ひとつ上
学年予選を勝ち抜いた後も、クロードたちの授業は普段どおりに続いていた。
教室で教本を開き、魔法実習では思いどおりにならない《印》や魔力と向き合い、放課後には自分の練習をする。
《六環球》で学年代表になったからといって、それまでの課題がなくなるわけではなかった。
そんなある日、一日の授業が終わったところでゼルトスが教室へ入ってきた。
「さて、諸君」
帰り支度を始めていた生徒たちが顔を上げる。
「5年生の学年代表も決まったそうだね」
「おっ!」
ザナトスが反応した。
ゼルトスは少し笑ってから続ける。
「これで5学年の代表が揃ったことになる」
「ということは、くじ引きですか?」
カイルが尋ねた。
「そのとおりだ」
ゼルトスは教室を見渡した。
「代表の8人は、このあと共用校舎の講堂へ向かってくれたまえ」
「はい!」
何人かの返事が重なる。
クロードも教本を鞄へ入れながら、隣のノーゼスを見た。
「いよいよだね」
「今度はどこと当たるんだろうな」
「まだ分からないよ」
「分かってるって」
ノーゼスが笑う。
少し離れたところでは、ガレスがザナトスへ声を掛けていた。
「強いところ引いてこいよ!」
「どこだって勝ってやるよ!」
「くじに強いも弱いもないでしょ」
エクリアが言うと、ザナトスは振り返った。
「相手の話だよ!」
「まだ決まってないじゃない」
「だから、どこでもいいって話だ!」
教室に笑い声が広がる。
クロードも笑いながら鞄を持ち上げた。
「決まったら教えてくれよ」
ノーゼスが言う。
「うん、もちろん」
「俺たちも応援するからな!」
ガレスも手を上げた。
「ありがとう!」
クロードは仲間たちに手を振り、代表の7人と一緒に教室を出た。
◇
共用校舎の講堂には、すでにほかの学年の代表たちが集まっていた。
クロードたちが入ると、近くにいた生徒が少し場所を空けてくれる。
見覚えのない顔が多かった。
1年生や2年生と思われる生徒たちの向こうには、自分たちより少し大きな生徒もいる。
さらに奥には5年生の代表が並んでいた。
「結構いるな」
タンガが周りを見回す。
「各学年8人だからね」
カイルが答えた。
「俺たちも入れて40人か」
ザナトスが数えるように視線を動かす。
その時、講堂の前方から大きな声が響いた。
「よし、全員集まったな!」
ワズカーが立っている。
その前には見覚えのある箱と、番号の書かれた板が用意されていた。
クロードは箱を見て、少し笑った。
以前もあそこから札を引いたのだった。
「これから《六環球》学園大会の組み合わせを決める!」
ワズカーが5つの代表を見回す。
「5年代表は決勝からだ!」
「残る1年から4年までがくじを引き、1回戦の相手を決める!」
クロードたちも頷いた。
1番と2番が対戦し、3番と4番が対戦する。
その勝者同士が次に戦い、さらに勝ち残った組が5年代表と決勝を行う。
「各学年、くじを引く者を1人決めろ!」
ワズカーの声で、クロードたちも互いの顔を見た。
「誰が行く?」
カイルが尋ねる。
「俺が行ってもいいぞ!」
ザナトスがすぐに答えた。
「じゃあお願いしようか」
クロードが言うと、ザナトスは少し考えるように箱を見た。
「……いや、カイルが引けよ!」
「僕?」
「お前が最初に聞いただろ!」
「それは関係ないと思うけど」
カイルが笑った。
「別にいいよ」
「決まりね」
エクリアが頷く。
カイルは代表の列から前へ出た。
ほかの学年も、それぞれ1人ずつが箱の近くへ向かっている。
「では、1年代表からだ!」
ワズカーに促され、最初の生徒が札を引く。
「1番!」
ワズカーが番号を読み上げ、板の最初の枠へ1年代表を入れた。
