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『異世界転生した製鉄所主任、雷魔法と鉱物生成で成り上がる ~未知の世界は面白いことだらけでした~』~幼少期・王立学園編~  作者: 黎明の星
王立学園編

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次の節目

朝の木剣を振り終えると、クロードは一度足を止めて呼吸を整えた。

踏み込んだ足を引き、もう一度構えを作ってみる。

《六環球》で最後の球を追った時も、足は動いていた。

それでも、届かなかった。

クロードは軽く首を振り、今は目の前の木剣へ意識を戻す。

もう一度振ってから木剣を下ろし、男子寮へ戻った。

それから朝食を済ませ、いつもの教室へ向かう。

廊下を歩く生徒たちの声も、教室で交わされる会話も、大会の前と変わらない。

4年代表との試合からいくつかの授業日が過ぎ、その間にも算術や世界史、魔法基礎の授業は続いていた。

魔法実習で失敗した日は夜にノートを見返し、剣術の授業で打たれた場所は次の稽古で確かめた。

ノーゼスもエクリアも、それぞれ自分の練習を続けている。

教室へ入ると、ノーゼスが開いた教本に顔を近づけていた。

「おはよう、ノーゼス」

「おう、おはよう」

返事はしたものの、ノーゼスの目は頁から離れない。

「何見てるの?」

「昨日の算術」

「分からなかったところ?」

「昨日は分かったと思ったんだけどな」

ノーゼスが顔を上げ、教本の一行を指した。

「今朝見たら、途中の数字がどうしてこうなったのか思い出せねえ」

「途中、書いてないからじゃない?」

クロードが覗き込むと、ノーゼスは自分のノートを見た。

「……本当だ」

「そこ飛ばしたら、あとで困るよ」

「分かってるよ、今困ってるんだから」

二人が笑っているところへエクリアが来た。

「朝から楽しそうね」

「ノーゼスが自分の書いた数字を忘れてたんだ」

「忘れたんじゃねえって、途中を飛ばしただけだ」

「それ、余計に駄目じゃない?」

エクリアが言うと、ノーゼスは教本を閉じかけて、また開き直した。

「あとでちゃんと書き直す」

「今のうちにやれば?」

「もう先生来るだろ」

その言葉どおり、教室の扉が開いた。

ゼルトスが入ってくると、あちこちで続いていた会話が少しずつ収まる。

「さて、諸君」

ゼルトスは教卓に手を置き、生徒たちを見渡した。

「後期も残り少なくなってきたね」

ノーゼスが開きかけのノートから顔を上げる。

「間もなく進級テストだ」

教室のあちこちで小さな声が上がった。

試験そのものは初めてではない。

それでも、いよいよ近づいたと聞けば気になるものだった。

「これまでの授業で扱ったことを、今のうちに見直しておくように」

ゼルトスは少し笑う。

「前の日だけ急に頑張っても、時間が増えるわけではないからね」

「先生、それは分かってますよ」

ガレスの声に、ゼルトスが目を向けた。

「そうか、ガレス君」

「分かってるなら結構だ」

教室に笑いが起こる。

ガレスも笑いながら肩をすくめた。

ゼルトスは話を続け、連絡を終えると次の授業へ備えるよう促した。

休み時間になると、ノーゼスが椅子にもたれた。

「進級テストかあ」

「毎年あるでしょ」

エクリアが返す。

「そうなんだけど、終わったらもう4年生だろ」

「受かればね」

「そこは受かるつもりでいるよ!」

クロードは二人を見て笑った。

「3年生になったばかりだと思ってたのに、早いね」

「やること多かったからな」

ノーゼスが言う。

「魔法も剣も、外にも行ったし」

「外では思ってたのと違うことばっかりだったわね」

エクリアが言うと、クロードも頷いた。

その時、少し離れたところからザナトスが顔を向ける。

「おいクロード、実技でも負けねえからな!」

「まだ何をやるか聞いてないよ!」

クロードが返す。

