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『異世界転生した製鉄所主任、雷魔法と鉱物生成で成り上がる ~未知の世界は面白いことだらけでした~』~幼少期・王立学園編~  作者: 黎明の星
王立学園編

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今度は当てる

翌日の朝、クロードは木剣を持って稽古場に立っていた。

向かいには、同じように木剣を持ったザナンがいる。

「久しぶりだな」

「はい」

以前の長い休みに帰ってきた時も、ザナンには何日も稽古へ付き合ってもらった。

あの時は最後まで、ザナンへ木剣をきれいに当てることができなかった。

王都へ戻るザナンを見送りながら、自分は言った。

今度は当てるから、と。

クロードは木剣を握り直した。

「行きます」

「来い」

地面を蹴る。

ザナンが少し横へ動いた。

以前なら、その動きを見てすぐに追いかけていた。

クロードは追わず、一度足を止めた。

ザナンの木剣だけではなく、足も肩も身体全体を見る。

ザナンも止まった。

「来ないのか?」

「行きますよ」

今度は少し角度を変えて踏み込む。

クロードが木剣を振ると、ザナンの木剣が上がった。

乾いた音が響く。

受けられた木剣をそのまま押し込まず、クロードはすぐに引いた。

ザナンの木剣が返ってくる。

クロードは身体を下げながら一歩横へ動いた。

木剣が目の前を通り過ぎる。

「へえ」

ザナンが声を漏らした。

クロードは構え直す。

「何ですか?」

「前と違うな」

「ずっと練習してましたから」

「そうみたいだな」

ザナンが笑った。

次はザナンから動いた。

一気に距離が縮まる。

クロードは木剣を上げる。

受けるつもりだった。

けれどザナンの木剣は途中で軌道を変え、クロードの肩へ軽く触れた。

「……あ」

「一本だな」

「今のずるくないですか?」

「どこがだよ」

「こっちだと思ったのに変えました」

「変えちゃ駄目なのか?」

「駄目じゃないですけど」

クロードは肩を見る。

痛いほどではない。

それでも、完全に取られた。

「もう一回」

「おう」

2人は距離を取り直した。

以前より身体は動く。

学園でも毎朝木剣を振り、剣術の授業でも基礎から繰り返してきた。

戦闘実践では先生だけでなく、同級生とも実際に木剣を交えた。

相手が動くことも、その相手によって動き方が違うことも、もう知っている。

それでもザナンは簡単には届かせてくれない。

クロードが入れば下がり、待てば自分から入ってくる。

木剣を振れば避けるだけではなく、受けて返してくる。

何度か打ち合ったあと、クロードは距離を取った。

「ザナン兄さまも前より速くなってません?」

「お前だけ練習してたわけじゃないからな」

「やっぱり」

「王都へ戻った理由、忘れたのか?」

「訓練するためでしたね」

「ああ」

ザナンは木剣を構え直した。

「こっちが休んでる間、向こうも止まってくれないって前にも言っただろ」

クロードは頷いた。

あの時、その言葉を聞いて少し驚いた。

自分が練習している間にも、相手は練習している。

あれからクロードはずっと剣を続けてきた。

けれど、その間にザナンも同じように続けていたのだ。

「じゃあ、もう一回です」

「結局そうなるのか」

「まだ当ててませんから」

「そういや、そんなこと言ってたな」

ザナンが笑う。

「今度は当てるって」

「覚えてたんですか?」

「言われた方は覚えてるもんだぞ」

「じゃあ当てます」

「やってみろ」

クロードも笑って構えた。

ザナンへ向かって踏み込む。

木剣を振る。

ザナンが横へ動いた。

クロードは追う。

けれど深くは入らない。

一度止まり、ザナンを見る。

ザナンもこちらを見る。

そのまま少しだけ距離が空いた。

先に動いたのはザナンだった。

一歩入ってくる。

その瞬間、クロードも前へ出た。

ザナンの木剣が動く。

クロードは振ろうとしていた木剣を一度止め、身体を横へずらした。

ザナンの木剣が肩の横を抜ける。

今度はクロードが木剣を振った。

ザナンの木剣が戻ってくる。

間に合う。

そう思った瞬間、木剣の先がザナンの脇腹へ触れた。

「……あ」

クロードの動きが止まる。

ザナンも止まった。

自分の木剣を見る。

確かに届いている。

「当たった!」

クロードが顔を上げた。

ザナンは自分の脇腹を見てから、クロードを見る。

「……本当に当てたな」

「はい!」

思わず笑みが広がった。

何度やっても届かなかった。

長い棒を持たれた時には、近づくことすら難しかった。

あの時からずっと続けてきて、今初めて届いた。

「約束どおりですね」

「ああ」

ザナンも笑った。

「約束どおりだ」

クロードは木剣を握ったまま、もう一度距離を取った。

「もう一回やりましょう」

「もう満足したんじゃないのか?」

「一回だけですから」

「欲張りだな」

ザナンも構える。

「来い」

クロードはさっきと同じように踏み込んだ。

ザナンが動く。

横へ。

クロードも方向を変える。

さっき通った。

もう一度入れる。

そう思って踏み込んだ瞬間、ザナンが止まった。

「え?」

クロードが一瞬迷う。

その間にザナンの身体が反対へ動いた。

木剣がクロードの脇へ軽く触れる。

「一本」

「……さっきと違う」

「そりゃ変えるだろ」

ザナンが笑った。

「一回当てられたのに、同じことすると思うか?」

クロードは木剣を下ろした。

「思わないです」

「だろ?」

「でも、もう一回いけると思いました」

