1人違うだけで
短い休憩を終えると、クロードたちはもう一度第2運動場へ集まった。
さっきまで結界の外にいたフィオネは、今度は片方のコートの中で身体を動かしている。
代わりに外へ出ていたのはトルシアだった。
「先生も変わった」
クロードが言うと、ノーゼスもコートを見る。
「本当だ」
「人数だけじゃないみたいね」
エクリアが続けた。
授業開始の魔導の鐘が鳴る。
トルシアが18人の前へ立った。
「2限目は、人数を変えます」
生徒たちの視線が2つのコートへ向く。
「こちらは先生2人に対して生徒4人」
トルシアが片方を示す。
続けて、もう一方へ目を向けた。
「こちらは先生2人に対して生徒6人です」
「違う人数でやるんですか?」
ベンが聞いた。
「はい」
トルシアはそれ以上の説明を足さなかった。
「防具、救護ゾーン、セーフティーゾーンの使い方は先ほどと同じです」
「1試合25分、間に10分休憩を入れ、2試合行います」
外側へ回る8人の木剣対峙と見学も、先ほどと同じように順番が決められている。
最初の10分と次の10分で役割を交代し、最後の5分は全員で戦闘を見る。
違うのは、結界の中に入る人数だった。
トルシアが最初の組み合わせを読み上げていく。
4人側に入るのは、クロード、マミヤ、ベン、ラン。
相手はオルディクとダルガンだった。
もう一方の6人側にはエクリアたちが入り、ネノマとフィオネを相手にする。
ノーゼスとザナトスは最初の試合では外側だった。
クロードは防具を身につけながら、4人側のコートを見る。
「1人少ないだけなんだけど」
1限目は5人だった。
今回は4人。
数字だけなら違うのは1人だった。
準備を終え、4人で結界の中へ入る。
オルディクとダルガンはすでに木剣を持って待っていた。
クロードは右手に木剣を持つ。
横を見ると、ランも木剣を構え、マミヤとベンは少し距離を取っている。
結界の外からトルシアの声が届いた。
「始めてください」
4人が動いた。
最初に前へ出たのはランだった。
オルディクがそちらへ向く。
クロードは反対側から進もうとする。
その前へダルガンが動いた。
「こっち来た!」
クロードが声を出す。
マミヤが横へ移動し、《ウィンドボール》を放った。
ダルガンが避ける。
その間にクロードが一歩前へ出る。
けれどオルディクもすぐこちらへ向きを変えた。
先生2人が別々に動くだけで、4人のうち2人がすぐに相手をすることになる。
1限目なら、そのさらに後ろにもう1人いた。
今はいない。
ベンが位置を変える。
ランも戻る。
「オルディク先生、こっち!」
ランの声にクロードが振り向く。
オルディクがランへ向かった。
クロードはダルガンを見る。
右手には木剣がある。
距離も少しある。
左手を上げようとして、止めた。
ダルガンはこちらを見ている。
今から左手で《印》を組めば遅い。
クロードは木剣を左手へ持ち替えた。
右手で《印》を組む。
「《サンダーボール》!」
雷球が飛ぶ。
ダルガンが横へ避けた。
クロードはすぐに右手へ木剣を戻す。
左手でも出せるかもしれない。
けれど今は、右手の方が速かった。
そのまま前へ出ようとしたところで、後ろから声が飛ぶ。
「ラン!」
マミヤだった。
振り向く。
オルディクの《ファイアボール》がランへ向かっている。
ランは横へ動いたが、避けきれなかった。
炎の球が防具へ当たり、その場で散る。
「っ!」
ランが足を止めた。
「ラン、救護へ」
結界の外からトルシアの声が掛かる。
「はい」
ランがコートを離れる。
4人が3人になった。
その間にも先生2人は止まらない。
「3人!」
クロードが言う。
「見えてる!」
マミヤが返す。
ダルガンがマミヤへ向かう。
オルディクはクロードを見る。
ベンが横から光の球を放つ。
オルディクがそちらへ目を向けた。
クロードは前へ出る。
木剣を振る。
オルディクが受けた。
すぐに離れる。
今度はダルガンの方を見る。
マミヤが後ろへ下がっていた。
息が大きくなっている。
「少し休む!」
マミヤがセーフティーゾーンへ向かう。
中へ入った。
残ったのはクロードとベンだけだった。
向かいには先生が2人いる。
「2人になった」
ベンが言う。
「うん」
1限目は5人から3人になった時にも少なく感じた。
