↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『異世界転生した製鉄所主任、雷魔法と鉱物生成で成り上がる ~未知の世界は面白いことだらけでした~』~幼少期・王立学園編~  作者: 黎明の星
王立学園編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
178/253

任されない相手

野外実習で雷がノーゼスの腕へ逸れたあとも、学園の日々は続いていった。

朝になればクロードは木剣を持って第2運動場へ向かう。

授業が始まれば教室へ戻り、魔法基礎や算術、世界史を受ける。

魔法実習では《サンダーランス》を繰り返した。

的まで届く日もあれば、形が崩れる日もある。

戦闘実践では、いつもの6人で動いた。

右手に雷を作っても、前に仲間が入れば止める。

横へ誰かが近づけば、もう一度周囲を見る。

前からやっていたことだった。

けれどノーゼスの腕へ細い雷が飛んでからは、その一瞬を見る回数が増えていた。

「今日は俺に撃つなよ」

休憩中、ノーゼスが腕を出しながら笑った。

「もう撃たないよ」

「この前も俺を狙ったわけじゃないだろ」

「だから困ったんだよ」

クロードが答えると、エクリアが二人を見る。

「いつまでその話してるのよ」

「俺はまだ一回しか言ってないぞ」

「昨日も言ってたじゃない」

「あれは昨日の分だ」

「何よ、その分け方」

クロードは二人のやり取りを聞きながら笑った。

ノーゼスの腕には何も残っていない。

それでも、自分のノートにはあの日の一行が残っている。

『味方へ飛ぶこともある』

消す理由はなかった。

野外実習も、その後何度か行われた。

王都近郊を歩くことも、最初ほど特別なことではなくなってきた。

教師が止まれば生徒も止まる。

周囲を見る。

班が呼ばれれば前へ出る。

教師が引き取れば下がる。

初めて魔物を前にした時には、分かっていても出来なかったことが少しずつ身体へ残っていった。

それでも、魔物が動けばクロードの胸は強く鳴った。

怖さがなくなったわけではない。

《グラスウルフ》が身体を低くすれば足元を見る。

《スライム》なら、足を探しても仕方がないことを思い出す。

知らない動きをすれば、前に見たものへ無理に当てはめない。

「クロード、前!」

ピアの声に足を止めたこともあった。

その直後、クロードの前を水の球が通った。

別の日には、右手へ《サンダーボール》を作りながら撃たずに消した。

ノーゼスが魔物との間へ動いていたからだ。

「今の撃たなかったのか?」

実習後にノーゼスが聞いた。

「うん」

「俺がいたから?」

「それもある」

クロードは少し考える。

「あと、あの位置だと地面に行くかもしれなかったから」

「じゃあ正解だったな」

「分からないよ」

クロードは首を振った。

「撃ってたら当たったかもしれないし」

「俺に?」

「魔物に!」

ノーゼスが笑った。

エクリアも横で吹き出す。

成功したかどうか分からないまま終わることも増えた。

それでもクロードは、それを失敗だけとは思わなくなっていた。

撃たなかったことも、見たこととしてノートへ残した。


◇


その日も、18人は王都近郊を歩いていた。

空には雲が流れ、道の両側には草と木々が続いている。

グレインが先を歩き、少し離れてラディスとセリアナがそれぞれ生徒たちを見ていた。

クロードはノーゼス、エクリアと並んで歩く。

「今日はまだ何も出ないな」

ノーゼスが言った。

「出ない方がいいんじゃない?」

エクリアが返す。

「実習なんだから、何か見たいだろ」

「見たいのと襲われたいのは別でしょ」

「俺も襲われたいとは言ってないぞ」

クロードは二人の間で道の先を見る。

「僕は見たことない魔物も見たいけど」

エクリアがクロードを見る。

「あなたはそう言うと思ったわ」

「でも、近くでは見たくない」

「そこは前より慎重になったな」

ノーゼスが笑う。

「ノーゼスに雷当てたからね」

「自分で言うのかよ」

「もう言わないでって言っても言うから」

「じゃあ俺も言う」

「何を?」

「クロードに雷を当てられた」

「だから、ごめんって」

エクリアが呆れた顔で前を向いた。

「二人とも、歩きながら騒がないで」

「エクリアも話してたじゃん」

「私は止めてるのよ」

三人の少し前を歩いていたガレスが振り返って笑う。

ベンとピアも声を聞いてこちらを見る。

クロードがもう一度前へ視線を戻した。

道の先に、大きなものがいた。

最初は木の幹かと思った。

けれど違う。

動いている。

「……あれ、何?」

クロードが足を止める。

ノーゼスとエクリアも前を見た。

少し先の道脇に、これまで見た魔物より明らかに大きなものが立っている。

ガレスたちも気づき、話し声が止まった。

その瞬間には、グレインも足を止めていた。

ラディスがすぐに前方を見る。

セリアナも振り返らず、前へ視線を向けた。

