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『異世界転生した製鉄所主任、雷魔法と鉱物生成で成り上がる ~未知の世界は面白いことだらけでした~』~幼少期・王立学園編~  作者: 黎明の星
王立学園編

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俺は当てたぞ

休憩を終えると、クロードたちは荷物を背負い直し、再び歩き始めた。

さっきまで腰を下ろしていた場所が少しずつ遠ざかっていく。

クロードはノーゼスの隣を歩きながら、道の脇に続く草や茂みへ何度も目を向けた。

風が吹いて草が揺れる。

それだけだと分かると、前へ視線を戻す。

少しして別の茂みが揺れると、またそちらを見る。

「さっきから、めちゃくちゃ見てるな」

ノーゼスが言った。

「うん」

クロードは否定せずに頷く。

「またいるかもしれないし」

「今度は、先に見つけたいの?」

後ろを歩いていたエクリアが聞く。

クロードは少し考えた。

「それもあるけど、動く前も見たい」

さっきの魔物は、こちらへ走り出す前に身体を低くしていた。

前足で地面も掻いていた。

遠くから見ていた時には気になっていたのに、こちらを向かれた瞬間、その続きを見る余裕がなくなった。

「次は、もうちょっと見られるかな」

クロードが呟くと、エクリアも周囲へ目を向けた。

「私も、次は急に下がらないわ」

「そこ競うところなの?」

「自分とよ」

エクリアが答える。

ノーゼスは少し笑ってから、前を歩くグレインを見た。

その先で、グレインが足を止めた。

クロードたちも止まる。

ラディスとセリアナも、それぞれ自分の近くにいる生徒たちへ合図を出した。

さっきとは違う方向に、何かがいる。

クロードは目を細めた。

低い草の向こうを、四本の足がゆっくり動いている。

さっきの魔物とよく似た姿だった。

ラディスが周囲を見てから、ザナトスたち六人へ顔を向ける。

「今度は俺たちか」

ザナトスが小さく言った。

その声を聞いて、カイルが魔物を見る。

マミヤも少し身体の向きを変えた。

ラン、ヤンナ、トルトもそれぞれ前を見る。

クロードたちの班はグレインの指示で少し離れた位置へ移動した。

セリアナ班も別の場所から見ている。

「ここからだ」

グレインが言う。

クロードは立ち止まり、ラディス班と魔物の両方が見える位置を探した。

ザナトスが前にいる。

その少し横にカイルとマミヤが立ち、残る三人も一か所には固まっていない。

ラディスが魔物を見ながら六人へ短く声を掛けた。

ザナトスが頷く。

魔物はまだ、草の向こうをゆっくり歩いている。

クロードはその足を見る。

一歩。

また一歩。

急には動いていない。

けれど、魔物が頭を上げた瞬間、クロードの肩に少し力が入った。

隣のノーゼスも黙っている。

魔物がザナトスたちの方を向いた。

ザナトスの右手が動く。

すぐには魔法を出さず、相手を見ている。

魔物が一歩近づいた。

カイルが少し横へ動く。

マミヤも位置を変えた。

ザナトスは下がらない。

「来るぞ」

トルトの声が聞こえた。

魔物が地面を蹴った。

クロードの指先に力が入る。

さっきの低い声と、駆け出した足が一瞬重なった。

けれど今度は、自分の方へ走ってきているわけではない。

クロードは魔物から目を離さなかった。

「右!」

マミヤの声が飛ぶ。

ザナトスが横へ動いた。

魔物の進む先から外れながら、右手で《印》を組む。

「火いく!」

《ファイアボール》が飛ぶ。

魔物がさらに向きを変えようとしたところへ、火の球が身体に当たった。

火が弾ける。

「当たった!」

ザナトスの声が響いた。

クロードは思わず目を大きくした。

魔物は倒れず、身体を振ってザナトスたちの方へ向き直る。

「次来る!」

カイルが声を上げた。

今度は水が飛ぶ。

魔物が横へ跳ね、水は地面へ落ちた。

ザナトスがもう一度右手を上げる。

けれど、その前へランが動いた。

「待つ!」

ザナトスは《印》を途中で止めた。

ランが魔物との距離を見ながら横へ移る。

その反対側ではトルトも右手を上げていたが、すぐには撃たない。

ヤンナは魔物だけではなく、近くにいる五人を見ている。

クロードは一人ずつ追おうとして、途中でやめた。

六人とも動いている。

魔物も動いている。

見る場所が次々に変わる。

マミヤが風魔法を放った。

風を受けた魔物の身体が少し傾く。

「今!」

ザナトスが右手を動かす。

再び火の球が飛んだ。

今度は魔物が先に横へ動いた。

火はその後ろを通り過ぎる。

「くそっ!」

ザナトスがすぐに相手を追う。

その声を聞きながら、クロードはさっきの一発を思い出した。

魔物が動いている。

それでもザナトスは声を出し、《印》を組んでいた。

(ザナトス、動けてる)

