その間に
朝、クロードは第2運動場で木剣を振っていた。
前へ踏み込み、振る。
剣を戻しながら足も戻し、今度は右へ向きを変える。
もう1度構えてから、前へ出た。
前日の夜、ノートへ書いたことを頭の中でもう1度繰り返す。
振ったあとも、続けて動く。
相手が止まっているなら、剣を振ったところで終わっても困らない。
けれど戦闘実践で向かい合った先生たちは、避けても下がっても、その次にはもう別の場所へ動いていた。
クロードは少し大きく踏み込んで木剣を振る。
届かせようとした分だけ身体が前へ乗った。
そのまま右へ向きを変えようとして、足が遅れる。
「……まだ大きい」
いったん構えを戻し、今度は踏み込みを少し小さくする。
振る。
戻す。
動く。
ゆっくりなら出来る。
少し速くしても、さっきよりは足が残った。
クロードは何度か同じ動きを繰り返してから木剣を下ろした。
相手がいない今なら、自分の足だけを見ることが出来る。
戦闘実践では先生だけでなく、仲間の位置も見なければならなかった。
剣を使っている間にも魔法が飛び、壁が立ち、声が聞こえてくる。
その全部を一度に見ようとしても、まだ間に合わない。
だからまず、自分の足を考えなくても動かせるところまで繰り返す。
クロードは水を一口飲み、もう1度木剣を構えた。
◇
次の戦闘実践の日、第2運動場には前回と同じように4つの結界が作られていた。
トルシアたち5人の先生が位置を確かめ、生徒たちは木剣を受け取って集まる。
最初の5分でその日の組み合わせと役割が伝えられた。
「今日は前回と同じ役を続けるとは限りません」
トルシアが生徒たちを見回す。
「攻撃する人も、支える人も、両方を経験してください」
クロードは隣のノーゼスと顔を見合わせた。
前回は自分が攻撃役になり、先生へ雷を放って剣で近づき、その間をノーゼスとエクリアに支えてもらった。
今回は3人の名前がまた同じ組で呼ばれたものの、攻撃役として呼ばれたのはエクリアだった。
「私?」
エクリアが自分を指差す。
「俺たちがサポートか」
ノーゼスは少し嬉しそうに言った。
土壁なら、前回もクロードを守ることが出来ていた。
クロードも頷きかけて、少し止まった。
「……僕は何をすればいいんだろう」
「雷撃てばいいんじゃない?」
エクリアが言う。
「それだと、攻撃じゃない?」
「あ」
3人とも少し黙った。
ノーゼスがクロードを見る。
「壁は守れるけど、雷って守れるのか?」
「分からない」
《サンダーボール》も《サンダーアロー》も相手へ向けて放つ魔法だ。
《サンダーボム》も相手を攻撃するために使う。
《サンダーショック》はもっと近くで相手へ触れて使う。
どれも土壁のように仲間の前へ置いて守るものではない。
それでも戦闘実践で決められているのは攻撃役が1人、サポート役が2人だ。
雷だからサポート出来ないとは言われていない。
「やってみないと分からないか」
クロードが言うと、エクリアが笑った。
「それ、いつものクロードね」
クロードとノーゼスは先生に置き場所を確かめ、木剣を演習する場所の外へ置いた。
攻撃役のエクリアだけが木剣を持って結界の中へ入る。
今回3人の前に立っているのはネノマだった。
木剣を片手に持ち、3人が位置についたことを確認している。
「準備はいいですか?」
「はい」
3人の返事が重なった。
開始の合図が出る。
エクリアが先に動いた。
木剣を持って前へ出ながら、ネノマとの距離を縮めていく。
ノーゼスは少し後ろへ残り、いつでも《印》を組めるよう両手を空けている。
クロードも少し横へ広がった。
前へ行くエクリアの横からネノマを見る。
先生はエクリアだけを見ているわけではなかった。
少し身体の向きを変えるたびに、クロードとノーゼスの位置も確かめている。
クロードは《サンダーボール》の《印》を組んだ。
青白い雷が手元へ集まる。
「雷、行く!」
エクリアへ声を掛けてから放つ。
雷の球がネノマへ向かう。
ネノマはエクリアとの距離を保ったまま横へ動き、雷を避けた。
クロードはそのまま次の《印》へ入ろうとした。
