遠くても、同じように
翌日、クロードは昨日と同じ場所に木と金属を並べていた。
乾いた枝を置き、そのそばに金属を置く。そこから自分が立つ場所までの距離も、昨日最後に試したときと同じになるように確かめる。
昨日は、それまで二度続けて金属へ向かった雷が、距離を遠くした途端に地面へ落ちた。
金属には必ず当たるわけではないのか。
それとも、遠くしたことが関係していたのか。
どちらなのかは、まだ分からない。
だから今日は、同じ条件を何度か繰り返す。
「準備できたか」
後ろからガルディオに声をかけられ、クロードは振り返った。
「うん」
「昨日言ったことは覚えているな」
「五回まで。でも、一回ずつ休む。手が痛かったり、痺れたり、熱かったり、変な感じがしたらやめる」
「そうだ。五回は使っていい回数であって、使わなければならない回数じゃない」
クロードは頷いた。
昨日までより試せる回数は増えた。それでも、やることそのものが変わったわけではない。
一度試して、休む。
身体を確かめて、それから次を考える。
クロードは木と金属へ向き直った。
昨日最後に立った場所を確かめ、右手を前へ出す。
魔力も昨日と同じくらいを意識した。
小さく息を吸う。
雷が走った。
白い光が一瞬だけ視界を横切り、金属へ落ちる。
「……当たった」
昨日、同じように遠くしたときには当たらなかった。
けれど今は当たった。
クロードはすぐに手元の紙へ書き込んだ。
『遠くした木と金属――金属に当たった』
それから右手を開き、指を一本ずつ動かす。
痛みはない。痺れも熱も感じない。
ガルディオもクロードの手を見てから尋ねた。
「どうだ」
「大丈夫」
「そうか。少し休んでから次だ」
少し時間を置いてから、二度目の準備をする。
木も金属も動かしていない。立つ場所も同じだ。
クロードは一度目と同じくらいの魔力を意識した。
雷が走る。
今度は金属へ向かわなかった。
その少し手前の地面に、小さな跡が残る。
クロードはしばらく金属と地面を見比べた。
「同じなのに……」
少なくとも、自分では同じにしたつもりだった。
一度目は金属。
二度目は地面。
クロードは記録を加える。
『同じ条件――地面に落ちた』
同じようにしたからといって、同じ結果になるとは限らない。
そのことが分かっただけでも、試した意味はある。
むしろ昨日までより、気になることが増えた。
また休み、手や身体におかしなところがないことを確かめる。
三度目。
木も金属もそのまま。
距離も変えない。
雷が走り、今度は金属へ落ちた。
「また当たった」
『もう一度――金属に当たった』
クロードは三つの記録を順番に見た。
金属。
地面。
金属。
昨日は、同じくらい遠くしたときに地面だった。
遠いから金属に当たらない、というわけではなさそうだ。
だからといって、金属があれば必ずそこへ行くわけでもない。
まだ何かが足りない。
ガルディオに促されて休憩を取り、身体を確かめてから四度目の位置につく。
右手を前へ出す。
条件は変えない。
同じ木。
同じ金属。
同じ距離。
魔力も、できるだけ同じくらい。
雷が走った。
金属の横を外れ、地面へ落ちる。
クロードは目を細めた。
「……やっぱり、外れる」
金属に当たるときもある。
当たらないときもある。
その両方が、同じようにしたつもりの実験で起きている。
『同じ条件――地面に落ちた』
書き終えると、ガルディオが近づいてきた。
「手を見せろ」
クロードは素直に右手を差し出した。
ガルディオは手のひらから指先まで見たあと、いつものように尋ねる。
「痛みは」
「ない」
「痺れは」
「ない」
「熱は」
「大丈夫」
「他に変な感じは」
クロードは少し考えてから首を横に振った。
「ないよ」
「そうか」
ガルディオはそれ以上何も言わず、木と金属へ目を向けた。
クロードも四つの結果を見返した。
まだ、あと一回は試していい。
けれど今日は同じ条件で四度試して、金属に当たる場合と当たらない場合の両方を見ることができた。
もう一度やれば、また何か分かるかもしれない。
けれど一回増えただけで、すぐ答えが出るとも思えなかった。
「今日は、ここまでにする」
ガルディオがクロードを見る。
「いいのか」
「うん。今日は同じので何回か試せたから」
「分かった」
五回まで使えるからといって、五回使う必要はない。
クロードは道具を片づける前に、『雷の記録』を開いた。
今日の結果を順番に書き写していく。
『遠くした木と金属――金属に当たった』
『同じ条件――地面に落ちた』
『もう一度――金属に当たった』
『同じ条件――地面に落ちた』
そこまで書いてから、少し考える。
昨日までの結果も思い返した。
木と石を置いたとき、雷は地面へ落ちた。
木と金属を置いたときには、金属へ向かったことが何度もある。
けれど、今日のように金属へ向かわないこともある。
クロードは続きを書いた。
『金属には必ず当たらない』
『それでも、金属があると金属に当たることが何度もある』
金属そのものに何かがあるのか。
それとも、金属だけではなく、置かれている場所や周りの何かも関係しているのか。
まだ分からない。
ただ、雷がまったくでたらめに飛んでいるようには、少しずつ思えなくなっていた。
何かが違えば、行き先も変わる。
その何かを、自分はまだ見つけられていないだけなのかもしれない。
クロードは最後に一行を書き加えた。
『次は、金属の置き方を変えてみる』
狙ったところへ落ちない雷。
最初は、それが雷魔法の使いにくさなのだと思っていた。
けれど今は少し違う。
狙った場所ではなく、雷の方がどこかを選んでいるのだとしたら。
知りたいのは、どうすれば無理に当てられるかではない。
雷が何を選んでいるのか。
クロードは閉じた記録帳を手に、もう一度だけ地面に残った小さな跡を見た。
分からないことは、まだたくさんある。
だから明日も、また一つ試せる。




