拾った先
クロードが周りの5人へ目を向けると、ベンは少し右へ寄り、ガレスは中央の球を見て足を動かしていた。
向かいではタンガとミズーが並び、リーゼはコートの端から中央をうかがっている。
ワズカーが手を下ろした。
「始め!」
中央へ走ったガレスとタンガの間から、ノーゼスが先に球を拾った。
「取った!」
ノーゼスはすぐベンへ渡す。
ベンが横へ動くと、レクシアが進む先へ入った。
「ピア!」
ベンの球を受けようとしたピアの前へ、ミズーが手を伸ばした。
球は指先にかすり、ピアの手を抜けて地面へ落ちる。
「あっ!」
ピアが取り直そうとした時には、ミズーがもう身を低くしていた。
転がった球を拾い、身体を起こしながら自分が狙える門へ向きを変える。
ベンが追いかける。
「ミズー、前!」
セリアナ班から声が飛んだ。
ミズーは走り続けず、2歩進んだところで球を投げた。
追いつこうとしたベンの腕の先を球が通る。
「1点!」
ザナトスの声が響いた。
セリアナ班が3点目を取った。
「くそっ、触れたのに!」
ピアが自分の手を見ると、ミズーも近くで息を整えながら笑った。
「私も、ちゃんと取れたかぎりぎりだったよ」
「今度は落とさないからね」
「私も取るよ」
二人が中央へ戻る横を、クロードも走っていく。
さっきの球は、ピアのところまで届きそうだった。
けれどミズーは、その途中へちゃんと手を入れてきた。
「クロード、行くぞ!」
ガレスの声で顔を上げる。
中央の球はもう置き直されていた。
ワズカーが開始を告げる。
今度はノーゼスが拾い、すぐにエクリアへ渡した。
エクリアは右へ2歩進むが、ナーンが門の前へ先回りする。
「ベン!」
ベンが受け取って横を向くと、タンガがその先へ走った。
近い門には投げにくい。
ベンは球を抱えたまま一度止まり、後ろから来たピアへ渡した。
「こっち!」
ピアが球を受け取り、守りへ戻るミズーより先に門を狙った。
投げた球が柱へ当たる。
鈍い音がして、球はコートの内側へ跳ね返った。
「惜しい!」
ガレスが走る。
けれど先に手を伸ばしたのはレクシアだった。
球を拾ったレクシアは、ガレスが近づくとすぐナーンへ渡す。
「ミナ、行ける?」
ナーンの声に、ミナは返事をするより早く位置を変えた。
ピアが今度は守る側へ戻ろうとしている。
ナーンからミナへ球が飛ぶ。
ミナは受け取って3歩進むと、戻ってきたピアを見て腕を振った。
「待って!」
ピアが飛びつくように手を伸ばす。
球はその上を越え、門の横木の下へ入った。
「1点!」
今度はランの判定が聞こえた。
2対4。
「続けて取られたな」
ノーゼスが額の汗を拭った。
「今の、俺も取りに行けたと思ったんだけど」
ガレスが少し悔しそうにレクシアの方を見る。
「レクシアの方が先だったわ」
エクリアが答えると、ガレスは口を曲げた。
「それは分かってるよ!」
クロードは笑いかけたが、中央へ戻る途中でピアが手首を回しているのに気づいた。
「大丈夫?」
「うん。さっきの球、もう少し低く投げたかったな」
ピアはそう言い、次の位置へ走った。
セリアナ班も門から離れ始めている。
ミズーがミナへ何か言うと、ミナは小さく頷き、先ほどとは別の場所へ移った。
「よし、始め!」
ワズカーの合図で、クロードは中央へ踏み込んだ。
タンガの手も伸びたが、今度はクロードが先に球へ触れる。
そのまま持ち上げようとすると、横から伸びてきた手に弾かれた。
球が地面を転がる。
「俺が取る!」
ガレスが拾って顔を上げると、正面にはレクシアがいた。
ガレスは横へ1歩進み、反対側のベンへ渡した。
ベンは球を受け取りながら、エクリアが自分の後ろを通っていくのを見た。
「エクリア!」
エクリアが振り向く。
球は胸元へ届いたが、すぐには投げられない。
リーゼが門の前へ戻り、タンガも横から近づいている。
エクリアはそこへ向かうのをやめ、ピアを呼んだ。
「ピア!」
「うん!」
