↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『異世界転生した製鉄所主任、雷魔法と鉱物生成で成り上がる ~未知の世界は面白いことだらけでした~』~幼少期・王立学園編~  作者: 黎明の星
王立学園編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
180/257

まだ分からない

来た道を戻り始めてからも、誰もすぐには大きな声で話さなかった。

グレインは前を歩き、ラディスは少し離れた位置から道の左右へ視線を動かしている。

セリアナは生徒たちの近くに残り、ときどき後ろを確かめていた。

クロードも歩きながら木々の間を見る。

さっきまでは、魔物を見つけたいと思って周りを探していた。

今は少し違った。

何かがいないか確かめるために見ている。

けれど、葉が揺れるたびに魔物がいるように思えるわけでもない。

見えるものを一つずつ確かめて、そのまま歩く。

隣でノーゼスも道の脇を見た。

少し前を歩くエクリアも、何度か横へ顔を向けている。

「みんな見てるな」

ノーゼスが小さく笑った。

「ノーゼスもでしょ」

エクリアがすぐ返す。

「だって、先生があれだけ見てたら気になるだろ」

「それは私もだけど」

クロードは二人の会話を聞きながら前を見る。

グレインは振り返らない。

ラディスも歩きながら周囲を見続けている。

倒したオーガから離れても、その動きは変わっていなかった。

「ラディス先生、二本だったね」

クロードが言う。

ノーゼスがすぐに振り向く。

「そこ気になったよな」

「やっぱり気になってたの?」

エクリアが呆れたように言う。

「だって二本だぞ」

「二本だったわね」

「エクリアも見てたじゃん」

「見えてたんだから見るでしょ」

クロードは少し笑った。

さっきまで固くなっていた胸が、ほんの少しだけ緩む。

それでも視線は道の先へ戻った。

「でも、二本ともずっと振ってたわけじゃなかったね」

クロードが言う。

「片方だけの時もあったな」

ノーゼスが両手を少し動かす。

「最後の方は二本使ってたけど」

エクリアが言った。

「必要な時だけだったんじゃない?」

クロードは答えず、ラディスの背中を見る。

そうだったのかもしれない。

けれど、自分たちが見ただけで全部分かったとは思えなかった。

「グレイン先生も、あんまり大きく動いてなかったよね」

クロードが言う。

「でもずっと避けてたぞ」

「うん」

「それで当ててたし」

ノーゼスが少し首を傾げる。

「俺だったら、あんなの来たらもっと下がると思う」

「私も」

エクリアが素直に答えた。

クロードも同じだった。

オーガが近づけば、まず距離を取りたいと思う。

けれどグレインは、自分たちの方へ下がってこなかった。

その理由まで分かったわけではない。

ただ、見ていたことだけは残っている。

前方でラディスが足を止めた。

18人の歩みも少し遅くなる。

ラディスは道の脇へ顔を向けたまま、しばらく動かなかった。

グレインも止まる。

クロードたちも立ち止まった。

風が木々を揺らす。

誰も魔法を使わない。

少しして、ラディスがグレインを見る。

「何も動いてない」

「ああ」

グレインは短く答えた。

「行くぞ」

また列が動き出す。

クロードはラディスが見ていた場所へ一度だけ目を向ける。

葉の間に何かがいるようには見えない。

それでも確認してから前へ戻った。

それから先、新しい魔物は現れなかった。

行きに通った道を戻り、見覚えのある景色が増えていく。

王立学園が近づくにつれて、生徒たちの話し声も少しずつ戻ってきた。

けれど行きの時ほど騒がしくはない。

クロードも何度か話しながら、そのたびに道の横へ目を向けた。


◇


王立学園の正門をくぐる。

見慣れた学園の中へ入ったところで、クロードはようやく肩の力を抜いた。

ノーゼスも大きく息を吐く。

「帰ってきた」

「そうね」

エクリアも周りを見る。

そのまま歩き出しかけた生徒たちを、グレインが止めた。

「まだ解散するな」

足音が止まる。

セリアナが18人を見渡した。

「もう一度、人数を確認します」

クロードはその場で待つ。

セリアナの視線が端から順に動いていく。

「18人、全員います」

グレインが頷く。

「怪我は?」

今度は生徒たち自身が身体を確かめる。

クロードも腕と足を見た。

痛いところはない。

ノーゼスも両腕を動かしている。

「今日は撃たれてない」

小さな声で言ったノーゼスを、エクリアが横から見る。

「今それ言う?」

クロードは思わず笑った。

すぐ近くでガレスも笑う。

張っていた空気が、そこで少しだけ崩れた。

セリアナも全員の様子を見てからグレインへ頷く。

「怪我の申告はありません」