「何でもいいだろ、やるなら勝ちたいし!」

「試験を勝負にするのはあんたくらいよ」

エクリアが呆れると、ザナトスは笑った。

「そういうお前だって負けたくないだろ?」

「それはそうだけど」

「ほらな!」

横でノーゼスが吹き出した。

「そういやザナトス、筆記はどうすんだ?」

「そっちもやるに決まってるだろ!」

「聞いただけだって!」

話している間に次の授業の準備が始まり、クロードたちも教本を机へ出した。


◇


それから次の魔法実習の日、クロードは左右を土壁で区切られた練習場所に立っていた。

正面の的を確かめ、右手を上げる。

少し離れたところでジャルダンが見守り、リセナは手元の一覧とクロードの《印》を見比べていた。

「始めます」

「ああ」

クロードは普段どおりの速さで《サンダーランス》の《印》を組んだ。

指を一つずつ動かしながら魔力を流すと、青白い雷が手元から細長く伸びていく。

先端までまとまるのを待ち、もう一度形を確かめた。

今日は崩れていない。

「《サンダーランス》!」

雷が的へ走り、正面で青白い光を散らした。

クロードは右手を下ろす。

「当たった」

「今のは形も保てていたな」

ジャルダンが言う。

「はい。でも、もう少し早く出来たらと思って」

「何を早くする?」

「最初から、放つまでです」

クロードは自分の指を見た。

「《印》は変えずに、動かす速さを少し上げてみたいです」

ジャルダンは的と土壁を見てから頷いた。

「少し休んでからやってみろ。崩れたら無理に放つな」

「はい」

クロードは水を飲み、呼吸を整えてからもう一度右手を上げた。

同じ《印》を組む。

さっきより指を速く動かすと、雷が伸び始めるところまでは変わらなかった。

しかし、先端がまとまりきる前に揺れ始めた。

「あっ」

横へ細い雷がほどける。

クロードは形成を止め、手元に残った雷も消した。

「また先だ」

「放つ前に止められたな」

ジャルダンが言うと、クロードは頷いた。

リセナが一覧を見ながら口を開く。

「途中の指の動きが、さっきより速くなっています」

「それは速くしたつもりです」

「はい。ただ、形が揺れたところで魔力の変化も見えました」

クロードは自分の手を見つめる。

「どっちが先だったんだろう」

「今の一度だけでは決められません」

リセナが答えた。

ジャルダンも急いで次を指示せず、クロードの返事を待っている。

「……次は、いつもの速さでもう一度やります」

「ああ。違いを確かめてみろ」

クロードはノートを開き、さっきの二回を別々に書いた。

的へ届いたこと。

速く組んだ時には先端が崩れ、放つ前に止めたこと。

失敗した回だけでなく、うまくいった回も残しておきたかった。

少し離れたところでは、エクリアが《ウォーターボール》を的へ放っていた。

水が弾けると、続けて《ウィンドボール》の《印》へ入る。

風の球も的へ届いたが、エクリアはそのあとで手を止めた。

「今のは少し遅かったわね」

次は風から水へ切り替える。

手順そのものは覚えているのに、指が迷う時と迷わない時があった。

水の球を放ったあと、エクリアは教本を開いてから、いつもと反対の手を上げる。

今度は魔力を使わずに《印》だけをなぞった。

途中まで進んだところで指が止まる。

「……ここ、まだ引っ掛かるのよね」

教本を見直し、同じところをもう一度始めた。

二つの属性を切り替える練習も、反対の手で《印》を組む練習も、どちらか片方をやめるつもりはなかった。

少し離れたところでは、ノーゼスが《ロックウォール》の前に立っていた。

さっき作った壁は高さも厚みも揃っていたが、次に横幅を広げると端の形が少し乱れた。

「広げると、またこっちか」

ノーゼスは端を覗き込み、手元の記録と比べる。

「同じつもりでやっても、全部同じにはならねえな」

隣の区画から戻ってきたクロードが声を掛けた。

「どうだった?」

「狭い方はいい感じ。広げたら端が薄くなった」

「僕も早くしたら崩れたよ」

