今夜の場所
クロードたち六人は、荷物を背負ったまま周囲を歩いた。
少し離れた場所では、ラディス班とセリアナ班もそれぞれ地面や木々を見ている。
教師たちは近くにいるが、どこを使えとは言わない。
ガレスが足元を見ながら少し先へ進んだ。
「ここ、平らじゃないか?」
クロードたちも集まり、地面を見る。
大きく傾いているようには見えず、六人が集まれるだけの広さもある。
「雨よけも置けそうだね」
ベンが言う。
「じゃあ、ここでいいんじゃないか?」
ガレスが周囲を見回した。
ピアは答える前に、少し外側まで歩いた。
「こっち、根が出てる」
地面から太い根がいくつか浮いている。
ノーゼスはその先の木を見上げた。
「枝も低いな」
クロードも上を見る。
雨よけの布だけなら置けそうでも、その周りに縄を伸ばしたら木の近くまで使うことになる。
エクリアは反対側へ歩いた。
「火はどこで使う?」
ガレスが振り返る。
「この辺じゃ駄目か?」
「雨よけと近くない?」
「じゃあ、もう少し向こう?」
ベンが二つの場所の間へ立った。
「そこにしたら、こっちを通りにくくならない?」
六人が一度黙った。
平らな地面だけを見れば悪くない。
けれど、雨よけだけを置くわけではない。
荷物もある。
人が出入りする場所もいる。
火を使う場所も必要になる。
「もう少し見よう」
クロードが言うと、六人はその場を離れた。
次に見つけた場所は、最初より少し広かった。
ノーゼスが端まで歩く。
「こっちは縄を張っても通れそうだな」
ピアは足元を見る。
「でも、この辺は少し傾いてる」
ガレスがそこへ立ってみる。
「寝られないほどじゃないだろ?」
「荷物も置くんだよ」
ベンが近くへ自分の荷物を下ろすような仕草をした。
エクリアは少し離れた開けた地面へ目を向ける。
「あっちなら火は使えそう」
クロードもその方向を見る。
低い枝は近くになく、人が歩けるところも残せそうだった。
「雨よけと火を同じところに置かなくてもいいんだよね」
ピアが言った。
ノーゼスが頷く。
「少し離して、行き来できればいい」
ガレスが雨よけを置こうとしている場所と、火を使えそうな場所を見比べる。
「それなら、こっちの方が使いやすいか」
「荷物は雨よけの近くに置けるかな」
ベンが言う。
クロードは六人が通れそうなところを歩いてみた。
雨よけを立てる場所。
その外へ伸びる縄。
荷物を置く場所。
火を使う場所。
それぞれを離して考えると、さっきより動ける場所が残っている。
エクリアも反対側から戻ってきた。
「私はこっちの方がいいと思う」
「俺も」
ノーゼスが答える。
ピアとベンも頷いた。
ガレスはもう一度周囲を見てから笑う。
「じゃあ、ここにするか」
六人はグレインのところへ戻った。
「先生」
クロードが呼ぶ。
グレインが六人を見る。
「決めたか?」
「はい」
六人は選んだ場所へグレインを案内した。
グレインは地面だけでなく、周囲の木や少し離れた開けた場所まで目を向ける。
それから六人を見た。
「なんでここにした?」
ガレスが地面を示した。
「雨よけを立てられる広さがあるからです」
ノーゼスが続ける。
「縄を張っても、通るところを残せそうです」
「荷物を置いても入口を塞がないようにできます」
ベンが言う。
エクリアは少し離れた場所を指した。
「火はあっちで使おうと思います」
ピアもそちらを見る。
「雨よけから離れていて、周りも見られます」
クロードは最初に見た場所の方へ一度目を向けた。
「最初のところより、全部を置いても動ける場所が残ります」
グレインはすぐには答えず、六人が示した場所をもう一度見た。
「分かった」
短く言って、雨よけを立てる場所を見る。
「やってみろ」
「はい」
六人は荷物を下ろした。
必要な道具を取り出し、雨よけを作り始める。
学園で初めて作った時のように、教師が最初から手順を見せることはない。
どこへ支柱を立てるか。
どこへ縄を伸ばすか。
杭を打ったあとに人が通れるか。
六人で確かめながら進めていく。
ガレスとノーゼスが支柱を支え、クロードとエクリアが布の張りを見る。
ベンとピアも縄と杭の位置を確かめながら動いた。
誰かが一つ終われば、別の作業へ回る。
途中で布の片側が少し緩んだ。
「こっち、もう少し引く?」
ガレスが縄を持つ。
「待って」