次に2年代表が引いたのは2番だった。
これで1回戦の最初の組み合わせが決まる。
「続いて3年!」
カイルが箱へ手を入れた。
取り出した札を開く。
「3番です」
「よし、3年代表は3番!」
ワズカーが板へ書き込む。
残ったのは4番だけだった。
4年代表の生徒が札を引き、ワズカーへ渡す。
「4年代表、4番!」
クロードは板を見た。
3番と4番が並んでいる。
「決まりだ!」
ワズカーが声を張り上げた。
「1回戦、第1試合は1年代表対2年代表!」
「第2試合は3年代表対4年代表だ!」
「おおっ!」
ザナトスが大きな声を上げた。
「また4年生か!」
クロードも思わず4年代表の方へ目を向けた。
1年生の時、本戦で対戦したのも4年生だった。
あの時は3点を取ったものの、相手に6点を取られて敗れている。
けれど、目の前に並んでいるのは当時の4年生たちではない。
あの人たちはすでに学園を卒業していた。
「どうした、クロード!」
ザナトスが肩を並べてくる。
「4年って聞いて怖くなったか?」
「ううん」
クロードは首を振った。
「前も4年生だったなって思ったんだ」
「そうだろ!」
ザナトスが笑う。
「今度は勝とうぜ!」
「うん、勝ちたいね!」
「そこは勝つって言えよ!」
「相手も勝つつもりだと思うよ」
「当たり前だろ!」
二人が話していると、カイルが戻ってきた。
「4年生になっちゃったね」
「いいじゃねえか!」
ザナトスは嬉しそうだった。
「お前が引いたんだぞ!」
「僕が選んだわけじゃないよ」
カイルが苦笑する。
その横でレクシアが4年代表の方を見ていた。
「でも、どんな人たちなのか気になるね」
「学年予選は見てないものね」
エクリアが答えた。
「名前もまだ分からないし」
ミナも小さく頷く。
クロードはもう一度、4年生たちへ目を向けた。
同じ制服を着ていても、こちらのことをどこまで知っているのか分からない。
向こうからも、何人かがクロードたちの方を見ている。
やがて抽選が終わり、ワズカーが明日の本戦について簡単に説明を始めた。
クロードはその声を聞きながら、4年代表の並んでいた場所を覚えていた。
講堂を出る頃には、ザナトスがまた口を開いた。
「明日は俺が先に点を取るからな!」
「まだ始まってもないのに」
エクリアが笑う。
「先に言っとくんだよ!」
「私は、ちゃんと守れる方がいいかな」
レクシアが言った。
「学年予選でも、結構取られたものね」
「それはそうだな」
カイルが頷く。
「取られなければ、こっちが入れた点も残るし」
「じゃあ両方だ!」
ザナトスが言う。
「取らせないで、こっちは取る!」
「それができればいいんだけどね」
クロードが笑うと、ザナトスも笑った。
明日戦う4年生がどんな動きをするのかは、まだ分からない。
けれど、分からないからこそ早く見てみたかった。
◇
翌日、第2運動場には本戦用のコートが用意されていた。
6角形の周囲に6つの門が並び、中央には球が置かれている。
すでに第1試合が終わり、次の試合へ向けた準備が進んでいた。
クロードたち8人がコートの近くへ向かうと、少し離れたところから声が聞こえた。
「クロード!」
振り返ると、ノーゼスが手を振っていた。
その隣にはガレスやベンの姿もある。
「今度は勝てよ!」
ガレスが声を張り上げる。
「頑張るよ!」
クロードが返すと、ノーゼスが笑った。
「ザナトス、最初から飛ばしすぎるなよ!」
「うるせえ!」
ザナトスがすぐに返した。
「ちゃんと見てろよ!」
「見てるって!」
二人の声に、近くの生徒たちも笑っている。
「代表は準備しろ!」
ワズカーの声が響いた。
