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『異世界転生した製鉄所主任、雷魔法と鉱物生成で成り上がる ~未知の世界は面白いことだらけでした~』~幼少期・王立学園編~  作者: 黎明の星
王立学園編

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扱える量

それから次に魔法実習があった日、クロードは練習場所の後ろでノートを開いていた。

前の実習で書いた最後の2行へ目を落とし、それから教本の頁を戻す。

開いたのは《サンダーボール》ではなく、基礎の《丸くする》だった。

この日の実習も2限続けて行われる。

魔導の鐘が鳴り、トルシアの話を聞き終えると、クロードは近くへ来た教師を呼び止めた。

「先生、今日は長い方の《丸くする》もやってみたいです」

トルシアは開かれた教本を見た。

「何を確かめますか?」

「少し多い雷を、どこまで丸くしておけるかです」

クロードはノートも見せる。

「前は、右を直してる間に上と下が動いて、間に合わなくなりました」

「ええ」

「長い《印》なら、もう少し動きを見ながら直せると思って」

《サンダーボール》を初めて練習した頃にも、同じように《丸くする》へ戻ったことがある。

あの時はまだ、普通の量でも丸い形を保てなかった。

今はそれが出来る。

だから、少し増やしたところでも確かめてみたかった。

トルシアは左右の土壁と周囲を確かめてから頷いた。

「では、まず普段の量から見せてください」

「はい」

「増やすのは、前に試した辺りまでにしましょう」

クロードは教本とノートを置き、壁の間へ入った。

右手を上げる前に、自分の中の魔力を感じる。

そこからいつもの量を動かし、長い《丸くする》の《印》を組んだ。

掌の近くへ青白い光が集まり、丸い輪郭を作っていく。

上側へ伸びかけた細い雷を戻し、続けて揺れた右側へも操作を合わせる。

それ以上大きく崩れることはなく、雷は丸いまま手元に残った。

しばらく形を保ってから、クロードは魔力を止めた。

もう1度やっても、途中の小さな乱れを戻して形を保てる。

トルシアもその様子を見ていた。

「こちらは落ち着いていますね」

「はい」

「では、少し増やしてみましょう」

クロードは頷き、右手を下ろしたまま魔力へ意識を向け直した。

前の実習で何度も出した量を思い出す。

いつもより多いけれど、増やしすぎない。

そのつもりで動かしてから《印》を組むと、集まり始めた雷の左側が外へ膨らんだ。

そちらを戻している間に、今度は下から細い光が伸びる。

クロードはすぐに操作を移したが、その時には左側がまた大きく動いていた。

バヂッと音がして、輪郭がほどける。

魔力を止めると、残っていた雷も消えた。

「……長くても駄目か」

思わず漏らすと、トルシアが尋ねた。

「今は、何が見えました?」

「左を直してる間に、下が動きました」

「そのあとは?」

「下を戻そうとしたら、また左が」

クロードは何もなくなった手元を見る。

短い《サンダーボール》で困っていたことが、長い《印》でも起きている。

けれど《サンダーボール》を使っていた時より、下へ意識を移すのが遅れたことがはっきり分かった。

「もう1回やってみます」

今度も最初に魔力を感じ、同じくらいを狙って《印》を組む。

右側から伸びかけた雷を戻すと、少し遅れて上側も膨らみ始めた。

クロードはそちらへ操作を合わせた。

丸い形が残る。

そのまま続けようとしたところで、下側が大きく乱れた。

気づいた時には、戻しきれなかった。

クロードは雷を消し、手を下ろした。

「今のは、上までは戻せました」

「こちらからも、そこまでは形が残って見えました」

トルシアが答える。

「いったん休んでから続けてください」

「はい」

教師が離れていくと、クロードは壁の間から出てノートを開いた。

魔力を出す前の感じと、形が崩れた場所を短く残す。

そのあとで水を飲み、しばらく手を休めた。

離れたところではネノマがカイルの教本を覗き込み、指で示されたところを一緒に見ている。

マミヤとリーゼはそれぞれの場所で風を使い、手順を終えるたびに手を下ろしていた。

クロードも休み終えると《丸くする》へ戻った。

長い《印》を使えば、それだけで雷が大人しくなるわけではない。

外へ動き始めたところを見つけ、自分で戻さなければ形は崩れる。

少ない量なら間に合う動きに、今の量では遅れてしまう。

大きく崩れる前に戻すことは、もう何度も練習してきた。

それでも量を増やすと、戻し終えたところへ意識を残してしまったり、慌てて動かしすぎたりする。

クロードは失敗するたびに、どこへ気を取られたのかを確かめた。

すぐ次を始めず、手を休める時にはノートへ戻る。

途中でいつもの量も試した。

そちらでは、左を戻したあとに右が動いても、次の操作が間に合った。

その感触を覚えてから、また少し多い量で繰り返す。

何度目かに、下側へ伸びかけた雷を小さく戻せた。

上も動いていたが、下の形を見つめ続けずに操作を移す。

