くじ引き
翌日も、王立学園の授業はいつも通り始まった。
今日は5年の予選が行われている。
それを知っていても、クロードたち1年生がすることは昨日と変わらない。
教本を開いて授業を受け、魔導の鐘が鳴れば次の授業へ移る。
昨日のように遠くから歓声が聞こえることもあった。
けれどクロードは窓の外を見ることなく、そのまま授業を受けた。
5年代表は、自分たちが最初に戦う相手ではない。
それでも最後の代表が誰になるのかは気になった。
その代表が決まれば、5つ全部が揃う。
そして自分たちの相手も決まる。
最後の授業を終える魔導の鐘が鳴った。
教室の中で椅子が動き始める。
クロードも教本を閉じたところで、教室へマーサ・ミレナインが入ってきた。
「皆さん、少しだけいいですか?」
帰り支度をしていた生徒たちが顔を上げる。
マーサは教室を見回した。
「5年の予選が終わりました」
すぐにいくつか声が上がった。
「これで、1年から5年まで全ての代表が決まりました」
ノーゼスがクロードを見る。
クロードも小さく頷いた。
昨日まで、まだ1つ空いていた。
それが今日埋まった。
「それから代表の8人は、帰らずに残ってください」
マーサが続ける。
「本戦の組み合わせを決めます」
教室の空気が変わった。
ノーゼスが椅子から少し身体を起こす。
「今日決めるのか」
「昨日、そう言われたでしょ」
エクリアが言う。
「分かってるけど、ほんとに今日なんだな」
クロードは教本を鞄へ入れながら、教室の中を見る。
エクリア。
ノーゼス。
ザナトス。
ミナ。
ヤンナ。
タンガ。
リーゼ。
そして自分。
予選を戦った8人が、それぞれ帰り支度を止めていた。
◇
少しして、8人はマーサと一緒に共用校舎の講堂へ向かった。
クロードが講堂へ入ると、すでに何人もの生徒が集まっていた。
自分たちより少し大きな生徒。
それよりさらに背の高い生徒。
同じ学園の制服を着ていても、1年生ばかりの教室とは見え方が違う。
「あれが2年かな」
ノーゼスが小さな声で言う。
「昨日聞いたでしょ」
エクリアが答える。
「2年代表は《持たざる者》組」
「いや、どの人たちかって話」
「あっちじゃない?」
ミナが少し離れた8人を見る。
クロードもそちらへ目を向けた。
その近くには、別の8人がいる。
3年代表のGIFT組。
さらに向こうには4年代表の魔法組がいた。
クロードの視線がそこで止まる。
昨日、名前だけ聞いた相手だった。
1年の自分たちと並べば、やはり背の高い生徒が多い。
肩幅も違って見える。
けれど、それ以上のことはまだ分からなかった。
立っているだけでは、誰が速いのかも分からない。
球を持った時にどう動くのかも分からない。
クロードが見ていると、4年生の1人がこちらへ顔を向けた。
目が合う。
クロードは慌てて逸らさず、そのまま軽く頭を下げた。
相手も少しだけ頭を下げる。
それだけだった。
「いたぞ!」
突然、大きな声が講堂に響いた。
クロードは声の方を見る。
ワズカー・ニタカリマスが前に立っていた。
ノーゼスが小さく息を吐く。
「やっぱりワズカー先生か」
「《六環球》だからね」
エクリアが言う。
ワズカーの近くには何人かの教師もいる。
そして少し離れたところには、今日決まったばかりの5年代表8人も集まっていた。
「これで全部揃った!」
ワズカーが5つの学年代表を見回す。
「1年!」
クロードたちを見る。
「2年!」
別の8人へ視線を移す。
「3年!」
「4年!」
そして最後に5年代表を見る。
「5年!」
講堂にいる40人を順番に見たあと、ワズカーは大きく頷いた。
「この5組で学園大会をやる!」
声が講堂に響く。
「ただし!」
ワズカーが片手を上げた。
「5年は決勝からだ!」
1年側でノーゼスが少し顔をしかめる。
「ほんとに引かないんだな」
「そういう決まりなんだから」
エクリアが小声で返す。
「分かってるけどさ」
クロードは5年代表を見る。
明日の最初から戦う自分たちとは違い、5年代表が試合をするのは最後だけだ。
同じ大会なのに、始まる場所が違う。
「1年から4年は、これからくじを引け!」
ワズカーが前に置かれた箱を指した。
その横には、1から4までの枠が書かれた板が置かれている。
「1番と2番!」
ワズカーが2つの枠を指す。
「3番と4番!」
次の2つを指した。
「それぞれが1回戦だ!」
クロードは板を見る。
4つの場所へ、1年から4年のどこかが入る。
そのうち隣り合った2つが戦う。
「各学年、1人出ろ!」
ワズカーの声に、4つの代表がそれぞれ顔を見合わせた。
1年側でも8人の視線が行き交う。
「誰が行く?」
ザナトスが聞く。
