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『異世界転生した製鉄所主任、雷魔法と鉱物生成で成り上がる ~未知の世界は面白いことだらけでした~』~幼少期・王立学園編~  作者: 黎明の星
王立学園編

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早くするには

次の魔法実習の日、クロードは左右を土壁で隔てられた区画に立っていた。

正面には固定された的があり、少し後ろではジャルダンが周囲を確かめている。

リセナも手元の資料を持ち、クロードの右手へ視線を向けていた。

クロードは一度息を吐いてから、《サンダーランス》の《印》を組み始める。

指を順番に動かし、いつものように魔力を流す。

青白い雷が手元へ現れ、前へ細長く伸び始めた。

今日は急いでいない。

《印》も途中で止まっていない。

魔力量も、これまで何度も試してきた範囲だった。

それでも先端が僅かに揺れた。

クロードはそのまま形を見る。

揺れが戻らない。

次の瞬間、先端から細い雷が一本だけ横へ跳ねた。

バヂッ。

青白い光が左側の土壁へ走り、表面で弾ける。

クロードはそれ以上の形成を止めた。

けれど、すでに手元へ現れている雷はそのまま残っている。

形がさらに崩れる前に、クロードは残った雷を消した。

静かになった右手を見る。

「急いでなかったんだけどな」

小さく呟く。

ジャルダンが土壁を一度見てからクロードを見る。

「今のはどこから崩れた?」

「先です」

クロードは自分の右手の前を指した。

「途中までは一つだったんですけど、先が揺れて、そこから横に出ました」

リセナも頷く。

「《印》は最後まで合っていました」

「魔力も大きく増えたようには見えませんでした」

クロードはもう一度土壁を見る。

急いでいなくても崩れた。

前にも同じことはあった。

《サンダーランス》を的まで飛ばせるようになったあとも、毎回同じ形になったわけではない。

「もう一回やります」

「ああ」

クロードは少し休んでから右手を上げた。

同じ《印》を組む。

魔力を流す。

青白い雷がまた前へ伸びていく。

今度は先端まで一つにまとまった。

クロードは形を確かめる。

すぐには放たない。

細く伸びた雷が崩れていないことを見てから、的へ向けた。

「《サンダーランス》!」

槍状の雷が手元を離れる。

正面へ走り、的へぶつかって青白い光が弾けた。

クロードは消えた光の先を見る。

「届いた」

ジャルダンが頷く。

「今のは最後まで保てたな」

「はい」

嬉しくないわけではない。

けれど、さっき横へ跳ねた雷も同じように自分が作ったものだった。

クロードは土壁と的を見比べる。

ここなら、崩れた時には形成を止められる。

手元へ残った雷を消して、もう一度最初からやり直すことも出来る。

左右には土壁がある。

周囲には先生もいる。

クロードの頭に、野外実習の光景が浮かんだ。

《グラスウルフ》が走った時。

一発目の《サンダーボール》は途中で地面へ落ちた。

そのあと魔物が向きを変え、エクリアもノーゼスも動いた。

今なら当てられると思った。

急いで《印》を組んだ。

形を整えきる前に使おうとして、雷がほどけた。

細く分かれた一本が横へ伸びた。

「痛っ!」

ノーゼスの声を思い出す。

地面へ落ちた一発目よりも、今でもそちらの方がはっきり残っていた。

魔物には当たらなかった。

代わりに、狙っていなかったノーゼスへ当たった。

あの時は、今のように止まってやり直す時間がなかった。

《グラスウルフ》は待ってくれない。

仲間も動いている。

自分もその中にいる。

クロードは右手を見る。

「……もっと早く作れたら」

ジャルダンが聞き取ったのか、クロードを見る。

「何をだ?」

「魔法です」

クロードは答えてから、少し考える。

「外だと、今みたいに崩れたから止めて、消して、もう一回ってやってる間にも相手が動きますよね」

「動くな」

「味方も動く」

「そうだな」

クロードは的へ目を戻す。

「だから、もっと早くちゃんと作れたらって思って」

ジャルダンはすぐに答えを返さなかった。

クロードも続きを考える。

ただ手を速く動かせばいいわけではない。

野外でそれをやって崩した。

しかも今は、急いでいなくても崩れることがある。

