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『異世界転生した製鉄所主任、雷魔法と鉱物生成で成り上がる ~未知の世界は面白いことだらけでした~』~幼少期・王立学園編~  作者: 黎明の星
王立学園編

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181/250

見たあとの動き

その日の剣術の授業でも、18人は防具を着けて木剣を持っていた。

剣術の授業で生徒同士が打ち合うのは、もう初めてではない。

構えや足運び、間合いを覚えたあとも何度か相手を替えながら木剣を交え、その経験は戦闘実践で木剣を使う時にもつながっていた。

クロードも防具の留め具を確かめてから木剣を握る。

少し離れたところではノーゼスが肩を回し、エクリアも防具を着け終えていた。

ザナトスは木剣を振らずに手首だけを動かしている。

全員の準備を確認したバナンが前へ立った。

「今日はいつも通り、時間で相手を替える」

18人がバナンを見る。

「当てたら一度止まれ」

「相手が止まったあとまで振るなよ」

「はい」

返事が重なる。

バナンが手を上げた。

「組め」

生徒たちが動き始める。

クロードが周囲を見たところで、ノーゼスと目が合った。

「最初やるか?」

「うん」

2人で少し離れた場所へ移動する。

向かい合って木剣を構えた。

戦闘実践では同じ側にいることが多い。

それでも剣術の授業では、こうして何度も相手になっている。

ノーゼスの動きも、最初に打ち合った頃より見慣れていた。

「始め」

バナンの声が響く。

ノーゼスが一歩前へ出た。

クロードはその足を見る。

もう一歩。

ノーゼスが木剣を振る。

いつもなら、クロードは一度距離を広げてから次を見ていた。

けれど今日は、足がすぐには後ろへ動かなかった。

頭に浮かんだのは、野外実習で見たグレインだった。

オーガの大きな身体を前にしても、グレインは必要以上に遠くへ離れていなかった。

大きく下がらず、少し位置を変えて剣を外していた。

クロードは横へ動いた。

ノーゼスの木剣が近づく。

あと少し。

そう思った瞬間、防具の腕へ木剣が触れた。

「そこまで」

近くにいたバナンの声が掛かる。

ノーゼスがすぐ木剣を引いた。

クロードも止まる。

「当たったな」

「うん」

クロードは自分の腕を見る。

痛みはほとんどない。

けれど避けたつもりだった。

2人が位置を戻す。

「今日、あんまり下がらないな」

ノーゼスが言った。

「ちょっと試してる」

「何を?」

クロードは木剣を構え直した。

「まだ分からない」

「なんだそれ」

ノーゼスが笑う。

「もう一回行くぞ」

「うん」

再び向かい合う。

ノーゼスが前へ出た。

クロードは今度も大きく下がらない。

ただ、さっきより少し早く横へ足を出した。

木剣が身体の前を抜ける。

今度は当たらない。

クロードはそのままノーゼスを見る。

ノーゼスは木剣を戻しながら、もうこちらへ向き直っていた。

クロードも構えへ戻す。

すぐに前へ出た。

木剣を振る。

ノーゼスが受ける。

乾いた音が鳴った。

クロードは押し込まず、横へ足を動かす。

ノーゼスも離れた。

もう一度向かい合う。

「さっきより近いな」

ノーゼスが言った。

「うん」

「やりにくい」

「僕も」

「お前もなのかよ」

ノーゼスが笑いながら踏み込む。

クロードも木剣を上げた。

何度か木剣がぶつかる。

近いまま動こうとすると、相手の木剣もすぐ届く。

大きく離れれば一度考える時間が出来る。

今はそれが短い。

ノーゼスが振る。

クロードが横へ外れる。

すぐにノーゼスが向き直る。

クロードも止まらず構えを戻した。

また次が来る。

野外実習で見ていた時より、ずっと忙しい。

先生たちは簡単そうにやっていたわけではない。

自分が外から見ていただけだった。

