向かいに立つ
後期最初の戦闘実践の日、第2運動場には何本ものポールが並んでいた。
広い地面を4つに区切るように置かれ、そのそばでは5人の先生が生徒たちを待っている。
クロードは授業用の木剣を受け取り、ノーゼスやエクリアと一緒にそちらへ向かった。
魔導の鐘が鳴ると、トルシアが18人を集めた。
「最初の5分はミーティングです」
その隣にはネノマと、まだ名前を知らない3人が立っていた。
火属性のオルディク・バスレント、土属性のダルガン・ゼルマート、光属性のフィオネ・ラティエル。
紹介を聞きながら顔と名前を覚えようとしていると、トルシアが並んだ先生たちへ目を向けた。
「私たち5人は、それぞれ属性が違います」
それから生徒たちへ向き直る。
「相手が変われば、戦い方も変わってきますよ」
クロードは木剣の柄を握り直した。
トルシアやネノマが魔法を使うところは、実習でも何度も見てきた。
今日はその魔法が、自分たちへ向けられる。
「演習は、このポールで囲んだ場所に結界を張って行います」
4か所を別々に囲うため、隣の組へ魔法が飛び込むことはないという。
魔法を使うのは先生の指示で結界の内側へ入ってからで、止めるよう言われたら攻撃も止める。
トルシアは全員の顔を見てから、授業の進め方を説明した。
「最初は10分で1セットです」
4組がそれぞれ先生1人を相手にし、残る6人は別の先生から剣技の指導を受ける。
セットが終われば5分休み、担当の先生と生徒の組み合わせを替える。
演習へ入らず剣を練習していた6人は、次のセットでは必ず演習へ入ることになっていた。
「剣の指導も、私たち5人で交代して受け持ちます」
トルシアが続ける。
「演習の時間は少しずつ延ばし、後期の終わり頃には30分にしていきます」
「30分……」
近くでノーゼスが小さく繰り返した。
クロードも先生たちを見たが、まずは10分やってみなければ、どのくらい動けるか分からなかった。
「最後の5分は片付けです」
説明が終わると、最初の組み合わせが告げられた。
クロードはノーゼス、エクリアと組み、トルシアへ挑む。
3人で向かい合うと、クロードは2人へ聞いた。
「最初、僕が攻撃でいい?」
「いいぞ」
ノーゼスはすぐに頷いた。
「俺、壁で止めてみたいし」
「私は横から狙うわね」
エクリアが言った。
「近づく時は教えて」
「うん」
クロードはまず雷の球を放ち、近づけそうなら剣も使ってみると話した。
ノーゼスは先生に置き場所を確かめ、木剣を演習する場所の外へ置いた。
両手を空けて戻ってくる頃には、周りの組も相談を終えかけていた。
ミーティングの終わりを告げる声で、3人はポールの内側へ入る。
隣ではザナトス、ベン、カイルがダルガンの前へ立ち、別の場所ではネノマが生徒たちの位置を見ていた。
結界の外に残った6人は、フィオネの前で木剣を構えている。
ポールの間に薄い光が走った。
クロードは左手へ木剣を持ち替え、右手の指を動かしてみた。
いつもの《印》でも、反対の手に剣があると少し違う感じがする。
「準備は出来ましたか?」
トルシアの声に顔を上げた。
いつもなら先生は横か少し後ろで、自分の魔法を見ている。
今日は正面にいた。
「お願いします」
クロードが言うと、トルシアも木剣を持ち上げた。
開始の合図で、クロードは《サンダーボール》の《印》を組んだ。
魔力を出し、手の先に生まれた雷を丸く整える。
前期の初めよりも、形を作るまでに迷うことは減っていた。
まとまった球を放つと、雷は崩れずに先生へ向かって飛んだ。
トルシアはその進む先から横へ外れ、球は奥の結界に触れて弾けた。
クロードはすぐに先生へ目を戻す。
足を止めたところへ、もう1回。
そう思って右手を動かした時、トルシアも剣を持たない手で《印》を組み始めていた。
「壁、出すぞ!」
ノーゼスが《印》を組み終えると、クロードの前で土が持ち上がった。
向こうから飛んできた水の球が、壁の表面で潰れる。