エクリアが反対側を見る。
「そっちだけ引いたら、こっちがずれる」
「じゃあ両方見るか」
ノーゼスが支柱から少し離れた。
クロードも布全体を見る。
六人で少しずつ張りを直した。
やがて雨よけの形ができてくる。
ガレスが腰を伸ばした。
「もういいんじゃないか?」
ピアが入口から中へ入ろうとして、足を止める。
「この縄、暗くなったら引っかかりそう」
入口の近くを一本の縄が通っている。
ガレスもそこを見る。
「ああ……確かに」
ベンが別の方向へ回った。
「こっちへずらせないかな」
ノーゼスが杭の位置を見る。
「根を避ければいけそう」
六人は縄を緩め、杭の位置を変えた。
もう一度張りを整える。
ピアが入口から中へ入り、今度は止まらず抜けた。
「これなら大丈夫そう」
「反対も見よう」
クロードが言う。
六人は雨よけの周りを一周した。
通る場所。
縄と杭。
布の張り。
低い枝。
どこか一つだけを見るのではなく、使うところ全体を見る。
「中も確認する?」
ベンが言う。
六人は雨よけの中へ入った。
学園で作った時と違い、今日は一泊分の荷物がある。
外へ置いていた荷物も中へ運んでみる。
「狭くなったな」
ガレスが言う。
「六人だけなら余裕あったのに」
ノーゼスも足元を見る。
荷物を入口の近くへ置くと、出入りできる幅が狭くなる。
「ここは駄目ね」
エクリアが自分の荷物を少し奥へ動かした。
「夜に出るたびに跨ぐことになるわ」
「全部並べなくてもいいんじゃない?」
ピアが空いている場所を見る。
ベンも荷物を動かした。
六人は中と入口を行き来しながら、荷物の位置を変えていく。
必要なものを取る時に届くか。
誰かが外へ出る時に邪魔にならないか。
雨よけの中だけでなく、入口の外側も確かめる。
しばらくして、ガレスが中から外へ出た。
「今度は引っかからない」
ノーゼスも続いて出る。
「荷物あっても通れるな」
クロードは入口に立って中を見る。
最初から完璧な形にはならなかった。
けれど、教師に止められる前に自分たちで気づいて直せた。
少し離れたところでは、ほかの二班もそれぞれ雨よけを立てている。
ラディスとセリアナも班の近くにいるが、手を出して作ってはいない。
グレインも六人の雨よけを一度見ただけで、何も言わなかった。
六人は次に、火を使う場所へ移った。
少し前に見つけていた開けた地面だ。
エクリアが周囲の草や根を見る。
ノーゼスは頭上の枝を確かめる。
ベンは人が通る場所と荷物の位置を見比べた。
ピアは少し離れたところまで歩き、周囲を見回す。
ガレスが火を起こすための道具へ手を伸ばしかけて止まった。
「あ」
クロードも同じものを思い出す。
火をつける前にやることがある。
「先に消す準備」
クロードが言う。
「水と土ね」
エクリアが答える。
六人は消火に使える水と土を、すぐ使えるところへ用意した。
燃やす物も、使う分だけを火を起こす場所の近くへ置く。
残りは少し離す。
ピアが顔を上げた。
「煙、どっちへ行きそう?」
六人で空気の流れと周囲を見る。
雨よけや荷物、人がいる場所へ煙が向き続けないかを確認する。
ベンが通る場所をもう一度歩いた。
「ここも塞がない方がいいね」
ガレスは火を使う予定の場所と雨よけを見比べる。
「学園の時より見るもの多いな」
「全部一緒にあるからじゃない?」
エクリアが言う。
学園では、雨よけを作る授業と火を使う授業は別だった。
今日は違う。
同じ場所で雨よけを使い、荷物を置き、火も使う。
クロードは火を起こす道具の前にしゃがんだ。
まだ使わない。
水と土がある。
燃やす物の置き場所も決めた。
通り道も残っている。
そこまで確認してから、クロードは立ち上がった。
グレインが少し離れた場所から六人を見る。
今回は「足りないものはないか」と聞かれなかった。
六人は自分たちで、火をつける前の準備まで終えていた。
クロードは雨よけへ目を向ける。
布の下には、自分たちの荷物が置かれている。
入口も残っている。
少し離れた場所には、これから火を使うところがある。
学園で雨よけを作った時は、使える形にしたあと全部片づけた。
今日は片づけない。
今夜、本当にここで使う。
クロードは出来上がった場所を見渡した。
まだ火はついていない。
それでも、ここで夜を迎える準備が少しずつ形になっていた。