その間にエクリアが追いかける。
けれどネノマはもう向きを変えていた。
エクリアの木剣を避け、その横を抜ける。
「後ろ!」
クロードが声を出した時には、先生の木剣がエクリアの肩へ触れる直前で止まった。
「そこまで」
エクリアが振り返る。
「速い……」
「もう1度」
3人で位置へ戻る。
クロードは今の動きを思い返した。
雷は避けられた。
前回も何度も避けられている。
それなら、もう1発撃つしかない。
再開すると、エクリアがまた前へ出た。
ネノマが木剣を構えたところへ、クロードは《サンダーボール》を放つ。
先生が横へ動く。
クロードはすぐに次を作ろうとした。
「クロード!」
エクリアの声で手を止める。
見ると、エクリアもネノマを追って同じ方向へ動いていた。
今ここから雷を放てば、その先にはエクリアがいる。
クロードは《印》を解いた。
その間にネノマが距離を取り直す。
エクリアも追うのを止めた。
「撃てなかった」
「私が前にいたから?」
「うん」
「じゃあ、私もどっちへ行くか言う」
ノーゼスが2人を見る。
「俺も壁出す時に言うぞ」
すぐにまた動き始める。
今度はエクリアが先に声を出した。
「右から行く!」
「分かった」
クロードは左へ少し広がった。
ネノマの前にはエクリアがいる。
その外側からなら、射線は重ならない。
《サンダーボール》を作る。
けれど撃とうとした時には、ネノマがエクリアへ踏み込んでいた。
近すぎる。
クロードは放たずに雷を消した。
ノーゼスの土壁が上がり、ネノマの進路を遮る。
先生が壁の横へ回った。
「今!」
クロードが叫び、《サンダーボール》を放つ。
ネノマが足を止めた。
飛んできた雷を見て身体を引き、反対側へ動く。
その一瞬、エクリアとの距離が縮まった。
エクリアが踏み込む。
木剣が振られ、ネノマが自分の木剣で受けた。
乾いた音が鳴った。
「あっ」
エクリアの声が漏れる。
ネノマはすぐに剣を外し、横へ抜けた。
エクリアが追う。
クロードも次の雷を作ろうとしたが、先生はもう動いている。
今度は間に合わなかった。
少しして止められ、3人は息を整えた。
「今、届いたね」
クロードが言う。
エクリアも頷いた。
「うん」
「俺の壁?」
ノーゼスが聞く。
「それもだけど」
クロードはネノマが立っていた場所を見る。
土壁を回った先生へ雷を放った。
雷そのものは当たっていない。
それでもネノマは避けるために1度足を止めた。
その間に、エクリアの剣が届いた。
「雷を避けた時」
「え?」
「先生が止まった」
エクリアもネノマがいた場所を見る。
「……あ、その時に私が入れたんだ」
ノーゼスがクロードを見る。
「当ててないのに?」
「うん」
クロードもまだ答えを決められなかった。
偶然かもしれない。
先生が別の避け方をしていれば、同じことにはならなかったかもしれない。
それでも、さっきまでとは違った。
雷を当てることではなく、雷を避けた先生の動きを見ていた。
「もう1回やってみたい」
クロードが言う。
「今度は私も見る」
エクリアが木剣を構え直した。
再開する。
エクリアが正面から近づく。
クロードは少し左へ広がる。
ノーゼスは後ろに残りながら、2人と先生を見ている。
「右行く!」
エクリアが声を出した。
クロードはネノマを見る。
先生は右へ動ける。
さっきはそこへ動いた。
なら雷を撃てば、また足を止めるかもしれない。
《印》を組む。
「雷、行く!」
放った。
けれどネノマは止まらなかった。
クロードの手が動き始めた時点で向きを変え、雷が届く前に左へ大きく回る。
「あれ?」
エクリアも一瞬遅れた。
ネノマがその横へ回り込み、木剣を向ける。
「そこまで」
3人の動きが止まった。
クロードは消えていく雷の方を見る。
同じようにはならなかった。
「見られてた?」
エクリアが聞く。
「たぶん」
《六環球》でも、1度見せた動きに相手が合わせてくることはあった。
戦闘実践でも変わらない。
「次は?」
ノーゼスが聞く。
クロードはすぐには答えなかった。
先生を雷で止めることだけ考えていた。