今は最初から4人しかいなかったため、同じように2人抜けるだけで先生と人数が並んだ。
クロードはオルディクとダルガンを交互に見る。
どちらかだけを見続けていれば、もう片方をベン1人に任せることになる。
「僕、オルディク先生見る」
「じゃあ僕はダルガン先生」
ベンが答えた。
完全に分かれるわけではない。
先生も同じ相手だけを見てくれるわけではなかった。
オルディクがクロードへ近づいたと思った次の瞬間、向きを変えてベンへ進む。
「ベン!」
クロードが声を上げる。
ベンが下がる。
その間にダルガンがクロードへ近づいてきた。
右手の木剣を構える。
受ける。
横へ動く。
間を作る。
魔法を使える距離になった。
左手を少し上げる。
ダルガンはベンの方も見ている。
オルディクはまだ少し離れていた。
今なら時間がある。
クロードは左手で《印》を組み始めた。
1限目より指は動いた。
雷が集まる。
その途中でオルディクがこちらへ向きを変えた。
クロードはすぐ左手を下ろした。
最後まで作らない。
木剣を構え直す。
オルディクが近づいてくる。
間に合った。
木剣を受け、そのまま横へ逃げる。
左手で魔法を使えるかどうかだけを見ていた時とは違う。
今は使わない方を選んだ。
しばらくしてランが救護から戻ってきた。
「戻った!」
「助かった!」
ベンが声を上げる。
3人になる。
少し遅れてマミヤもセーフティーゾーンから戻った。
再び4人が揃う。
人数が戻っただけで、自分が見なければならない場所が少し減ったように感じた。
それでも先生2人の位置は変わり続ける。
やがて25分が終わった。
「そこまでです」
トルシアの声で全員が止まる。
クロードは大きく息を吐いた。
コートを出る時、隣の6人側を見る。
まだ最後の位置から動き始めたところだった。
「6人だったら、もう少し楽なのかな」
思わず口にすると、近くを歩いていたランがそちらを見る。
「人多かったもんね」
答えはまだ分からなかった。
◇
10分の休憩に入る。
生徒たちは水を飲み、防具を緩めながら身体を休めた。
先生たちもそれぞれ結界の外へ出ている。
ノーゼスがクロードのところへ来た。
「4人どうだった?」
「途中で2人になった」
「2人?」
「ランが救護行って、マミヤが休んだ時」
ノーゼスが少し笑う。
「先生と同じ人数じゃん」
「全然同じ感じじゃなかったよ」
「そりゃ先生だしな」
そこへエクリアも来た。
「6人の方も結構動きにくかったわよ」
クロードが振り向く。
「そうなの?」
「前へ出ようとしたら誰かいるし、魔法を使おうとしたら人が動いてくるし」
「でも6人いたんでしょ?」
「いたからなのよ」
クロードは少し首を傾げた。
人数が多い方にも違う問題があるらしい。
「次の組み合わせを確認してください」
トルシアの声が掛かる。
生徒たちがもう一度集まった。
1試合目に外側だった8人は全員、今度は戦闘へ入る。
そこへ1試合目から2人が続けて参加する。
呼ばれた名前の中にクロードもあった。
「また戦闘だ」
「今度はどっち?」
ノーゼスが聞く。
「6人の方」
「俺もだ」
今度の6人側は、クロード、ノーゼス、ピア、ミナ、ミズー、リーゼ。
相手はネノマとオルディクだった。
4人側にはエクリア、ザナトス、ヤンナ、タンガが入り、ダルガンとフィオネを相手にする。
先生の組み合わせも1試合目とは変わっていた。
クロードは6人でコートへ入る。
さっきより味方が2人多い。
広く感じるかと思ったが、並んでみると逆だった。
自分の近くにも、その先にも人がいる。
「始めてください」
2試合目が始まった。
ノーゼスが少し横へ動く。
リーゼが反対側へ出る。
クロードも前へ行こうとした。
その場所へミナも動いた。
「あ」
2人が同時に足を止める。
「クロード、先行って」
「うん」
クロードが前へ出る。
その横からピアが《ウォーターボール》を作った。
クロードはすぐ足を止めた。
今進めば射線へ入りそうだった。
水球が飛ぶ。
ネノマが横へ避ける。
その先にリーゼがいたため、リーゼも一度動きを止めた。
「人多い」
クロードが思わず言う。
後ろからノーゼスの声がする。
「でも前空いたぞ!」
見ると、オルディクが反対側へ動いていた。
クロードが前へ出る。
今度は右側からミズーも進む。
「右行く!」
ミズーが声を出す。
「じゃあ僕こっち!」