「そっちもか」

ノーゼスは笑って壁へ向き直る。

「じゃあもう一回だな」

「うん」

少し離れたところから、エクリアの声がした。

「二人とも、休むのも忘れないでよ!」

「エクリアこそ!」

ノーゼスが返すと、向こうから短い笑い声が聞こえた。


◇


別の戦闘実践の日には、第2運動場でグレイン班とセリアナ班が向かい合っていた。

結界に囲まれた区画の外では、ラディス班の生徒たちが演習の様子を見る準備をしている。

クロードたち6人は防具を着け、木剣を持ってそれぞれの位置についた。

「今日はどこから来るかな」

ピアが向こうの6人を見る。

「あいつらもこっち見てるだろうな」

ガレスが答えると、ベンが木剣を握り直した。

「動く時は声、聞こえるようにしよう」

「分かった!」

ガレスが返事をし、クロードたちも頷く。

開始の合図とともに、向こうからタンガが走り込んできた。

「行くぞ!」

「こっちもだ!」

ガレスが前へ出て、タンガの木剣を受ける。

その横ではミナが《ウォーターボール》の《印》を組み始めていた。

「水来る!」

ピアの声に、クロードは進もうとした足を止める。

水の球がその先を通り、クロードは横へ動いて避けた。

「ノーゼス、右からも来る!」

ベンが呼ぶ。

ノーゼスが振り向くと、レクシアが木剣を構えて近づいていた。

「見えてる!」

ノーゼスは《印》へ入ろうとした手を下ろし、木剣を構え直す。

レクシアが踏み込み、ノーゼスは受けながら横へ動いた。

すぐにピアが水魔法を使える位置へ移る。

「水、いくよ!」

クロードとベンが進路を空けると、ピアの《ウォーターボール》がレクシアの前へ飛んだ。

レクシアは下がって避け、その間にノーゼスが距離を取る。

「助かった!」

「まだ来るよ!」

ピアの声にクロードも向きを変えた。

今度はリーゼが風魔法を使おうとしている。

その近くにはエクリアがいたが、エクリアの前にはミズーも回り込んでいた。

「エクリア、そっち二人!」

クロードが呼ぶ。

「分かってる!」

エクリアは木剣を構えたまま一歩下がり、ミズーの動きを見た。

クロードが近づこうとすると、反対側からナーンが木剣を持って入ってくる。

「クロード、前!」

ベンの声で、クロードは木剣を上げた。

ナーンの一撃を受け、足をずらして向きを変える。

その間にベンがエクリアの近くまで移り、リーゼの進路へ出た。

「こっちは僕が見る!」

「助かるわ!」

エクリアが答え、ミズーと向かい合い直す。

クロードがナーンの木剣を受けていると、隣をガレスが通った。

「クロード、替わるぞ!」

「うん!」

ガレスがナーンの前へ出る。

クロードは無理に居座らず、空いた方へ動いた。

木剣を握っていた手に少し汗を感じる。

さっきまで相手をしていたタンガは、もうピアの方へ走っていた。

「ピア、後ろ!」

クロードが叫ぶ。

ピアが向きを変え、タンガの木剣を受ける。

クロードがそちらへ向かおうとしたところで、今度はセリアナの声が響いた。

「そこまで!」

両班が足を止め、それぞれ木剣を下ろした。

クロードは肩で息をしながら周囲を見渡した。

一度自分の前から離れた相手も、別の場所で誰かと向き合っていた。

「さっき、ナーンを替わってくれてありがとう」

クロードが言うと、ガレスは首を振った。

「俺もあっちが空いたから行っただけだよ」

「でも、僕はピアの方を見られた」

「じゃあよかったな!」

少し離れたところで、ノーゼスがレクシアと話している。

「あそこで壁を出そうかと思ったんだけどさ」

「出されてたら、こっちは回ってたと思うよ」

レクシアが答え、ノーゼスは笑った。

「だよな。だから木剣にした」

グレインは班の全員が戻ってきたところで、短く声を掛けた。

「動きながら、仲間の声は聞こえたか?」

「聞こえた時も、間に合わなかった時もありました」

ベンが答える。

「じゃあ、間に合わなかった時はどこにいたか、あとで確かめておけ」