クロードはノーゼスたちへ手を振り、仲間のところへ戻った。
向かい側では4年代表の8人が集まっている。
そのうちの1人が、少し離れた生徒へ声を掛けた。
「ルーシャナ、そっちは大丈夫か?」
「うん。カゼリオも準備できた?」
「ああ」
クロードは声のした方を見る。
カゼリオと呼ばれた生徒が、ほかの仲間へ頷いていた。
その横ではグリッツという名前も聞こえる。
4年生たちも、自分たちと同じように試合の準備をしているだけだった。
「クロード、行こう!」
カイルに呼ばれ、クロードもコートへ向かった。
最初に出るのはクロード、エクリア、ザナトス、カイル、ミナ、レクシアの6人。
タンガとピアは外から見守る。
「先に点を取ってきてよ!」
タンガが声を掛けた。
「取ってくる!」
ザナトスが答える。
ピアは笑いながら手を振った。
「私たちも出るかもしれないんだから、ちゃんと見てるね!」
クロードは頷き、中央の球を見た。
向かいには4年生の6人が立っている。
カゼリオとルーシャナのほかにも、グリッツやトレオスの名前が聞こえていた。
誰がどの門を狙うのかは、まだ分からない。
けれど、考えている間にも試合は始まる。
「位置につけ!」
ワズカーの声に、12人が構えた。
「始め!」
中央へ駆け出したカゼリオが、クロードより一足先に球を拾った。
「ルーシャナ!」
すぐに球が横へ飛ぶ。
エクリアがそちらへ向きを変え、ルーシャナの前へ入った。
ルーシャナは2歩進んだところで足を止める。
「グリッツ!」
球が中央寄りへ戻された。
グリッツが受け取って門を向いた時には、ミナがすでに守る位置へ入っていた。
グリッツは投げず、さらに横へ動こうとする。
そこへクロードが手を伸ばした。
「あっ!」
球が指先に当たり、地面へ落ちる。
「取った!」
レクシアが先に拾い上げた。
グリッツがすぐに追ってくるが、レクシアは球を持ったまま進まず、カイルへ渡した。
「ザナトス!」
カイルから球が飛ぶ。
ザナトスが受け取り、空いている門へ向かって走った。
その進路へ、トレオスが回り込む。
「こっちは通さないぞ!」
「だったら!」
ザナトスは足を止め、後ろから近づいていたエクリアへ球を戻した。
エクリアが受け取った時には、ルーシャナがすぐ近くまで戻っている。
門は見えていた。
けれど、その前をルーシャナが塞ごうとしている。
エクリアは無理に投げなかった。
「ミナ!」
球が反対へ送られる。
ミナは受け取ると、向きを変えて別の門を狙った。
その前へグリッツが走り込む。
「そっちは!」
グリッツの手が伸びる。
ミナは投げるのをやめ、レクシアへ返した。
けれどレクシアが受け取る直前、カゼリオが横から手を伸ばした。
球が弾かれる。
「あっ!」
クロードが追おうとしたが、先に拾ったのはカゼリオだった。
「トレオス!」
今度は4年生の球が反対側へ動く。
クロードはすぐに向きを変え、トレオスの進路へ入った。
トレオスが止まる。
しかし、その後ろをルーシャナが走っていた。
「ルーシャナ!」
トレオスが球を渡す。
エクリアが追いかけるが、ルーシャナは受け取ったまま大きく進もうとしなかった。
1歩だけ横へずれ、近づいてきたエクリアを見て腕を振る。
球が別の門へ飛んだ。
「グリッツ!」
さっきミナに進路を塞がれていたグリッツが、今度は門の近くへ入り直している。
クロードが振り返った時には、球がグリッツの手へ届いていた。
そのまま腕が振られる。
球が門を抜けた。
「1点!」
4年代表が先制した。
「よし!」
カゼリオが声を上げ、グリッツも笑って手を上げた。
クロードは球の通った門を見た。