「そこまで」

交代の声が掛かった。

クロードとノーゼスが木剣を下ろす。

ノーゼスが息を吐いた。

「近いと疲れるな」

「僕も思った」

「次もそれやるの?」

クロードは少し考えた。

「やってみる」

「じゃあ次のやつ大変だな」

ノーゼスが笑いながら離れていく。


◇


次にクロードと向かい合ったのはエクリアだった。

「ノーゼスと何してたの?」

エクリアが木剣を構えながら聞く。

「何って?」

「いつもより近いところでずっと動いてたじゃない」

「見えてた?」

「見てたんだから見えるわよ」

クロードも構える。

「野外実習で先生たちが戦ってたの見たでしょ」

「オーガの時?」

「うん」

クロードは頷いた。

「グレイン先生もラディス先生も、あんまり大きく離れなかったから」

エクリアが少しだけ目を細める。

「真似してるの?」

「真似出来るか分からないけど、やってみてる」

「そう」

エクリアが木剣を握り直した。

「じゃあ私も普通にやるからね」

「うん」

「始め」

声と同時にエクリアが動いた。

最初から真っすぐは来ない。

横へ一歩動き、クロードの向きが変わったところで前へ入る。

クロードも足を動かす。

木剣が来る。

少し横へ。

今度は外れた。

クロードはそこで安心せず、すぐエクリアを見る。

もう身体がこちらを向いている。

二度目が来た。

クロードは木剣で受ける。

音が鳴る。

エクリアが引く。

クロードも木剣を戻す。

今度はこちらから入った。

エクリアが下がる。

クロードは追う。

けれど一直線には追わない。

少し横へずれながら距離を詰める。

木剣を振る。

エクリアが避ける。

クロードは振った木剣を戻す。

その間にエクリアがもう前へ出ていた。

「っ」

クロードも身体を向け直す。

木剣同士がぶつかる。

離れる。

また向かい合う。

エクリアが少し笑った。

「やっぱり今日違うわね」

「そう?」

「前より戻らない」

クロードは少し考える。

「戻らない?」

「距離よ」

エクリアが一歩だけ下がってみせる。

「前は一回離れてからまた来ることが多かったでしょ」

クロードはこれまでの打ち合いを思い返す。

確かに、一度外へ出て距離を作ることは多かった。

相手を見るためでもあり、構えを戻すためでもあった。

「今日はそこまで下がらないから、すぐ次が来るのよ」

「エクリアからもね」

「そういうこと」

エクリアがまた構える。

「だから止まったら当てるわよ」

「止まらないようにする」

再び動く。

エクリアが木剣を振る。

クロードは外す。

構えを戻す。

クロードが振る。

エクリアが下がる。

すぐに横へ動く。

クロードも向きを変える。

一つ動けば、次が近い。

剣を外したあとも相手を見る。

自分が振ったあとも相手を見る。

エクリアも同じようにこちらを見ている。

クロードが一歩入った。

木剣を振る。

エクリアが受ける。

クロードはすぐ引こうとした。

その前にエクリアが横へ動いた。

木剣が脇から伸びてくる。

クロードも横へ逃げる。

間に合わない。

防具へ軽い衝撃が入った。

「そこまで」

エクリアが木剣を下げる。

「入った」

「うん」

クロードも木剣を下げた。

「近くにいたら、やっぱりすぐ来るね」

「当たり前でしょ」

エクリアが笑う。

「先生たちだって、近くにいるならその分ずっと見てたんじゃない?」

クロードは少しだけ黙った。

グレインの足。

オーガの身体。

ラディスが入ってきたあとの位置。

剣だけを見ていたわけではなかった。

「そうかも」

「今頃気づいたの?」

「見てる時は分からなかったから」

「まあ、私も出来るとは言ってないけど」

エクリアが木剣を構え直す。

「もう一回」

「うん」

その後も時間まで打ち合った。

クロードは何度か距離を取った。

ずっと近くに残ることは出来なかった。

離れた方がいいと思えば離れる。

