見ていた側
クロードは右手を動かし、《サンダーランス》の《印》を続けた。
魔力を感じながら、一つずつ指を進める。
途中で止まらない。
最後の《印》まで通ると、青白い雷が手元に現れた。
クロードはすぐに形を細くしようとはせず、今ある雷を見る。
少し前へ伸ばす。
外へ散ろうとする雷を、一つの方向へまとめる。
けれど先端が左右へ分かれた。
「違う」
クロードは魔力を止めた。
ノートへ今の結果を書き足す。
《印》は最後まで。
魔力も大きくは変わっていない。
形は先が分かれた。
もう一度右手を上げる。
魔力を動かし、《印》を進める。
途中で少し指が遅くなったが、そのまま最後まで通った。
雷が現れる。
今度はさっきよりゆっくり形をまとめた。
根元が少し細くなる。
先端も大きくは散らない。
「あ」
クロードは目を細めた。
さっき出来たものに少し近い。
けれど前へ伸びた雷は、先ほどより短かった。
そのまま形も崩れ始める。
クロードは魔力を止めた。
「細くはなったけど、短い」
リセナが近くからその様子を見ていた。
「先ほどと同じ形ではありませんね」
「はい」
クロードはノートを見る。
一度出来たからといって、次も同じにはならない。
もう一度試そうと右手を上げたところで、授業終了を告げる鐘が鳴った。
クロードは少しだけ右手を見つめる。
「続きは次か」
手を下ろし、最後の結果を書いた。
細くなった。
でも短かった。
同じ形にはならなかった。
クロードはノートを閉じた。
◇
戦闘実践の授業がある日、18人は第2運動場へ集まっていた。
グレイン、ラディス、セリアナの3人もそれぞれのチームの近くに立っている。
クロードはノーゼスたちと一緒にグレインの前へ集まった。
向かい側ではセリアナの6人が並んでいる。
ナーン、ミナ、タンガ、ミズー、レクシア、リーゼ。
前の授業では結界の外からクロードたちとラディス班の対戦を見ていた6人だった。
グレインが全員を見る。
「今日は俺のチームと、セリアナのチームでやる」
クロードは向かい側の6人へ目を向けた。
前とは相手が全員違う。
「ラディスのチームは外から見てくれ」
ザナトスがクロードの方を見る。
「今日はそっちか」
「うん」
「ちゃんと見といてやるよ」
「それ、ちょっと嫌だな」
クロードが笑うと、ザナトスも笑った。
グレインが続ける。
「前と同じで、木剣と初級魔法を使う」
「中級はなしだ」
クロードは頷く。
《サンダーランス》を使う場ではない。
「2限使う」
グレインはセリアナ班にも目を向ける。
「一度やったあとで話して、もう一度同じ組み合わせでやる」
セリアナ班の6人も頷いた。
それぞれ防具を身につけ、木剣を取っていく。
クロードも木剣を右手に持った。
グレイン班の6人が近くへ集まる。
「今度はあの6人か」
ノーゼスが言う。
「前、ずっと外から見てたわよね」
エクリアが向こうを見る。
「ああ」
ガレスも頷いた。
ピアが少し考える。
「私たちの動き、見られてるってこと?」
「見られてはいるね」
クロードは答えた。
前の対戦で、自分たちがどこへ集まりやすかったかも見られていた。
ノーゼスの壁がどこで出たかも見られている。
「だからって同じになるとは限らないでしょ」
エクリアが言う。
「うん」
クロードも向こうの6人を見る。
同じグレイン班でも、今度の相手は違う。
細かく決めるより、まず中で見た方がいい。
6人は結界の中へ入った。
向かい側からセリアナ班も入ってくる。
クロードはその並びを見た。
前に見たラディス班より、最初から横へ広がっているように見える。
リーゼとタンガは左右へ少し離れ、ミナやミズーも同じ場所へ集まっていない。
レクシアとナーンも周囲を見ながら位置を取る。
ノーゼスが小さく言う。
「広いな」
「うん」
前の自分たちが片側へ寄っていたことを、この6人は外から見ていた。
だからなのかは、まだ分からない。
グレインとセリアナが結界の外側へ下がった。
ラディス班の6人も別の場所から全体を見ている。
開始の声が掛かった。
クロードはすぐには前へ出ず、向こうの6人を見る。
タンガが先に動いた。
少し左へ走りながら木剣を構える。
その反対側ではリーゼが別方向へ動いている。
「二つ来る!」
エクリアの声。
ガレスがタンガの方へ出る。
クロードはリーゼを見る。
リーゼが右手を動かした。
風が走る。
クロードは横へ避けた。
その間に、リーゼ自身も位置を変える。
「行く!」
クロードは声を出し、木剣を持ったまま前へ出た。
