今年の代表
身体鍛錬の授業がある日、クロードたち18人が第2運動場へ出ると、そこには見覚えのある6角形のコートが用意されていた。
6つの辺には小さな門が1つずつ並び、中央には球が置かれている。
「あ、《六環球》だ」
クロードが言うと、隣のノーゼスも門を見回した。
「もうそんな時期か」
「毎年この時期だものね」
エクリアが答える。
少し前ではザナトスが腕を回しながら、コートの方へ歩こうとしていた。
「おい、まだ始まってないぞ」
カイルに言われると、ザナトスは振り返った。
「分かってるよ!」
「分かってるなら戻ってこいよ」
そのやり取りに何人かが笑ったところで、ワズカー・ニタカリマスが大きく手を打った。
「よし!」
「全員集まれ!」
18人がコートの前へ並ぶ。
ワズカーは球を片手に持ち上げ、全員の顔を見渡した。
「今年も《六環球》の学園大会が近づいてきた!」
分かっていたことでも、こうして言われると少し胸が騒ぐ。
クロードは6つの門を見た。
1年生の時には学年予選を勝ち抜き、4年魔法組と本戦で対戦した。
あの時は3点を取ったものの、相手に6点を先取されて負けている。
「去年は予選で終わったからな」
ノーゼスが言った。
「今年は違うだろ!」
ザナトスがすぐに返す。
「まだ始まってないじゃない」
エクリアの声に、ザナトスが笑った。
「だから今年こそって話だよ!」
ワズカーは球を中央へ戻した。
「大会へ出るのは、各組から代表6人と補欠2人だ!」
クロードは頷いた。
補欠でも選手交代で試合へ入れることは、すでに知っていた。
「代表を決めるため、今日はここで組内の選考を行う!」
ワズカーが18人を指した。
「6人ずつ3組!」
「2組が試合をして、残りの6人が審判だ!」
「組はどうするんですか?」
ガレスが尋ねた。
「今年は、お前たちが戦闘実践で組んでいる6人をそのまま使う!」
グレイン班、ラディス班、セリアナ班。
クロードが振り向くと、ノーゼスも同じことを考えたように笑った。
「結局、また一緒だな」
「そうだね」
「ただし!」
ワズカーの声が二人の会話へ割って入る。
「班が勝ったからといって、その6人だけを代表にするわけじゃない!」
ザナトスが顔を上げた。
「勝ってもですか?」
「そうだ!」
「球を持っていない時も見ている!」
「18人全員を正しく見る!」
エクリアは軽く頷き、向こうのセリアナ班へ目を向けた。
ミナやタンガは、1年生の時にも代表に選ばれている。
リーゼも当時はクロードと一緒に補欠だった。
けれど、あれから全員が同じままでいるわけではない。
「それから競技中の魔法とGiftは禁止だ!」
「木剣も使わん!」
「壁も出せないな」
ノーゼスが小声で言う。
「出したら反則でしょ」
エクリアがすぐに返した。
「分かってるって」
ワズカーは説明を続ける。
「球を持って進めるのは6歩まで!」
「相手が守る3つの門のどれかへ通せば1点!」
「先に6点を取った組の勝ちだ!」
6つの門は交互にそれぞれの組が守ることになる。
クロードはもう一度、向かい側だけではなく左右にもある門を数えた。
「押す、掴む、危険な当たり方をするのも禁止だぞ!」
「はい!」
「よし、最初はグレイン班とセリアナ班!」
ワズカーが告げると、クロードの近くでガレスが手を握った。
「おっ、俺たちからか!」
向こうのタンガもすぐに足を動かし始める。
「ラディス班は各門の審判へ回れ!」
ザナトスはクロードの前を通りながら笑った。
「最初から負けんなよ!」
「そっちもちゃんと判定してね」
「当たり前だろ!」
カイルたちもそれぞれ門の近くへ分かれ、ザナトスも自分の担当する門へ向かった。