ピアは球を受けると、さっき外した門を一瞬だけ見た。
ミズーが腕を上げて待っている。
ピアは2歩だけ横へ移り、足を止めてから球を構えた。
ミズーも向きを変える。
その動きが終わる前に、ピアの手から球が離れた。
門の内側を、球が真っすぐ抜ける。
「1点!」
ヤンナの声がした。
「入った!」
ピアは両手を握り、ベンが笑いながら近づいてきた。
「今のはきれいだったね」
「さっきのは曲がっちゃったから」
「その前だって惜しかったよ」
「惜しいだけじゃ点にならないでしょ」
エクリアが言うと、ピアも笑った。
「それもそうだね」
3対4。
まだセリアナ班が1点先にいる。
中央へ戻ったタンガは、一度肩を回してから球を見た。
「次は取るぞ!」
「俺もだ!」
ガレスが返す。
ワズカーの合図で、二人が再び走り出した。
今度はタンガが先に球を確保する。
少し外へ出たリーゼへ投げると、リーゼは受け取り損ねて手の中で球を滑らせた。
「わっ!」
球が足元へ落ちる。
ノーゼスが走り込むが、ナーンが横から手を伸ばした。
二人の指がほとんど同時に球へ触れ、もう一度転がった。
「そっち!」
ベンがクロードを呼ぶ。
クロードが拾おうとすると、今度はミナが先に膝を折っていた。
ミナは球をつかみ、すぐナーンへ渡した。
ナーンが門へ向かう。
その前にはエクリアが戻っている。
ナーンが投げようとしたところで、クロードが横から腕を伸ばした。
球が腕に当たり、向きが変わる。
「落ちた!」
エクリアが言い、クロードは転がった球を追った。
けれど、足を出した先にはタンガがいた。
クロードはぶつかる前に速度を落とす。
その一瞬に球を拾ったのはノーゼスだった。
「取ったぞ!」
ノーゼスは身体を起こしてすぐには進まず、近づいてくるレクシアを見て右へずれた。
「ガレス!」
投げた球がガレスへ届く。
ガレスは受け取り、開いている門へ向かって走った。
ミズーが追ってくる。
1歩、2歩と進むうちに、門の前へミズーが回り込んだ。
ガレスはそこで腕を下ろす。
「じゃあ、こっち!」
近くを走ってきたノーゼスへ渡した。
ノーゼスの前にもナーンが来ていたが、ナーンはまだ身体を向け直している途中だった。
ノーゼスは足を踏み直し、球を投げた。
「1点!」
トルトの声が響いた。
「よしっ!」
ガレスが大きく拳を握る。
ノーゼスは得点した門を見て、少し息を吐いた。
「危なかったな」
「ちゃんと入ったよ」
クロードが答えると、ノーゼスは笑った。
「そうだけどさ!」
これで4対4。
全員の動きが、さっきより少し重くなっていた。
中央へ戻る途中、ガレスが膝へ手をつく。
「結構走ってるな、これ」
「ずっと走ってるもの」
エクリアも息を整えながら答えた。
向こうではリーゼが頬にかかった髪を払い、ミズーは一度大きく息を吸っていた。
「まだ終わってないぞ!」
ワズカーの声が飛ぶ。
タンガがすぐに身体を起こした。
「分かってます!」
「よし、始め!」
中央へ飛び出したタンガが球を拾い、左へ動いた。
ノーゼスがすぐに追い、タンガは持った球をミズーへ渡す。
ミズーは受け取ると、前にいるベンを見て足を止めた。
ベンも近づきすぎず、門への道を塞ぐ。
「こっち空いてる!」
リーゼが横から呼ぶ。
ミズーはそちらへ顔を向けたが、クロードがもうリーゼの近くへ動いていた。
「ミナ!」
ミズーは球をミナへ出す。
ミナが受け取った時、ガレスはその前へ走り込んだ。
ミナは狙うのをやめ、ナーンへ球を渡す。
ナーンが向きを変える。
ピアが寄ったところで、ナーンはタンガへ球を出した。
「タンガ!」
「来た!」
タンガは受け取ると、門の手前へ1歩踏み込んだ。
ガレスが振り向き、そこへ戻ろうとする。
タンガはその足が止まる前に球を放った。
横から来たガレスの指が空を切る。
球が門へ通った。
「1点!」
カイルが宣告した。
「よし!」
タンガが声を上げる。
セリアナ班が5点目を取った。