クロードは大きな魔物と、教師たちを交互に見る。

今までとは反応が違った。

グレインが口を開く。

「全員、下がれ」

クロードは一瞬だけ動かなかった。

言葉が分からなかったわけではない。

魔物はもう見えている。

それなのに、どの班を前へ出すのかをグレインは言わなかった。

「聞こえたな」

グレインがもう一度言う。

「下がれ」

「はい!」

返事が重なった。

クロードもノーゼスと一緒に後ろへ動く。

エクリアも下がりながら前を見る。

「何なの、あれ」

声は小さかった。

クロードにも分からない。

《グラスウルフ》ではない。

《スライム》でもない。

今まで野外実習で見た魔物とは、大きさからして違う。

セリアナが生徒たちの方へ歩いてくる。

「全員、そのまま下がってください」

その声はいつもの落ち着いた調子だった。

けれどクロードには、それが余計に気になった。

セリアナは魔物だけでなく、生徒たちの人数と位置を見ている。

ラディスはグレインより少し横へ出た。

視線は目の前の魔物と、その周囲を行き来している。

「固まるな」

ラディスが言った。

「後ろも見て下がれ」

クロードは一度だけ後ろを確かめた。

ノーゼスがすぐ横にいる。

エクリアもいる。

ガレス、ベン、ピアも少し離れて下がっている。

ほかの二班もセリアナの方へ寄りながら距離を取っていた。

クロードはまた前を見る。

大きな魔物が一歩動く。

地面を踏む音が、ここまで聞こえた。

胸が強く鳴る。

まだこちらへ走ってきてもいない。

それでも、教師三人が自分たちを前へ出そうとしない。

そのことの方が、クロードには怖かった。

「オーガか」

ラディスが言った。

クロードはその名前を聞く。

《オーガ》。

名前を聞いても、どんな魔物なのかまでは分からない。

けれど教師たちは知っている。

「なんでこんな所にいる」

ラディスの声が続いた。

グレインは答えず、オーガを見ていた。

セリアナも一度だけ前を見る。

「人数は?」

「18人、全員います」

セリアナがすぐ答えた。

「そのまま見てろ」

グレインが言う。

「近づくな」

クロードは右手を見る。

魔物がいる。

距離もある。

右手を上げれば《印》を組める。

《サンダーボール》なら作れる。

《サンダーアロー》もある。

右手が少しだけ上がった。

けれどクロードは止めた。

グレインは下がれと言った。

教師が引き取ったら、加勢しない。

何度も言われ、何度も実際に止めてきた。

それに今ここで雷を作って、どこへ飛ぶか分からない。

すぐ横にはノーゼスがいる。

前にはグレインとラディスがいる。

クロードは右手を下ろした。

ノーゼスがその動きを見ていた。

「撃たないのか?」

小さな声だった。

「うん」

クロードも声を抑える。

「先生が下がれって言ったから」

ノーゼスは前を見る。

「……俺もやめとく」

ノーゼスの右手は上がっていなかった。

エクリアも《印》を組んでいない。

「当たり前でしょ」

そう言った声は少し硬かった。

クロードはまた前を見る。

オーガが動く。

グレインも一歩前へ出た。

クロードの胸が強く鳴る。

けれど足は後ろへ向いていた。

セリアナが手を上げる。

「もう少し下がってください」

18人がさらに距離を取る。

クロードも下がる。

これまでなら、魔物へ近づきすぎないように下がっていた。

今日は教師たちが前へ出るために、自分たちが離れていく。

ラディスがグレインの横から少し距離を取る。

「他にはいない」

「まだ決めるな」

グレインが答える。

「周りも見ろ」

「ああ」

クロードは二人のやり取りを聞いた。

目の前のオーガだけを見てはいない。

その動きも、これまでとは違って見えた。

グレインが腰の剣へ手を掛ける。

クロードはその手を見る。

前に《グラスウルフ》を倒した時にも、グレインは剣を使っていた。

あの時は、自分たちが先に魔法を使った。

今日は最初から違う。

「先生たち、最初から俺たちにやらせる気ないな」

ノーゼスが呟いた。

「うん」

クロードは答えた。

それだけで、目の前の魔物が今までと同じではないことが分かる。

エクリアは黙ってグレインたちを見ていた。

ザナトスたちのいる方からも声は聞こえない。

18人が静かになる。

グレインが剣を抜いた。

ラディスも前へ出る。

セリアナは生徒たちの前に残った。

「ここから動かないでください」

誰も返事を忘れなかった。

「はい」

クロードも答えた。

右手は下げたままだ。

それでも目だけは逸らさない。

何をするのか見たかった。

今まで自分たちへ任されていた魔物とは、何が違うのか。

そして、その相手を先生たちはどう見るのか。

オーガが一歩動いた。

グレインも前へ出る。

クロードたちを背後へ置いたまま、グレインはオーガへ向き直って剣を構えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。