同じ結果、違う結果
翌朝、クロードは机の上に開いた『雷の記録』を見つめていた。
昨日の最後に書いた一文が、最初に目に入る。
『次は、木と金属を同じ条件でもう一度試す』
木と金属を並べたとき、雷は金属に当たった。
石と金属に変えても、やはり金属に当たった。
二回続けて同じ結果が出たのは初めてだったが、それだけで金属が雷を引き寄せると決めることはできない。たまたま二回続いただけかもしれない。
だから今日は、昨日と同じ条件でもう一度試す。
クロードは記録を閉じると、ガルディオとともにいつもの場所へ向かった。
用意したのは昨日と同じ乾いた木と金属だった。置く位置も間隔もできるだけ昨日と同じにし、ガルディオが金属を置いてから十分に離れる。
クロードは二つの間へ手を向けた。
狙うのは、どちらでもない。
昨日と同じように、その間だ。
指で印を作り、魔力を流す。
ぱちん、と乾いた音がした。
白い光が走る。
雷は木には向かわず、金属へ当たった。
「……当たった」
クロードは思わず呟いた。
昨日と同じだった。
木と金属を置き、同じくらいの距離から同じように雷を使った。そして結果も同じだった。
これで三回。
金属があるとき、雷は三回続けて金属に当たった。
偶然ではない、と言いたくなる。
けれど、まだ三回だ。
クロードは金属を見つめながら、以前、乾いた枝までの距離を変えて試したときのことを思い出した。
雷は近くても遠くても枝には当たらなかった。だから距離が関係しているのかどうかは、まだ分からないままになっている。
もし金属が雷の行き先に関係しているなら、距離を変えても同じように金属へ向かうのだろうか。
「父上」
「なんだ」
「今度は、少し近くから試してもいいですか」
ガルディオは木と金属、それからクロードの立っている位置を順に見た。
「他は変えないのか」
「はい。距離だけ変えます」
「分かった」
ガルディオが金属に触れない位置まで下がる。
クロードは先ほどより前へ出た。
木と金属の位置はそのまま。
魔力量も、できるだけ変えない。
変えるのは距離だけだ。
もう一度、二つの間へ手を向ける。
印を作り、魔力を流した。
ぱちん。
雷が走った。
今度も、金属に当たった。
「また……」
クロードは金属を見る。
昨日は、木と金属を置いたときに金属へ当たり、石と金属に変えても同じだった。
そして今日、昨日と同じ木と金属で試しても金属に当たった。距離を近くした今も、やはり金属だった。
金属が雷の行き先に何か関係している。
その可能性は、昨日より高くなったように思える。
けれど、近くしたときにも当たっただけでは、距離が関係しているかどうかは分からない。
「父上。次は遠くしてみたいです」
「ああ」
ガルディオは短く答えたあと、クロードの手を見た。
「痛みは」
「ありません」
「痺れは」
「ないです」
「熱は」
「大丈夫です」
ガルディオは頷いた。
「少し休め」
「はい」
クロードはその場に腰を下ろした。
早く続きを試したい気持ちはある。
けれど、急ぐ必要はない。
結果は逃げない。
昨日、父に言われた言葉を思い出しながら、クロードは木と金属を眺めた。
近くても金属に当たった。
なら、遠くしたらどうなるのか。
同じように当たるなら、距離を変えても金属へ向かう可能性がある。
当たらなければ、それだけで距離が原因とは言えない。それでも、新しく考える材料にはなる。
十分に休んでから、クロードは立ち上がった。
今度は最初よりも後ろへ下がる。
木と金属は動かさない。
「ここからにします」
ガルディオが距離を確かめる。
「ああ」
クロードは二つの間へ手を向けた。
三回目。
印を作る。
魔力を流す。
ぱちん、と音がした。
白い光が走り――
地面に落ちた。
「……あれ?」
金属には当たらなかった。
木にも当たっていない。
雷が落ちた場所を見つめてから、クロードは金属へ視線を戻した。
これまでとは違う。
昨日から続けて、金属があるときには雷が四回続けて金属へ当たっていた。
けれど、今は当たらなかった。
金属があれば必ず当たるわけではないのか。
それとも、遠くしたことが関係しているのか。
二つの可能性が同時に浮かぶ。
今の一回だけでは、どちらなのか分からない。
もう一度、同じ距離から試したい。
さらに何度か繰り返せば、何か見えてくるかもしれない。
「父上、もう一回――」
「今日は三回だ」
言いかけたところで止められ、クロードは口を閉じた。
「……はい」
もっと試したい。
けれど三回までという約束で始めたのは自分だ。
クロードが木と金属を見つめていると、ガルディオが近づいてきた。
「手は」
「大丈夫です」
「痺れは」
「ありません」
「熱は」
「ないです」
「疲れは」
クロードは少し考えてから、自分の身体を確かめた。
「少しだけ疲れた気はします。でも、変な感じはありません」
ガルディオはクロードの顔と手をしばらく見てから頷いた。
「明日からは、五回までにする」
「五回?」
思わず聞き返した。
これまで父は、一日に三回までと言っていた。
「いいんですか」
「ああ。ただし、五回使えという意味ではない」
ガルディオはいつもの調子で続ける。
「雷を使ったあとの手や身体の状態、疲れ方も見ていた。最初は何が起こるか分からなかった。だから三回にした」
クロードは自分の手を見る。
父が見ていたのは、雷の行き先だけではなかった。
自分が雷を使うたび、痛みや痺れ、熱、疲れがないかを確かめていた。
自分が雷を調べている間、父は自分を見ていたのだ。
「今の使い方なら、少し増やしてもいいと判断した。ただし、一回ごとに休め。身体の状態も確認しろ」
「はい」
「痛みでも痺れでも熱でも、何かおかしいと思ったらその日は終わりだ」
「分かりました」
「五回使えるからといって、必ず五回使う必要もない」
三回という数字そのものが、安全だと最初から分かっていたわけではなかった。
何が起こるか分からないから少なく始め、様子を見ていた。
そして今までの結果を見て、父は少しだけ範囲を広げた。
それも、絶対に安全だと決まったわけではない。
今のところ大きな異常が見つかっていないから、次へ進んでみるだけだ。
「無茶をしないなら、試せることは試せばいい」
ガルディオが言った。
クロードは頷いた。
「はい」
◇
部屋へ戻ると、クロードはすぐに『雷の記録』を開いた。
今日の結果を順番に書いていく。
『昨日と同じ条件――金属に当たった』
『近くした――金属に当たった』
『遠くした――金属には当たらなかった』
その下に、少し考えてから続ける。
『金属が雷の行き先に関係している可能性は高くなった』
そして、もう一つ。
『金属には必ず当たるわけではないのか、距離が関係したのかは、まだ分からない』
クロードは最後の一文をしばらく見つめた。
遠くした一回だけでは足りない。
次に必要なのは、別の条件を増やすことではない。
同じ条件で、何度か繰り返すことだ。
明日からは最大で五回まで試せる。
だからといって、五つの違うことを試す必要はない。
むしろ増えた回数は、同じことを繰り返すために使った方がいい。
クロードは次の頁に書いた。
『次は、遠くした木と金属で、同じ条件を何度か試す』
筆を置く。
同じ結果が続いた。
条件を変えたら、違う結果が出た。
だからこそ、また確かめることが増えた。
分からないことは、まだ減りそうになかった。
けれどクロードには、それが少しも嫌ではなかった。