クロードは左へずれた。
1限目より声が増えている。
誰がどこへ動くのか、聞こえても一度で全部は拾えない。
ネノマが風を放つ。
ピアが避ける。
その後ろにいたミナも動く。
2人が同じ方向へ避け、少しぶつかりそうになった。
「ごめん!」
「大丈夫!」
その隙にオルディクが前へ出る。
クロードは木剣を構えた。
オルディクとぶつかる。
離れる。
魔法を使おうとして右手を空けようとした時、目の前をリーゼが横切った。
クロードは持ち替える途中で止めた。
「リーゼ、前いる!」
「分かってる!」
そのまま魔法は使わない。
リーゼが離れてから、改めて周囲を見る。
ネノマはノーゼスの方。
オルディクはこちらへ戻りかけている。
今から左手で《印》を組む時間はない。
クロードは木剣のまま動いた。
少しして先生2人が反対側へ寄った。
今度は距離がある。
右手には木剣を持ったまま。
左手を上げる。
《印》を組む。
雷が集まる。
「《サンダーボール》!」
雷球が飛ぶ。
オルディクがこちらを見て避けた。
当たらない。
それでもクロードは雷の行方を追い続けなかった。
すぐネノマを見る。
次に仲間を見る。
ノーゼスが前へ出ようとしている。
「ノーゼス、オルディク先生そっち行く!」
「見えてる!」
ノーゼスが位置を変えた。
さっきのように、魔法を出したところで周りが止まるわけではない。
クロードもそのまま動く。
やがてピアが先生の魔法を受け、救護へ抜けた。
6人が5人になる。
それでも1試合目でランが抜けた時ほど、大きく減ったようには感じなかった。
さらにミズーがセーフティーゾーンへ入る。
4人になる。
「これでさっきと同じ人数だ」
クロードが言う。
けれど状況は同じではない。
一緒にいる人が違う。
先生も違う。
立っている場所も違う。
4人になったからといって、1試合目と同じ動きにはならなかった。
ノーゼスが《ロックウォール》を立てる。
リーゼがその横へ回る。
ミナは少し離れた位置へ移る。
クロードも壁の後ろには入らず、空いている方へ動いた。
人数が減ったことで、さっきまで狭く感じていた場所が少し広がる。
けれどその分、空いているところも増えた。
ネノマがそこへ動く。
「来た!」
リーゼが振り向く。
また全員の位置が変わる。
25分の間に、6人が揃っている時間もあれば、5人、4人になる時間もあった。
戻ってくる人がいれば、また増える。
人数だけではなく、そのたびに使える場所まで変わっていった。
やがてトルシアの声が響く。
「そこまでです」
クロードは木剣を下ろした。
2試合目が終わった。
◇
防具を外し、木剣を戻しながら、生徒たちは使った場所を片づけていく。
2限続けて動いたため、あちこちから疲れた声が聞こえていた。
先生たちも結界の外へ出て水を飲んでいる。
片づけが一段落したところで、トルシアが全員を集めた。
「1限目は5人でした」
クロードたちが先生を見る。
「2限目は4人と6人です」
トルシアはそこで一度言葉を切った。
「何が違いましたか?」
少し考える時間が流れる。
ランが手を上げた。
「4人の方は、1人抜けた時にすごく減った感じがしました」
「6人は人が多くて動きにくかったです」
別の生徒も続ける。
「魔法を使おうとした時に前に人がいました」
「声も多かった」
いくつかの意見が出る。
ノーゼスが言った。
「でも減ったら動きやすくなったところもあった」
「そうね」
エクリアも頷く。
「その代わり、見るところが増えたけど」
トルシアは誰かの答えを正解だとは言わなかった。
「次も同じ人数になるとは限りません」
何人かが顔を上げる。
「人数だけとも限りません」
それだけ言うと、トルシアは授業終了を告げた。
魔導の鐘が鳴る。
クロードは2つのコートを見る。
5人。
4人。
6人。
始まる時の人数は違った。
けれど、戦っている途中にも救護へ行く人や休む人がいて、その数は何度も変わった。
4人ならこうすればいい。
6人ならこうすればいい。
そんな決まった形にはならなかった。
クロードは左手を一度開く。
左手で魔法を使える時もあった。
使わない方を選んだ時もあった。
人数も、場所も、相手も、ずっと同じではない。
なら、その時に見て決めるしかない。
クロードは左手を閉じ、防具を持ってみんなと一緒に運動場を出た。