「でも、急いだら前みたいになります」

クロードが言う。

「今だって普通にやって崩れました」

「ああ」

ジャルダンの返事は短い。

「だから、どうしたら早く出来るのか分からないです」

クロードは自分の指を見る。

そこで、ずっと前に教本を開いていた時のことを思い出した。

《サンダーボール》を初めて習った頃。

前期に何度も練習した《丸くする》より、完成魔法の《印》はずっと短かった。

短く変えられた操作が、ほかの操作と一つにつながっている。

そして、熟練した魔法使いほど《印》を短く出来ると教わった。

クロードの指が止まる。

「《印》……」

リセナがクロードを見る。

「どうしました?」

「前に、《印》って短く出来るって習いました」

「はい」

「短く出来たら、魔法を作るのも早くなるのかな」

言ってから、すぐに別の記憶も出てきた。

必要な操作がなくなるわけではない。

短い時間でも崩さず出来るから、熟練した魔法使いは《印》を短く出来る。

昔の自分は、それを聞いて気になった。

けれどその時は、《丸くする》すら完成していなかった。

だからノートには、最後に一行だけ書いた。

『まずは《丸くする》』

クロードは少し笑う。

あの頃より出来ることは増えた。

《サンダーボール》も使える。

《サンダーアロー》も、《サンダーボム》も、《サンダーショック》も使えるようになった。

今は中級の《サンダーランス》を練習している。

けれど、普通に作っても崩れることがある。

「……今の僕が短くしたら、もっと崩れるかな」

独り言のように言う。

ジャルダンが答える。

「少なくとも、今ここで勝手に《印》を変えるのはやめておけ」

「はい」

クロードはすぐに頷いた。

試したいからと、その場で指を減らしていいものではない。

それは前にも教わっている。

ただ、気になったものまで消えたわけではなかった。

《印》を短くすること。

魔法をもっと早く作ること。

同じことなのかも、まだクロードには分からない。

「先生」

「なんだ?」

「今日は今の《印》で続けます」

「ああ」

「あとで調べてみます」

ジャルダンは少しだけ笑った。

「そうしろ」

クロードはもう一度右手を上げた。

短くすることは考えず、今覚えている《印》を最初から組む。

まずは目の前の雷を崩さず作る。

そこからだった。


◇


その日の放課後、クロードは図書館へ向かった。

大きな扉を開けると、高い本棚が並ぶ景色が広がっている。

ここへ調べ物に来るのは久しぶりだった。

以前なら、まず自分で棚を見て何冊も開いていたこともある。

けれど今は、探したいものが決まっているなら先に聞いた方が早いことを知っていた。

クロードは本棚へ向かわず、ムリヌ・ファルテスを探す。

ほどなくして図書館管理人の姿を見つけた。

「あの」

ムリヌがクロードを見る。

「本を探してるんですけど」

「どのような本ですか?」

以前と変わらない落ち着いた声だった。

クロードは少し考える。

「魔法を、もっと早く作る方法について知りたいです」

ムリヌはすぐには口を挟まず、続きを待っている。

「あと、《印》を短くすることについても」

「《印》の短縮ですか?」

「はい」

クロードは頷いた。

「前に授業で、熟練した人は《印》を短く出来るって習ったんです」

「でも、それが魔法を早く作ることと同じなのかは分からなくて」

ムリヌは少し考えた。

「今のお話でしたら、《印》の構造について扱った本と、魔術操作の習熟について扱った本が近いと思います」

「ありますか?」

「はい」

ムリヌが歩き出す。

クロードもその後についていった。

一つ目の棚から一冊。

少し離れた棚から、もう一冊を取り出した。

「まずはこの辺りでしょうか」

「ありがとうございます」

クロードは二冊を受け取った。

近くの机へ持っていき、一冊目を開く。

目次から《印》について書かれた場所を探す。

頁をめくっていくと、完成魔法の《印》がいくつもの魔術操作を一つの流れへまとめていることが書かれていた。

クロードは読み進める。

基礎操作を練習する時の《印》と、完成した魔法で使う《印》は同じ長さとは限らない。

操作を短く変え、ほかの操作とつなげることがある。

「これ、前に習ったのと同じだ」

小さく呟く。

次の頁へ進む。

短くなったからといって、必要な操作そのものがなくなるわけではない。