「はい」

休憩を挟んだあとの演習では、今度はさっきと同じ場所に相手がいなかった。

クロードも何度か仲間と前後を入れ替え、そのたびに別の相手へ木剣を向けた。

最後の鐘が鳴った時には、6人ともすっかり息が上がっていた。

グレインの声に従い、クロードたちは木剣と防具を片付けた。


◇


進級テストが近づくにつれ、授業のあとに教本を開く生徒が少しずつ増えていった。

もちろん、休み時間になるたびに試験の話ばかりしているわけではない。

ガレスとザナトスが廊下で何か言い合って笑っている日もあれば、教室の隅でレクシアとミナがノートを見比べている日もあった。

クロードも授業を受け、朝の木剣を続け、魔法演習場で《印》を確かめる日を重ねた。

《サンダーランス》と並行して、左手で《サンダーボール》の《印》を組む練習も続けていた。

ある日の最後の授業が終わったあと、ノーゼスが机の上にノートを広げた。

「なあ、これ見てくれ」

教室を出ようとしていたクロードが足を止める。

「どうしたの?」

「前に作った壁の記録なんだけど、今と比べると結構違うんだ」

エクリアも荷物を持ったまま戻ってくる。

「どこ?」

ノーゼスが古い頁を開いた。

壁を横へ広げた時の大きさと、端の厚みについての書き込みが並んでいる。

「この頃、真ん中ばっかり見てて端が薄くなってたんだよ」

「今もたまになるって言ってたじゃない」

「なるけど、前よりどこが薄いか分かるようになった」

ノーゼスは新しい頁も開いた。

「ほら、こっちは端まで書いてあるだろ」

クロードは二つの頁を見比べる。

「本当だ」

「書くことが増えたのね」

エクリアが言うと、ノーゼスが笑った。

「失敗も増えたけどな」

「私のだってそうよ」

エクリアは自分のノートを出した。

水から風へ切り替えた時に止まったところや、反対の手の《印》で迷った場所が書かれている。

「まだ最後まで出来ないところもあるの」

「でも、最初より進んでるんでしょ?」

クロードが聞く。

「少しね。水と風の切り替えだって、前より早く出来る時はあるわ」

エクリアはノートを閉じかけて、クロードの方を見た。

「クロードは?」

「僕?」

クロードも鞄からノートを取り出した。

《サンダーランス》の頁には、的へ届いた時のことも、途中で形が崩れた時のことも書いてある。

「最初は《印》を最後まで組むのも難しかったんだ」

「今は的へ届くもんな」

ノーゼスが言う。

「でも、届かない時もあるよ」

クロードは失敗した時の行を指した。

「もっと早く作ろうとして、崩れたこともあるし」

「じゃあ、まだやることいっぱいじゃない」

エクリアが言うと、クロードは笑った。

「うん。そうなんだよ」

ノーゼスは自分のノートを閉じ、少し背もたれに寄りかかった。

「もう3年生が終わるってのに、結局まだ出来ないことばっかりだな」

「3年生になった時も、同じこと言ってなかった?」

エクリアが返す。

「そうだっけ?」

「言ってたと思うよ」

クロードも笑う。

「でも、その時には出来なかったことが、今は出来るようになってるよ」

ノーゼスは少し考えてから頷いた。

「まあ、そうだな」

「進級テストも、まず今までやってきたことを確かめるしかないわね」

エクリアがノートを鞄へしまう。

「まだ始まってもいないんだから」

「分かってるって!」

ノーゼスも慌てて教本を閉じた。

クロードは最後に《サンダーランス》の記録を見てから、ノートをしまった。

出来たことも、まだ出来ないことも、同じ頁に残っている。

次に練習したら、また新しい行が増えるだろう。

「行こうか」

クロードが立ち上がると、ノーゼスとエクリアも鞄を持ち直した。

廊下には、先に教室を出た生徒たちの声が響いている。

3人はいつものように話しながら、その中へ歩き出した。

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