2年生の終わり
9対9の戦闘実践が終わったあとも、学園での日々は続いた。
魔法基礎ではこれまでに学んだことを確認し、魔法実習ではそれぞれが自分の魔法を繰り返した。
クロードも右手で雷魔法を使いながら、合間には左手で《印》を作る練習を続けた。
左手で使える時は増えてきたが、急いでいる時にはまだ右手の方が早い。
放課後になれば、ノーゼスやエクリアと魔法演習場へ向かう日もあった。
ノーゼスは土魔法を使い、エクリアは水と風を切り替えながら練習する。
戦闘実践が終わっても、3人が練習をやめる理由にはならなかった。
ほかのクラスメイトたちも、それぞれ授業を受け、練習し、いつも通りに日々を過ごしていった。
そうして残っていた日も少しずつ減っていった。
◇
終期式の日、クロードが教室へ入ると、すでに何人ものクラスメイトが席についていた。
普段と違い、今日は机の上に教本を広げている者はいない。
「クロード」
ノーゼスが自分の席から手を上げた。
「おはよう」
「おはよう」
クロードが近づくと、近くにいたエクリアもこちらを見る。
「今日で終わりね」
「うん」
クロードは自分の席へ鞄を置いた。
「なんか早かったな」
ノーゼスが言う。
「そう?」
「だって、ついこの前9対9やった感じするだろ」
「それは本当についこの前だからじゃない?」
エクリアが返した。
ノーゼスが少し黙る。
「それもそうか」
近くから笑い声が聞こえた。
「ノーゼス、お前の壁ほんと邪魔だったぞ」
ガレスが振り向いて言う。
「敵だったんだから当たり前だろ」
「味方の時はありがたいんだけどな」
「じゃあ感謝しろよ」
「敵の時はしない」
少し離れたところでは、ザナトスがタンガと何か話していた。
やがてこちらへ顔を向ける。
「クロード」
「なに?」
「3年になっても次は負けないからな」
クロードは少し考える。
「この前、勝ち負け決めてないよ」
「そういう話じゃねえ!」
ザナトスの声に、また何人かが笑った。
「朝から元気ね」
エクリアが呆れたように言う。
「休み入るからだろ」
ノーゼスはそう言いながら椅子へ座った。
教室の中では、ほかにも休みの話が聞こえてくる。
しばらく学園へ来ないこと。
家へ帰ること。
何をして過ごすか。
話題はそれぞれ違っていた。
やがて扉が開き、ゼルトスが教室へ入ってきた。
ざわついていた声が少しずつ静かになる。
「おはよう、諸君」
ゼルトスはいつものように教室を見渡した。
「今日は授業ではないからね、教本を忘れた者がいても私から言うことはない」
何人かが笑う。
「もっとも、今日わざわざ持ってきた者がいたなら、それはそれで感心するが」
クロードは自分の鞄を見る。
今日は教本を入れていない。
「では、そろそろ行こうか」
18人が立ち上がり、教室を出た。
◇
終期式には、2年生だけでなく学園で学ぶ生徒たちが集まっていた。
クロードたちは決められた場所へ並ぶ。
学園長の言葉を聞きながら、クロードは周囲を見回した。
少し前までは、今日が特別な日だという感じはあまりしていなかった。
朝も、教室に入ればノーゼスやエクリアがいて、ザナトスがいつものように声を掛けてきた。
けれど、この式が終われば2年生として学園へ来る日はもうない。
そのことを考えると、少しだけ不思議な感じがした。
式はそのまま進み、やがて終わりを迎えた。
クロードたちは再び教室へ戻る。
◇
全員が席につくと、ゼルトスが教卓の前に立った。
「さて」
教室をゆっくり見渡す。
「これで君たちの2年生としての日程はすべて終了だ」
教室の中が少し静かになった。
「明日からは冬休みに入る」
ノーゼスが小さく息を吐く。
「休みだ」
エクリアが横目で見る。
「聞こえてるわよ」
「別にいいだろ」
ゼルトスは2人の方を見たが、何も言わず少し笑った。
「休みだからといって、これまで学んだことまで休ませる必要はない」
「ほら」
エクリアが小さく言う。
「分かってるって」
ノーゼスも小声で返した。
「とはいえ、休む時に休むことも大切だ」
ゼルトスが続ける。
「家へ戻る者も、王都で過ごす者もいるだろう」
クロードはその言葉を聞きながら、自分が休みをどう過ごすかを考えた。
まだ具体的には決めていないこともある。
「そして次に学園へ来る時、君たちは3年生になる」
教室のあちこちから小さな声が上がった。
「3年か」
ガレスが呟く。
「やっとだな」
ザナトスが言う。
「何がやっとなのよ」
マミヤが聞く。
「3年になるのがだよ」
「みんな同じでしょ」
「そういう意味じゃねえって」
また教室に笑いが広がった。
ゼルトスはそれが収まるのを待つ。
「休みの間に怪我をして、初日から欠席などという格好の悪いことはしないように」
少しだけ口元を上げる。
「では、3年生になった君たちに会えるのを楽しみにしているよ」
それで最後の連絡は終わった。
椅子が引かれ、教室の中が一気に賑やかになる。
帰り支度といっても、今日は持って帰るものも多くない。
クロードが鞄を持つと、ノーゼスが近づいてきた。
「明日からどうする?」
「まだ全部は決めてない」
「練習はするんだろ?」
「うん」
「やっぱり」
エクリアも鞄を持ってこちらへ来る。
「休みの間に左手も練習するつもり?」
「するよ」
「私は水も風も続けるわ」
「俺も土魔法やる」
ノーゼスが言う。
クロードは2人を見る。
休みになるからといって、今までやっていたことがなくなるわけではない。
ただ、明日からしばらくこの教室へ来なくなる。
「行こうぜ」
ノーゼスに言われ、クロードも歩き出す。
教室の出口では、ほかのクラスメイトたちも次々に廊下へ出ていた。
クロードは一度だけ振り返る。
2年生になった日に入った教室。
ここで新しい魔法を学び、何度も授業を受けた。
戦闘実践について18人で黒板を囲んだ日もあった。
けれど、今はもう誰も黒板の前に立っていない。
「クロード?」
エクリアに呼ばれ、前を向く。
「今行く」
3人で廊下を歩き出す。
「次来たら3年生か」
ノーゼスが言った。
「そうね」
クロードは少し先の廊下を見る。
3年生になれば、また知らないことが増える。
何を学ぶのか。
何ができるようになるのか。
まだ分からないことの方が多い。
クロードは少し笑った。
「楽しみだね」