近くに残れそうなら、そのまま次を見る。

最初に考えていたほど、先生の動きは単純ではなかった。

交代の声が掛かる。

2人が木剣を下ろした。

「次、誰?」

エクリアが周囲を見る。

クロードも顔を向ける。

その前に声が飛んできた。

「俺」

ザナトスが歩いてくる。

エクリアが小さく笑った。

「やっぱり来た」

「何がやっぱりだよ」

「ずっと気にしてたじゃない」

「見えてただけだ」

「それ、私がさっき言ったやつなんだけど」

ザナトスはエクリアを無視してクロードを見る。

「やるぞ」

「うん」

クロードは木剣を握り直した。


◇


ザナトスと向かい合う。

これまでにも何度も木剣を交えてきた。

最初に防具を着けて打ち合った時だけではない。

剣術の授業でも、戦闘実践でも、相手になることがあった。

ザナトスが前へ出る速さも、途中で動きを変えることがあるのも知っている。

向こうもクロードの動きを知っているはずだった。

2人が構える。

バナンが少し離れたところから見る。

「始め」

ザナトスが動いた。

クロードも足を見る。

一気には来ない。

一歩。

もう一歩。

クロードも位置を変える。

ザナトスが横へ動いた。

クロードが向きを変えた瞬間、距離が縮まる。

木剣が来る。

クロードは大きく下がらず横へ出た。

ザナトスの木剣が身体の前を通る。

クロードはすぐに構えを戻す。

そのまま一歩入った。

木剣を振る。

ザナトスが受ける。

乾いた音が鳴った。

ザナトスの目が少し開く。

クロードは木剣を引いて横へ動く。

ザナトスも離れる。

また向かい合った。

「お前、今日なんか違うな」

ザナトスが言った。

「エクリアにも言われた」

「なんでだ?」

クロードは木剣を構えたまま答える。

「野外実習で先生たちが戦ってるの見たからかも」

「先生?」

「うん」

「だから何したんだよ」

「まだ試してるところ」

ザナトスが少し笑った。

「じゃあ試させねえ」

すぐに前へ出てくる。

「それは困る!」

クロードも動いた。

さっきより速い。

ザナトスの木剣が振られる。

クロードが外す。

すぐ次を見る。

ザナトスは止まらない。

向きを変えてまた入る。

クロードも木剣を戻す。

受ける。

離れる。

今度はこちらから入る。

ザナトスが木剣を合わせる。

ぶつかったところで、クロードは押し返さない。

横へ動く。

ザナトスもついてくる。

近い。

クロードは一度離れようとした。

ザナトスがそれを見て踏み込む。

木剣が伸びる。

クロードは下がりながら木剣を上げた。

ぎりぎりで受ける。

「危なっ」

「下がると思ったぞ!」

「見てたの?」

「当たり前だろ!」

ザナトスが笑う。

クロードも少し笑った。

自分だけが相手を見ているわけではない。

ザナトスもこちらが変わったことを見ている。

もう一度離れる。

今度は少し距離が空いた。

クロードは息を整える。

ザナトスも構えたまま動かない。

一瞬だけ静かになる。

クロードはオーガの前に立っていたグレインを思い出した。

大きく動かなかったことだけではない。

剣を振ったあとも、次を見るまでが速かった。

ラディスが加わったあとも、2人とも一度動いて止まってはいなかった。

クロードは木剣を握り直す。

前へ出た。

ザナトスが木剣を振る。

クロードは横へ外れる。

そこで止まらない。

身体を向ける。

木剣を戻す。

ザナトスも向き直る。

その前にクロードが踏み込んだ。

木剣を振る。

ザナトスが身体を引く。

木剣の先が防具のすぐ前を通った。

届かない。

クロードはすぐに木剣を戻す。

ザナトスがもう来ている。

今度は受ける。

木剣が鳴る。

ザナトスが横へ出る。

クロードも追う。

一歩。

木剣を振る。

ザナトスが受ける。

そのまま互いに離れた。

「今の!」

ザナトスが笑っている。

「何?」

「いつもなら一回止まってただろ!」

