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『異世界転生した製鉄所主任、雷魔法と鉱物生成で成り上がる ~未知の世界は面白いことだらけでした~』~幼少期・王立学園編~  作者: 黎明の星
王立学園編

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朝になっても

クロードとノーゼスが雨よけに戻ってしばらくすると、中から聞こえていた声も途切れた。

エクリアは入口の方を一度見てから、暗い木々へ顔を戻した。

「二人とも、眠れたかしら」

「さっき、すごく眠そうだったもんね」

ピアが小さく笑う。

「途中で起こしちゃったのもあると思うけど」

「そうね」

あの音で目を覚ました時は、エクリアも何かが来たのかと思った。

結局、クロードたちにもグレインにも正体は分からなかったという。

エクリアは教えられた方角へもう一度目を向けた。

「やっぱり、あっちが気になるわね」

「私も見てたよ」

ピアは少し離れた側の木々を示した。

「でも、ずっとあっちばかり見てると、こっちを見なくなりそう」

「……確かにそうね」

エクリアは向きを変えた。

木々の間には暗い地面が続いている。

見える範囲は昼より狭いが、そこに何かが現れたわけではない。

「音がしたところだけ見ていればいいわけじゃないのね」

「ほかのところから来るかもしれないし」

ピアは言い終えて、すぐに小さく首を傾げた。

「来るって決まったわけじゃないけど」

「ええ、そうよね」

二人は別々の方向にも目を向けながら、時々短い言葉を交わした。

葉が擦れる音がする。

雨よけの布がかすかに動く。

そのたびに耳は向けるが、さっき聞いたという乾いた音は戻ってこない。

少し離れたところには、周囲を見ているグレインの姿もあった。

「昼間は、休む場所を作れたらひと安心だと思ってたの」

エクリアがぽつりと言った。

「うん」

「でも、作ったあとにもやることがいっぱいあったわね」

「火も消したし、見張りもあるし」

ピアは雨よけを振り返った。

「中にいたら、外の二人に任せて寝られると思ってたんだけど」

「実際に外に立つと、少し違う?」

「うん、今は中で休んでるみんなの方が気になるかも」

エクリアも入口を見る。

布の下で眠る仲間たちが、外のことを気にせず休めていたらいい。

そう思うと、少し離れたところに目を向ける時も、入口の近くを確かめたくなった。

「私たちが戻る頃には、ガレスたちも眠そうね」

「起こしたら、何て言うかな」

「ガレスなら、もう交代かって言いそう」

二人は顔を見合わせ、声を抑えて笑った。

夜はまだ続いていた。

けれど、何も起きないうちに、二人が交代する時間も近づいてきた。

グレインの声を受け、エクリアとピアは雨よけへ戻った。

「ガレス、ベン、起きて」

エクリアが入口から呼びかける。

布の中で身じろぎする音がした。

「……もう交代か?」

ガレスの声に、ピアが笑いをこらえた。

「ほら、言ったとおり」

「え?」

「何でもないよ」

ベンも起き上がり、まだ眠そうなガレスの方を見た。

「さっきまで、よく寝てたのにね」

「起こすために寝かせてたんだろ」

ガレスはそう言いながら身体を起こした。

二人は荷物や実剣の位置を確かめ、ほかの者を踏まないように外へ出てきた。

エクリアが、クロードたちから聞いた音の方角を示す。

「あの音は、そのあと一度も聞こえていないわ」

「ほかに変わったこともないよ」

ピアが続けた。

「分かった」

ベンは周囲を見回し、ガレスも暗い先へ目を向けた。

「何かあったら、すぐ知らせる」

「ええ、お願いね」

エクリアとピアは二人に見張りを任せ、雨よけの中へ入った。

ガレスは外に立ったまま大きく息を吐いた。

「まだ真っ暗だな」

「夜だからね」

「それは分かってる」

「だったら、まず周りを見よう」

「見てるって」

ガレスは言い返しながらも、さっきより背筋を伸ばした。

ベンは少し笑い、それから雨よけの反対側へ目を向ける。

二人が話す声もすぐに小さくなった。

夜が進む間、教師たちも交代しながら野営地の周囲を見続けていた。

しばらくして、空の暗さが少しずつ薄くなり始めた。

ガレスが木々の方へ顔を上げる。

「……明るくなってきたか?」

「うん、さっきより向こうが見えるね」

ベンは木の幹と、その奥の地面を見比べた。

夜の間ずっと黒く重なっていたものが、少しずつ別々の形になっていく。

「やっと朝か」

ガレスが言った。

「やっと、って言っても、まだ帰ってないよ」

「今くらい喜ばせろよ」

ベンが笑うと、ガレスもつられて笑った。


◇


雨よけの中で目を開けたクロードは、しばらく自分がどこにいるのか考えた。

頭の上に見えるのは、いつもの寮の天井ではない。

布の向こうから、淡い朝の明るさが入ってきている。

外で葉の擦れる音がした。

その音で、夜中に見張りをしていたことを思い出す。

(朝になったんだ)