一度はレクシアが拾い、自分たちで攻めるところまで進めた。
それでも球を奪い返され、別の門へ運ばれている。
「クロード!」
ザナトスが呼んだ。
「次だ、次!」
「うん!」
クロードは中央へ戻った。
エクリアも隣を通りながら、グリッツの方を見ている。
「私があっちへ寄った後だったわ」
「僕もトレオスの方を見てたよ」
「次はどうする?」
カイルが近づいてくる。
クロードは中央の球を見る。
「まず、取ろう!」
ザナトスが笑った。
「そういうことだ!」
「始め!」
再開の合図で、クロードが中央へ踏み込んだ。
カゼリオもほとんど同時に手を伸ばしたが、今度はクロードが先に球を拾った。
正面からカゼリオが近づいてくる。
クロードはそのまま進まず、少し右にいたカイルへ球を渡した。
「エクリア!」
カイルが声を掛ける。
エクリアは右へ動いたが、その前にはルーシャナがいた。
「こっちはいるよ!」
ルーシャナが腕を上げる。
カイルはエクリアへ投げず、中央寄りへ戻ってきたミナへ球を送った。
ミナが受け取る。
グリッツが近づいてきた。
「レクシア」
ミナは球を持ち続けず、すぐ横へ渡す。
レクシアは受け取って2歩進むが、トレオスがその前へ入った。
「ザナトス!」
レクシアが球を送る。
ザナトスは受け取ると、門へ向かって走った。
カゼリオがそちらへ振り向く。
クロードも同じ門の方へ走りかけたが、途中で足を止めた。
すぐ隣にはルーシャナがいる。
その向こうでは、エクリアが別の門へ走り始めていた。
「ザナトス、反対!」
クロードが声を掛ける。
ザナトスはすぐに顔を上げた。
カゼリオが目の前まで近づいている。
「エクリア!」
球が大きく横へ飛ぶ。
ルーシャナが追いかける。
エクリアは受け取ると、門の方へ向きを変えた。
ルーシャナが戻ってきたが、まだ門の前までは入れていない。
エクリアが腕を振る。
球は横木の下を抜けた。
「1点!」
「やった!」
クロードが手を叩く。
エクリアも嬉しそうに笑った。
「今の、よく見えたわね」
「エクリアが走ったのが見えたんだ!」
「俺も見えたぞ!」
ザナトスが胸を張る。
「クロードに言われる前に渡そうと思ってた!」
「そうなの?」
「そうだよ!」
カイルが笑いながら近づいてきた。
「とにかく追いついたね」
「うん!」
1対1。
クロードは4年代表の方を見る。
カゼリオはグリッツと何かを話し、ルーシャナはさっきの門を一度振り返ってから位置を変えていた。
相手も、同じように次の球を考えているのだろう。
「続けるぞ!」
ワズカーの声が響く。
中央へ球が戻された。
今度は4年生の方が先に動いた。
カゼリオが球へ走り、クロードもその前へ踏み込む。
すぐ横からグリッツが近づいていた。
球を拾ったカゼリオは、さっきと同じ場所へは渡さなかった。
「グリッツ!」
クロードが腕を伸ばす。
けれど球はその少し上を通った。
グリッツが受け取る。
レクシアがすぐに進路へ入った。
「そっちは通さないよ!」
グリッツは足を止めるが、後ろにはもうルーシャナが来ている。
「戻す!」
球が動いた。
クロードはその行方を見るより先に、ルーシャナが向こうの門へ身体を向けていることに気づいた。
「エクリア、そっち!」
「分かった!」
エクリアが走り出す。
ルーシャナの前へ入った時、今度は向こうも投げるのをやめた。
球がもう一度中央へ戻される。
クロードは走る方向を変えた。
ザナトスも少し離れたところから、同じ球を追っている。
今のところ、どちらも簡単には門へ近づけていない。
それでも、足を止める理由はなかった。
クロードは次に球が渡る場所へ向かって駆け出した。