リーゼとの間には広く場所が空いている。
そのまま進めそうに見えた。
クロードが一歩踏み込む。
横から水が飛んだ。
「うわっ」
進むのをやめて下がる。
水を放ったのはミズーだった。
ミズーはクロードだけを見続けず、すぐに別の方向へ顔を向ける。
空いていると思った場所には、横から魔法が通っていた。
「そっち見えてなかった」
クロードは木剣を構え直す。
今度はミズーの位置も見る。
その向こうではレクシアが土魔法を使っていた。
ノーゼスが避ける。
「土来る!」
ベンの声が飛ぶ。
ノーゼスはさらに横へ動いた。
その空いたところへナーンの火が飛ぶ。
「続くのか!」
ノーゼスが声を上げる。
クロードはそちらへ行こうとして止まった。
近くではリーゼがもう一度動いている。
誰か一人を追えば、別の相手が動く。
それは前の6対6と同じだった。
けれど動く位置は違う。
「クロード、右!」
エクリアの声。
クロードが右を見る。
タンガがガレスから離れてこちらへ向きを変えていた。
クロードは木剣を構える。
タンガも木剣を持ったまま近づく。
クロードが先に振る。
タンガが受け、すぐ横へ動いた。
そのままクロードを追ってはこない。
タンガは別の場所へ向かう。
「ノーゼス!」
クロードが声を出す。
ノーゼスが振り向く。
タンガがそちらへ行く前に、ピアの水魔法が間へ入った。
タンガが止まる。
クロードは一度下がって周囲を見る。
向こうは最初ほど大きく広がってはいなかった。
戦い始めれば、6人とも少しずつ位置が変わっている。
「ミナ、右!」
リーゼの声が聞こえた。
少し離れたミナが右を見る。
水魔法の《印》を途中で止め、位置を変える。
そのミナが何か声を出した。
けれどクロードのところまでは言葉が聞き取れない。
近くにいたナーンもすぐには反応しなかった。
「聞こえてない?」
クロードが呟く。
広がっている分、声の距離も長くなっている。
その時、ガレスが前へ出た。
「行く!」
タンガがガレスを見る。
ミナもそちらへ向いた。
その反対側が少し空いた。
クロードはそこを見る。
今なら入れるように見える。
木剣を握り直し、一歩出る。
今度はすぐに走らない。
空いた場所の横を見る。
レクシアがいる。
さらに奥ではミズーが位置を変えている。
「雷いく!」
クロードは木剣を左手へ移し、右手で《サンダーボール》の《印》を組む。
レクシアがこちらを見る。
クロードが放つより先に、レクシアが横へ動いた。
その動きで射線の先にミズーが入る。
クロードは《印》を解いた。
「やめる!」
木剣を右手へ戻す。
エクリアが風を放つ。
レクシアがさらに位置を変えた。
空いたと思った場所も、すぐ別の誰かが入る。
反対側から声が飛ぶ。
「タンガ、戻って!」
リーゼだった。
タンガが一度下がる。
その間にナーンが火魔法を使う。
ガレスとベンが別々の方向へ避けた。
「離れすぎ!」
今度はセリアナ班の誰かの声が聞こえた。
クロードが向こうを見る。
ミナとリーゼの距離がかなり開いている。
レクシアもさらに反対へ動いていた。
最初から広がったことで固まりにくい。
でも今度は、互いの声が簡単には届かない。
ノーゼスがクロードの近くまで戻ってきた。
「前より散ってるな」
「うん。でも遠いね」
「何か言ってても聞こえない時ある」
ノーゼスも同じものを見ていた。
クロードは向こうを見る。
外からなら、今どこが空いているか分かりやすいのかもしれない。
けれど中にいると、空いている場所だけを見ていられない。
近くには相手がいる。
魔法も飛んでくる。
味方も動く。
「クロード、前!」
ピアの声。
クロードが顔を上げる。
リーゼが近づいている。
今度は木剣を持っていた。
クロードも構える。
リーゼが振る。
受ける。
乾いた音が響く。
クロードが横へ回ろうとする。
その先へ風が通った。
リーゼ自身の風ではない。
別の場所から飛んできたものだった。
クロードは足を止める。
リーゼもその隙に離れた。
「誰の?」
確認する前に、別方向から火が見える。
クロードは一度下がった。
声。
木剣。
魔法。
味方。
相手。
見える場所は次々に変わっていく。
しばらくして、終了の声が掛かった。
両チームが動きを止める。
クロードは大きく息を吐いた。
向こうでもタンガが肩を回している。
リーゼは木剣を下ろし、ミナたちの方を見る。
結界が解除された。
◇
水を飲んで息を整えたあと、3つのチームが集まった。
グレインが最初にセリアナ班を見る。
