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『異世界転生した製鉄所主任、雷魔法と鉱物生成で成り上がる ~未知の世界は面白いことだらけでした~』~幼少期・王立学園編~  作者: 黎明の星
王立学園編

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背負ったまま

遠征の日の朝、クロードたち18人は王立学園に集まっていた。

背中には一晩分の荷物がある。

腰には鞘に収まった実剣があり、その上から防具も身につけている。

学園の中で同じような重さを背負って動いたことはあった。

けれど今日は、少し動いたら下ろして終わりではない。

このまま歩いて、学園の外で一晩を過ごす。

クロードは背負い紐を引き、荷物の位置を確かめた。

隣ではノーゼスも肩を動かしている。

「もう重いな」

「まだ出てもいないわよ」

エクリアが呆れたように言う。

「分かってるけど、重いものは重いだろ」

「昨日まで減らそうとしてたのに?」

「減らしたからこれなんだよ」

二人のやり取りを聞いて、クロードは少し笑った。

少し離れたところでは、ほかの班も自分たちの荷物を確かめている。

グレイン、ラディス、セリアナの三人は班の間を回りながら、一人ずつ装備を見ていた。

やがて確認を終えたグレインが全員を見る。

「揃ったな」

話し声が止まる。

「今日やることは、学園でやってきたことの続きだ」

グレインはそれだけ言って、正門の方へ身体を向けた。

「行くぞ」

18人が動き出した。


◇


王立学園の正門を出たところで、クロードは一度だけ後ろを振り返った。

3年の野外実習でも、ここから何度も学園の外へ出た。

あの時は、どこまで歩いてもその日のうちに戻ってきた。

今日は戻らない。

今夜は学園の外にいる。

そう思うと、昨日まで何度も聞いていたはずの一泊という言葉が急に重くなった。

「クロード?」

ノーゼスに呼ばれ、クロードは前へ向き直る。

「何でもない」

「置いてくぞ」

「まだ全然離れてないよ」

王都へ入ると、人や馬車の行き交う道を18人で進んでいく。

教師たちはずっと同じ場所にはいなかった。

グレインが前にいたかと思えば、少しして列の横へ移る。

ラディスも後ろへ回ったり、前へ出たりしている。

セリアナはときどき人数を見ながら、班同士の間隔も確かめていた。

クロードたちも一か所へ固まらず、周りを見ながら歩く。

最初のうちは、荷物の重さもそこまで気にならなかった。

ガレスが前を歩きながら振り返る。

「これくらいなら普通に行けそうだな」

「まだ王都の中だよ」

ベンが返す。

「分かってるって」

「さっきノーゼスも同じようなこと言ってたわね」

エクリアが言う。

「俺は重いって言っただけだ」

「似たようなものじゃない?」

ピアが笑った。

王都を抜けても、しばらくは見覚えのある景色が続いた。

3年の野外実習で歩いたことのある辺りも通る。

クロードは道の先だけでなく、時々左右へ視線を動かした。

茂みの奥。

木々の間。

少し離れた地面。

以前なら教師が止まってから周囲を見ることの方が多かった。

今は歩いている間にも、目が自然に動く。

それでも、ずっと緊張しているわけではない。

ノーゼスが何かを見つけて指を差し、エクリアが違うものだと返す。

ガレスとベンが荷物の重さを比べようとして、ピアに「中身が違うでしょ」と止められる。

そうやって歩いているうちに、王都の姿は少しずつ遠くなっていった。

しばらくして休憩が入り、クロードは荷物を地面へ下ろした。

肩から重さが消えた瞬間、思っていたより身体が軽くなる。

「うわ」

ノーゼスも隣で肩を回す。

「下ろすと分かるな」

「さっきまで普通に歩いてたのにね」

ピアが言う。

クロードも腕を動かした。

学園で練習用の荷物を背負った時とは違う。

あの時は短い時間だった。

今日はここまで歩いて、それでもまだ終わっていない。

休憩が終われば、また同じ荷物を背負う。

グレインの声が掛かり、クロードは荷物へ腕を通した。

一度軽くなった肩へ、重さが戻ってくる。

「……さっきより重くない?」

「同じだろ」

ノーゼスが答える。

「分かってるけど」

エクリアが小さく笑った。

「そう感じるってことじゃない?」

再び歩き始める。

見覚えのある場所は、少しずつ減っていった。

クロードは前を歩くグレインを見る。

3年の頃なら、ここまで来る前に随分遠くへ来たと思っていた気がする。

今日はまだ先へ進む。

背中の重さも、腰にある剣の重さも消えない。

それでも足を止めずに歩いた。


◇


「止まれ」

前方からグレインの声が飛んだ。

