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『異世界転生した製鉄所主任、雷魔法と鉱物生成で成り上がる ~未知の世界は面白いことだらけでした~』~幼少期・王立学園編~  作者: 黎明の星
王立学園編

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重さが違う

4年になってから、遠征へ向けた授業は少しずつ続いていた。

雨よけを立て、火を扱い、そのあとも学園の中でいろいろな条件を変えながら練習を重ねている。

もちろん、それだけで普段の授業が止まるわけではない。

木剣と魔法を使った《戦闘実践》も、変わらず続いていた。

その日も、クロードたち18人は第2運動場へ集まっていた。

いつものように3つの固定班へ分かれ、クロードはノーゼスたちとグレインの前へ並ぶ。

ただ、運動場の脇に用意されている木剣が、いつものものとは少し違っていた。

クロードは並んだ木剣を見ながら首を傾ける。

「新しい木剣?」

「見た感じはそんなに変わらないな」

ノーゼスも横から覗き込む。

ガレスは一本へ手を伸ばそうとして、グレインを見る。

「持っていいですか?」

「ああ」

ガレスが木剣を持ち上げた。

その腕がすぐに少し下がる。

「重っ」

思わず出た声に、ベンが笑った。

「そんなに?」

「持ってみろって」

ベンも一本を受け取る。

「……本当だ」

ピアとエクリアもそれぞれ手に取った。

クロードも一本を受け取る。

右手だけで持った瞬間、いつもの木剣との違いがはっきり分かった。

持てないほどではない。

けれど、同じつもりで腕を上げると、少し遅れる。

「これ、何でこんなに重いんですか?」

ピアが聞いた。

グレインは自分の前にある一本を持ち上げる。

「遠征では、実際に刃のある剣を持つことになる」

6人の目がグレインへ向いた。

少し離れたところでは、ラディスとセリアナも同じ説明を始めている。

ザナトスの声が早速聞こえた。

「実剣使うのか!」

「まず話を最後まで聞け」

ラディスの声も返る。

グレインはクロードたちを見る。

「今まで使っていた木剣より、実剣は重い」

「重さだけ同じにしても、持った時の感じが違えば練習にならない」

グレインは木剣の柄を握り直した。

「これは、遠征で扱う剣に近い長さと重さ、それから重心になるよう調整してある」

クロードは木剣を前へ伸ばしてみる。

手元だけで持っている時より、剣先を上げた時の方が重く感じる。

「まずはこれに慣れろ」

「今日は対戦から始めない」

ガレスが少し残念そうな顔をした。

「振らないんですか?」

「振る」

グレインが答える。

「ただし最初は一人ずつだ」

6人は間隔を空けた。

「構えろ」

クロードは右手で木剣を上げる。

いつもの構えと同じつもりだった。

けれど少し時間が経つだけで、右腕に重さが残ってくる。

隣ではノーゼスが一度腕を下げかけ、もう一度上げ直した。

エクリアも剣先を見ながら持つ位置を少し直している。

「下ろせ」

グレインの声で、6人が木剣を下ろす。

ガレスが右腕を軽く振った。

「構えてるだけでも違うな」

「まだ何もしてないのにね」

ベンが言う。

「だからやるんだ」

グレインはガレスを見る。

「一人ずつ振れ」

最初にガレスが前へ出た。

周囲に誰もいないことを確認して、木剣を構える。

いつものように大きく振った。

木剣が前へ出る。

そのまま止めようとしたところで、腕が少し引かれた。

「うわっ」

ガレスが足を踏み直す。

「今のは何だ?」

グレインが聞く。

「いつもの木剣のつもりで振りました」

「止まらなかったか?」

「少し」

「次」

ベンが前へ出る。

ガレスほど勢いよくは振らなかったが、振り終えた木剣を戻す動きが少し遅れる。

ピアも一度振ったあと、両手で握り直した。

「戻す方が大変かも」

「私もそう思った」

エクリアが答える。

ノーゼスも前へ出る。

「重いなら、力入れて振ればいいってわけでもなさそうだな」

「先にやってから言えば?」

エクリアが返す。

「今からやるよ」

ノーゼスが振る。

前へ出た木剣は速かった。

けれど止めるところで思ったより先まで進み、ノーゼスは肩を動かして戻した。

「……なるほど」

「ほら」

「分かったから」

クロードも前へ出る。

右手で木剣を構えた。

いつものように振ろうとする。

最初の一歩から少し遅い。

木剣を前へ出すと、腕がその重さに引かれる。

止める。

戻す。

いつもの位置へ戻るまでに、思っていたより時間が掛かった。

「もう一回」

