↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『異世界転生した製鉄所主任、雷魔法と鉱物生成で成り上がる ~未知の世界は面白いことだらけでした~』~幼少期・王立学園編~  作者: 黎明の星
王立学園編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
179/258

見ている場所

オーガがまた一歩前へ出た。

グレインは剣を構えたまま動かない。

クロードは息を止めるようにして、その背中を見ていた。

オーガとの距離が縮まる。

それでもグレインはまだ剣を振らなかった。

ラディスは少し離れた横にいる。

けれど、オーガだけを見てはいなかった。

道の先から木々の間へ視線を動かし、一度だけ後ろへ顔を向けて生徒たちのいる方も確かめる。

クロードはその視線を追った。

「来る」

ノーゼスが小さく言った。

次の瞬間、オーガが一気に前へ出た。

大きな身体が近づいたと思った時には、グレインが横へ動いていた。

グレインは正面からぶつからず、オーガの進む先から半歩外れて剣を一度だけ振る。

刃が身体を斬り、オーガは大きく向きを変えたが倒れない。

そのままグレインを追う。

「速い……」

クロードの口から声が漏れた。

大きいから、もっとゆっくり動くような気がしていた。

実際には、向きを変えてから次の一歩が思っていたより早い。

グレインは剣を振り回さなかった。

オーガが近づけば外れる。

離れれば追いすぎない。

斬れる時だけ剣を出す。

クロードがいつも戦闘実践で見ていたグレインより、動きが小さく見えた。

なのに、オーガとの距離は崩れない。

「ラディス先生、行かないのか?」

ノーゼスが声を抑えて言った。

クロードはラディスを見る。

ラディスの手は腰の近くにある。

そこには左右に一本ずつ剣があった。

まだどちらも抜いていない。

視線だけが何度も別の場所へ動いている。

「オーガを見てない時がある」

クロードが言った。

エクリアもラディスを見る。

「周りを見てるわね」

「なんで?」

ノーゼスが聞く。

クロードはすぐには答えなかった。

前では、またオーガがグレインへ距離を詰める。

グレインは一歩だけ横へ動く。

オーガの身体がその先へ流れたところへ、剣が走った。

剣を振ったのは一度だけだった。

オーガが振り返る。

グレインはもう剣を戻している。

その間にもラディスは木々の奥を見ていた。

道の反対側へも視線を向ける。

「……ほかにもいるかもしれないから?」

クロードが小さく言った。

ノーゼスがラディスを見る。

「さっき、まだ決めるなって言われてたもんな」

エクリアも頷く。

「目の前の一体だけじゃないってことね」

クロードはもう一度グレインを見る。

グレインは一人で戦っている。

だからラディスもすぐに入るものだと思っていた。

けれど、そうしていない。

前へ出ているのに、戦うより先に別の場所を見ている。

「後ろ、もう少し空けてください」

セリアナの声がした。

クロードたちは反射的にそちらを見る。

セリアナはオーガへ身体を向けながら、生徒たちの並びも見ていた。

「下がる時にぶつからないようにしてください」

何人かが位置をずらす。

クロードもノーゼスとの間を少し空けた。

セリアナの目が人数を追う。

それから前へ戻る。

グレイン。

ラディス。

オーガ。

その全部を一度に見ているようには見えない。

それでも必要なところへ、次々と目が動いていた。

クロードは前へ顔を戻した。

オーガがまた踏み込む。

グレインが避ける。

その足は生徒たちの方へ下がらなかった。

斜め前へ動き、オーガの向きもそちらへ変わる。

クロードはそこで初めて気づいた。

グレインは逃げているのではない。

自分たちの方へ来させない場所へ動いている。

「先生、こっちに下がらない」

クロードが言う。

ノーゼスもグレインの足を見る。

「ほんとだ」

エクリアはオーガの向きを追った。

「向こうへ向かせてる?」

「分からない」

クロードはすぐに言った。

そう見えた。

けれど、まだ一度見ただけだった。

グレインの剣がもう一度オーガへ届く。

オーガの身体が揺れた。

それでも止まらない。

クロードは前に《グラスウルフ》へ剣を入れた時を思い出す。

あの時は、それほど長くは続かなかった。

今日は違う。

剣が当たっても、まだ動いている。

グレインの表情まではここからよく見えない。

けれど、動きが急に大きくなることもなかった。

オーガが近づけば外れ、斬れる時だけ斬り、追いすぎずに離れる。

同じことを繰り返しているようで、立つ場所は少しずつ変わっていく。

「ラディス」

グレインが短く呼んだ。

ラディスはすぐには前を向かなかった。

道の横へ目を向けたまま、一度だけ奥を見る。

反対側も確認する。

それからセリアナを見る。

セリアナが小さく頷いた。

「今のところ動きなし」

ラディスが答えた。

グレインはそれ以上聞かなかった。

「分かった」

ラディスの両手が腰へ動く。

二本の剣が抜かれた。

「二本?」

ノーゼスが目を見開く。

クロードもラディスの手を見る。

右手にも左手にも剣がある。

けれどラディスは、二本を大きく構えなかった。

片方を少し前へ出し、もう片方を身体の近くに置いたまま走り出す。

グレインがオーガの正面からわずかに外れた。