土が削れて水が散ったが、壁は立ったままだった。
「止まった!」
ノーゼスが声を上げる。
クロードも笑いかけたが、すぐにエクリアの声が飛んだ。
「右に来る!」
トルシアが壁の端へ回ろうとしていた。
クロードは右へ動いて壁の陰から出ると、途中だった《印》をやり直した。
今度は先生が進む先を狙って雷を放つ。
けれどトルシアは足を止め、球が前を通り過ぎてからまた動いた。
思わず歯を噛み合わせた。
魔法は出ているし、形も崩れていない。
それなのに先生のいるところへ届かなかった。
「クロード、少し左へ!」
エクリアが《ウィンドボール》の《印》を組んでいた。
クロードが身を寄せると、右側から風の球が飛ぶ。
トルシアが進む向きを変えた。
「行く!」
クロードは木剣を右手へ持ち替え、先生へ向かって踏み込んだ。
肩へ向けて振った木剣は、身体を引かれて空を切る。
まだ追えると思って足を運んだところで、後ろから声がした。
「そっちだと撃てない!」
エクリアから先生へ向かう間に、自分が入っていた。
足が鈍った時には、トルシアが剣の外側へ踏み出している。
振り戻すより先に先生の木剣がこちらへ向き、届く手前で止まった。
「そこまで」
クロードは動きを止め、木剣を下ろした。
さっきまで正面にいた先生が、少し横に立っている。
「……当たらなかった」
「ええ」
返事はいつもの実習と変わらなかった。
それが少し悔しくて、クロードは自分が走ったところを振り返った。
「壁では止められましたね」
トルシアがノーゼスへ言う。
「はい、でも横に行かれた」
「そのあとは?」
「もう1つ作ろうと思ったけど、クロードの前に出したら邪魔になるし……」
ノーゼスは場所を指しながら答えた。
エクリアも頷く。
「私も次を撃とうとしたら、クロードが入ってきたの」
「行くって言ったけど、どっちからか言ってなかった」
クロードは木剣を下げたまま、エクリアの方を見た。
動く前に伝えることは、戦術でも《六環球》でもやってきた。
さっきは先生へ近づけそうだと思った途端、その先の道筋まで言わずに走っていた。
「次は右から行くね」
「じゃあ、私はその外へ出る」
「俺も壁の後ろで止まってないようにする」
ノーゼスが言うと、トルシアは3人を見回した。
「では、今の話を試してみましょう」
ノーゼスが《印》を組んで壁の土を戻し、3人で位置を取り直した。
クロードも木剣を左手へ持ち替え、もう1度の《印》を組む。
次も雷は避けられたが、トルシアが水の《印》を作り始めると、クロードはノーゼスの声を聞いて右側へ目を向けた。
立ち上がった土壁の向こうで水が弾ける。
「右から行く!」
「外へ出るわね」
エクリアの返事が右後ろから聞こえた。
壁の端へ出てもすぐには走り出さず、クロードは横目でエクリアの位置を確かめる。
「風、行く!」
エクリアが《印》を組んで放った風を避け、トルシアが足を運んだ。
その間に木剣を右手へ持ち替え、今度はエクリアの前を横切らずに踏み込む。
さっきより近い。
クロードが振った木剣をトルシアの木剣が受け、乾いた音が鳴った。
手へ衝撃が返ってきた途端、先生の剣がこちらの剣先を外へ押す。
戻して打とうとした時、左後ろからノーゼスの声が飛んだ。
「クロード、止まれ!」
トルシアの空いた手が《印》を組んでいた。
クロードが足を止めると、ノーゼスの《印》で前方に薄い土壁が持ち上がり、水の球を受けて崩れた。
「そこまで」
トルシアが手を下げる。
クロードは肩で息をしながら、崩れた土とノーゼスを見た。
「ありがとう」
「今の、間に合ったよな?」
ノーゼスが先生を見ると、トルシアは頷いた。
エクリアも近づいてきた。
「剣は届いたね」
「先生の剣にだけど」
そう答えながら、クロードは少し笑った。
けれど最後の水を見ていたか尋ねられると、首を振るしかなかった。
先生へ近づけたことが嬉しくて、続けて打つことばかり考えていた。