クロードは身体を起こそうとして、背中をゆっくり伸ばした。

いつの間にか眠っていたらしいが、歩いた足にも肩にも重さが残っている。

近くでノーゼスが身じろぎした。

「……起きた?」

「うん」

「朝?」

「明るくなってるよ」

ノーゼスも身体を起こし、入口の方を見る。

「ちゃんと寝たはずなのに、まだ眠いな」

「僕も少し」

クロードは雨よけの中の荷物へ目を向けた。

雨よけの中には、夜と同じように仲間たちの荷物がある。

ただ、外の明るさだけが違っていた。

二人はほかの者を起こさないように身支度を整え、実剣の位置も確かめてから外へ出た。

昨日は輪郭も分かりにくかった木々が、今は枝の先まで見える。

自分たちで歩いて選んだ地面も、縄を張った位置もはっきりしていた。

クロードは思わず、乾いた音が聞こえた方を見た。

何も動いていない。

どこから聞こえたのかも、明るくなったところで分かるわけではなかった。

「クロード、こっち」

ノーゼスに呼ばれ、入口の前へ戻る。

そこにはガレスとベンがいた。

「おはよう!」

ガレスは元気よく声を掛けたが、そのまま大きなあくびをした。

ノーゼスが笑う。

「全然元気じゃないだろ」

「朝になったから元気なんだよ」

「じゃあ、そのあくびは?」

「昨日の分!」

ベンが肩をすくめた。

「さっきからずっとあんな感じだよ」

「ベンだって眠いだろ」

「眠いよ」

あっさり答えられ、ガレスが少し黙った。

クロードは二人を見た。

「夜中は何もなかった?」

「うん、知らせるようなことはなかったよ」

ベンが答える。

「昨日の音も聞こえなかった」

「そうなんだ」

クロードは木々の向こうへ目を向けたが、すぐに戻した。

ガレスが腰を伸ばす。

「とにかく、もう見張らなくていいんだよな」

「夜の見張りはな」

近づいてきたグレインが答えた。

ガレスはすぐに姿勢を正す。

「先生、おはようございます!」

「おはよう」

グレインは六人のうち、まだ雨よけの中にいる者へも目を向けた。

「起きたら、自分の身体と荷物を確かめろ」

「はい」

クロードたちが答える。

グレインはその場を離れ、ほかの班の方へも目を向けた。

まもなくエクリアとピアも雨よけから出てきた。

「……おはよう」

エクリアは少し眠たそうに目を細めた。

「ちゃんと休めた?」

クロードが聞く。

「少しはね」

「私は寝られたよ」

ピアが答え、ガレスを見た。

「ガレスたちは?」

「眠い!」

「さっきは元気だって言ってたぞ」

ノーゼスが言うと、エクリアも笑った。

六人の顔を見渡してから、クロードは雨よけの外へ目を向けた。

昨日は初めてここに来て、火を起こし、夜になって見張りをした。

今は六人とも起きている。

少し離れたところでは、ラディス班とセリアナ班も朝の準備を始めていた。

どの班も慌てた様子はなく、教師たちも周囲を確認している。

六人はそれぞれ身体に痛むところがないか確かめ、持参した朝の食事を取り出した。

腰を下ろすと、立っていた時より足の重さが分かる。

「昨日も、ここで食べたんだよな」

ノーゼスが周囲を見た。

「昨日は火があったけどね」

ピアが答える。

火を使った場所には、もう炎も煙もない。

クロードは食事を口へ運びながら、明るくなったそこを見た。

「帰ったら、今日は早く寝たいな」

ガレスが言った。

「帰る前から寝る話?」

エクリアが呆れたように笑う。

「帰ったらって言っただろ」

ベンが食べ終えたものを片づけながら言う。

「その前に、ここを片づけないとね」

ガレスは雨よけを見上げた。

「ああ、そうだった」

「忘れてたの?」

「忘れてないって!」

今度は六人とも笑った。


◇


食事を終えると、六人は自分の荷物を雨よけから運び出した。

敷物も畳み、道具袋と一緒に外へまとめる。

布の下から物がなくなると、昨日よりずっと広く見えた。

「こんなに広かったっけ?」

ガレスが入口から覗く。

「荷物を全部置いてたからでしょ」

エクリアが答えた。

「それに六人で使ったんだよね」

ピアも空いた地面を見る。

「昨日は、広いかどうかばっかり気にしてたな」

ノーゼスが支柱へ目を向けた。

「実際に寝てみたら、荷物の位置の方が気になったよ」

ベンが言う。

「夜中に出る時も、通り道を空けておいてよかったね」