クロードはグレイン班の5人とコートの端で集まった。
「さっきの戦闘実践とは違うね」
ベンが球を見ながら言う。
「木剣も魔法もないしな」
ガレスが頷く。
「でも、走って動くのは同じでしょ」
ピアが門の方を見る。
エクリアは向こうの6人を確かめながら口を開いた。
「最初から1つの門だけ狙っても、相手も動くわ」
「まず中へ入ってから見ようか」
クロードが言うと、ノーゼスが笑った。
「その前に球を取らないとな」
「それもそうだね」
6人が位置へつくと、向こうでもセリアナ班がそれぞれ散っていく。
タンガは中央寄りで足を軽く動かし、ミナは少し離れた門の前を見ていた。
リーゼがナーンへ短く何かを伝えると、ナーンも一度頷いて位置を変える。
ワズカーは両組が構えたのを確かめ、球を中央へ置いた。
「始め!」
クロードとタンガがほとんど同時に駆け出した。
先に球へ触れたのはタンガだった。
ガレスが前へ入ると、タンガは無理に進まず右へ球を渡した。
「ミズー!」
ミズーが受け取り、2歩進んで別の門へ向きを変える。
その前へベンが回り込んだ。
「こっちは通さないよ!」
ミズーはすぐに投げず、少し後ろにいるレクシアへ戻した。
レクシアが受け取ると、今度はクロードが近づく。
「あっち!」
リーゼの声が飛んだ。
クロードがそちらを見ると、リーゼが球を持たずに外側へ走っている。
ピアがそれを追い、ノーゼスも門の前へ寄ろうとした。
レクシアはリーゼへ投げる素振りを見せたが、すぐ反対を向いた。
「ミナ!」
球が中央寄りへ飛ぶ。
ミナは受け取ると、空いた門へ向けて素早く腕を振った。
「あっ!」
クロードが振り返るより早く、球が横木の下を抜けた。
「1点!」
門の近くに立っていたザナトスが声を上げる。
セリアナ班から歓声が上がった。
クロードは球が通った門と、外側へ走っていたリーゼを交互に見る。
リーゼの方へ二人が動いたぶん、ミナが狙った門へ戻るのが遅れた。
「いきなり取られたな」
ノーゼスが息を吐く。
「次、取り返しましょ」
エクリアはすぐ中央へ戻り、クロードもその後を追った。
再開すると、今度はクロードが先に球を拾った。
前にはタンガ、左にはレクシアがいる。
その間を抜けようとしたところで、タンガが身体を向け直した。
クロードは進むのをやめ、右にいたピアへ渡す。
「ピア!」
「うん!」
ピアは球を受けながら、すでに走り出していたガレスを見つけた。
「ガレス、外!」
ガレスが門の方へ走ると、ナーンがそちらへ寄った。
ピアは投げようとした球を手元へ戻す。
「じゃあ中央!」
今度はエクリアへ渡した。
ナーンはガレスを追うのをやめ、中央のエクリアを見て戻り始めた。
エクリアが球を持った時、ノーゼスは球を持たずに反対側へ走っていた。
その近くにいたミズーもすぐに後を追う。
「こっち来るのかよ!」
ノーゼスが声を上げながら進路を変えた。
ミズーもそちらへ向きを変える。
空いたところへベンが入った。
「エクリア、こっち!」
エクリアはベンへ球を出す。
ベンは受け取ると、目の前の門だけを見ず、左から近づくリーゼの位置を確かめた。
すぐには投げない。
リーゼが門を守ろうと身体を寄せた時、ベンは横のガレスへ球を戻した。
「今!」
ガレスが受け取り、走りながら腕を振る。
球は門の柱のすぐ脇を通りそうになったが、その内側へ入った。
「1点!」
審判をしていたヤンナが宣告する。
「入った!」
ガレスは思わず両手を上げた。
「やったな!」
ノーゼスが笑い、クロードも手を叩いた。
互いに1点ずつになった。