今度は上側も戻った。

まだ雷は残っている。

クロードはそのまま《印》の流れを続け、細かく動く光を丸い輪郭の中へ収めた。

少しだけ右が膨らむ。

そこにも操作が間に合った。

「……よし」

声を出したあとも、雷から目を離さなかった。

普段の量より忙しい。

それでも、追いかける先が次々に大きく崩れていく感じではなくなっていた。

しばらく保ったところで自分から魔力を止めると、クロードはようやく息を吐いた。

もう1回試したかったが、先にノートへ戻った。

今の感触が薄れないうちに、どこを戻せたのかも書いておく。

休んでから再開した最初の試みでは、また形が崩れた。

その次は丸くなり、さらに繰り返した中でも、自分から止めるまで保てたものがあった。

最初の1限を終える魔導の鐘が鳴った時、ノートには形を保てた記録が3つあった。

その間には失敗もある。

クロードは鉛筆を置き、右手をゆっくり開いた。

エクリアも水を消して手を下ろし、少し離れた場所ではマミヤとリーゼが教本を閉じていた。

「今日は飛ばさないんだな」

ノーゼスが水を飲みながら近づいてきた。

「次はボールに戻す」

「今の、長い方だろ?」

「うん」

クロードは教本を見せた。

「いつもの量なら出来るけど、増やすとこっちでも難しい」

「でも、さっき丸かったぞ」

「見てた?」

「俺が休んでた時だけな」

ノーゼスは自分の練習場所へ顔を向けた。

そこには横幅を抑えた土壁が残っている。

「俺も端ばっかり見てた」

「揃った?」

「前よりは」

少し間を置いてから、ノーゼスが続けた。

「でも横から見たら、思ってた形と違うんだよ」

クロードも壁の方を見たが、ここからでは端の厚みまでは分からなかった。

「あとで見ていい?」

「いいよ」

その返事を聞いてから、クロードは水を飲んだ。

エクリアも教本を持ってこちらへ来る。

水の頁へ挟んでいた紙を確かめ、そのあとで風の頁を開いた。

「水はどうだった?」

クロードが聞く。

「最後のは、もう1回やりたい」

「次も水?」

「最初にね」

エクリアは風の頁も見てから教本を閉じた。

「こっちもやりたいから、ずっと水ばかりにはしないけど」

「2つあると、休むの忘れそうだな」

ノーゼスが言うと、エクリアは隣へ腰を下ろした。

「今、休んでるでしょ」

「そうだった」

クロードも笑い、開きかけていたノートをいったん閉じた。


◇


次の実習を始める魔導の鐘が鳴ると、生徒たちはそれぞれの場所へ戻った。

クロードも壁の間へ立つ。

最初は普段の量で《サンダーボール》を使った。

丸くなった雷が手元を離れ、正面の的へ届く。

トルシアが近くの生徒を見終えてから、クロードの方へ来た。

「今度は短い方ですね」

「はい」

「先ほどの量でも、やってみますか?」

クロードは頷いた。

自分の魔力を感じ、前半に繰り返していたくらいを狙う。

長い《丸くする》で保てた時の感触を思い出してから、《サンダーボール》の《印》を組んだ。

雷がまとまり始める。

左側の乱れを戻したところで、上側からも細い光が伸びた。

そちらへ操作を移そうとした時には、輪郭が大きく崩れていた。

クロードは魔力を止めた。

「……間に合わなかった」

「長い方では出来たところ?」

「はい」

手の動きそのものには迷っていない。

けれど、その流れの中で雷を整えきる前に崩してしまった。

長い《印》で出来たことを、今度はこの短い流れでも続けなければならない。

クロードは結果を残してから、もう1度試した。

右側が膨らむ。

大きくなる前に戻すと、今度は左側の輪郭が揺れた。

そちらへも操作を合わせ、手順を続ける。

丸い形が出来た。

まだ残っている雷を見ながら最後まで《印》をつなぐと、青白い球が正面へ飛んだ。

的に当たり、短い音を立てて消える。

「届いた」

クロードは手を下ろした。

さっきは戻せなかったところまで、今は間に合った。

「今のは、手元で大きく崩れずにまとまりましたね」

トルシアが言う。

「右を戻してから、左も見られました」

「では、今の感触も覚えておいてください」

「はい」

次の試みでも、雷は的まで届いた。

その次は下側が少し乱れたが、手元を離れる前に戻せた。

的で光が消えると、クロードは思わず笑った。

「3回続いた」

ノートへ戻り、届いた記録を書き足す。

ただ丸くなったのを見送ったのではない。

途中で動いたところへ自分の操作が間に合い、そのまま放つところまで続けられた。

前半に何度も確かめた感触が、短い《印》の中にも少し残っている。

「先生、もう少し増やせそうな気がします」

言ってから、クロードはノートを見た。

先ほどまでの失敗も同じ頁に残っている。

トルシアはすぐに返事をせず、クロードが顔を上げるのを待っていた。

「……でも、先にもう何回か今のでやります」

「そのあとは?」

「続けて出来るようになったら、少し増やしたいです」

「では、まず今の練習を続けましょう」

トルシアはそう答え、別の生徒に呼ばれて歩いていった。

クロードは水を飲み、しばらく手を休めた。