自分は最初、足が動かなかった。

雷を撃てたのは、そのあとだった。

それも当たらなかった。

魔物が急に向きを変える。

ザナトスの身体がわずかに下がった。

一歩だけだった。

すぐに足を止め、また前を見る。

クロードはそこまで見て、少し首を傾けた。

ずっと平気なわけではないのかもしれない。

けれど、今のクロードにはそれ以上は分からなかった。

「近い!」

ラディスの声が響いた。

魔物が六人との距離を詰めている。

「下がれ!」

六人が後ろへ動く。

ザナトスも火魔法を使おうとはせず、ラディスの後ろへ下がった。

ラディスが魔物との間へ入る。

クロードは、ザナトスたちがそのまま下がっているのを見る。

誰も魔法を撃たない。

ラディスが踏み込み、魔物の動きを止めた。

少しして、地面に倒れた魔物から力が抜ける。

ラディスは魔物を確かめ、それから周囲へ目を向けた。

グレインとセリアナもそれぞれ別方向を確認していた。

やがてラディスが六人へ戻るよう声を掛けた。

クロードは息を吐いた。

自分が戦っていたわけではないのに、手に力が入っていた。

「ザナトス、当てたな」

ノーゼスが言う。

「うん」

クロードは頷いた。

「最初ので当てた」

エクリアがザナトスたちを見る。

「次は外してたけどね」

「そこ見るんだ」

クロードが言うと、エクリアは少し笑った。

「当てたところだけ見たら悔しいじゃない」

「やっぱり競ってるじゃん」

ノーゼスが言った。

エクリアは何も答えず、また向こうを見た。


◇


しばらく移動したあと、教師たちは見通しのよい場所で足を止めた。

周囲を確認し、昼食を取ることになった。

クロードは荷物を下ろし、朝から気になっていた包みを取り出す。

「やっぱり楽しみにしてたんじゃない」

エクリアが言った。

「もう昼だからいいでしょ」

「朝から見てたけどな」

ノーゼスまで言う。

クロードは二人を見てから包みを開いた。

「今は食べてもいい時間です」

「誰に言ってるんだよ」

ノーゼスが笑った。

三人で食べ始めて少しすると、別の班からザナトスがこちらへやってきた。

手には自分の昼食を持っている。

「クロード」

呼ばれたので顔を上げる。

ザナトスはクロードの前まで来ると、少し笑った。

「見てたか?」

「うん」

「俺、当てたぞ」

クロードは思わず笑った。

「見てたよ」

ザナトスはそのまま近くへ腰を下ろした。

「お前は?」

「僕?」

「さっきやったんだろ」

クロードは手に持っていた昼食を一度下ろした。

「撃ったよ」

「当たった?」

「外れた」

ザナトスの口元が上がる。

「じゃあ今回は俺の方が上だな」

「何の勝負なのよ」

エクリアがすぐに口を挟んだ。

「魔物に当てたかどうか」

「今決めたでしょう」

「いいだろ、分かりやすいし」

ザナトスが言う。

クロードは少し考えてから頷いた。

「じゃあ今はザナトスが一歩先だね」

「だろ?」

「次は当てるけど」

ザナトスが笑う。

「俺も次はまた当てる」

「また始まった」

ノーゼスが食べながら呟いた。

クロードは笑ってから、ザナトスを見た。

さっき魔物が走り出した時のことを思い出す。

「ザナトス、すぐ動けてたね」

「ん?」

「魔物が走った時」

クロードは自分の右手を見る。

「僕、最初は足が動かなかったんだ」

ザナトスの笑いが少し止まった。

「そうなのか?」

「うん」

「そのあと撃ったけど、外した」

「それで外したのか」

「それだけじゃないと思うけど」

クロードが答えると、ザナトスは自分の昼食へ目を落とした。

「俺も怖かったぞ」