「それなら次は、そう思ってるところまで考えないとな」

クロードは少し考えた。

自分が変われば相手も変わる。

学園でも何度も経験したことだった。

一度うまくいった動きが、次も通るとは限らない。

相手もこちらを見ている。

「やっぱり難しいですね」

「今さらか?」

「前にも言った気がします」

「俺も聞いた気がする」

2人は顔を見合わせて笑った。


◇


何度か打ち合ったあと、2人は稽古場の端で休んでいた。

クロードは地面へ置いた木剣を見ながら、さっきザナンへ届いた時の動きを思い返していた。

一度は当たった。

その次には、すぐ対応された。

前より出来ることは増えている。

それでも、ザナンにもまだ自分の知らないものがある。

クロードは隣にいる兄を見る。

「ザナン兄さま」

「ん?」

「Giftも使ってみてください」

ザナンの動きが止まった。

「……俺の?」

「はい」

「《一点突破》を?」

「はい!」

「なんでそんな嬉しそうなんだよ」

「見たいからです」

ザナンが呆れたようにクロードを見る。

「お前、昔から変わらないな」

「前に名前は聞きましたけど、ちゃんと使ってるところは見たことないです」

「そうだったか?」

「はい」

クロードは少し身を乗り出した。

「どうやって使うんですか?」

「それを今から説明するのか?」

「お願いします」

ザナンはしばらくクロードを見ていたが、やがて立ち上がった。

「分かったよ」

「やった」

「ただし、お前相手には使わないぞ」

「えっ」

「えっ、じゃない」

ザナンは壁際へ歩いていくと、そこに置かれていた長い棒を一本取った。

以前の稽古でも槍の代わりに使ったものだ。

「少し離れてろ」

「はい」

クロードは言われた通り距離を取る。

ザナンは長い棒を両手で持った。

木剣を持っていた時より、構えた姿が自然に見える。

以前もそう感じた。

「《一点突破》はな」

ザナンが足元を確かめる。

「力を一つの方向にまとめるんだ」

「一つの方向?」

「ああ」

ザナンは前を見る。

「見てろ」

身体が僅かに沈んだ。

「《一点突破》」

次の瞬間、ザナンが踏み込んだ。

長い棒が前へ突き出される。

クロードは目を見開いた。

速い。

けれど、それだけではなかった。

踏み込んだ足から身体、腕、そして棒の先までが、一つにつながったように見えた。

途中でほとんど揺れない。

真っ直ぐ前へ伸びた棒が止まる。

ザナンはゆっくりと引き戻した。

クロードはすぐに近づいた。

「もう一回お願いします!」

「やっぱりそう言うと思った」

「今の、いつもの突きと違いました」

「分かるのか?」

「はい」

クロードはさっきの動きを思い返す。

「速かったですけど、それより……途中で全然ぶれなかったです」

ザナンが少し驚いたようにクロードを見る。

「よく見てるな」

「力を一つの方向にまとめるからですか?」

「ああ」

ザナンは長い棒を軽く持ち上げた。

「踏み込んだ力も、身体を動かした力も、最後まで散らさず先へ通す感じだ」

「だから槍と合うんですね」

「そうだな。俺はこれが一番使いやすい」

クロードは長い棒の先を見る。

ただ強く突いているわけではない。

身体から生まれた力を、先までつなげている。

「木剣でもできますか?」

「出来なくはない」

「拳でも?」

「出来る」

「走る時は?」

「おい、質問増えてないか?」

「気になるから」

「やっぱり変わってないな、お前」

ザナンが笑った。

クロードも笑う。

けれど、まだ一つ気になることが残っている。

「ザナン兄さま」

「今度は何だ?」

「僕とやってみてください」

「嫌だ」

即答だった。

「まだ何も言ってません」

「Gift使って俺とやってみてください、だろ?」

「はい」

「嫌だ」

「少しだけでも?」

「駄目だ」

「手加減しても?」

「駄目」

クロードは少し口を尖らせた。

「さっき木剣ではやったのに」

「木剣とこれを一緒にするな」

ザナンは長い棒を持ち上げる。

「お前に向けて試す必要はない」

「避けられるかもしれません」

「その『かもしれない』でやるな」

クロードは黙った。

少し前に、ガルディオからも似たようなことを言われた気がする。

出来ることと、使うべき時は別だ。

「……分かりました」

「意外と素直だな」

「でも、いつかはやってみたいです」

「まだ言うのか」

ザナンは呆れながら笑った。


◇


稽古を終え、クロードとザナンは木剣と長い棒を元の場所へ戻した。

クロードは自分の木剣から手を離し、隣に立つザナンを見る。

以前は一度も届かなかった。

今日は一度届いた。

けれど、その次にはもう同じようには届かなかった。

自分が強くなった間に、ザナン兄さまも強くなっていた。

そして今日初めて見た《一点突破》もある。

クロードは少し笑った。

「何笑ってるんだ?」

ザナンが尋ねる。

「まだいっぱいありますね」

「何が?」

「出来るようになりたいことです」

ザナンは一瞬クロードを見てから、小さく笑った。

「そうか」

「次はGiftを使ったザナン兄さまとやってみたいです」

「まだ諦めてなかったのかよ」

「はい!」

「当分やらないからな」

「じゃあ、その間にもっと強くなります」

「好きにしろ」

ザナンが先に歩き出す。

クロードもその後を追った。

今度は当てる。

あの時の約束は果たせた。

けれど、その先にはまた知らないものがあった。

クロードは楽しそうに笑いながら、ザナンの隣へ並んだ。

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