「今の、早かったな」
ノーゼスが言う。
「こっちだって止まってたわけじゃないんだけどな」
ガレスは走ってきた方向を振り返った。
クロードもタンガを見た。
自分がリーゼの方へ動いたあと、ミズーはそちらへ投げなかった。
球が回っている間にタンガも場所を変えていた。
「まだ1点ある!」
ガレスが声を上げる。
「あるわよ。だから急がないで」
エクリアが返す。
「分かってるって!」
クロードは中央へ戻った。
次に取られれば、そこで試合は終わる。
けれど、自分たちもまだ球を取りに行ける。
ワズカーが手を上げる。
「始め!」
先に中央へ走ったのはノーゼスだった。
球を拾い、すぐ右へ動く。
ナーンが近づくと、ノーゼスはクロードへ渡した。
「クロード、いけるか!」
「うん!」
クロードは受け取り、前にある門を見た。
ミナがすでに近くまで戻っている。
反対へ向きを変えようとすると、そこにはレクシアがいた。
クロードは無理に進まず、後ろから来たベンへ球を投げた。
ベンが受け取って足を動かす。
けれどパスを出そうとした時、右手から球が少し滑った。
「あっ」
球が思ったより低く飛ぶ。
ガレスが屈んで手を伸ばすが、指先をかすめただけで地面へ落ちた。
「俺が取る!」
ガレスはすぐ拾い直そうとした。
ミズーも走り込んでいる。
二人の間で球が跳ね、少し横へ転がった。
「ピア!」
ガレスの声を聞いたピアが手を伸ばす。
けれど、球はさらに先へ転がっていた。
先に拾ったのはミズーだった。
ピアが引き返して追う。
ミズーは3歩進んで、前へ走り出したレクシアへ球を渡した。
「レクシア!」
レクシアが受け取ると、クロードはそちらへ走った。
けれどレクシアはすでに向きを変えていた。
近い門の前にはエクリアがいる。
レクシアはその門を見てから、もう一歩横へ動いた。
エクリアも身体を向け直す。
レクシアが球を投げる。
「っ!」
エクリアは手を伸ばしたが、球がその先を抜けた。
門の内側へ球が通る。
「1点!」
ザナトスの判定が響いた。
すぐにワズカーが手を上げる。
「そこまで!」
セリアナ班が6点目を取った。
グレイン班は4点で、第1試合が終わった。
「やった!」
タンガが両手を上げる。
ミズーとレクシアも近くへ寄り、ナーンが二人の肩越しに顔を覗かせた。
リーゼは息を切らしながら笑い、ミナも少し離れたところで嬉しそうに頷いている。
クロードは腕を下ろして大きく息を吐いた。
「負けちゃったね」
「あと2点だったのにな」
ノーゼスが返す。
エクリアは最後に球が通った門を見た。
「最後、間に合うと思ったんだけど」
「俺も、取れると思った」
ガレスが足元を見ながら言う。
ベンはまだ自分の右手を見ていた。
「ごめん、あの球」
「俺も拾えなかったし」
ガレスが顔を上げた。
「それに、その前に俺の球だって落ちてる」
ピアも二人を見て頷いた。
「私も外してるよ」
クロードは3人の方を見る。
「でも、ピアの点も入ったよ」
「それはそうだけど」
ピアが少し笑う。
「次は外した分も入れたいな」
「まだほかの試合もあるからな!」
ガレスが肩を回した。
その横をザナトスが審判の位置から戻ってきた。
「お前ら、負けたな!」
「見てたでしょ」
クロードが答えると、ザナトスは笑った。
「見てたよ。セリアナ班も結構やるじゃん」
タンガが振り向いた。
「結構ってなんだよ!」
「褒めてるんだよ!」
二人が笑い合う。
クロードは球が置かれていた中央を見る。
さっきまでは何度もあそこへ走り、取ったり取られたりしていた。
ベンもピアもガレスも、取れなかった球を追っていた。
相手も同じだった。
「全員、集まれ!」
ワズカーが呼ぶ。
18人がコートの外へ集まり始める。
まだ試合をしていないラディス班の6人も、それぞれの門から戻ってきた。
ザナトスは中央へ置き直された球を見て、口元を上げた。
「さあ、俺たちもやるぞ!」




