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『異世界転生した製鉄所主任、雷魔法と鉱物生成で成り上がる ~未知の世界は面白いことだらけでした~』~幼少期・王立学園編~  作者: 黎明の星
王立学園編

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146/244

見る場所が増える

休みが明け、それから次に戦闘実践の授業があった日、クロードたちは第2運動場へ集まっていた。

クロードは授業用の木剣を受け取り、ノーゼスやエクリアと一緒に先生たちの方へ向かう。

その途中で、いつもと違う場所に気づいた。

これまで4か所に分けていた演習区画のうち、片側の2つが今日は1つにつながっている。

中央にあったはずの境目がなく、そのぶん囲われた場所が横へ広くなっていた。

「広くなってる」

クロードが言うと、隣でノーゼスもそちらを見る。

「ほんとだ」

「先生たちも2人いるわね」

エクリアの視線の先には、広い結界の前にトルシアとネノマが立っていた。

そのほかの2つの結界には、オルディクとダルガンが1人ずつ入っている。

フィオネは少し離れた場所に並べられた木剣の近くにいた。

やがて魔導の鐘が鳴り、トルシアが生徒たちを集めた。

「最初に説明します」

18人が声の届くところへ集まる。

トルシアは広くなった結界へ目を向けた。

「これまでより、皆さんが周りを見て動ける場面が増えてきました」

「ですので、今日は1つやり方を増やします」

何人かの生徒が広い結界を見る。

「そちらでは先生2人を相手にしてください」

小さく声が上がった。

クロードももう1度トルシアとネノマを見る。

先生が1人増えることは、戦闘実践が始まる前に聞いていた。

実際に2人が同じ結界へ立っているのを見るのは初めてだった。

「生徒は5人です」

今度はノーゼスが反応した。

「5人?」

「はい」

トルシアが頷く。

「攻撃役2人、サポート役3人です」

「6人ではありません」

少し間を置いてから、広い結界全体を見る。

「3人ずつに分かれて、先生1人をそれぞれ相手にするためではありませんから」

クロードは広い結界の端から端まで目を動かした。

先生が2人いる。

味方は5人いる。

場所も今までの2つ分ある。

ただ人数が増えただけではなさそうだった。

「残り2か所は、これまでと同じ3人対先生1人です」

「演習に入らない7人は剣技指導へ回ってください」

フィオネが木剣の近くで手を上げた。

「時間はこれまでと同じ10分です」

「止めるよう指示されたら、すぐに攻撃を止めてください」

返事が重なる。

トルシアが最初の組み合わせを読み上げた。

広い結界へ入る5人の中に、クロードの名前もあった。

一緒なのはタンガ、ピア、ヤンナ、ランだった。

攻撃役はクロードとタンガ。

サポート役はピア、ヤンナ、ラン。

相手はトルシアとネノマだった。

「いきなりそっちか」

タンガが広い結界を見る。

「先生2人だね」

「見れば分かるって」

タンガが笑った。

クロードも少し笑って木剣を握り直した。

タンガも木剣を持っている。

ピアとヤンナとランは、自分たちの木剣を結界の外へ置いた。

5人で結界の中へ入る。

入ってみると、外から見た時よりも広かった。

今までなら隣の組がいた場所まで、そのまま動ける。

トルシアとネノマも少し離れて立っていた。

「広いな」

タンガが小さく言う。

クロードは頷いた。

先生2人を見る。

その後ろにいる3人も見る。

誰がどちらを見るのか、まだ何も決めていなかった。

開始の合図が掛かった。

タンガが先に動いた。

クロードも少し遅れて前へ出る。

トルシアはクロードの方へ、ネノマはタンガの方へ動いた。

クロードは木剣を構えながらトルシアとの距離を見る。

後ろからピアの声がした。

「水、いくよ!」

クロードは少し右へ寄った。

《ウォーターボール》が横を抜け、トルシアへ向かう。

トルシアが横へ避けた。

