外から見る
短い休みが終わる頃、クロードたちは結界の外へ移動した。
代わりに中へ入っていくのは、ザナトス、ガレス、マミヤ、カイル、ベン、ナーン、レクシア、ミズー、トルトの9人だった。
さっきまで外から見ていた9人が、今度は同じ大きな結界の中へ入る。
クロードは自分が戦っていた場所を外側から見た。
中にいた時より、結界全体がずっと小さく見える。
「広いと思ってたけど、外からだと全部見えるね」
「中だと端まで見る余裕なかったからな」
ノーゼスも結界を見渡している。
中では9人が集まっていた。
ザナトスが結界の中央と左右を順番に見る。
「さっき、真ん中に寄りすぎてたよな」
「右が空いてた時もあった」
マミヤが言った。
「後ろに集まりすぎるのもやめた方がよさそう」
カイルの言葉に何人かが頷く。
ベンは教師側のセーフティーゾーンを見た。
「先生が休む前も見ておきたい」
「休む方も早めに言おう」
ミズーが生徒側のセーフティーゾーンを見る。
1限目の30分を外から見て、その後の話し合いまで聞いている。
何も知らないまま入ったクロードたちとは違う。
「そろそろ始めますよ」
フィオネの声が掛かった。
9人がそれぞれの位置へ広がっていく。
ザナトスとガレスは木剣を持った。
トルトも少し迷ってから1本取る。
ほかの生徒は距離を取りながら先生4人を見る。
「結構広がったな」
ノーゼスが言った。
クロードも頷く。
自分たちは始まってしばらくすると中央へ寄っていた。
今の9人は、最初から左右にも人がいる。
開始の合図が掛かった。
ザナトスがオルディクへ向かう。
反対側ではガレスがダルガンとの距離を詰めた。
その後ろからマミヤの風が飛ぶ。
ダルガンが横へ動いた。
レクシアが土魔法を放つ。
さらに離れた場所からカイルの水がネノマへ向かった。
ネノマが避ける。
その先には誰もいない。
「最初から結構ばらけてるね」
ピアが言った。
「さっきより動ける場所はありそう」
エクリアが答える。
クロードもそう見えた。
結界の中央には大きな空きがある。
左右にも生徒がいるため、先生が動けば近くの誰かが反応していた。
ベンの光がトルシアの前に出る。
トルシアが顔をそらすように位置を変え、その先へナーンが火を放った。
当たらない。
それでもトルシアは同じ場所にはいなかった。
「いいな」
タンガが呟く。
けれど、しばらくすると少しずつ形が変わり始めた。
オルディクが大きく左へ回る。
ザナトスが追う。
その動きに合わせてトルトも中央から左へ寄った。
右側ではネノマがマミヤへ近づいている。
マミヤが後ろへ下がった。
「右、少なくなってない?」
ミナが言った。
クロードも右側を見る。
さっきまでは広く使えていたはずなのに、先生たちが動いたことで人の偏りが変わっていた。
「でも、右に行けばいいだけじゃないよね」
クロードが言った。
「先生がいるものね」
エクリアがネノマを見る。
中にいた時なら、自分の近くにいる先生を見るだけでも精いっぱいだった。
外からなら、誰がどこへ動いているのかがよく見える。
ザナトスが左側から中央へ戻る。
少し離れたガレスが何か声を掛けた。
けれど、ザナトスは振り返らなかった。
「聞こえてない?」
ピアが言う。
「離れてるからかな」
ノーゼスが答えた。
今度はカイルがベンへ声を掛ける。
ベンが振り返るまでに少し間があった。
広がっている分だけ、声が届くまでにも時間が掛かっているように見える。
その間にも先生たちは動いている。
ネノマが中央へ入り、トルシアが右へ動く。
レクシアが土魔法を使う。
マミヤの風が別の方向から飛ぶ。
ザナトスたちもすぐに位置を変えた。
「さっきより集まってないけど、話すのは大変そうだな」
ノーゼスが言った。
クロードは1限目のことを思い出す。
自分たちは後ろで4人集まり、前に残ったリーゼたちから急かされた。
今の9人は固まってはいない。
その代わり、近くにいない相手へ伝えるのに時間が掛かっている。
「どっちがいいんだろう」
クロードが呟いた。
「どっちも困るんじゃない?」
エクリアが言った。
「集まりすぎても困るし、離れすぎても困る」
「うん」
クロードは結界を見る。
その時、生徒側のセーフティーゾーンへカイルが向かった。
少し遅れてマミヤも入る。
休憩枠が2人で埋まる。
「早めに入ったね」
ミナが言った。
「さっきの話、聞いてたからじゃない?」
ピアが答える。
カイルたちは水を飲みながら、結界の中を見ていた。
戦場では7人が残る。
教師はまだ4人いる。
オルディクがザナトスへ近づく。
ダルガンはガレスを追う。
トルシアとネノマも左右から動いた。
休んでいる2人の分だけ、残った7人が動く場所は増えている。
けれど同時に、空いた場所も増えていた。
「あそこ、空いてる」
クロードが言った。
右の奥には生徒がいない。
先生もすぐ近くにはいない。
「行けそうに見えるな」
ノーゼスが言った。
クロードもそう思った。
けれど、すぐには頷かなかった。
自分が中にいた時も、外からは空いて見えた場所があった。
実際には魔法が飛んでいたり、先生が近かったり、別の場所を見なければならなかった。
「あそこに行けない理由があるかもしれない」
クロードが言う。
「でも本当に気づいてないだけかもしれないわよ」
エクリアが返した。
「それもあるね」
外から見ただけでは、どちらなのかは分からない。
やがてカイルがセーフティーゾーンから出てきた。