空いた横へラディスが入る。

一方の剣だけが動いた。

短く身体を斬り、そのまま通り抜ける。

もう一方の剣は振らなかった。

オーガがラディスの方へ向きを変える。

その瞬間、グレインが反対側へ入った。

剣が走る。

ラディスは追撃しない。

オーガの向きがまた変わるのを見て、立つ場所を変える。

「声、ほとんど出してない」

エクリアが呟いた。

クロードも気づいていた。

戦闘実践では、前へ出る時も戻る時も声を出してきた。

声が重なって、聞こえないこともあった。

言ったつもりでも、相手へ届かなかったこともあった。

グレインとラディスは、ほとんど話していない。

それでも同じ場所へ入らない。

互いの剣が邪魔になるところにも立たない。

片方が前へ出れば、もう片方は少しずれる。

オーガが向きを変えれば、その先にいる方が動く。

クロードは二人の剣より足を見るようになった。

ラディスが一歩入ればグレインが少し下がり、ラディスが抜けるとグレインが前へ戻る。

「速いっていうより……」

クロードは言葉を探した。

ノーゼスが横を見る。

「何?」

「止まってない」

「ずっと動いてるだろ」

「ううん」

クロードは首を振る。

「迷って止まるところがない」

言ってから、もう一度二人を見る。

自分たちは戦闘実践で、前へ行くか、魔法を使うか、下がるか迷って足が止まることがある。

先生たちには、その止まり方がほとんどなかった。

何も考えていないようには見えない。

むしろ周りを見ている。

それなのに、次の動きへ入るまでが短い。

「見て決めるのが早いってこと?」

エクリアが聞いた。

「たぶん」

クロードは答えた。

断言は出来ない。

けれど、二人が同じ場所を取り合う場面は一度もなかった。

オーガが大きく動く。

ラディスが左へ抜ける。

グレインは追わず、オーガの進む先へ回る。

オーガの向きが変わった。

ラディスが戻る。

今度は二本の剣が続けて動いた。

最初の一振りで身体へ斬り込み、二本目はオーガの動きが変わったところで止まる。

無理に振り切らない。

すぐに距離を取る。

グレインがその空いたところへ入った。

剣が深く入る。

オーガの身体が大きく揺れた。

グレインはすぐに剣を引き、横へ離れる。

ラディスも追わない。

二人とも少し距離を取った。

オーガが一歩動く。

もう一歩動こうとして、身体が傾いた。

大きな音とともに地面へ倒れる。

誰も声を上げなかった。

グレインはすぐに近づかない。

倒れたオーガを見ながら、剣を構えたまま待つ。

ラディスも二本の剣を持ったまま周囲を見る。

クロードは息を吐きかけて、止めた。

先生たちはまだ終わったように動いていない。

少しして、グレインが倒れたオーガへ近づく。

距離を残したまま様子を見る。

さらに一歩近づき、動かないことを確かめる。

ラディスはその間も二本の剣を持ったまま、木々の間、道の先、反対側へ順番に視線を送っている。

「倒したのに、まだ見てる」

ノーゼスが言った。

「うん」

クロードも同じところを見ていた。

グレインがオーガのそばから少し離れる。

「セリアナ」

「18人、全員います」

返事はすぐだった。

クロードは思わずセリアナを見る。

戦っている間にも数えていたのかは分からない。

ただ、聞かれた時にはもう答えていた。

セリアナは生徒たちの顔を順番に見る。

「怪我をした人は?」

返事はない。

何人かが周りの友人も確かめる。

クロードもノーゼスとエクリアを見る。

二人とも怪我はない。

自分も大丈夫だ。

「ラディス」

グレインが呼ぶ。

「まだ見てる」

ラディスが答えた。

二本の剣はまだ手にある。

グレインも剣を収めない。

しばらく三人とも動かなかった。

生徒たちもその場を離れない。

クロードは倒れたオーガを見る。

大きな魔物だった。

グレインとラディスの剣が何度も当たって、ようやく動かなくなった。

けれど今、先生たちが見ているのは倒れたオーガだけではない。

クロードも道の横へ顔を向けた。

木々が並んでいる。

風で葉が揺れている。

そこに何かいるのかは分からない。

反対側も見る。

今のところ、何も見つけられない。

それでもラディスは確認をやめなかった。

やがてグレインが剣を収める。

少し遅れて、ラディスも二本の剣を腰へ戻した。

それを見て、張っていた空気が少しだけ緩んだ。

グレインは18人の方へ戻ってくる。

「今日はここまでだ」

クロードは顔を上げる。

「学園へ戻る」

誰も続きを聞かなかった。

グレインは倒れたオーガの方へ一度だけ目を向ける。

ラディスも同じ方向を見る。

セリアナは生徒たちの後ろを確認した。

すぐに歩き出す者はいない。

教師たちの合図を待つ。

「来た道を戻る」

グレインが言った。

「周りを見ながら行くぞ」

「はい」

18人の返事が重なった。

クロードは荷物を持ち直す。

倒れたオーガが気にならないわけではなかった。

なぜ王都の近くにいたのかも分からない。

ほかにもいるのかどうかも分からない。

けれど、今は自分で確かめに行く時ではない。

クロードはグレインの後ろへ戻る。

歩き出す前に、ラディスが見ていた木々の間へもう一度目を向けた。

何も見つけられなかった。

それでもクロードは、すぐには視線を戻さなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。