けれど今のエクリアは、雷を撃った時にはまだ遠かった。
仮に先生が止まっても、その間に届かなかったかもしれない。
「……エクリアが行ける時じゃないと駄目だ」
「私?」
「先生を止めても、その時にエクリアが遠かったら意味ない」
エクリアが自分とネノマの間を見る。
「じゃあ、私が近づいてから?」
「うん」
「でも近すぎたらクロード撃てないよ」
「それも見ないと」
見るものがまた増えた。
先生の位置。
自分の射線。
ノーゼスの壁。
それだけではない。
攻撃役のエクリアが、今なら届くのか。
そこまで見なければ、雷を撃つ意味が変わる。
再開すると、クロードはすぐには《印》を組まなかった。
エクリアが前へ出る。
ネノマが下がる。
ノーゼスが壁を出そうとして手を動かす。
「左に出す!」
低い土壁が立ち、ネノマの進む方向が変わった。
エクリアとの距離が少し縮む。
クロードはまだ待った。
エクリアがもう1歩入る。
ネノマの木剣が動く。
エクリアが受けて足を止めた。
今は駄目だ。
先生だけが動いても、エクリアが攻撃出来ない。
ネノマが剣を引き、右へ動く。
エクリアも向きを変えた。
今なら届く。
クロードが《印》を組む。
「雷、行く!」
青白い球が飛ぶ。
ネノマが横へ避けるため、一瞬踏み込む足を変えた。
「今!」
クロードが叫ぶ。
エクリアが前へ出る。
木剣が振られ、ネノマの剣とぶつかった。
1度。
すぐにもう1度、エクリアが剣を戻す。
けれど2回目は受けてもらえなかった。
ネノマが横へ抜け、エクリアの剣が空を切る。
それでもエクリアはすぐに向き直った。
クロードも先生の位置を追う。
「10分です!」
終了の声が運動場へ響いた。
クロードは作りかけていた《印》を解いた。
肩で息をしながら、エクリアのところへ歩く。
エクリアは木剣を下げたまま、少し悔しそうにネノマを見ていた。
「もう少しだったのに」
「2回目?」
「うん」
エクリアは自分が振った場所を見る。
「最初は行けたと思った」
クロードも頷いた。
自分の雷が当たったわけではない。
エクリアの剣も先生には当たっていない。
それでも、1度目とは違っていた。
「雷、サポートになってた?」
ノーゼスが聞く。
クロードは少し考えた。
「少しは」
「少しか」
「先生が避けてる間に、エクリアが行けたから」
「でも次は駄目だったわね」
エクリアが言う。
「うん」
同じように撃っても、先生は同じようには動かない。
それでも、何も出来ないわけではなかった。
5分の休憩に入り、水を飲みながら次の組み合わせを聞く。
クロードは次のセットではノーゼスとエクリアから離れた。
攻撃役として前へ出る生徒も変わり、相手の先生も変わる。
さっき出来たことが、別の相手でも出来るのかは分からない。
◇
次にクロードが入った結界では、攻撃役はタンガだった。
もう1人のサポート役はランで、相手はオルディクだ。
クロードとランは木剣を結界の外へ置き、タンガだけが木剣を持って中へ入った。
「俺が前でいいんだよな?」
タンガが木剣を持ったまま確認する。
「うん」
クロードは頷いた。
ランも少し後ろへ下がった。
開始の合図でタンガが前へ出る。
オルディクは木剣を構えたまま、その動きを待っていた。
クロードは《サンダーボール》の《印》へ入る。
さっきと同じように、すぐには放たない。
タンガと先生との距離を見る。
まだ遠い。
ここで雷を撃って先生が止まっても、タンガは届かない。
もう少し。
タンガが踏み込む。
オルディクが横へ動こうとした。
「雷、行く!」
クロードは放った。
先生は木剣を引きながら足を止め、雷の進路から外れる。
タンガがその間に距離を詰めた。
剣を振る。
オルディクが受ける。
木剣同士がぶつかった。
クロードは次を作ろうとしたが、ランが手を動かすのが見えた。
「壁出す!」
クロードは《印》を止める。
オルディクがタンガの横へ回ろうとした先へ、低い土壁が立った。
先生はさらに向きを変えた。
タンガが追う。
「そっち!」
クロードが声を出す。
今度は雷を作る前に、オルディクがこちらを見た。
