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『異世界転生した製鉄所主任、雷魔法と鉱物生成で成り上がる ~未知の世界は面白いことだらけでした~』~幼少期・王立学園編~  作者: 黎明の星
王立学園編

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夜の音

クロードは暗い木々から視線を外し、足元を確かめてからもう一度顔を上げた。

雨よけの形は見えるが、その向こうの木は幹と枝の境目さえ分かりにくい。

少し風が吹いた。

葉の擦れる音が、右の方から聞こえてくる。

「今、そっちで何か動かなかった?」

クロードが小声で尋ねると、ノーゼスも同じ方を見た。

「枝じゃないか?」

「枝?」

「上の方が揺れた気がする」

二人で目を凝らしたが、黒い形が重なっているだけではっきりしない。

やがて風が弱まり、葉の音も小さくなった。

「……止まったな」

「うん」

クロードは少しだけ肩の力を抜いた。

今度は後ろで布がかすかに擦れた。

反射的に振り返ると、雨よけの入口はさっきと変わらずそこにある。

「今のは中か」

ノーゼスが言った。

「誰か寝返りでも打ったのかな」

「たぶんな」

昼間なら、誰がどこで動いたかを見れば分かる。

今は、すぐそこの雨よけの中でさえ音だけでは分からない。

クロードは入口から目を離し、周囲へ視線を戻した。

「こっち、僕が見るね」

「じゃあ俺は反対側も見とく」

ノーゼスは身体の向きを少し変えた。

互いに見えているものを短く伝え合いながら、二人は耳を澄ませる。

遠くで何かが擦れる音がして、クロードはまた顔を上げた。

「聞こえた?」

「聞こえたけど、さっきと同じじゃないか?」

「そうかもしれない」

見えるところは変わっていない。

それでも、音がするたびに何かを探してしまう。

少し離れたところには、周囲を見ているグレインの姿もあった。

クロードはそれを確かめてから、再び木々へ目を向けた。

しばらくすると、葉の擦れる音とは違う、短く乾いた音がした。

クロードが顔を向けたのと、ノーゼスが動いたのはほとんど同時だった。

「今の、聞いた?」

「ああ」

ノーゼスは身体を少しずらし、音のした方角へ顔を向けた。

「そっちだよな?」

「うん、あの辺りだと思う」

二人はその場にとどまり、暗い木々の間を見た。

何かが動いているようには見えない。

けれど、木の陰に何もいないとも分からなかった。

「もう一回、聞こえるかな」

クロードが耳を澄ます。

聞こえるのは、さっきから続いている葉の音だけだった。

ノーゼスが横を見る。

「先生に言おう」

「うん」

クロードはグレインのいる方へ声を掛けた。

「グレイン先生!」

「どうした」

グレインがこちらを向いた。

「向こうから、さっきまでとは違う音がしました」

「俺も聞きました」

ノーゼスが続ける。

「あっちの方です」

グレインは二人の示した先を見る。

「何か見えたか?」

「いいえ、音だけです」

「俺も見えてません」

ノーゼスはそこで雨よけへ振り返った。

「みんな、起きてくれ!」

中で何かが動く音がした。

「……どうした?」

眠そうなガレスの声が返ってくる。

「向こうで音がしたんだ」

「何か来たの?」

今度はエクリアの声だった。

「まだ分からない」

クロードが答える。

四人が身を起こした気配がして、入口の布が小さく動いた。

ベンが外を覗く。

「見えたものは?」

「何も見えてないよ」

ピアも入口から顔を出し、二人が見ている方へ目を向けた。

グレインは暗い先を見たまま、しばらく耳を澄ませていた。

クロードもノーゼスも黙って待つ。

もう一度聞こえれば、どの辺りか確かめられるかもしれない。

けれど、同じ音は聞こえなかった。

グレインが二人へ顔を戻す。

「二人とも同じ音を聞いたんだな?」

「はい」

「はい」

「何の音かは分からん」

クロードが頷くと、グレインは続けた。

「それでいい」

「分からないまま見に行かなかったのもな」

ノーゼスが少し息を吐いた。

「何も見えなかったから、呼んでいいか迷いました」

「変だと思ったなら知らせろ」

グレインの返事は短い。

「また聞こえたら同じように呼べ」

「はい」

「今は休める奴は休め」

雨よけの入口で、ガレスが大きく息を吐いた。

「何かいるのかと思った」

「まだ分からないって言ったでしょ」

エクリアが返す。

「分かってるよ」

ベンがクロードたちを見る。

「また何かあったら起こしてね」

「うん」

ピアも小さく頷き、雨よけの中は再び静かになった。

グレインはもう一度周囲を見渡し、離れたところへ視線を移す。

二人はそのまま見張りを続けた。

「起こしちゃったね」

クロードが言う。

「起こせって言われたからな」

「うん」

ノーゼスはもう一度、音のした方角を見た。

「でも、聞こえたのは本当だし」

「そうだね」

