火を使う場所
野営の設営実践を終えたあとも、4年の授業は続いていた。
新しい教師たちの授業を受け、木剣や魔法を使う戦闘実践も重ねるうちに、クロードたちは少しずつ新しい時間割へ慣れていった。
その日の《戦闘実践》では、18人が学園の外周に近い開けた場所へ集められていた。
地面には、火を起こすための道具と燃やす材料、消火に使う水や土が班ごとに分けて置かれている。
グレイン、ラディス、セリアナの3人は、生徒たちが揃うのを待ってから道具の前へ立った。
「今日は火を扱う」
グレインが短く告げる。
ザナトスをはじめ、何人かの生徒が並べられた道具へ目を向けた。
「ただし、今日も魔法は使わない」
「火を起こす時も、消す時も、特定の属性に頼らないやり方から覚えろ」
火属性の生徒たちの間から、小さな声が上がった。
グレインはそのまま話を続ける。
「火を起こせれば終わりじゃない」
「どこで使うか、何を準備するか、どう消すかまで覚えろ」
セリアナが、消火に使うものを示した。
「火を起こす前に、先にこちらを用意します」
「燃え広がってから取りに行くのでは遅いです」
ラディスは、燃やす材料の束を一つ持ち上げた。
「使わない分まで火のそばへ置くな」
「置く場所も含めて、最初に決めろ」
18人は教師たちの周りへ広がった。
グレインたちは、開けた地面の中を歩きながら、火を使う場所を選んでいく。
足元には草が少なく、近くに大きな根も出ていない。
頭上にも低い枝はなく、少し離れたところには人が通れる空間が残っていた。
セリアナが風の向かう先へ目を向ける。
「今は、こちらへ風が流れています」
「煙の先に、人や荷物がないかも見てください」
ラディスは消火に使う水と土を、すぐ手を伸ばせる場所へ移した。
残りの燃やす材料は、火を使う場所から離して置く。
そこまで整えてから、グレインは地面へ少量の材料を置いた。
火を起こすための道具を打ち合わせると、小さな火花が落ちる。
一度では火がつかず、グレインは材料の位置を少し直した。
もう一度火花を落とすと、細い煙のあとに小さな炎が生まれた。
グレインは急いで大きな材料を加えず、炎の様子を見ながら少しずつ足していく。
やがて、小さな火が地面の上で安定した。
「大きくすればいいわけじゃない」
グレインは炎を見たまま言う。
「必要な大きさで保て」
実演を終えると、教師たちは火を消し、燃え残りと地面を確認した。
それから18人を、いつもの固定班へ分ける。
クロードたちも、グレインに指定された区画へ道具を運んだ。
燃やす材料を地面へ置く前に、六人で周囲を歩く。
ガレスが、区画の中央に近い場所を指した。
「ここなら広いんじゃないか?」
ノーゼスが足元へしゃがむ。
「草は少ないけど、こっちに根が出てる」
「少し離した方がよさそうだな」
エクリアは顔へ当たる風を確かめ、区画の奥を見た。
「今の風なら、煙はあっちへ流れそうね」
「向こうに道具を置いたら、煙がかかるかも」
ベンが道具を置いた場所を振り返る。
「じゃあ、道具は反対側へ置こう」
ピアは火を置く候補の周りを歩いた。
「ここを通るなら、火からもう少し離したいな」
クロードも、その道をたどってみる。
火を避けて大きく回らなくても、六人が行き来できる幅は残っていた。
反対側にも動ける場所がある。
「ここなら、どっちからも近づけそうだね」
六人は、最初にガレスが示した場所から少しだけ位置をずらした。
地面の上に落ちていた乾いた葉をどけ、燃やす材料を少しずつ並べていく。
ガレスが火を起こすための道具を手にした。
「じゃあ、始めるぞ」
「待て」
グレインの声が飛んだ。
ガレスは道具を止める。
グレインは答えを言わず、六人の周りを見た。
「火をつける前に、足りないものはないか?」
クロードたちは、並べた材料と周囲を見直した。
火を使う場所は、草や根から離れている。
通り道も残っている。
風の先にも、今は誰も立っていない。
ベンが、道具を置いた場所へ目を向けた。
「あ」
「消すための水、まだ向こうだ」
ピアも燃やす材料の束を見る。
「残りの材料も近すぎるかも」
使う分と残りを分けたつもりだったが、どちらもすぐそばに置かれていた。
「火がついたあとに取りに行くところだったな」
ノーゼスが立ち上がる。
六人は消火に使う水と土を近くへ運び、誰でも手を伸ばせる場所へ置いた。