「外から見てた時と同じだったか?」
少し間が空いた。
ミナが手を上げる。
「違いました」
声は大きくないが、近くに集まっている今は全員に聞こえた。
「外から見てた時は、もっと空いてる場所が分かりやすかったです」
ミナは結界の中を見る。
「でも中だと、空いてると思っても途中に魔法が来たり、人が動いたりして」
クロードは頷いた。
自分も同じことを経験した。
リーゼが続ける。
「見えてても、そこまでそのまま行けるわけじゃなかった」
「あと、広がったら声が遠かった」
タンガが言う。
ミナが少し申し訳なさそうに手を上げた。
「私、何回か言ったんだけど」
「聞こえなかった時あった」
ナーンが答える。
「俺も」
ミズーも頷いた。
セリアナは6人の話を聞いている。
前の授業で言ったことを繰り返すことはしなかった。
グレインが今度はクロードたちを見る。
「こっちは?」
ノーゼスが先に答えた。
「前の6人と全然違いました」
「どこが?」
「最初から広かったです」
エクリアも言う。
「でも途中から位置は変わってました」
「最初に広がってたから、そのままずっと広いわけじゃなかった」
クロードも結界を見る。
「空いてると思って行こうとしたら、横から水が来ました」
ミズーがこちらを見る。
「あれ、私」
「うん」
クロードは笑った。
「見えてなかった」
外側で見ていたラディス班にも話が向く。
ザナトスがすぐに口を開いた。
「最初、かなり広がってたぞ」
リーゼがそちらを見る。
「やっぱり?」
「途中は逆に近いところもあったけどな」
カイルも結界の一方を示す。
「あっち、何人か集まってた時あった」
セリアナ班の6人がそちらを見る。
中にいた自分たちには、そこまで全体が見えていなかったらしい。
クロードは前の授業を思い出す。
自分たちが中にいた時も、外から言われて初めて分かったことがあった。
見る側が変わっても、それは同じだった。
グレインが両チームを見る。
「じゃあ、2限目どうする?」
グレイン班の6人が少し集まる。
セリアナ班も向こうで話し始めた。
クロードはノーゼスたちを見る。
「相手が広いからって、空いてるところへすぐ行かない方がいいかな」
「でも全部待ってたら何も出来ないぞ」
ノーゼスが返す。
「近く見るしかないんじゃない?」
エクリアが言う。
「空いてる場所と、その横」
「声もね」
ピアが付け足した。
ガレスが向こうを見る。
「向こうも変えてくるだろ」
「うん」
クロードは頷いた。
1限目で見えたものを覚えていても、次が同じとは限らない。
向こうでもセリアナ班が話し終えた。
6人は1限目より少し近い距離で集まっている。
けれど、それが次の開始位置になるかは分からない。
短い休憩が終わった。
◇
2限目。
クロードたちは再び結界の中へ入った。
向こうにセリアナ班の6人がいる。
今度は1限目ほど大きく横へ広がってはいなかった。
それでも一か所へ固まっているわけでもない。
開始の声が掛かる。
最初に動いたのはナーンだった。
火魔法の《印》を組みながら少し横へ出る。
その隣からタンガが木剣を持って前へ出た。
「タンガ来る!」
ガレスの声。
ガレスが前へ出る。
クロードは反対側を見る。
リーゼが風魔法を使う。
エクリアがその進路から外れる。
ミナとミズーも、1限目より互いの距離を大きく開けずに動いている。
「ミズー、右!」
リーゼの声が届く。
ミズーがすぐに右を見る。
1限目より声が届いている。
クロードはその様子を見る。
「変えた」
「向こうもな」
近くのノーゼスが答える。
ノーゼスが右手を動かした。
「壁出す!」
《ロックウォール》が地面から上がる。
今度は中央ではなく、少し左寄りだった。
レクシアが壁を見る。
すぐに反対側へ動く。
タンガも同じ場所へは向かわない。
クロードは壁の横を見る。
前の対戦で、壁は相手にも使われた。
今度の相手が同じように使うとは限らない。
「クロード、そっち空く!」
エクリアの声が飛ぶ。
クロードが見る。
ノーゼスの壁の反対側に、少し広い場所が出来ている。
その先には誰もいないように見えた。
クロードが一歩出る。
すぐに足を止める。
空いている場所だけではなく、その横を見る。
ミナは別方向を見ている。
ミズーも遠い。
けれど、さらに奥でレクシアが位置を変えていた。
レクシアはこちらを向く。
右手が動く。
「土来るかも」
クロードは真っ直ぐ入るのをやめ、横へ進路を変えた。
その直後、さっきまで進もうとしていた場所へ土魔法が出る。