グレインが言った。

クロードは今度は速く振ることをやめた。

前へ出す。

止める。

戻す。

さっきより身体は流れない。

その代わり、いつもの木剣ほど速くは動かなかった。

「重さが違うだけで、こんなに変わるんだ」

クロードが言う。

「重さだけじゃないぞ」

グレインはクロードの木剣を見る。

「どこに重さを感じるかも違う」

クロードは柄を持ったまま、木剣を少しだけ上下へ動かした。

確かに、ただ重い物を手に持っているのとは違う。

剣先を動かした時に、腕を引かれる感じがある。

しばらく6人は、一人ずつ振る、止める、戻すを繰り返した。

速くするより、思った場所で止めることを優先する。

それだけでも、いつもの木剣より腕が疲れた。

やがてグレインが手を上げる。

「一度置け」

クロードは木剣を決められた場所へ戻した。

その時、運動場の別の場所へ教師たちが運んできたものに気づく。

鞘に収まった剣だった。

ガレスもすぐに気づいた。

「あれが本物ですか?」

「ああ」

グレインが答える。

「今日はあれも扱う」

ザナトスの声がまた少し離れたところから聞こえる。

「やっとか!」

「お前はさっきも同じこと言っただろ」

今度はカイルの声だった。

クロードたちも笑う。

「実剣で戦うんですか?」

ベンが聞いた。

「生徒同士ではやらない」

グレインはすぐに答えた。

「対人の戦闘実践では、今使った木剣を使う」

「刃のある剣で練習だからと打ち合う必要はない」

クロードは並んだ実剣を見る。

「じゃあ、本物の剣は何を練習するんですか?」

「持つところからだ」


◇


クロードは鞘に収まった剣を両手で受け取った。

さっきまで使っていた木剣と大きく違う重さではない。

そのための木剣だったのだと分かる。

けれど、手にした時の感覚は同じではなかった。

鞘の中には本当に刃がある。

「抜く前に周りを見ろ」

グレインが言った。

クロードは左右を見る。

ノーゼスとは十分に離れている。

前にも誰もいない。

「抜いていいぞ」

クロードは柄を握り、反対の手で鞘を押さえた。

ゆっくり引く。

金属の刃が姿を見せた。

全部抜き終えてから、剣先を前へ向ける。

木剣と同じ形で構えようとして、手に少し力が入った。

「握りすぎだ」

グレインに言われ、クロードは指の力を緩める。

「はい」

隣を見ると、ノーゼスも自分の剣先を見ていた。

エクリアは誰もいない方向へ剣を向けたまま、ゆっくり身体の向きを変える。

ガレスもいつものように大きく動こうとして、途中で一度止まった。

「ベン、そこいるな」

「いるよ」

ベンが一歩離れる。

「木剣の時なら、もう少し近くても動いてたかも」

「今日はやめとく」

ガレスが答えた。

6人は前へ数歩進む。

止まる。

横へ動く。

向きを変える。

それだけの練習を繰り返す。

木剣で何度もやってきた動きでも、剣先に刃があるだけで周りがいつもより気になった。

「次、納めろ」

クロードは鞘を見る。

そのまま急いで戻そうとして、手を止めた。

刃先の位置を確かめる。

ゆっくり鞘へ入れる。

全部収まってから息を吐いた。

「入れる方も怖いね」

クロードが言う。

「怖いくらいでいいんじゃない?」

エクリアが自分の剣を納める。

「雑に扱うよりは」

「そうだね」

抜く。

構える。

歩く。

止まる。

納める。

教師たちは速さを求めなかった。

周りを見ずに抜けば止められる。

剣先が誰かへ向けばやり直す。

何度か繰り返したあと、6人は固定された標的の前へ移動した。

「次はこれへ使う」

グレインが言う。

「人へ向けるな」

クロードは標的から距離を取った。

実剣を抜く。

周囲を見る。

構える。

一度だけ剣を振った。

刃が標的へ当たる。

手へ返ってきた感触に、思わず柄を強く握る。

木剣同士がぶつかった時とは違った。

クロードはすぐにもう一度振らず、剣を戻す。

「どうだ?」

「当たった時も違います」

「覚えとけ」

次にガレスが標的へ剣を振る。

当たった直後、右手を少し開いた。

「手にくるな」

「実際の魔物なら、また違うんだろうな」

ノーゼスが言う。

「相手による」

グレインが答えた。

「だから、剣を持ったからって何でも近づくな」

クロードはその言葉を聞きながら剣を納めた。

3年の野外実習でも、教師が任せられないと判断した相手には近づかなかった。

武器が木剣から実剣へ変わっても、その判断まで変わるわけではない。


◇


実剣の確認が終わると、6人はもう一度重い訓練木剣を持った。

今度は普段の《戦闘実践》に近い形で動く。

「今日は速さを競うな」