そのあとも3人は位置を取り直し、トルシアへ挑んだ。
先に横へ出ようとしたエクリアが狙われると、ノーゼスが壁を作る場所も変わった。
クロードはその端へ回り直し、今度は雷を放つだけで精いっぱいになる。
短く止められて話を聞き、また動き始めるたびに、先生へ近づく道が違って見えた。
「10分です、止めてください!」
ネノマの声で、4か所の動きが止まった。
クロードは木剣を下げて息を吐いた。
もう終わりなのかと思ったが、右手には汗がにじんでいた。
◇
残った壁を戻し、結界が解かれてから外へ出る。
5分の休憩に入り、クロードは水を飲んでから隣へ腰を下ろしたノーゼスを見た。
「先生、全然止まってくれないね」
「止まってたぞ」
「え?」
「お前の2発目の時」
「あれは、そうだけど」
エクリアが笑い、クロードもつられて笑った。
次の組み合わせが告げられると、最初に剣を練習していた6人は全員、演習へ入ることになった。
ノーゼスとエクリアも別々の組へ呼ばれ、クロードはベンたちと剣技の指導へ回る。
今度その6人を見るのはオルディクだった。
休憩が終わるまでは木剣を脇へ置き、クロードは握っていた指をゆっくり開いた。
次の開始の合図で、6人は間隔を取って並ぶ。
構えたまま進み、下がり、向きを変える姿を、オルディクが順に見ていった。
先生がそばへ来たところで、クロードはさっきのことを話した。
「追いかけると、次の足が遅くなりました」
「では、私に向かって来てください」
オルディクも木剣を構えた。
クロードが踏み込むと、その分だけ先生は下がる。
続けて追い、剣先を伸ばそうとしたところで、オルディクが横へ動いた。
向きを変えようとしても、足がすぐにはついてこない。
「前の足へ乗りすぎていますね」
クロードは足元を見た。
バナンとの授業でも、自分の足を崩すなと言われたことがある。
朝の鍛錬や実家の稽古でも、構えを残して動く練習は続けてきた。
それなのに、あと少しで剣が届くと思うと、追う足が大きくなってしまう。
「もう少しで当たると思って……」
「そこから、次の足を出せますか?」
その姿勢のまま動こうとして、クロードは身体を戻した。
構え直し、今度は踏み込んだあとも向きを変えてみる。
ゆっくりなら出来たが、先生が下がる速さを変えると、また前へ寄りすぎた。
「剣だけで届かせようとしないでください」
「はい」
オルディクがほかの生徒を見ている間も、クロードは進んで振り、構えを戻す動きを繰り返した。
ベンも近くで足を運び、時々止まって自分の立ち方を見ている。
先生がもう1度前へ来た時には、剣を避けられても、さっきより早く向き直れた。
「今は動けましたね」
そう言われると、肩に入っていた力が少し抜けた。
もう1度確かめ、次には少し速く動いてみる。
10分の終わりには、腕だけでなく足も重くなっていた。
休憩で水を飲んでいると、ノーゼスが近くへ来た。
「どうだった?」
クロードが聞くと、ノーゼスは結界の方を振り返った。
「先生の壁、邪魔だった」
さっきは自分が壁を作っていたのに、今度はダルガンに作られたのだという。
「向こうが見えなくなるんだよ」
「次、僕がダルガン先生だ」
「見てみろって」
ノーゼスはそう言ってから、呼ばれた方へ向かった。
クロードも次に組む2人のところへ行く。
ベンと、演習から戻ってきたカイルだった。
「また前へ行く?」
ベンに聞かれ、クロードは頷いた。
「うん、剣でもう1回近づいてみたい」
「じゃあ光を使ってみるから、出す時に言うね」
「俺は横から水を使う」
カイルも言った。
クロードは2人と立つ場所を確かめ、残りの休憩を過ごした。
◇
次のセットで、クロードたちはダルガンの前へ立った。
先生は木剣を足元へ置き、両手を空けている。
クロードも剣を左手へ持ち替えた。
合図で《サンダーボール》の《印》を組み始めると、ダルガンの手も動く。
放った雷の先で土が持ち上がり、先生の姿が隠れた。