「やっぱり」
けれど横へ動いた先には、今度はナーンがいた。
ナーンもクロードを見る。
「そっちにもいる!」
クロードはさらに足を止めた。
ナーンの火が飛ぶ。
避ける。
結局、空いて見えた場所には入れなかった。
それでもクロードは少し笑った。
最初から何も見ずに入ったわけではない。
「雷いく!」
距離が出来たところで木剣を左手へ移す。
右手で《サンダーボール》の《印》を組む。
今度は射線を見る。
レクシアが横へ動く。
ナーンも離れる。
その先に味方はいない。
クロードが《サンダーボール》を放つ。
青白い雷が前へ飛ぶ。
レクシアが避ける。
クロードは着弾先だけを追わず、すぐに近くへ視線を戻した。
タンガが横から来ている。
右手へ木剣を戻す。
「来た!」
タンガの木剣を受ける。
一度離れる。
その向こうではガレスとリーゼが別方向へ動いている。
エクリアの風が通る。
ミズーの水がその進路を変える。
ベンの光が広がり、ナーンが顔をそらした。
ピアも水魔法を使いながら位置を変える。
1限目とは動きが違う。
セリアナ班だけではない。
グレイン班も、さっきと同じ場所にはいない。
「ミナ、近く!」
リーゼの声。
ミナが近づく。
今度は声が届いた。
でも、その動きで別の場所が空く。
ノーゼスがそちらを見る。
「行く!」
ノーゼスが前へ出た。
レクシアが向きを変える。
クロードも一緒に行こうとして、近くを見る。
タンガがまだいる。
「僕こっち見る!」
クロードはノーゼスを追わず、タンガへ向き直った。
タンガも木剣を構える。
今度はクロードから踏み込む。
一撃を受けられる。
タンガが横へ動く。
クロードも追う。
その先から声が飛ぶ。
「タンガ、戻って!」
セリアナ班の声だった。
タンガはクロードを追い続けず、少し距離を取る。
クロードもそこで止まった。
目の前の相手だけを追わないのは、向こうも同じだった。
少し離れたところでレクシアの土魔法が出る。
ノーゼスが位置を変える。
ミズーの水がそこへ重なり、ガレスが下がる。
リーゼが反対側から声を上げる。
それにミナが応える。
けれど次の瞬間には、別の声と重なって聞こえなくなる。
全部うまくいっているわけではない。
集まりすぎる時もある。
離れて声が届かない時もある。
魔法を使おうとして味方の位置で止める時もある。
クロードたちも同じだった。
1限目で分かったからといって、2限目に全部出来るわけではない。
それでも一度見たものを、そのまま答えにはせず使い直している。
やがて終了の声が響いた。
全員が動きを止める。
クロードは木剣を下ろした。
呼吸が少し速い。
向こうでもリーゼやタンガたちが息を整えている。
結界が解除された。
◇
最後の振り返りで、3つのチームが集まった。
グレインがセリアナ班を見る。
「2回目は?」
リーゼが先に口を開く。
「1回目より声は届きました」
「でも、その分近くなったら、今度は集まる時もあった」
ミズーが続ける。
ミナも頷いた。
「外から見てた時みたいに、ずっと全体は見えなかったです」
タンガが結界を見る。
「見てた時は、行けばいいと思った場所もあったけど」
少し考えてから続ける。
「中だと、その途中に誰かいるんだよな」
ナーンが頷いた。
レクシアも結界の中を見る。
「こっちが動いたら、向こうも動くし」
セリアナは6人の話を聞いたあと、小さく頷いた。
グレインがクロードたちを見る。
「お前らは?」
クロードは少し考える。
「前のチームと違いました」
「当たり前だな」
グレインが返す。
クロードは笑う。
「はい」
それから結界を見る。
「でも、同じ僕たちでも、相手が変わったら見るところも変わりました」
ノーゼスも頷く。
「壁出した時の動きも違った」
「声の聞こえ方も違ったわね」
エクリアが言う。
外から見ていたラディス班からも、2回の違いが出てくる。
クロードはその話を聞きながら、第2運動場を見た。
外から見て分かることがある。
中に入って初めて分かることもある。
見ていたことが、そのまま出来るわけではない。
それでも見ていたことが無駄になるわけでもない。
中へ入れば、そこでまた見直せばいい。
クロードはさっき空いているように見えた場所を思い出した。
そこへ行こうとして、レクシアとナーンを見て進路を変えた。
正しかったかどうかは分からない。
でも、空いているように見えただけで走ることはしなかった。
クロードは少し笑う。
(見て分かってても、中に入ったらまた違うんだ)




