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『異世界転生した製鉄所主任、雷魔法と鉱物生成で成り上がる ~未知の世界は面白いことだらけでした~』~幼少期・王立学園編~  作者: 黎明の星
王立学園編

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一晩、帰らない

実剣を扱う授業が始まってからも、クロードたちはすぐに学園の外へ出たわけではなかった。

重い訓練木剣を使った《戦闘実践》を続け、実剣を抜く、構える、動く、納める練習も重ねていく。

荷物を背負った状態で動くことも、一度だけで終わらなかった。

それと並行して、雨よけや火をはじめとした遠征の準備も続いていた。

ある日の《戦闘実践》で、18人はいつものように第2運動場へ集まった。

クロードは以前より重くなった訓練木剣を持ち、グレイン班の5人と並ぶ。

もう持った瞬間に驚くことはない。

それでも、軽くなったわけではなかった。

「今日はどことやるんだろうな」

ノーゼスが向こうを見る。

「ラディス班じゃない?」

ピアも視線を動かす。

ガレスは木剣を肩へ乗せかけて、途中で持ち直した。

「これだと肩に乗せるのも前より重いな」

「今さら?」

ベンが笑う。

「慣れたけど重いものは重いんだよ」

エクリアは3人の教師を見る。

「でも今日は、まだ結界の中へ入れって言われてないわね」

クロードも気づいた。

グレイン、ラディス、セリアナは、それぞれの班を集めたまま演習を始めようとしていない。

少しして、グレインが18人の前へ出た。

「今日は戦闘の前に話がある」

ザナトスがすぐに顔を上げる。

「何ですか?」

「最初の遠征だ」

今度はクロードもすぐに反応した。

4年になった時から聞いていた遠征。

そのための授業もずっと続いてきた。

実剣の練習まで始まった。

いつか行く話ではなく、本当に行く話になったのだと分かる。

「やっとか!」

ザナトスが声を上げる。

マミヤが横から見る。

「まだ何も聞いてないじゃない」

「遠征に行くのは決まっただろ」

「それはそうだけど」

何人かが笑った。

グレインも少し待ってから続ける。

「3年でも、何度か学園の外へ出たな」

「はい」

クロードたちが答える。

最初の野外実習は王都の近くだった。

教師たちと歩き、魔物の実物を見て、その日のうちに学園へ戻った。

その後も何度か外へ出たが、どれも日帰りだった。

「今回からは、それとは違う」

ラディスが言った。

セリアナが続ける。

「現地で過ごす時間も、遠征の中に入ります」

ガレスが少し首を傾ける。

「現地で過ごす?」

グレインが18人を見る。

「今回は一晩、外で過ごす」

一瞬遅れて、何人もの声が上がった。

「泊まるのか!」

ザナトスの声が一番大きかった。

「次の日まで帰らないってこと?」

ヤンナが聞く。

「ああ」

グレインが頷いた。

「その日のうちには戻らない」

クロードは隣のノーゼスを見る。

ノーゼスも少し驚いた顔をしていた。

「本当に泊まるんだな」

「うん」

エクリアは少し考えてから笑った。

「今まで練習してきたことを、本当に外で使うのね」

クロードも第2運動場の外へ目を向けた。

学園の中で雨よけを立てた。

火を扱った。

荷物を背負って動いた。

実剣も持つようになった。

それでも、全部学園の中だった。

今度は外へ出て、夜になっても戻ってこない。

「移動はどうするんですか?」

カイルが聞いた。

ラディスが答える。

「歩く」

今度は違う種類のざわめきが起きた。

ノーゼスが自分の訓練木剣を見た。

「ずっと?」

「遠征中の移動は自分たちの足だ」

ラディスが答える。

クロードは以前背負った練習用の荷物を思い出す。

あれを背負って少し動いただけでも、身体の感じは変わった。

今度はそれを持って、本当に歩いていく。

ガレスも同じことを考えたのか、自分の肩へ手を置いた。

「だから荷物の練習してたのか」

「それだけじゃないだろうけどね」

ベンが返す。

「先生」

ナーンが手を上げた。

「教師も一緒なんですよね?」

「当然だ」

グレインが答える。

「俺、ラディス、セリアナの3人が同行する」

「班も今のままだ」

クロードは周りの5人を見る。

ノーゼス、エクリア、ガレス、ベン、ピア。

3年からずっと同じ《戦闘実践》で動いてきた6人だ。

「現地で寝る場所も決まってるんですか?」

タンガが聞いた。

セリアナは首を横へ振る。

「実際に現地を見てから考えます」

「学園で練習した場所と、同じ地面ではありませんから」

クロードは雨よけを立てた日のことを思い出した。

地図では分からなかった傾斜。

根。

低い枝。

立て終わってから気づいた縄と杭の位置。

「学園でやった通りに作ればいいってわけじゃないんですね」

ピアが言った。

「そうだ」

グレインが答える。

「覚えたことは使え」

「ただ、その場所を見ずに同じ形を作るな」

ノーゼスが小さく笑った。

「魔物の時と似てるな」

クロードも頷く。

同じ種類だからといって、前と同じ動きをするとは限らない。

見て、違うなら変える。

外で休む場所も同じなのだろう。

「途中で魔物に会うこともありますよね?」

ベンが聞いた。

「ある」

グレインは短く答えた。

「だから実剣を持つ」

クロードは腰へ手をやりかけて止めた。

今日は訓練木剣だ。