球が壁に当たり、土の表面で光が散る。
ノーゼスの言っていた壁だった。
クロードは右へ動いたが、先生がどちらへ出るのか分からない。
カイルも横へ広がり、ベンが光の《印》を組む。
「光、出すよ!」
声を聞いてクロードがそちらを直接見ないようにした時、左側で土を踏む音がした。
ダルガンが壁の反対側から出てきた。
その手には、もう木剣がある。
クロードが向きを変えるより先に、先生はベンへ近づいていた。
「そこまで」
木剣が止まったところで、ベンも光を消した。
クロードは壁の右側から、2人のところへ戻る。
自分が近づこうとしている間に、サポートのベンが狙われていた。
「壁が出来たあと、私の位置は見えていましたか?」
ダルガンが尋ねた。
「見えなくなりました」
クロードが答えると、ベンも頷いた。
「光を出す方ばかり見てました」
「俺、出てきたところは見たけど、言うのが遅れました」
カイルが壁の左側を指した。
クロードもそちらへ目を向ける。
同じ先生を相手にしていても、自分とカイルでは見えたところが違った。
「次、見えたらすぐ言って」
「分かった」
「僕も、先に右へ行きすぎないようにする」
ベンは光を出そうとしていた場所を見てから、少し下がって立ち直した。
ダルガンが木剣を置いて《印》を組み、土を戻してから再び向かい合う。
次も先生は壁を作ったが、クロードはその端へ走り込まず、剣を右手へ持ち替えながら左右を見た。
「左!」
カイルの声で顔を向けると、木剣を持った先生が壁の端から出てきた。
カイルが《ウォーターボール》の《印》を組んで放ち、ダルガンがその進路から外れる。
「光、行く!」
ベンの《印》で生まれた光が、今度は先生のいる方へ向いた。
ダルガンが顔をそむけながら足を運ぶ。
「近づく!」
クロードは2人の間から前へ出た。
木剣を振ると、ダルガンは身体を引いて避けた。
あと少し届かなかったが、クロードは腕だけを伸ばさず、足を運んで構え直す。
先生が横へ動いても、今度は向きを変えられた。
そこへ返ってきた木剣を受けようとすると、先生は振る途中で止めた。
「足は戻せましたね」
クロードは頷きかけたが、ダルガンの剣先を見て息を吐いた。
自分の剣は、まだ受ける位置まで戻っていなかった。
「剣の方が遅れました」
「では、次も続けてみましょう」
ダルガンは木剣を下げた。
クロードも1度離れ、ベンとカイルのいる場所を見た。
2人が攻撃出来る間を空けることと、自分が近づくことを、また一緒に考えなければならなかった。
残りの時間も、3人は声を掛け合って挑んだ。
壁の左側を見ていたら右へ出られ、次には壁を出される前に近づこうとして、カイルが水の《印》を組み終える前に出てしまった。
ベンの光に合わせて動けた時もあったが、カイルの水が飛ぶところへ入りかけて足を止めることもあった。
短く話し、位置を変え、また向かう。
同じ3人で繰り返しても、先生は同じようには動かなかった。
10分の終わりを告げられると、クロードは大きく息を吐いた。
「見えたって言ってくれて助かった」
カイルへ言うと、カイルも肩を上下させながら頷いた。
「次はもう少し早く言う」
「光を出す場所も、もう少し横がよかったかな」
ベンが振り返ったので、クロードも一緒にその場所を見た。
最初に立っていたところから、ずいぶん動いていた。
次の5分を休んだあと、最後のセットでも組み合わせが変わった。
クロードはミズーとリーゼと組み、今度はフィオネへ挑む。
さっき剣技の指導を受けていた6人も、全員が演習へ入っていた。
水と土の次は光だった。
フィオネが《ライトボール》の《印》を組むと、クロードはベンの声を思い出したが、先生が自分へ合図してくれるわけではなかった。
光を避けるように顔を動かした間に、先生との距離が変わっている。
ミズーとリーゼの声を聞きながら向きを変え、雷を放ち、近づこうとしてまた下がる。
終わりの声が聞こえた時には、もう1回と言う前に、木剣を下ろしていた。