木剣は持っていない。
少ししてマミヤも戻る。
こちらも風魔法を使える位置へ向かった。
今度はガレスが休憩へ入る。
空いていた右側へトルトが移動した。
さっきまで左にいたザナトスも中央へ戻っている。
少しずつ位置が変わっていた。
最初に広がっていた形のまま戦っているわけではない。
先生側でもダルガンがセーフティーゾーンへ入った。
3人になった教師を見ると、ザナトスが前へ出る。
ガレスがまだ休んでいるため、生徒側も8人しかいない。
それでもザナトスはオルディクとの距離を詰めた。
ナーンの火がその横から飛ぶ。
オルディクが避ける。
ベンの光が別の方向から入る。
ザナトスは追おうとして、一度足を止めた。
そこへトルシアが回ってきた。
「先生1人減っても、楽そうには見えないね」
ピアが言った。
「私たちの時と同じね」
エクリアが答える。
戦闘が続く。
休憩する人が変わる。
木剣を持つ人も変わる。
最初は木剣を持っていなかったレクシアが、休憩から戻る時には木剣を取った。
反対にザナトスは途中で木剣を置き、火魔法を使う位置へ下がった。
そのたびに先生たちも向きを変える。
クロードはその動きを外から追った。
中にいた時には、自分の前にいる先生と近くの味方を見るだけで手いっぱいだった。
今は結界全体が見える。
けれど、全体が見えるからといって、中で何が起きているのか全部分かるわけではない。
フィオネの声が飛ぶ。
「残り、あと少しです!」
戦場にいる生徒たちの動きが少し変わった。
休憩へ向かおうとしていたトルトが足を止める。
そのまま中央へ戻った。
教師側からネノマが休憩へ入る。
ザナトスが再び前へ出る。
30分の終わりまで動きは止まらなかった。
やがて終了の合図が掛かる。
結界の中で何人かがその場に座り込んだ。
ザナトスも大きく息を吐く。
「長い……」
その声に、外側でノーゼスが笑った。
「だろ?」
◇
全員が少し休んだあと、2回目のディスカッションが始まった。
今度はクロードたちが外から見たことを話す側だった。
「最初、かなり広がってたよね」
エクリアが言う。
マミヤが頷いた。
「1限目で、みんなが真ん中に寄ってたから」
「だから最初から離れたの?」
「うん」
カイルが答える。
「動く場所は作りやすかった」
少し間を置いて、ザナトスが言った。
「でも離れすぎた」
「声が聞こえない時あったな」
ガレスも続ける。
「近くにいる奴とは話せるけど、反対側まで伝えるのが遅くなる」
「外からもそう見えた」
ノーゼスが言う。
「呼んでるのに気づいてない時あったぞ」
ベンが頷いた。
「光を出そうとしてる時、反対側の声まで聞けなかった」
今度はクロードが手を上げた。
「途中、右側が空いてる時があった」
トルトが少し考える。
「あそこは行けそうだった?」
「外からは」
クロードは答える。
「でも、中で何があったかは分からなかった」
トルトが頷いた。
「トルシア先生が近くにいた」
「やっぱり」
「でも、そのあと本当に空いてた時もあった」
レクシアが横から言った。
「その時は気づくの遅れた」
クロードは2人を見る。
同じように空いて見えた場所でも、理由は同じではなかった。
行けない時もある。
気づいていない時もある。
外から見ただけでは、その違いまでは分からない。
「休むの早かったよね」
ミナが言った。
カイルが笑う。
「さっき休めなくなってたの見たから」
「それは助かった」
ザナトスが言う。
「でも休んだら休んだで、残ってる方はきつかった」
「結局きついんじゃん」
ノーゼスが言うと、何人かが笑った。
トルシアも小さく笑ってから口を開いた。
「1限目を見ていたことは、役に立ちましたか?」
「役に立ちました」
ザナトスが答える。
「でも、そのままじゃ無理でした」
「どうしてですか?」
「先生の動きも違うし、俺たちの位置も変わるからです」
トルシアが頷く。
フィオネが外側から全員を見る。
「中から見えたことと、外から見えたこと」
「今日は両方を経験した人もいますね」
クロードは結界を見る。
1限目は中にいた。
2限目は外から見た。
同じ30分の演習なのに、見えていたものはかなり違った。
それでも、どちらかだけが正しいわけではなかった。
◇
夜、クロードは寮の机にノートを広げた。
今日の頁には、まず2つに分けて書いた。
『中にいた時』
その下に、思い出したことを書いていく。
『近くの先生』
『味方の位置』
『魔法の射線』
『疲れ』
『休みたい時に休めない』
少し間を空ける。
今度は、もう1つ書いた。
『外から見た時』
『全体の位置』
『人が集まっている場所』
『空いている場所』
『休む前の動き』
『離れていると声が届きにくい』
クロードは手を止めた。
外から見えた空いている場所にも、行けない理由がある時があった。
本当に気づいていない時もあった。
中にいれば分かることがある。
外からだから見えることもある。
以前の《六環球》でも、外から見ていた時と実際に中へ入った時では違っていた。
相手もこちらを見て、動きを変えた。
今日も同じだった。
分かったと思って中へ入っても、そのままにはならない。
クロードは頁の下に2行だけ書き足した。
『外から見えること』
『中にいる時に分かること』
その間をしばらく見つめる。
けれど、その下には何も書かなかった。
ノートを閉じる。
今日分かったことは、まだ2つに分かれたままだった。