中央へ戻る途中、ベンがガレスへ声を掛ける。
「投げるところ、少し近かったね」
「ギリギリだったな!」
ガレスは自分が投げた門を振り返った。
次の球が中央へ戻される。
セリアナ班はすぐに散り、今度はナーンが先に中央へ出た。
「左!」
リーゼが声を掛ける。
ナーンが左へ渡すと、ミズーが球を受け取った。
クロードはミズーへ近づこうとしたが、タンガがその前を横切っていく。
タンガが向かった門の前にはピアしかいなかった。
「ピア、そっち行くよ!」
クロードが声を出す。
ピアが振り向くと、もうタンガが外へ回っていた。
ミズーはピアの動きを見ると、球を前へは出さずレクシアへ渡した。
今度はノーゼスがレクシアの前へ入る。
レクシアは門へ投げず、少し下がったミナへ球を戻す。
「右、空くよ」
ミナの小さな声が聞こえた。
すぐ隣にいたタンガが反応し、さっきの門を離れ、別の相手側の門へ走り出す。
「タンガ!」
リーゼが呼ぶ。
ミナからリーゼへ球が渡り、リーゼは一度タンガの方を見た。
エクリアもその視線へつられて向きを変える。
けれどリーゼはすぐにナーンへ渡した。
「こっち!」
ナーンが受け取り、守りへ戻ろうとしていたエクリアの横を通すように球を投げる。
球は門を抜けた。
「2点!」
セリアナ班がもう一度先へ出る。
「さっきも見てたのに」
クロードが呟くと、隣へ戻ってきたエクリアが首を振った。
「見てたのと、止められるのは別でしょ」
「うん、そうだね」
ノーゼスが次の球を見ながら口を開いた。
「俺たちも、もっと動こうぜ」
「動いてるよ!」
ガレスが返す。
「分かってるって!」
「違う方にも行こうってこと!」
ワズカーが中央の球を指した。
「次、始め!」
クロードは走り出しながら、今度は真っ先に球を追わなかった。
タンガが中央へ向かうのは見えていた。
その横からエクリアが球へ寄り、タンガより先に触れる。
「クロード、奥!」
エクリアの声でクロードは外側へ走った。
ミナがそちらへ寄ってくる。
クロードは立ち止まらず、門の前を通り過ぎて少し中央へ戻った。
ミナが進路を変えたところで、今度はピアが反対へ走り出す。
「ピア!」
クロードが呼ぶと、エクリアはそちらを見る。
けれどレクシアがもう動いていた。
「行くよ!」
エクリアは無理にピアへ渡さず、近くのノーゼスへ球を戻した。
ノーゼスは受け取って3歩進み、向かってきたナーンを見て向きを変えた。
「ベン!」
ベンが受け取ると、すぐ左にいたピアへ球を出す。
ピアは前の門へ投げようとして、ミズーが戻ってくるのに気づいた。
「じゃあこっち!」
反対側へ球を渡す。
そこには門の前へ入り直したクロードがいた。
クロードは受け取ると、そのまま球を投げた。
門の柱へ当たりそうになった球が、かろうじて内側へ通る。
「1点!」
クロードは足を止めて振り返った。
「あ、入った!」
「やったじゃん!」
ノーゼスが腕を上げる。
エクリアも少し離れたところで笑っていた。
これで2対2になった。
試合はまだ続く。
中央へ戻された球を見て、クロードは周りの5人へ目を向けた。
一緒に戦う相手は戦闘実践と同じでも、木剣の代わりに球を持つと、走る場所も動く速さも少しずつ違っていた。
向かい側のセリアナ班も、得点のたびに同じ場所へ戻るわけではない。
「次もそっちへ行くと思うなよ!」
タンガが笑いながら声を掛けてきた。
「うん、僕も同じ場所にはいないよ!」
クロードが答えると、ワズカーが大きく手を上げた。
「続けるぞ!」
「位置につけ!」
クロードは空いている門を一度だけ見てから、今度は球を持っていない仲間の方へ顔を向けた。