「ああ」

グレインは18人を見る。

「今日の野外実習はこれで終わりだ」

誰も驚かなかった。

オーガを倒した時に、すでに聞いていた言葉だった。

それでも学園へ戻ってから聞くと、本当に終わったのだとクロードは思った。

グレインが続ける。

「それと、今日見たオーガのことは俺たちから学園へ報告する」

クロードは顔を上げる。

ラディスも少し離れたところに立っている。

セリアナは生徒たちの側に残ったままだ。

クロードの中に、帰り道から残っていた疑問が浮かぶ。

右手を少し上げた。

「先生」

グレインがクロードを見る。

「なんだ」

「あのオーガって、この辺りにいる魔物なんですか?」

何人かの生徒もグレインへ顔を向けた。

ノーゼスも隣で聞いている。

グレインはすぐには答えなかった。

「少なくとも、今日みたいな場所で普通に出てくる相手じゃない」

クロードは倒れたオーガを思い出す。

「じゃあ、なんでいたんですか?」

「それはまだ分からん」

グレインの答えは短かった。

クロードは少しだけ目を見開く。

先生なら何か知っているかもしれないと思っていた。

けれどグレインは続ける。

「分からないから報告する」

ラディスが横から口を開く。

「ほかにもいるのか、あいつだけだったのかも、今の時点じゃ決められない」

クロードは、倒した後もしばらく周りを見ていたラディスの姿を思い出す。

「だから今日は戻った」

グレインが言う。

「分からないまま生徒を連れて先へ進む必要はない」

誰もすぐには口を開かなかった。

クロードは小さく頷く。

倒せたから安全になったわけではなかった。

あの時、先生たちがすぐ歩き出さなかったことも、少しだけつながった気がした。

「先生たちは、これから調べるんですか?」

今度はエクリアが聞いた。

「まず報告だ」

グレインが答える。

「その先をどうするかは、報告してから決める」

それ以上は言わなかった。

クロードも次の質問を飲み込む。

まだ決まっていないことを聞いても、答えは出ない。

「お前たちは今日はここまでだ」

グレインが言う。

「勝手に外へ戻って確認しようとするなよ」

何人かの生徒が顔を見合わせる。

クロードも一瞬だけ倒れたオーガを思い出した。

魔素石がどうなったのかも気になる。

なぜあそこにいたのかも気になる。

けれど、自分で見に戻っていいものではないことは分かる。

「はい」

クロードは答えた。

ほかの生徒たちも続く。

グレイン、ラディス、セリアナはそのまま別の方へ歩いていく。

クロードは三人の背中を少しだけ見送った。

「報告って、誰にするんだろうな」

ノーゼスが言う。

「そこは先生たちが決めることでしょ」

エクリアが返す。

「気になるだけだって」

「私だって気にはなるわよ」

クロードも二人と一緒に歩き出す。

学園の中はいつもと変わらない。

生徒が歩き、建物が並び、遠くから声も聞こえる。

さっきまでオーガを見ていたことが、少しだけ遠く感じた。

「俺はやっぱり双剣が気になる」

ノーゼスが言った。

エクリアがすぐに振り向く。

「まだ言ってるの?」

「だって見たことなかっただろ」

「私も初めて見たけど、それだけじゃないでしょ」

「分かってるって」

クロードは二人の間で笑う。

「僕は、倒したあとも見てた方が気になる」

「周り?」

「うん」

クロードは頷く。

「もう倒したのに、先生たちはすぐ終わったってしなかったから」

エクリアが少し考える。

「ほかにいるかもしれないって思ってたんでしょうね」

「でも、いなかったんだろ?」

ノーゼスが言う。

クロードは少しだけ考えた。

「見つからなかっただけかもしれない」

ノーゼスが口を閉じる。

エクリアもクロードを見る。

クロード自身、その答えが正しいとは思っていない。

ただ、ラディスもグレインも最後まで『いない』とは言わなかった。

「先生も分からないって言ってたし」

クロードが続ける。

「そっか」

ノーゼスは前を見る。

「先生でも分からないことあるんだな」

「当たり前でしょ」

エクリアが言う。

「何でも分かったら、調べる必要ないじゃない」

「それもそうか」

三人はそのまま歩いていく。

クロードは途中で一度立ち止まり、正門の方を振り返った。

門の向こうに、さっき歩いてきた道は見えない。

オーガがいた場所も見えない。

なぜあそこにいたのかも分からない。

ほかにもいるのかどうかも分からない。

分からないことは、まだ残っている。

クロードはしばらく門の向こうを見てから、ノーゼスとエクリアの方へ顔を戻した。

「クロード、行くぞ」

「うん」

二人の後を追いながら、クロードはもう一度だけ外の方へ目を向けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。