次の瞬間、先生がタンガから離れ、クロードの方へ進んでくる。
「えっ」
サポート役を狙われることは前回もあった。
分かっていたはずなのに、タンガを見ることへ集中していた。
クロードは後ろへ下がる。
木剣を持っていない以上、近づかれる前に距離を取るしかない。
さらに横へ動こうとしたが、オルディクの方が速い。
「クロード!」
ランの声が飛ぶ。
クロードと先生の間へ土壁が立ち上がった。
オルディクがその手前で足を変え、壁の横へ回る。
クロードも反対側へ動いた。
その間にタンガが先生との距離を詰めている。
オルディクはクロードを追うのをやめ、タンガへ向き直った。
クロードは息を吐く。
前回は攻撃役の自分がサポートに守ってもらった。
今はサポート役の自分が狙われ、もう1人のサポートに助けられた。
「ありがとう!」
「まだ来るぞ!」
ランに言われ、クロードはすぐにオルディクへ目を戻した。
タンガが剣を振る。
先生が受ける。
クロードは少し横へ動きながら《印》を組んだ。
撃てる。
けれどタンガがすぐそばにいる。
このままでは射線が重なる。
クロードは放たず、位置を変えた。
その間にオルディクがタンガの剣を外して距離を取る。
今度は間が空いた。
「雷、行く!」
放った球をオルディクが避ける。
タンガがまた前へ出る。
クロードは先生だけを見ないようにした。
ランの位置。
タンガの位置。
自分との距離。
その中で、タンガが攻撃出来そうな時を探す。
オルディクがタンガの横へ回る。
ランが壁を作ろうと手を動かした。
クロードはその先を見た。
壁が立てば、先生が動ける方は狭くなる。
「右に来るかも!」
声を出した直後、土壁が上がった。
オルディクは反対側へ動く。
予想とは違った。
タンガも向きを変える。
クロードは《印》を作りかけて止めた。
「違った!」
先生はクロードの声を聞いていたのか、そのままタンガへ近づく。
決まった通りには動いてくれない。
だから、そのたびに見直すしかない。
もう1度タンガが距離を詰める。
オルディクが剣を構え直す。
今なら届く。
クロードは《サンダーボール》を放った。
先生が雷を避けて横へ動く。
タンガの木剣が追う。
オルディクが受けた。
乾いた音が鳴る。
当たってはいない。
それでもタンガが攻撃出来る時間は出来た。
クロードは次の雷を急がず、また3人の位置を見た。
終了の声が掛かるまで、雷を放つ時もあれば、作りかけた《印》を止める時もあった。
◇
次の交代では、クロードは演習から外れて剣技指導へ回った。
ここで初めて、演習の外へ置いていた木剣を手に取る。
ほかの生徒たちと間隔を取り、構えた。
前へ踏み込む。
振る。
戻す。
向きを変える。
朝に繰り返した動きを、今度は先生が前にいる状態で試す。
先生が下がる。
クロードは追う。
届きそうになると足が大きくなりかけた。
そこで踏み込みを少し抑える。
木剣を振る。
避けられる。
朝なら、ここで向きを変えるだけだった。
今は先生がさらに横へ動く。
クロードは剣を戻しながら足を動かした。
少し遅れた。
それでも止まらなかった。
もう1度追う。
「今の方が動けています」
声を掛けられ、クロードは自分の足を見る。
「はい」
前回より少しだけ、振ったあとの次が近くなっていた。
けれど速くすると、まだ崩れる。
反復しているうちに10分は終わった。
休憩へ入ると、離れたところからエクリアが戻ってきた。
水を飲みながら、クロードの近くへ座る。
「さっきの雷、別の組でもやった?」
「やったよ」
「どうだった?」
「出来た時もあったけど、先生がこっちに来た」
エクリアが笑う。
「サポートも狙われるものね」
「うん」
「私も、さっき別の人をサポートしたけど難しかった」
エクリアは水筒を両手で持った。
「攻撃する方だと、自分が行きたい時が分かるじゃない?」
「うん」
「後ろにいると、それを見ないと分からないのよね」
クロードはエクリアを見る。
さっき自分が考えていたことと同じだった。
先生が止まる時だけ見ても足りない。
仲間が攻撃出来る時も見なければならない。
