「ザナトスは?」

エクリアが聞くと、ザナトスは少しだけ眉を上げた。

「ちゃんと見てたぞ」

「見てなかったなんて言ってないわよ」

「そういう顔しただろ」

「どんな顔よ」

カイルが笑い、ザナトスもつられて口元を緩めた。

「……夜って、思ったより長いね」

いつの間にか近くで休んでいたミナが、ぽつりと言った。

セリアナ班の方から来たらしく、少し離れたところへ腰を下ろしていた。

「うん、途中で目が覚めた時は、まだ真っ暗だったよ」

ピアが答えた。

「朝になると、あんなに見えなかったものが全部見えたのにね」

「……それは、ちょっと不思議だった」

ミナが小さく頷く。

ザナトスはクロードへ視線を戻した。

「次に外へ出る時は、もっと動けるようにしときたいな」

「魔物と戦う時?」

「それもあるけど、歩くだけで疲れるのは嫌だろ」

「じゃあ、まず荷物だね」

クロードが笑うと、ザナトスは自分の荷物を見た。

「……そこからか」

「そこからだと思うよ」

ベンの声に、みんなが笑った。

しばらくして、休憩の終わりが告げられた。

ザナトスとカイルはラディス班へ、ミナもセリアナ班へ戻っていく。

クロードたちも荷物を背負い直した。

さっき座っていた時の軽さは、もうない。

それでも、今度は誰か一人だけが先へ行かないよう、互いの姿を確かめながら歩き始めた。


◇


やがて、行きにも見た道が増えてきた。

木々の切れ目や道が曲がるところを見て、クロードはその先を少し思い出せるようになった。

「ここ、通ったね」

「そうだな」

ノーゼスが周囲を見る。

「昨日は、ここからどこまで行くんだろうって思ってた」

「僕も」

「今日は、先に何があるか少し分かる」

「でも、歩くのは変わらないわね」

エクリアが言って、足元の小石を避けた。

「そこが大事なんだよ」

ガレスが言う。

「何が?」

「分かってても、歩かないと帰れないってこと!」

「当たり前じゃない」

エクリアの返事に、ガレスは声を立てて笑った。

それからも、教師たちはときどき周囲を見て足を止め、道の先や脇を確認していた。

生徒たちも歩調を合わせながら、そのたびに近くの様子へ目を向ける。

途中で新しい魔物が現れることはなかった。

それでも、歩くことだけに気を取られていいわけではない。

クロードは前にいる仲間と道の脇を交互に見た。

疲れていると、視線を動かすことさえ面倒に感じる時がある。

そんな時、ベンが少し後ろから声を掛けた。

「クロード、前の間隔」

顔を戻すと、ノーゼスとの間が少し開いていた。

「ありがとう」

歩幅を変えて追いつくと、ノーゼスが横を見る。

「ぼんやりしてた?」

「ちょっとね」

「俺も、もう少しで足元ばっかり見るところだった」

「帰りは、歩くだけだと思ってたよ」

「そうならよかったな」

ノーゼスの返事に頷き、クロードはもう一度前後を確かめた。

少し進むと、人の姿が見え始めた。

やがて王都の建物が遠くに見えてくる。

「あっ、見えた!」

ピアが声を上げた。

ガレスも顔を上げる。

「やっと帰ってきた!」

「まだ学園じゃないよ」

ベンが笑う。

「あと少しだろ!」

「そう言ってからが長いのよね」

エクリアが言うと、ガレスはわざと大きく肩を落とした。

王都へ入ると、人と馬車が行き交う道へ戻った。

野営地では聞こえなかった人の声や車輪の音が、今はあちこちから聞こえる。

クロードたちは列を崩さず、通行する人の邪魔にならないように歩いた。

セリアナが後ろの人数を確かめ、ラディスは道の横を通る馬車にも目を配る。

グレインが通りを確かめて合図を出すと、18人は道を渡って進んだ。

見覚えのある建物の先に、王立学園の正門が現れた。

「今度こそだな」

ノーゼスが言う。

「うん」

クロードは門を見上げた。

ここを出た時も、一泊分の荷物を背負っていた。

あの時は、これから一晩をどこで過ごすのかも分からなかった。

今は歩いてきた道の向こうに、六人で選んだ場所がある。

門をくぐり、教師たちの指示で校内の空いた場所へ移動した。

各班は持ち帰った道具をまとめ、荷物を下ろす。

グレインはグレイン班の六人を順に見た。

「怪我は?」

「ありません」

クロードが答え、ほかの五人も頷いた。

ラディスも自班の様子と道具を確かめている。

セリアナは三班を見渡し、人数を数えた。

「18人、全員います」

グレインが頷いた。

「道具も揃ったな」

六人は布や支柱、縄や杭がまとめられているのをもう一度見た。

どれも、学園で練習した時から何度も手に取ったものだった。

ただ、今は持ち帰ったそれを見るだけでも、一晩使った時のことが浮かぶ。

教師三人の確認が終わると、グレインが生徒たちへ向き直った。

「一泊遠征は、ここまでだ」

さっきまで話していた者たちも、その言葉を聞いて息を吐いた。

「終わったー!」

ガレスが大きく伸びをする。

「最後まで声が大きいね」

ベンが笑うと、ガレスも笑い返した。

エクリアは肩を回し、ピアは足元に置いた荷物を見下ろした。

「こんなに軽かったっけ、肩」

ノーゼスが言う。

「荷物を下ろしたからでしょ」

エクリアが返す。

「分かってるって」

クロードも足元の荷物から手を離し、少し肩を動かした。

いつもの休憩なら、そろそろまた荷物を背負う頃だ。

けれど、今はグレインから次の出発の声が掛からなかった。

「クロード、帰ってきたね」

ピアが言った。

「うん、帰ってきた」

クロードは五人を見回し、もう一度学園の門へ目を向けた。

初めての一泊遠征は、これで終わった。

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