けれど遠征では、ここに実剣があることになる。

歩いている途中で魔物が出れば、荷物を持った状態から対応しなければならない。

「ただし、出会った魔物を全部お前たちが相手するわけじゃない」

グレインが続ける。

「任せられない相手なら、俺たちが引き取る」

「その時は下がれ」

3年の最初の野外実習でも聞いた言葉だった。

クロードは素直に頷いた。

実剣を持つようになっても、何でも戦えることにはならない。

グレインは用意していた紙を班ごとに渡していく。

クロードたちにも一枚が回ってきた。

大きく空いた場所が残された紙だった。

「次は荷物だ」

ガレスが紙を見る。

「前にも考えましたよね?」

「遠征へ行くつもりで、もう一度考えろ」

グレインが答える。

「今度は一晩だ」

「それを背負って歩く」

6人が紙を見る目が少し変わった。

以前なら、必要そうなものを挙げるところから始まった。

今は、重い剣を持って動いた時の感覚も知っている。

荷物を背負ったまま木剣を振ったこともある。

ガレスが最初に口を開く。

「雨よけの道具」

「火に使うものも必要ね」

エクリアが続ける。

「水」

ノーゼスが言う。

「食べるものもいるよね」

ベンが加える。

ピアが紙へ書いていく。

クロードは自分の腰の辺りを見る。

「実剣も持つ」

「防具もだな」

ガレスが言った。

紙へ必要そうなものが並んでいく。

けれど、以前のように誰もすぐ「全部持てばいい」とは言わなかった。

少し書いたところで、ノーゼスが紙を見たまま口を開く。

「これ、誰が持つ?」

ガレスがノーゼスを見る。

「先生に言われる前に言ったな」

「前にやったからな」

ノーゼスが笑う。

エクリアも紙を見る。

「それに、今回は一晩分よ」

「歩く距離もまだ聞いてない」

ベンが言った。

「全部を一人ずつ持つ必要はないものもあるよね」

クロードが雨よけの項目を見る。

ピアが横へ印を付ける。

「班で使うもの?」

「たぶん」

「でも、学園から何が出るかも確認しないと」

エクリアが言った。

今度はただ書き足すのではなく、最初から分けて考えていく。

一人ずつ必要そうなもの。

6人で共有できそうなもの。

学園側へ確認するもの。

必要そうでも、重さまで考えなければならないもの。

「水ってどのくらいになるんだろう」

ガレスが言う。

「量が分からないなら、今は決められないね」

ベンが答える。

「確認する方に入れよう」

ピアが印を付けた。

クロードは紙へ並んだ項目を見る。

持っていきたいものは増える。

けれど、一つ増えるたびに自分たちの肩も重くなる。

しかも、その荷物を背負った状態で魔物に会うかもしれない。

「前より考えること増えたね」

クロードが言う。

「実剣の重さ知ったあとだからな」

ノーゼスが答える。

ガレスが少し笑った。

「俺、前なら全部持ってけばいいって言ってたかも」

「言ってたと思う」

エクリアが即答する。

「まだ言ってないだろ」

「言いそうだったってことよ」

6人が笑う。

周りの班でも、紙を囲んで話が続いていた。

ザナトスの声が聞こえる。

「これもいるだろ!」

ヤンナが返す。

「持てるならね!」

「持てる!」

「一晩歩いたあとも?」

ザナトスの声が一度止まった。

クロードたちの班からも笑いが漏れる。

教師たちは3つの班を回っていたが、必要な物をすぐに答えてはくれなかった。

ときどき質問を返し、紙を見るだけだ。

しばらくして、グレインが全員へ声を掛ける。

「今日はそこまでだ」

18人が顔を上げた。

「今書いたものが、そのまま遠征の荷物になるわけじゃない」

セリアナが続ける。

「学園側で用意する物もあります」

「次までに、必要だと思う物と、確認したい物を整理してください」

ラディスが3つの班を見る。

「その荷物を自分たちで持って歩くことも忘れるな」

クロードは紙を持ち上げた。

まだ決まっていないことは多い。

遠征先も知らない。

どれだけ歩くのかも分からない。

何を学園が用意するのかも全部は分からない。

それでも、一つだけ前よりはっきりしていることがある。

今度は本当に学園の外へ出る。

自分たちの荷物を持ち、実剣を携え、その日のうちには帰ってこない。


◇


授業が終わり、クロードはノーゼス、エクリアと一緒に校舎へ戻っていた。

エクリアの手には、さっき6人で書いた紙がある。

「本当に泊まるんだな」

ノーゼスが言った。

クロードが笑う。

「今日それ何回目?」

「まだ一回目だろ」

「さっきも言ってなかった?」

「言ってない」

エクリアが二人を見る。

「どっちでもいいわよ」

そう言いながら、エクリアも少し笑っている。

「でも、今までやってきたことを本当に全部使うことになりそうね」

クロードは頷いた。

3年で初めて学園の外へ出た時は、その日のうちに戻ってきた。

今度は歩いてさらに先へ進む。

外で夜を迎え、次の日まで帰ってこない。

途中で魔物に会うかもしれない。

その時、腰には木剣ではなく実剣がある。

「楽しみだね」

クロードが言う。

ノーゼスは紙へ目を向けた。

「まず荷物を何とかしてからな」

「必要なものまで減らしちゃ駄目よ」

エクリアが返す。

「分かってるって」

3人の声が廊下へ続いていく。

初めての遠征は、もう遠い先の話ではなかった。

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