クロードは少しだけ目を開いた。

自分では気づいていなかった。

「そうだった?」

「俺とやってる時はな!」

「じゃあ変わった?」

「だから最初から言ってるだろ!」

ザナトスがまた前へ出る。

クロードも笑いながら構えた。

今度はザナトスが途中で足を止めた。

クロードも反応して止まりかける。

その瞬間、ザナトスがもう一度踏み込んだ。

「っ!」

クロードが横へ動く。

遅い。

木剣が肩の防具へ入った。

「そこまで」

バナンの声が掛かる。

ザナトスがすぐ木剣を引いた。

「よし!」

クロードは肩を見てからザナトスを見る。

「途中で止まったのに」

「お前が止まると思ったからな」

ザナトスが笑う。

クロードも少し悔しくなって笑った。

「次は止まらない」

「じゃあ次も変える」

「また?」

「当たり前だろ」

2人が位置を戻す。

バナンが近くまで歩いてきた。

クロードを一度見る。

「今日は動き変えたな」

「はい」

「野外実習で見たものか?」

クロードは頷いた。

「先生たちがあまり大きく動いてなかったので、やってみようと思って」

バナンはすぐには答えず、クロードとザナトスの距離を見る。

「見るのはいい」

クロードもバナンを見る。

「試すのもいい」

バナンが続ける。

「ただ、形だけ真似するな」

クロードは少しだけ首を傾けた。

「同じだけ動けばいいって話じゃない」

バナンはザナトスを見る。

「相手が違えば、必要な距離も変わる」

今度はクロードを見る。

「今のお前が、あの先生たちと同じ距離で動けるとも限らん」

「はい」

「見たものを自分で試して、駄目なら変えろ」

クロードは小さく頷いた。

それなら、これまで魔法でやってきたこととも似ている。

一度出来たから終わりではない。

同じことが次にも通るとは限らない。

「続けろ」

バナンが離れる。

ザナトスが木剣を上げた。

「今度こそ来いよ」

「ザナトスもね」

「俺は最初から行ってる!」

「途中で止まったじゃん」

「あれはわざとだ!」

「分かってるよ」

クロードが笑う。

2人はもう一度構えた。

その後も、どちらかが動けばもう一方も動いた。

クロードが近くへ残れば、ザナトスはその距離で攻め方を変える。

クロードが離れれば、今度はそこへ踏み込んでくる。

クロードも大きく下がらないことだけには拘らなかった。

離れた方がいいと思った時は離れる。

残れそうな時は、そのまま次を見る。

木剣を外したあとに相手を見る。

振ったあとにも相手を見る。

一つ終わるたびに止まらず、その先へつなげようとする。

何度か木剣がぶつかったところで、授業終了の魔導の鐘が鳴った。

「そこまで」

バナンの声で18人が動きを止める。

ザナトスが木剣を下げた。

「もう終わりかよ」

「終わりだ」

バナンが即答する。

周りから小さな笑いが起こった。

クロードも木剣を下ろす。

息はかなり上がっていた。

いつもより近いところにいる時間が長かった分、休める時間も少なかった気がする。

防具を外しながら、クロードはさっきまでザナトスと立っていた場所を見る。

先生たちのようには動けなかった。

同じように動こうとして、最初はノーゼスに当てられた。

エクリアには近くにいる分だけ次が早く来た。

ザナトスはクロードの変化を見て、自分の動きまで変えてきた。

それでも、一度動いたあとに次を見ることは前より増えた。

野外実習で見たものを、そのまま真似することは出来ない。

けれど見たからこそ、今までとは違う動きを試すことが出来た。

クロードは木剣を返す列へ向かう。

すぐ後ろからザナトスの声がした。

「次もやるからな」

クロードが振り返る。

「うん」

「次はもっと変える」

「じゃあ僕も変えるよ」

ザナトスが笑った。

クロードも笑い、前へ向き直った。

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