正しく扱えるなら、短く変わっても働きは変わらない。

クロードはそこで一度手を止めた。

《丸くする》を習っていた頃にも聞いた。

忘れていたわけではない。

ただ今読むと、前とは違うところが気になった。

短くなれば、同じ操作を行うために使える時間も短くなる。

クロードは今日の《サンダーランス》を思い出す。

急いでいなかった。

《印》も合っていた。

それでも先端が揺れて、細い雷が土壁へ跳ねた。

「今でも時間あるのに崩れるんだよな」

クロードは本へ目を戻す。

その時間をさらに短くすればどうなるのか。

答えを想像するのは難しくなかった。

二冊目を開く。

そこには、熟練した魔法使いが《印》を短くすることについて触れられていた。

クロードは該当するところをゆっくり読む。

必要な操作を省いているのではなく、短い時間の中でも同じ操作を崩さず行う。

だから、形だけ短くすれば魔法が簡単になるわけではない。

クロードはしばらくその頁を見る。

昔、ナターシャから聞いたこととつながる。

「やっぱり、短くしたら簡単になるわけじゃない」

むしろ今の自分には逆だった。

今の《印》でも《サンダーランス》は崩れる。

急げば《サンダーボール》でさえ大きく崩した。

そこからさらに時間を減らしたら、早く完成させる前に崩れるかもしれない。

クロードはノートを開く。

『魔法を早く作る』

最初にそう書いた。

その下へ続ける。

『《印》を短くする』

少し考えて、矢印を引く。

『必要な操作はなくならない』

もう一行。

『使える時間が短くなる』

クロードは鉛筆を止めた。

「今やったら駄目だな」

小さな声だった。

少し残念ではある。

《印》を短く出来れば、野外でも魔法を早く作れるかもしれない。

けれど、その前に自分が今使っている《印》を安定させられていない。

クロードは今日の実習を思い出す。

一度は崩れた。

次は的まで届いた。

急いでいなくても結果は揃わない。

なら、まずそこを揃える方が先だった。

クロードはノートに書く。

『今の《印》でも崩れる』

その下へ、

『短くするのはまだ早い』

と続けた。

書いてから、少しだけ昔の自分を思い出す。

《サンダーボール》の《印》が気になった時も、結局は長い《丸くする》へ戻った。

あの時は出来なかったから戻った。

今も似ている。

ただ、あの頃よりはずっと先まで来ている。

クロードは《印》短縮について書かれた頁をもう一度見る。

出来ないから、なくなる道ではない。

今はまだそこへ行けないだけだった。

魔導時計を見ると、思っていたより時間が経っていた。

クロードは開いていた本を閉じる。

二冊を持ってムリヌのところへ戻った。

「ありがとうございました」

「知りたいことは見つかりましたか?」

クロードは少し考えてから頷いた。

「はい」

それから少し笑う。

「今の僕にはまだ早いって分かりました」

ムリヌはそれ以上聞かなかった。

クロードは本を返し、図書館を出た。


◇


夜、男子寮の机でクロードは昼間のノートを開いた。

図書館で書いた行を上から読む。

『魔法を早く作る』

『《印》を短くする』

『必要な操作はなくならない』

『使える時間が短くなる』

『今の《印》でも崩れる』

『短くするのはまだ早い』

最後の一行で手が止まる。

短くする方法があることは分かった。

前にも知っていた。

でも、知っていることと今出来ることは同じではない。

クロードは別の頁を開く。

野外実習でノーゼスへ雷が飛んだ時の記録。

『急いだ』

『ほどけた』

『ノーゼスへ一本』

そこへ今日の実習を重ねる。

急いでいなくても、崩れることはある。

演習場なら形成を止めて、残った雷を消して、やり直せる。

外では、その間にも相手が動く。

だから早く作りたい。

でも早くしようとして崩したら意味がない。

クロードは新しい行へ鉛筆を置いた。

『まず、今の《印》で崩れない回を増やす』

少し考える。

その下へもう一行だけ書いた。

『短くするのは、そのあと』

昔の『まずは《丸くする》』を思い出して、クロードは少し笑った。

やることは変わった。

けれど、順番に確かめるところは変わらない。

クロードはノートを閉じた。

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