空いた。

そう思ってクロードが踏み込む。

その瞬間、左から別の足音が近づいた。

ネノマだった。

タンガの前にいたはずなのに、もうクロードの近くまで来ている。

クロードは踏み込みを止め、木剣を戻した。

ネノマの木剣も途中で止まる。

「先生、変わった」

クロードが声を上げる。

「見えてる!」

ヤンナが答えた。

その声の直後、今度はトルシアがピアの方へ進んだ。

ピアが下がる。

ランが右手を動かし始めた。

地面が少し盛り上がり、トルシアの進む先へ《グラウンドホールド》が作られる。

トルシアはその手前で向きを変えた。

けれど、その先へタンガが入ろうとした時には、ネノマがもう中央へ戻っていた。

「うわっ」

タンガが足を止める。

5人いるのに、誰かが動くたびに見える場所が変わる。

クロードはトルシアを追おうとして、また止まった。

自分の前をタンガが横切ったからだった。

後ろではヤンナが《印》を組みかけている。

「クロード、そこだと出せない!」

ヤンナに言われ、クロードは自分の位置を見る。

ヤンナとネノマの間に、自分が入っていた。

「ごめん!」

すぐに横へ動く。

ヤンナの手元に《ライトボール》が生まれた。

明るい光がネノマの顔の近くへ飛ぶ。

ネノマは顔をそらしながら1歩下がった。

クロードはそこへ行こうとした。

けれど、今度はトルシアが前へ出てくる。

木剣が伸びる。

クロードは自分の木剣で受けた。

乾いた音が鳴った。

その横ではタンガがネノマへ向かっている。

2人とも前へ出たことで、後ろの3人との距離が一気に開いた。

「遠い!」

ピアの声が聞こえた。

クロードは振り向きかけて、トルシアから目を外せずに止めた。

前も見たい。

後ろも見たい。

もう1人の先生も見たい。

けれど全部を同時には見られなかった。

その間に、ネノマがタンガの横を抜けた。

今度はランの方へ進む。

ランが下がりながら《印》を組もうとする。

タンガが追う。

クロードもそちらへ向かおうとした。

「そっち2人行ったら、こっち空く!」

ヤンナの声で足が止まった。

クロードの近くにはトルシアがいる。

ピアとヤンナのいる側へ動けば、今度はタンガから離れる。

クロードは木剣を握ったまま、ほんの一瞬迷った。

その一瞬でトルシアの木剣が胸の手前まで伸びてきた。

「そこまで」

トルシアが止める。

クロードは息を吐いて1歩下がった。

まだ時間は残っている。

「1度、位置を見てください」

トルシアの声で5人が少し距離を取った。

先生2人も元の位置へ戻る。

クロードは周囲を見る。

広い。

さっきは先生が1人動くたびにそちらばかり見ていた。

気づけばタンガも後ろの3人も離れていた。

「僕、前に行きすぎた」

クロードが言う。

「私も撃てなくなった」

ヤンナが答えた。

ピアも頷く。

「水を出す時、クロードが近いと怖い」

「うん」

クロードはトルシアとネノマを見る。

「行く前に言う」

タンガが木剣を肩の近くへ戻した。

「俺も言う」

ランが2人を見る。

「先生がこっち来たら言うよ」

「私も」

ヤンナが続けた。

長く話している時間はない。

再開の声が掛かった。

今度はクロードがすぐに走らなかった。

トルシアが右側にいる。

ネノマは少し離れた左側にいる。

タンガはクロードより左へ立った。

後ろの3人も、さっきより広がっている。

「僕、右から行く」

クロードが声を出す。

「分かった」

ピアの返事が返る。

クロードは前へ出るが、一気には近づかない。

トルシアがこちらへ向きを変えた。

「先に水いく!」

ピアの声。

クロードは踏み込みを止めた。

《ウォーターボール》が前へ飛ぶ。

トルシアは左へ避ける。

クロードはその動きを見た。

今なら近づける。

けれど、左側にはネノマがいる。

「ネノマ先生、中央!」

ランの声が飛んだ。

クロードは足を出しかけて止める。

ネノマがトルシアの方へ寄ってきていた。

その前へタンガが出る。

「こっち見る!」