◇
最後の休憩では、クロードは腰を下ろしたまましばらく黙っていた。
水を飲み、汗を拭っていると、ノーゼスとエクリアも近くへ来る。
「先生の壁、見た?」
ノーゼスに聞かれ、クロードは頷いた。
「向こうが見えなくなった」
「だろ?」
「カイルが見てくれてたけど、僕は反対側にいた」
クロードがそう言うと、エクリアも自分がいた場所を振り返った。
「同じ方ばかり見てても駄目なのね」
「でも、別の方を見てたら先生が来るんだよ」
ノーゼスの言い方に、クロードは笑った。
最後まで先生の身体には当てられなかった。
それでも、最初より近くまで行けた時の感触は残っている。
休憩が終わると、トルシアが全員へ声を掛けた。
「残りの5分で片付けましょう」
先生たちがポールを回収し始め、生徒たちは授業用の木剣を戻していく。
ノーゼスは残った土を先生と確かめ、クロードも木剣を返してから、自分たちが休んでいた場所へ戻った。
置いた荷物をまとめ、忘れ物がないか足元を見ているうちに、運動場から道具が減っていった。
魔導の鐘が鳴る頃には、最初に並んでいたポールも片づけられていた。
歩き出すと、足にまだ重さが残っている。
「30分になったら、もっと疲れそうだね」
クロードが言うと、ノーゼスはすぐには答えず、自分の手を開いた。
「今は10分でいい」
「私も」
エクリアが続けたので、クロードも笑って頷いた。
◇
その日の夜、夕食を済ませて寮室へ戻ると、クロードは机にノートを開いた。
今日向かい合った先生の名前を書き、それぞれの下へ一緒に組んだ仲間の名前を並べる。
トルシアのところにはノーゼスとエクリア。
ダルガンのところにはベンとカイル。
フィオネのところにはミズーとリーゼを書いた。
剣を見てもらったオルディクの名前も残してから、クロードは鉛筆を止めた。
《サンダーボール》は出せた。
けれどトルシアには避けられ、ダルガンには壁で止められた。
雷がちゃんと形になったあとにも、自分が見なければならないものは動き続けていた。
最初の演習で走った道を描くと、エクリアから先生へ向かう線と重なる。
次にはその外へエクリアが動き、自分も進む方を伝えられた。
先生の剣まで届いたところへ、小さく丸をつけた。
そこからダルガンの記録へ目を移す。
壁で見えなくなった先生を、カイルは自分と反対の場所から見つけていた。
同じように前へ出るつもりでも、誰がどこを見て、何を使うのかで、動き始める時が変わった。
クロードは、最初に3人で相談したことも短く書き添えた。
次に組んだ時には、今日うまく合ったところから話せるようにしておきたかった。
オルディクに見てもらった足のことは、別のところへ書いた。
普段の鍛錬では出来る動きも、先生へ当てたいと思うと崩れていた。
ゆっくり確かめてから向かった演習では、避けられたあとも向きを変えられた。
その次の剣は遅れたが、足まで止まってしまった最初の時とは違っていた。
「振ったあとも、続けて動く」
朝の鍛錬で確かめたいこととして書き、クロードは椅子の下で足を少し動かした。
ザナンと剣を合わせた時も、学園大会で上級生を追った時も、自分が次を考える間に相手は動いていた。
今日も、それに何度も遅れた。
繰り返して身体を動かせるようにすることと、その時の相手を見ることを、一緒に続けていきたい。
そこまで書いてから、クロードはもう1度、先生と仲間の名前を眺めた。
初めにトルシアの前へ立った時には、自分の雷と剣をどう使うかばかり考えていた。
今は、ノーゼスの壁が立った場所も、エクリアが横へ動いた時も、カイルの声が聞こえた方も思い出せる。
分からなかったことは、まだたくさん残っている。
それでもノートを閉じようとした時、いちばんはっきり戻ってきたのは、木剣がぶつかった音だった。
先生の剣までは届いた。
クロードはその感触を思い出して右手を握り、少し笑ってからノートを閉じた。