結局、何の音だったかは分からない。

クロードは今の場所から動かず、また耳を澄ませた。


◇


時間が過ぎても、さっきの短い音は戻ってこなかった。

葉が擦れる音は何度も聞こえる。

雨よけの布も、ときどきかすかに動く。

最初はそのたびに振り返っていたクロードも、いつの間にか同じ音にはすぐ反応しなくなっていた。

「……さっきまでは、全部気になったんだけどな」

ノーゼスが言った。

「何が?」

「音」

「今も聞こえてるよ」

「そうなんだけど、前ほど気にならない」

クロードも耳を澄ませた。

確かに、葉が揺れるたびに首を向けてはいない。

それでも、何も変わらないと思った瞬間に別のことを考えそうになる。

クロードは目の前の木々を見直した。

「見張りって、何かを見つける時だけじゃないんだね」

「何も見つからなくても、ずっと見てなきゃいけないもんな」

ノーゼスが足の位置を変えた。

「さっきから同じところに立ってる気がする」

「疲れた?」

「足もちょっとな」

クロードも自分の足を動かす。

歩いている時とは違う疲れ方だった。

「少し座る?」

「座ったら、そのまま寝そうだ」

ノーゼスが苦笑いする。

「今は立ってる方がよさそう」

「僕もそうしようかな」

昼間は荷物を背負って歩き、プレーリーベアと戦った。

そこからまた歩いて、雨よけを立て、火を起こして消した。

横になれると思ったところで、自分たちは最初の見張りを選んだのだ。

ノーゼスが口元を押さえた。

「……ふぁ」

「今、あくびした?」

「してない」

「聞こえたよ」

「見張りは耳も使うんだったな」

クロードが笑いかけたところで、自分もあくびをこらえきれなくなった。

「ほら、お前もだろ」

「うん……」

二人は小さく笑った。

笑っている間にも、暗い木々の方へ目を向ける。

「俺、最初ならまだ元気だと思ったんだけどな」

ノーゼスが言った。

「僕も」

「お前、真っ先にやるって言ったもんな」

「ノーゼスもすぐ言ったよ」

「言った」

ノーゼスは少し考えてから続けた。

「でも、二人でよかったな」

「どうして?」

「一人だったら、今ごろ誰とも話せないだろ」

「それはそうだね」

「黙ってたら、もっと眠そうだ」

クロードは頷き、また周囲を見た。

話している間も、音が変わったら気づけるようにしておきたい。

そう思って耳を向けるが、聞こえるのはやはり小さな葉の音だった。

もう一度目を凝らしたところで、少し離れたところからグレインが近づいてきた。

「そろそろ交代だ」

「はい」

ノーゼスの返事が、少しだけ大きくなった。

グレインが二人を見る。

「あれから変わったことは?」

「ありません」

クロードが答える。

「同じ音も聞こえませんでした」

「分かった」

グレインは周囲に目を向けた。

「次の二人を起こせ」

クロードとノーゼスは雨よけの入口へ戻った。

中ではガレスとベンが静かに休んでいる。

ノーゼスが入口から声を掛けた。

「エクリア、ピア、交代だ」

少し間があって、布が動いた。

「……もう?」

エクリアが顔を上げる。

「もうって、結構見てたぞ」

ノーゼスが返した。

ピアも身体を起こす。

「じゃあ、次は私たちだね」

「うん」

クロードが頷く。

二人は周りの邪魔にならないように起き上がり、実剣の位置を確かめてから雨よけの外へ出てきた。

エクリアが暗い先を見る。

「さっき音がしたのは、どっち?」

クロードは手で方角を示した。

「あっちの方」

「何だったか分かった?」

「ううん、分からなかった」

「でも先生には伝えて、一緒に確かめた」

ノーゼスも続ける。

「そのあとは、同じ音は聞こえてない」

「分かったわ」

エクリアは頷いた。

ピアが小さく笑った。

「眠そうだね」

「かなりな」

ノーゼスがすぐに答える。

「最初は全然平気だったんだけど」

クロードも笑った。

「じゃあ、ちゃんと休んで」

ピアが言う。

エクリアも小さく頷く。

「外は私たちが見るから」

クロードはもう一度、暗い木々へ目を向けた。

さっきまで自分たちが見ていた場所に、今度はエクリアとピアが立っている。

グレインも少し離れたところで周囲を見ていた。

「じゃあ、おやすみ」

クロードが言う。

「おやすみ」

二人の声を聞いて、クロードとノーゼスは雨よけの中へ入った。

外にいる時は、中はすっかり静かになっていると思っていた。

けれど、横になってみると、今度は外の音が気になった。

葉が擦れる音。

布の向こうで誰かが足を動かすような音。

さっきまで外にいた自分には、どちらもよく聞こえていた。

「……まだ音、聞こえるな」

ノーゼスが小さく言う。

「うん」

クロードは入口の方へ顔を向けた。

布の向こうにはエクリアとピアがいる。

今は二人が、暗い先を見ている。

クロードは身体の力を抜き、目を閉じた。

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