向こうでは水の練習を終えたエクリアが、風の《印》を繰り返している。

的へ向けて放ったあとに教本を確かめ、少し休んではまた同じ手順を試していた。

ノーゼスも壁を作り直し、横へ回って根元を見ていた。

それぞれの練習の音を聞いているうちに、右手に入っていた余計な力が抜けていく。

休憩のあとは、また発動前の魔力を感じるところから始めた。

最初の1回は、形をまとめる途中で崩れた。

その次は的まで届いた。

3回続いた時のように、いつでも上手くいくわけではない。

それでもクロードは、すぐに量を変えず、同じくらいを狙って繰り返した。

途中で自分でも多く出そうとした気がした時には、発動せずにやり直す。

量の感じを確かめたあとで《印》を組み、現れた雷の変化へ操作を合わせる。

届いた回には、どこを戻せたのかも短く書いた。

ネノマが巡回してきた時には、そのうちの1回を見てもらった。

「もう1度、同じくらいでお願いします」

言われて試すと、今度は放ったあとで輪郭が乱れた。

クロードは無理に残さず、途中で魔力を止める。

「ああ、もうちょっとだったのに」

「手元ではまとまっていましたね」

「はい」

「手の方はどうですか?」

尋ねられ、クロードは右手を下ろした。

「少し重くなってきました」

「では、ここで休みましょう」

クロードは頷き、壁の間から出た。

ノートを読み返している間にも、ネノマは別の生徒のところへ向かっていく。

前半には長い《印》でも間に合わなかった操作が、後半には短い《印》の中で間に合うこともあった。

毎回ではない。

けれど、練習していたことと出来たことが、自分の中で少しつながっていた。

やがて実習の終わりを告げる魔導の鐘が鳴り、演習場のあちこちで魔法が止まった。

クロードも最後の記録を確かめ、教本と一緒に鞄へしまう。

ノーゼスのところへ行くと、まだ土壁を残して待っていた。

「こっちから見て」

言われた方へ回ると、正面では揃って見えた壁の端が、横からは少し膨らんでいた。

ノーゼスは根元と上の方を順に指す。

「ここ、もう少し揃えたい」

「正面だと分からなかった」

「だろ?」

ノーゼスはもう1度壁を眺めてから、片づけを始めた。

エクリアも教本を鞄へしまって近づいてくる。

「風も出来た?」

クロードが聞いた。

「練習はね」

エクリアが答える。

「水の方をやり直してたら、思ってたより時間を使っちゃった」

「じゃあ次は風から?」

ノーゼスが土を戻しながら聞く。

「それもいいかも」

エクリアは少し考えてから頷いた。

クロードも鞄を持ち直す。

自分の練習も、まだ途中だった。

けれど、始める前と同じ気分ではない。

3人で食堂へ向かい、昼食のあとは教室へ戻って4限目の授業を受けた。


◇


夜、夕食を終えて寮の部屋へ戻ると、クロードは机へ教本とノートを置いた。

今日の記録を開き、最初の方から順に見ていく。

長い《丸くする》でも、量を増やすと形は崩れた。

何度も試すうちに保てる回が出て、そのあとは《サンダーボール》でも操作が間に合うことがあった。

クロードは以前の記録へ戻った。

同じくらいの魔力を使ったつもりでも、出来たり出来なかったりする。

そのことが気になって、前の実習では魔法を出す前の感覚まで確かめた。

今日も、毎回ぴったり同じ量だったとは言えない。

多く出そうとした気がして、やめた時もある。

魔力の量を揃える練習は、これからも続けたい。

ただ、それと一緒に、その量で雷を扱う練習も必要だった。

「出来る量も、増やさないと」

呟いてから、クロードは自分の右手を見た。

出せる魔力を増やした時も、手は覚えたとおりに動かしていた。

それで操作まで同じように間に合うわけではなかった。

少ない量では戻せる変化にも、増やしたところでは遅れてしまう。

けれど、その量で繰り返しているうちに戻せたものもあった。

クロードは鉛筆を取り、今日の記録の下へ書き足した。

『狙った量の魔力を出す』

『その量で、形を保つ練習をする』

2行を見てから、もう少し考える。

長い《丸くする》で動きを確かめ、短い《サンダーボール》でも同じように扱えるか試す。

まずは今日くらいの量で、それを繰り返したい。

休んだあとでも、練習する日が変わっても、また扱えるようになってから少し増やす。

その方針も短く書き、クロードは教本の《サンダーボム》の頁を開いた。

必要な出力には、まだ届いていない。

もっと強い雷を出してみたい気持ちはある。

でも、今日何度か扱えた量を飛び越えれば、また追いつかないままになりそうだった。

「まず、これをちゃんと出来るようにしよう」

今までも繰り返してきた《丸くする》と《サンダーボール》。

同じ名前の練習でも、今日は少し多い雷を自分で整えられた。

その時の感触を思い出すと、また小さく笑みが浮かんだ。

クロードは教本を閉じ、ノートと重ねて机の端へ置いた。

次に練習する時も、最初は今の量からだ。

増やした分を扱えるようになるまで、もう少し付き合ってみようと思った。

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