タンガが右手で《印》を組んだ。

木剣は左手へ持ち替えている。

《ファイアボール》がネノマの前へ飛ぶ。

ネノマは横へ動いた。

タンガも木剣を右手へ戻しながら追う。

先生2人の間が少し開いた。

「クロード!」

ヤンナの声がした。

クロードは今度こそトルシアへ踏み込む。

トルシアが木剣を上げた。

その時、横から明るい光が入った。

ヤンナの《ライトボール》だった。

トルシアの視線が一瞬だけ光へ動く。

クロードはさらに1歩入った。

木剣を振る。

トルシアの木剣が間に入った。

乾いた音が鳴る。

届かなかった。

それでも、さっきより近かった。

クロードが離れると、トルシアもすぐに位置を変える。

その向こうではネノマがタンガの横を抜けようとしていた。

「ラン、そっち!」

タンガが声を上げる。

「分かった!」

ランが《印》を組む。

ネノマの進む先で土が盛り上がった。

ネノマは足を止めず、その外側へ回る。

そこへピアが水を放つ。

ネノマがさらに向きを変えた。

クロードはその動きを見ていた。

誰か1人の魔法で止めたわけではない。

土を避けたところへ水が来て、そこからまた先生が動いた。

「今、そっち空いた!」

ヤンナが叫ぶ。

タンガが走る。

クロードもトルシアだけを追わず、タンガの方を見る。

ネノマへ向かったタンガの横から、トルシアも動き始めていた。

「タンガ、右!」

クロードが声を出す。

タンガが足をずらす。

そのすぐ横をトルシアが通った。

「見えた!」

タンガが返す。

クロードは少し笑った。

余裕が出来たわけではない。

むしろ見るものは増えている。

それでも、さっきより声が増えたぶん、自分だけでは見えない場所が少しだけ分かった。

終了の声が掛かるまで、5人は何度も位置を変えた。

先生へ木剣を当てることは出来なかった。

魔法も先生へ直接当たらなかった。

それでも最初の数分より、5人がばらばらに離れることは減っていた。

やがて10分の終了を告げる声が響いた。

クロードは木剣を下ろした。

息が上がっている。

広い場所を何度も動いたせいか、今までの10分より走ったように感じた。

タンガも近くで息を整えていた。

「2人いると忙しいな」

「うん」

クロードはトルシアとネノマを見る。

先生が2人になっただけではない。

味方も増えた。

場所も広がった。

見たいものが、一気に増えていた。


◇


休憩のあと、組み合わせが変わった。

クロードは演習から外れ、剣技指導へ回った。

さっきまで持っていた授業用の木剣をそのまま使い、ほかの生徒たちと間隔を取る。

フィオネの前で構え、踏み込みと振ったあとの動きを繰り返した。

前へ出る。

振る。

戻しながら足を動かす。

先生が横へ動けば、向きを変える。

さっきの広い結界とは違い、今は目の前の1人へ集中出来る。

その違いが妙に大きく感じた。

自分の順番が終わり、少し離れて息を整える。

別の結界から声が聞こえた。

ノーゼスだった。

木剣を持って前へ出ている。

その手から《ロックボール》が放たれ、先生が横へ動いた。

ノーゼスはそのまま距離を詰めようとする。

けれど先生もすぐに位置を変え、ノーゼスの木剣は届かない。

「くそ、もうちょいだった!」

声がこちらまで聞こえた。

クロードは少し笑った。

壁だけではない。

ノーゼスも自分の土魔法を使いながら前へ出ている。

その隣の結界では、エクリアが風を放ったあと、少しして水へ切り替えていた。

同じ相手へ同じ魔法を繰り返しているわけではない。

クロードがもう少し見ようとしたところで、フィオネから声が掛かった。

「次、行きますよ」

「はい」

すぐに木剣を構え直す。

今は自分の練習の時間だった。


◇


最後の演習が終わる頃には、クロードの足も腕も重くなっていた。

結界のポールが片づけられ、広かった場所も元の運動場へ戻っていく。

クロードは木剣を返し、ノーゼスとエクリアのところへ向かった。

「先生2人のところ、入った?」