グレインが言う。

「さっきまでの木剣と同じつもりで動けるか、まず確かめろ」

クロードは右手に木剣を持つ。

ガレスが前へ出る。

ノーゼスは少し横へ動いた。

エクリアとピアも位置を変える。

ベンも空いた方へ進む。

クロードは周囲を見ながら歩いた。

「雷使うつもりでやってみる」

右手の木剣を見る。

これまでなら、右手を空けたい時には木剣を左手へ持ち替えていた。

クロードは同じように持ち替える。

右手から左手へ。

そこでわずかに動きが止まった。

「遅い」

クロードが自分で言った。

「何が?」

ノーゼスがこちらを見る。

「持ち替えるの」

左手でも持つことはできる。

けれど、いつもの木剣より握り直すまでに時間が掛かる。

その間にガレスの位置も変わっていた。

「もう一回やる」

クロードは木剣を右手へ戻した。

今度は持ち替える前に周囲を見る。

ガレスは前。

ピアは右。

エクリアは少し後ろ。

「持ち替える」

声を出してから、木剣を左手へ移す。

右手が空く。

クロードは《サンダーボール》の《印》を組んだ。

青白い雷が手元にまとまる。

前方を確認して標的へ放つ。

雷球が飛び、標的の近くで弾けた。

クロードは周囲へ目を戻し、左手の木剣を右へ持ち替える。

やはり、そこでも少し時間が掛かる。

「いつものより遅いね」

ピアが言った。

「うん」

「でも最初よりは止まってなかったわ」

エクリアが続ける。

クロードは右手の木剣を見る。

今まで出来ていた動きでも、道具の重さが変われば同じにはならない。

グレインが6人のそばに置かれていた荷物を示した。

「次はそれを背負え」

ノーゼスが荷物とグレインを見比べた。

「まだ重くするんですか?」

「遠征では剣だけ持って歩くのか?」

「……違います」

6人は練習用の荷物を背負った。

実際の遠征で持つ物がそのまま入っているわけではない。

それでも肩へ重さが加わる。

クロードは背負い紐の位置を直した。

前へ歩く。

止まる。

横へ動く。

木剣を振る。

振り終わったところで、背中の重さに身体を引かれた。

クロードは一歩踏み直した。

「うわ」

ガレスが笑う。

「さっきの俺みたいだな」

「本当だ」

今度はクロードも笑った。

ノーゼスが身体をひねる。

「剣抜く動きも邪魔になるな」

背中の荷物へ腕が少し当たっている。

持ち方を直し、もう一度試す。

ピアも荷物を背負ったまま横へ動いた。

「これ、歩いて疲れたあともやるんだよね」

「魔物に会えばな」

グレインが答える。

ガレスが自分の荷物を見る。

「持つだけなら大丈夫そうですけど」

グレインはすぐに返した。

「それを持って歩いたあとも同じことが言えるか?」

ガレスが黙る。

クロードも背中の荷物を意識した。

今は運動場へ来て、少し動いただけだ。

遠征ではこれを持って歩く。

その途中で何が起きるかは分からない。

「持てるのと、持ったまま動けるのは違うんですね」

ベンが言う。

「ああ」

グレインが頷く。

「さらに、持ったまま戦えるかも別だ」

クロードはこれまでの雨よけや火の練習を思い出した。

出来ることが増えるたび、その次に別の条件が増えていく。

今回も同じだった。

木剣を振れる。

それだけでは足りない。

重い剣を扱う。

荷物を背負う。

その状態で周りを見る。

クロードは木剣を左手へ持ち替えた。

右手を空ける。

今度は魔法を放たず、《印》を最後まで組むところだけ確かめる。

持ち替えに掛かる時間。

周囲を見る時間。

それを一つずつ覚えていく。

やがて授業終了の声が掛かった。

6人は荷物を下ろし、訓練木剣を戻す。

少し離れた場所には、鞘へ収められた実剣が並んでいる。

グレインが18人へ向き直った。

「遠征へ出る時は、実剣を携行する」

話し声が止まる。

「今日触ったから使えるとは思うな」

「これからも学園の中で扱う」

「対人は訓練木剣だ」

グレインは少し間を置く。

「外でも、剣を持っているから近づけばいいわけじゃない」

「相手を見て、距離を見て、何を使うか決めろ」

クロードは右手を開き、もう一度握った。

魔法が使えるから撃つわけではない。

剣を持っているから斬りに行くわけでもない。

今日持った木剣は、いつものものとよく似ていた。

けれど、重さと重心が変わっただけで、これまでの動きも変わった。

その先には、本当に刃のある剣がある。

クロードは片づけられていく実剣を見ながら、遠征へ向かう準備がまた一つ増えたことを感じていた。

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