クロードは顔を上げる。

「怖かったの?」

「当たり前だろ」

ザナトスは少し眉を寄せた。

「急に走ってきた時、うわって思ったし」

「でも、動いてたよ」

「撃てそうだったから撃った」

ザナトスは簡単に答えた。

「最初のは当たったしな」

最後だけまた少し得意そうになる。

クロードはザナトスを見た。

怖くなかったから動けたわけではない。

怖いと思っていても、ザナトスは《印》を組んだ。

「僕も次は動けるかな」

「動けばいいだろ」

ザナトスが言う。

クロードは少し笑った。

「それがすぐ出来なかったんだって」

「じゃあ次やってみればいい」

「うん」

ザナトスは一口食べてから、思い出したように続けた。

「でも俺も、二発目は外したからな」

エクリアがすぐに顔を向ける。

「ちゃんと分かってるじゃない」

「見れば分かるだろ」

「当たったことしか言わないのかと思ったわ」

「当てた方が大事だろ」

「外した方も大事でしょう」

二人の言い合いに、ノーゼスが笑う。

クロードもつられて笑った。

そこへカイルたちも近くへやってきた。

ザナトスがこちらにいるのを見つけたらしい。

「やっぱりこっちにいた」

カイルが言った。

「何がやっぱりだよ」

「クロードに自慢しに行くって言ってたじゃん」

「言ってない」

「行く前にずっとそっち見てたでしょう」

マミヤまで言う。

クロードがザナトスを見ると、ザナトスは少しだけ顔をそらした。

「だって、こいつもやったんだから気になるだろ」

「やっぱり気にしてたんだ」

クロードが言う。

「お前だって俺の見てただろ」

「見てたよ」

「なら同じだ」

ザナトスはそう言って、また昼食を食べ始めた。

ランたちも近くへ座り、それぞれ食事を広げる。

少しして、ノーゼスがラディス班を見る。

「みんな、普通に動けてたよな」

「普通じゃなかったよ」

マミヤが答えた。

「魔物が急に向いた時、私も避けようと思って動いたし」

「俺は撃とうとしたらランが前に入った」

トルトが言う。

ランがそちらを見る。

「俺だって動かなきゃ当たりそうだったんだから仕方ないだろ」

「だから撃たなかった」

「それでいいじゃん」

「撃ちたかったけどな」

トルトは少し残念そうに言った。

ヤンナが小さく笑う。

「私は、いつ使えばいいのか見てるうちに終わった」

「一回も撃ってない?」

エクリアが聞く。

「うん」

ヤンナは頷いた。

「撃てそうかなって思った時には、ラディス先生が前に出たから」

カイルも頷く。

「俺も水、外した」

「俺は当てた」

ザナトスがすぐに言う。

「それはもう聞いた」

カイルが返した。

クロードたちから笑い声が上がる。

ザナトスは不満そうな顔をしたが、少しすると自分でも笑った。


◇


昼食を終えて片付けを始めた頃、グレインから声が掛かった。

「全員、少し集まれ」

十八人が荷物を置いたまま教師たちの近くへ集まる。

グレインの手には、午前中に倒した魔物から取り出した二つの石があった。

クロードはすぐにそこへ目を向ける。

「まず、こいつらの名前からだ」

グレインが石を持ったまま続ける。

「午前中にお前たちが相手をした魔物は、《グラスウルフ》だ」

クロードはさっきまで走っていた四足の魔物を思い浮かべた。

「グラスウルフ……」

ノーゼスが小さく繰り返す。

「王都近郊でも見かける低級魔物で、草地やその周辺に出ることがある」

グレインが続ける。

「警戒すると身体を低くして、前足で地面を掻くことがある」

クロードが顔を上げた。

「そこから一気に距離を詰めてくる」