クロードは入口から外へ出た。

あの時ずらした縄は、一晩経っても通る場所を塞いでいない。

「じゃあ、外そうか」

六人は互いの位置を確かめ、縄を緩め始めた。

ガレスとノーゼスが支柱を支え、ほかの四人は縄や杭を順に外していく。

クロードが縄の一つに手を掛けたところで、結び目がなかなかほどけなかった。

「これ、結構固いね」

「昨日、しっかり張ったからな」

ノーゼスが言った。

エクリアが反対側へ回る。

「慌てなくていいわ、支柱はまだ支えてもらってるから」

クロードは少し手を緩め、結び目を指先で確かめた。

引く向きを変えると、縄がようやく動いた。

「取れた」

「こっちも外れたよ」

ピアが杭を持ち上げた。

ガレスとノーゼスが支柱をゆっくり下ろす。

布が地面へ降りてくると、ベンがその端を拾い上げた。

「昨日はここで寝てたのに、なくなるのは早いね」

「まだ全部畳んでないわよ」

エクリアがすぐに返す。

「分かってるよ」

六人は布についた土や草を払い、端を合わせて畳んだ。

途中でガレスが手を放しかけると、ベンが反対側を持ち直す。

「そこ、もう少し持ってて」

「ああ、悪い」

二人で布を引き寄せ、残る四人も折り目を揃えるのを手伝った。

縄をまとめ、杭と木槌を道具袋へ戻す。

一晩の間に動かした荷物と道具が、少しずつ持ち運べる形になっていく。

作業を終えると、ガレスが腰へ手を当てた。

「……立てる時より疲れるな」

「昨日の疲れが残ってるんじゃない?」

ピアが言う。

「そうかもしれない」

ガレスが珍しく素直に頷いた。

クロードも腕を下ろし、肩を回した。

学園で同じ道具を片づけた時には、こんな重さはなかった気がする。

道具が変わったわけではない。

昨日から使ってきた自分たちの身体が、まだ十分に軽くなっていないのだ。

「もう終わりかな」

ノーゼスが道具袋を見た。

「場所がまだよ」

エクリアに言われ、六人は雨よけを立てていた地面へ戻った。

支柱を立てた跡と、杭を抜いた小さな穴が残っている。

みんなで手分けして土を戻し、足元を整えた。

ピアは少し離れた草の間まで歩いた。

「こっち、道具は残ってないよ」

「こっちも大丈夫そう」

ベンが荷物を置いていた場所を確かめる。

クロードは火を使っていた場所へ向かった。

昨夜、みんなで燃え残りの中まで確かめて消したところだ。

今は明るく、燃えた跡もよく見える。

クロードは周囲に燃え残りや道具が散っていないか見渡した。

ノーゼスも近づいてくる。

「昨日、ここから煙が流れたんだよな」

「うん」

「ずいぶん前のことみたいだ」

「まだ一晩しか経ってないのにね」

二人は顔を見合わせ、少し笑った。

グレインが六人の方へ戻ってくる。

「道具は揃ったか?」

「はい」

ベンがまとめた袋と布を示した。

「使った場所も確認したか?」

「杭の穴を戻しました」

エクリアが答える。

「火のあった場所と、荷物を置いたところも見ました」

クロードが続けた。

グレインは自分でも周囲を見回してから頷いた。

「よし」

その頃には、ラディス班とセリアナ班もそれぞれの雨よけを片づけ終えていた。

教師三人が人数と道具を確かめる間、クロードたちは一泊分の荷物を背負い直した。

肩へ重さが戻ってくる。

ノーゼスが背負い紐を引いた。

「昨日より重く感じるな」

「中身、増えてないよね?」

ピアが笑う。

「増えてないはずなんだけどな」

ガレスも荷物を持ち上げ、少しだけ顔をしかめた。

「さっきまで、やっと朝だと思ってたのに」

「まだ帰る道があるからね」

ベンが答えた。

クロードは腰の実剣が動きを邪魔しないことを確かめ、背中の荷物をもう一度直した。

それから、雨よけが立っていた場所を見る。

夜中には、その布の向こうでエクリアとピアが周囲を見ていた。

今は布も支柱もなく、木々の間に地面が広がっているだけだ。

六人で選んだ場所で、一晩を過ごした。

休むだけでも、休んだあとでも、やることはたくさんあった。

「クロード、準備できた?」

エクリアに呼ばれて振り向く。

「うん、できたよ」

ノーゼスもガレスも、ベンもピアも、荷物を背負っている。

クロードは仲間たちのところへ戻った。

野営地を離れる準備は、もう整っていた。

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