残りの燃やす材料は、火から離れた側へ移す。
その間も、通り道を塞がない位置を確かめた。
グレインは六人の配置を見てから頷く。
「始めろ」
ガレスが道具を打ち合わせる。
小さな火花が落ちたが、材料の上で消えた。
もう一度試しても、細い煙が少し上がっただけだった。
「当てる場所がずれてるんじゃない?」
ピアが材料の端を少し寄せる。
クロードとベンも、ばらけていた細い材料を近づけた。
ガレスが再び火花を落とす。
今度は材料の一部が赤くなり、細い煙が続いた。
「つきそう」
エクリアが小さく言う。
六人は急いで手を出さず、煙の出ている場所を見守った。
やがて、小さな炎が上がる。
「ついた!」
ガレスが笑い、少し太い材料をすぐに上へ置こうとした。
炎が隠れ、急に小さくなる。
「待って、それはまだ早いわ」
エクリアが言い、ガレスもすぐに材料を持ち上げた。
ノーゼスが細いものを一本渡す。
「こっちからじゃないか?」
「うん、少しずつにしよう」
クロードも近くの材料を取った。
小さな炎が消えないように、六人は様子を見ながら一本ずつ加えていく。
ベンは使う分だけを手元へ移し、ピアは火の周りへ誰かの足が近づきすぎていないか見ていた。
少し時間がかかったが、火は教師の実演と同じくらいの大きさで安定した。
ガレスが火の前へ座る。
「今度こそできたな」
「火はついたね」
エクリアは炎の上へ伸びる煙を見た。
先ほどまで区画の奥へ流れていた煙が、少しずつ横へ向きを変えている。
ピアが顔を背けた。
「こっちに来た」
風が変わり、煙は六人が集まっていた側へ流れ始めていた。
その先には、火から離した燃やす材料も置かれている。
「火は動かせないよね」
ベンが言う。
「俺たちが動けばいい」
ノーゼスが立ち上がった。
六人は火の周りで座る場所を変え、残りの材料も煙の先から外す。
クロードは通り道を歩き、位置を変えた材料が邪魔になっていないか確かめた。
「ここなら通れる」
「消すための水も、そのまま届くね」
ピアが水の置かれた場所を見る。
火そのものは変わっていない。
けれど、煙の流れまで見ると、周りの使い方は変える必要があった。
グレインは少し離れた場所から六人の動きを見ていたが、口は挟まなかった。
しばらく火を保ったあと、教師から消すよう指示が出た。
六人は新しい材料を加えるのをやめる。
炎が少しずつ弱くなるのを待ち、準備していた水を使った。
一度にすべてをかけず、燃えている場所へ少しずつ注ぐ。
炎が消え、煙もほとんど見えなくなった。
「消えたかな」
ガレスが地面を見る。
グレインが六人へ問いかける。
「これで終わりか?」
クロードは、黒くなった燃え残りへ目を向けた。
炎はない。
煙も、さっきまでよりずっと少ない。
それでも、見た目だけで安全だとは言えないことは、雨よけの実践でも経験している。
「中も見ます」
クロードが答える。
六人は教師の監督のもと、道具を使って燃え残りを分けていった。
表からは消えて見えた材料の内側から、細い煙がもう一度上がる。
「まだ残ってた」
ベンが声を上げる。
「ここも熱そうだね」
ピアが道具の先で別の燃え残りを示した。
六人は残っている熱へ、もう一度水を使う。
燃え残りの位置を変え、重なっていたところも分けていく。
煙が止まってからも、すぐには片づけなかった。
少し時間を置き、道具を使ってもう一度確かめる。
今度は内側から煙が上がることもなく、周囲の地面にも危険な熱は残っていなかった。
グレインが最後に火を使った場所を見る。
「これで終わりだ」
六人の表情が緩んだ。
ほかの二班も、教師たちの確認を受けながら火を消し終えている。
クロードたちは使わなかった材料と道具を揃え、班ごとに返す準備をした。
燃え残りも教師の指示に従ってまとめ、火を使った場所へ何も放置しない。
クロードは道具を持つ前に、もう一度地面を見た。
火を起こした時よりも、火を起こす前に周りを見ていた時間の方が長かった気がする。
炎が消えてからも、授業はすぐには終わらなかった。
場所を選び、消す準備をしていた時から始まり、炎が見えなくなったあとに残る熱まで確かめたところで、ようやく終わった。
クロードは何も燃えていない地面から目を離し、仲間たちと一緒に道具を運び始めた。