グレインの言葉に、クロードは最初に見たグラスウルフの動きを思い出す。

身体を低くした。

地面を掻いた。

そのあと、こちらへ走ってきた。

「あれ、走る前の動きだったんですね」

「ああ」

グレインが頷く。

「ただし、毎回同じとは限らない」

ラディスが横から続けた。

「同じグラスウルフでも、大きさも違えば動き方も違う」

「知ってる魔物だから、次も同じだと思うなよ」

「はい」

返事が重なる。

グレインは手の中の二つの石を見せた。

「それから、これがさっきの二体から取れた《魔素石》だ」

何人かが少し前へ身体を傾ける。

クロードも石をじっと見た。

「これが、グラスウルフの中にあったんですか?」

「ああ」

グレインが答える。

「生きている間は《魔素核》として体内にある」

「魔物は、その魔素核にある魔素を使って活動している」

クロードは二つの魔素石を見る。

「死んだら、石になるんですか?」

「そうだ」

グレインは頷いた。

「本体が死ねば、魔素核は魔素石に変わる」

「魔素核を壊した場合もですか?」

「その場合も同じだ」

グレインが答える。

「それに、魔素核を破壊すれば魔物は確実に死ぬ」

ザナトスがすぐに口を開いた。

「じゃあ、そこを狙えばいいんですね」

「場所が分かればな」

ラディスが答える。

ザナトスがそちらを見る。

「魔素核の位置には個体差がある」

「同じグラスウルフでも?」

「ああ」

ラディスが頷く。

「同じ種類だから、必ず同じ場所にあるとは限らない」

クロードは二つの魔素石を見比べた。

「じゃあ、外から見ただけじゃ分からないんですか?」

「少なくとも、決めつけて狙うなってことだ」

グレインが答える。

「魔素核を直接壊さなくても、身体に致命傷を与えて本体を倒せばいい」

クロードは少し考えてから、もう一度魔素石を見る。

さっきまで走っていたグラスウルフの中に、これとは違う状態のものがあった。

それが死んだあと、石になった。

「触ってもいいですか?」

クロードが聞く。

「今日は見るだけにしろ」

「はい」

すぐに返事をしたものの、クロードの視線はまだ魔素石に残っていた。

ノーゼスが横からクロードを見る。

「さっきまで怖がってたのに、今度は石か」

「怖いのと、気になるのは別だよ」

クロードが答える。

エクリアが小さく笑った。

グレインは二つの魔素石をしまうと、十八人を見渡した。

「今日は倒した数を競うために来てるんじゃない」

「相手がどう動いたか、自分がどう動いたか、できたこともできなかったことも覚えて帰れ」

クロードはザナトスを見る。

ザナトスもこちらを見ていた。

少しして、ザナトスが口元を上げる。

クロードも小さく笑った。


◇


説明が終わると、十八人はそれぞれ荷物を背負い直した。

ザナトスもラディス班の仲間たちのところへ戻っていく。

途中で一度振り返り、クロードを見る。

クロードも右手を軽く上げた。

再び歩き始める。

道の脇には草が続き、その先には木々が見えている。

クロードは茂みの一つへ目を向けた。

風で葉が揺れる。

今度はすぐに目を逸らさず、その奥まで見た。

何もいない。

クロードは前へ視線を戻した。

(次にグラスウルフが出たら、どうなるかな)

怖くないとは思えなかった。

それでも、今度はさっきよりもう少し動いてみたかった。

そして次に見つけた時は、身体を低くする前から何か分かることがないか見てみたかった。

グレインの後ろを歩きながら、クロードは周囲へ目を向け続けた。

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