18人の足が止まる。

クロードもすぐに動きを止め、前を見る。

少し先を歩いていたガレスが、道の脇へ顔を向けていた。

「何かいる」

声を落として言う。

グレインとラディスが前方へ視線を向ける。

セリアナは生徒たちの側へ残り、周囲へ目を走らせた。

クロードもガレスが見ている方を見る。

草の向こうで、大きな身体が動いた。

ゆっくりと姿を現したのは、四本の脚で立つ魔物だった。

丸みのある大きな身体。

太い前脚。

顔を上げた魔物が、こちらを見る。

見たことのない魔物だった。

ノーゼスが小さく息を吐く。

「でかいな」

「プレーリーベアだ」

グレインが言った。

クロードはもう一度魔物を見る。

名前の通り、熊に似た姿をしている。

「ただ、あれは小さい個体だ」

ガレスが魔物とグレインを見比べる。

「あれで?」

「プレーリーベアとしてはな」

グレインは魔物から目を離さない。

ラディスも少し位置を変え、別の方向を確認している。

すぐに戦えとは言われなかった。

教師たちは周囲を見ている。

ほかにも魔物がいないか。

逃げる方向に危険がないか。

クロードも真似するように周りを見る。

今見える範囲には、別の魔物はいない。

しばらくして、グレインが振り返った。

「グレイン班」

クロードたち六人が顔を上げる。

「あれはお前たちに任せる」

胸の奥が少しだけ強く鳴った。

3年の時、オーガを前にした時とは違う。

あの時はすぐに下がるよう言われた。

今回は任せると言われた。

「ただし、小さいからって近づきすぎるな」

グレインが続ける。

「見た目通り、前脚の力は強い」

ガレスが腰の剣へ手を掛ける。

そこで動きを止めた。

「……荷物」

クロードも背中の重さを思い出した。

学園の戦闘実践なら、ここからそのまま構えていた。

今日は違う。

「背負ったままやる?」

ピアが聞く。

ノーゼスが一度身体をひねる。

「動けなくはないけど、邪魔だな」

「下ろすなら場所を見ないと」

エクリアが周囲を見る。

ベンも後ろへ視線を向けた。

「道の真ん中は駄目だよね」

六人の視線が自然に動く。

プレーリーベアとの距離。

自分たちが動く場所。

後ろへ下がる時の道。

魔法を使うなら、その先に何があるか。

クロードは少し右側を見る。

そこなら道を塞がず、プレーリーベアからも距離がある。

ただ、六人分を広く置けば動ける場所を狭くしてしまう。

「こっちに寄せる?」

クロードが指を差す。

ノーゼスが確認する。

「逃げる時も邪魔にならないな」

「魔物からも離れてる」

ピアが言う。

エクリアはプレーリーベアと荷物を置く場所の間を見た。

「ここなら、前に出ても荷物の方へ誘導しなくて済みそうね」

六人は互いに距離を取りながら荷物を下ろした。

急いで放り出すのではなく、あとで拾えるように寄せて置く。

グレインは口を挟まなかった。

ただ、六人とプレーリーベアの両方を見ている。

クロードは荷物から離れ、腰の実剣へ手を伸ばした。

周囲を見る。

ノーゼスは左。

ガレスは少し前。

エクリア、ベン、ピアも互いの位置を確かめている。

クロードは鞘を押さえ、剣を抜いた。

金属の刃が外へ出る。

学園では何度も練習した動きだった。

それでも、目の前にいるのは固定された標的ではない。

プレーリーベアが顔をこちらへ向けた。

ガレスも実剣を抜く。

すぐには前へ出なかった。

「近いのは怖いな」

「先生も近づきすぎるなって言ってたしね」

ベンが答える。

ノーゼスも剣を抜きながら、魔物との距離を見る。

「あれに振られたら、受けたくないな」

「受ける前提で考えないでよ」

エクリアが言う。

プレーリーベアが一歩動いた。

大きな身体が揺れる。

速くはない。

けれど太い前脚が地面へ着くだけで、その重さが伝わってくるようだった。

六人が少しずつ位置を変える。

クロードは右手の剣を見る。

剣で近づくこともできる。

魔法なら、もっと離れたところから使える。

右手を空けるなら、剣を左へ持ち替える必要がある。

学園で何度も試した動きが頭に浮かぶ。

クロードはすぐには持ち替えなかった。

プレーリーベア。

ノーゼスたち。

後ろへ置いた荷物。

地面。

その先。

魔法が当たったあと、どこへ雷が走るかまでは分からない。

撃てるから撃つのではない。

剣を持っているから近づくのでもない。

クロードは剣を握ったまま、もう一度周囲を見る。

プレーリーベアが低く唸った。

次の瞬間、その身体がこちらへ向かって動き出す。

「来るぞ」

ガレスの声と同時に、六人も動いた。

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