「クロード?」
ノーゼスが言う。
「なんで僕?」
「なんとなく」
「なんとなくで決めないでよ」
エクリアが笑う。
「じゃあノーゼスが行けば?」
リーゼが言った。
「俺?」
「さっきから一番気にしてたし」
「くじを気にするのと引くのは別だろ」
そう言いながらも、ノーゼスは箱の方を見る。
「まあ、いいけど」
「決まりだね」
エクリアが言う。
「変なの引くなよ」
ザナトスが続けた。
「くじに言え!」
ノーゼスが返す。
近くにいたミナが笑った。
クロードも少しだけ笑う。
ノーゼスは1年代表から前へ出た。
ほかの学年からも1人ずつが出てくる。
4年代表から出てきた生徒は、ノーゼスより頭1つ近く高かった。
ノーゼスが一度だけその生徒を見上げる。
すぐに前へ向き直った。
「1年からだ!」
ワズカーに言われ、ノーゼスが箱へ手を入れた。
中を探り、1枚の札を取り出す。
札を開く。
ノーゼスの顔が少し動いた。
「何番?」
エクリアが聞く。
ノーゼスが札をこちらへ向けた。
「1番」
ワズカーが板の1番へ1年代表を入れる。
これで相手は2番を引いた学年になる。
ノーゼスが戻ってきた。
「まだ分かんないな」
「次で決まるかもしれないけどね」
ヤンナが板を見る。
続いて2年代表が札を引いた。
3番。
1年とは別の場所だった。
その次は3年代表。
引いた札は4番。
講堂の中が少しざわついた。
クロードも板を見る。
1番には1年。
3番には2年。
4番には3年。
残っているのは2番だけだった。
そして、まだ引いていないのは4年代表だけ。
「……決まったな」
ノーゼスが呟く。
4年代表の生徒が箱へ手を入れる。
取り出した札を開いた。
2番。
ワズカーが受け取る。
「決まりだ!」
板の2番へ4年代表が入った。
1番と2番が並ぶ。
1年。
4年。
クロードは2つを見比べた。
「1回戦!」
ワズカーの声が響く。
「1年代表対4年代表!」
ノーゼスが小さく息を吐いた。
「4年か」
「3つ上だね」
ミナが言う。
「見れば分かる」
ノーゼスがさっき前へ出てきた4年生を見る。
「でかかった」
「そこ?」
エクリアが呆れたように言う。
「大事だろ」
「それだけじゃないでしょ」
ザナトスが4年代表へ視線を向けた。
「何してくるか、まだ何も分かんないしな」
その言葉にクロードも4年代表を見る。
昨日は試合を見られなかった。
誰が球を持つのか。
誰が先に走るのか。
どんな声を出すのか。
どこを空けるのか。
今ここで見ても、それは分からない。
「そしてもう1試合!」
ワズカーが続けた。
「2年代表対3年代表!」
板の3番と4番も並ぶ。
これで1回戦の2試合が決まった。
その勝者同士が次に戦う。
さらに勝った方が、5年代表の待つ決勝へ進む。
クロードは板の一番左を見る。
けれど今考える必要があるのは、その先ではない。
最初は4年。
「本戦は明日だ!」
ワズカーが全員を見回した。
「今日はしっかり休め!」
少し置いて、さらに声を張る。
「明日、ここまで来た代表として正しく戦え!」
「はい!」
いくつもの学年の声が重なった。
講堂の中で、一番大きく響いたのはやっぱりワズカーの声だった。
◇
説明が終わり、講堂から生徒たちが出ていく。
1年代表の8人もまとまって歩いていた。
少し前には4年代表がいる。
明日、自分たちが戦う8人だった。
「どうする?」
ノーゼスが言った。
「どうするって?」
エクリアが聞く。
「相手のこと」
ザナトスが少し考える。
「昨日の試合、見てないからな」
「誰か見た人に聞く?」
ミナが言う。
「聞けるなら聞いてもいいんじゃない?」
リーゼも4年生たちの背中を見る。
クロードは何も言わず少し考えた。
知れることがあるなら知っておきたい。
でも、聞いたことだけで相手全部が分かるわけではない。
昨日までに、それは何度も経験した。
「聞けることは聞こう」
クロードが言う。
ノーゼスが頷く。
「だよな」
「でも、それだけで決めない方がいいと思う」
「決める?」
「4年はこう動くって」
クロードは前を歩く4年生たちを見る。
まだ何もしていない。
今見えているのは、背の高さや歩く速さくらいだった。
「実際に始まったら、また見ないと分からないから」
エクリアが少し笑う。
「結局そこに戻るんだね」
「うん」
クロードも笑った。
相手は決まった。
昨日までは、それすら分からなかった。
今は目の前を歩いている。
けれど何をしてくるのかは、まだ知らない。
明日。
同じコートへ入った時に、初めて見えるものがある。
クロードは4年代表の背中を見ながら歩いた。
次に見る相手は、もう決まっていた。