クロードが聞く。

「入った」

エクリアがすぐに答える。

「どうだった?」

「広いのに狭かった」

クロードは首を傾げる。

エクリアも少し考えてから笑った。

「動ける場所は広いのに、先生2人見てると行きたいところに行けないの」

「分かる」

クロードも笑った。

ノーゼスが横から口を挟む。

「俺は1人の方だったけど、攻撃役やった」

「見たよ」

「見てたのか」

「少しだけ」

ノーゼスは木剣を振る真似をしてから手を止めた。

「《ロックボール》避けさせて、そのまま行けると思ったんだけどな」

「先生も動くものね」

エクリアが言う。

「分かってるけど、やると違うんだよ」

ノーゼスが返す。

クロードは今日の最初を思い返した。

ピアの水でトルシアが動いた。

ヤンナの光で視線が動いた。

ランの土でネノマの進む場所が変わった。

タンガの火でも先生が動いた。

どれも、当てたから次へ進めたわけではない。

けれど先生が2人になると、1人を動かした先にもう1人がいることもあった。

「同じ魔法でも、当てたい時と動いてほしい時で違うね」

クロードが言う。

「水は特にそうかも」

エクリアが答える。

「押したい時もあるし、避けてほしい時もあるし」

「土だってあるぞ」

ノーゼスが言った。

「《ロックボール》で動かせると思ったんだけどな」

「先生、すぐ動いたね」

「次は別のも試す」

ノーゼスが言うと、エクリアが笑った。

「それがいいんじゃない?」

3人は運動場を出ながら歩き始めた。

先生が1人の時にも、見なければならないものは多かった。

先生が2人になれば、それが単純に2倍になるわけでもない。

味方も増え、場所も広がり、動き方も変わる。

クロードは歩きながら、自分が最初に前へ出すぎた時のことを思い出した。

サポートする側が攻撃役を見るだけでは足りない。

前へ出る自分も、後ろが魔法を使える場所を残さなければならない。

それでも、全部を見ようとすれば足が止まる。

「難しいな」

クロードが呟く。

「でも面白かっただろ?」

ノーゼスが言う。

クロードはすぐに頷いた。

「うん」

エクリアも隣で笑った。

「次はもっと動けると思う」

出来るようになったことが増えたから、見るものも増えた。

その先に何が出来るようになるのかは、まだ分からない。

クロードは次の戦闘実践で、もう1度あの広い結界へ入ってみたいと思った。


◇


その夜、クロードは寮の机にノートを開いていた。

昼間の戦闘実践を思い返しながら、今日変わったことから順番に書いていく。

『先生 2人』

『味方 5人』

『場所 今までの2つ分』

その下へ少し間を空ける。

『1人を動かしても、もう1人がいる』

『前に出すぎると、後ろが魔法を使えない』

『味方が増えると、見ないといけない場所も増える』

クロードは鉛筆を止めた。

最初は、先生が増えたから難しくなったのだと思っていた。

けれど増えたのは先生だけではない。

一緒に動く仲間も増え、使える場所も広くなった。

誰かが動けば、それに合わせて別の誰かも動く。

自分だけでは見えなかった場所を、ランやヤンナの声で知ったこともあった。

クロードは続きを書く。

『水 → 当てるだけじゃなく、避けさせる』

『光 → 見る場所を変えさせる』

『土 → 進む場所を変える』

『火 → 避けさせる』

そこまで書いて、少し考える。

今日見た使い方が、その魔法の使い方すべてではない。

ノーゼスも次は別の使い方を試すと言っていた。

エクリアも水と風を使い分けていた。

クロードは最後の行へ書き加えた。

『同じ魔法でも、使う目的で変わる?』

疑問符を付けたまま、その下へもう1行書く。

『全部を見るんじゃなくて、今、何を見るか?』

鉛筆を置く。

答えはまだ分からない。

ただ、次に広い結界へ入った時に試してみたいことは増えていた。

クロードはノートを閉じ、明かりを落とした。

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