「最初、先生だけ見てた」
「私は自分だけ見てた」
エクリアが少し笑った。
その横からノーゼスも戻ってくる。
「何の話?」
「サポート難しいって話」
「壁も難しいぞ」
ノーゼスはすぐに言った。
「出せばいいわけじゃないからな」
「前回、僕の前にも出しかけてたもんね」
「それはもう分かったって」
3人で笑ったところで、次の組み合わせが呼ばれた。
休憩は終わる。
クロードは立ち上がり、木剣を次に使う生徒の邪魔にならない場所へ戻した。
◇
最後の5分になると、演習は止められた。
木剣を返し、先生たちが結界のポールを回収していく。
使った土も確認され、運動場の中に残ったものを片づける。
クロードは自分がいた場所を見回した。
最初のセットではエクリアが前にいた。
次ではタンガが前にいた。
同じサポート役でも、見る相手が違えば雷を使う時も変わった。
授業が終わり、ノーゼスとエクリアと一緒に運動場を出る。
「次、攻撃役とサポートどっちがいい?」
ノーゼスが聞いた。
「私はもう1回攻撃したい」
エクリアがすぐに答える。
「さっきの2回目、絶対もう少しだったもの」
「あれ悔しそうだったね」
「悔しかったわよ」
クロードが笑うと、エクリアが少し頬を膨らませた。
「クロードは?」
「サポートももう1回やりたい」
自分でも、その答えは少し意外だった。
これまで覚えてきた雷魔法は、どれも相手へ当てる使い方を先に考えてきた。
今日は1度も先生へ雷を当てられていない。
それでも出来たことがあった。
先生が避けた。
先生が足を変えた。
先生がクロードの方を見た。
その間に仲間が動いた。
直接当てる以外にも、雷で出来ることがあるのかもしれない。
答えにはまだ早い。
それでも次に確かめたいことは増えていた。
◇
夕食を終えて寮室へ戻ると、クロードは机の前に座った。
ノートを開き、今日の戦闘実践を思い返す。
前回書いた進路、射線、視界、足の横へ、新しい項目を作った。
『サポートで雷を使う』
その下へ鉛筆を動かす。
『雷を避けるために先生が止まった』
少し考えて、続きを書く。
『その間にエクリアが近づけた』
もう1行。
『でも、同じように撃っても止まらなかった』
さらにその下へ書いた。
『先生だけ見ても駄目』
そこで手を止める。
最初は先生を止める方法を考えていた。
けれど先生が止まっても、エクリアが遠ければ攻撃出来ない。
反対にエクリアが近くても、射線へ入っていれば雷を撃てない。
先生を見る。
仲間を見る。
自分の位置も見る。
全部が動き続けている。
クロードは鉛筆を動かした。
『仲間が攻撃できる時も見る』
書いてから、少し前の頁を開く。
戦術の授業で何度も書いたことがあった。
相手を見る。
味方を見る。
変わったら、また見る。
分かっていたはずなのに、実際に剣と魔法が同時に動くと追いつかない。
《六環球》でも、上級生を相手にした時に同じことを感じた。
考えてから動いていては遅い時がある。
今日も、エクリアが近づいてから雷を作り始めて間に合わなかったことがあった。
反対に、早く撃ちすぎても仲間の攻撃にはつながらなかった。
「いつ撃つか……」
クロードは小さく呟いた。
魔法そのものの威力や形だけではない。
誰かと一緒に戦うなら、その人が何を出来る時なのかまで考えなければならない。
今日の雷は先生には当たらなかった。
それでもエクリアやタンガの剣が届く時間を作れた。
クロードは最初に書いた『サポートで雷を使う』の横へ、小さく書き足した。
『当てるだけじゃない』
まだ出来たのは数回だけだ。
同じことがいつでも通じるわけでもない。
先生たちはこちらの動きを見て、すぐに変えてくる。
それでも、雷で支える方法が何もないわけではなかった。
クロードは今日の最後にもう1行書いた。
『先生が動けない時じゃなく、仲間が動ける時を見る』
しばらくその文字を眺める。
エクリアの剣が先生の木剣へ届いた時、雷はもう先生の横を通り過ぎていた。
その間に、エクリアが動いた。
クロードは少し笑って、ノートを閉じた。




