見られていた
中央へ球が戻される。
さっきまで試合をしていた魔法組の6人も、もう一度コートへ入っていった。
エクリア、ノーゼス、ザナトス、ミナ、ヤンナ、タンガ。
クロードとリーゼはコートの外に残る。
反対側では《持たざる者》組の6人が位置についていた。
最初の試合を終えてから、ずっとこちらを見ていた相手だった。
クロードはカルディたちを見る。
自分たちがGIFT組を見ていたのと同じように、向こうもさっきの試合を見ていた。
「準備!」
ワズカーの声が響く。
魔法組の6人が構えた。
《持たざる者》組も中央の球を見る。
「始め!」
両側から一斉に人が動いた。
中央の球へ先に触れたのはザナトスだった。
すぐに右へ向く。
ミナが少し前へ出る。
けれど、その間にはもうマルティナが入っていた。
ザナトスが一瞬止まる。
ミナも進む場所を変えた。
そこへカルディが寄る。
「後ろ!」
エクリアの声が飛ぶ。
ザナトスが球を戻した。
ノーゼスが受ける。
その前にもローディスが入っていた。
「……早い」
クロードが呟く。
球が渡ってから動いているようには見えなかった。
渡る前から、そこへ入っている。
ノーゼスが別の方向へ球を送ろうとした。
ローディスが手を伸ばす。
指先が球に触れた。
球が地面へ落ちる。
エルシーナが拾った。
すぐに前へ出る。
魔法組が戻るより早く、カルディへ球が渡った。
カルディが空いた門へ投げる。
「1点!」
《持たざる者》組から声が上がった。
セリーナはコートを見たまま、小さく頷いた。
球が中央へ戻される。
今度は魔法組が先に球を取った。
エクリアが持つ。
ヤンナが左へ走った。
けれどそちらにもすぐ1人がつく。
右へタンガが動く。
そこにも別の1人が寄った。
さっきの試合で何度も使った動きだった。
クロードは外から見ながら気づく。
向こうは球だけを追っていない。
魔法組の誰が走り出すかを見ている。
エクリアは無理に投げず、ザナトスへ戻した。
ザナトスが向きを変えたところへカルディが入る。
進路を塞ぐ。
押してはいない。
けれどそのまま前へは行けない。
ザナトスが横へ逃れた。
その先へ球を送ろうとした時には、もう別の相手が寄っていた。
球がこぼれる。
また《持たざる者》組が拾った。
ローディスからエルシーナへ渡る。
エルシーナは前を見たあと、すぐ横へ投げた。
魔法組の視線がそちらへ寄る。
その間にマルティナが反対側へ走っていた。
返った球を受け取る。
投げる。
球が門を抜けた。
「1点!」
2対0。
魔法組の方から少しだけ声が減った。
クロードはコートの中を見る。
さっきまで自分たちがしていたことを、今は向こうがしている。
見ていた動きを先に塞ぐ。
人が寄ったら別へ回す。
けれど同じままでは終わらない。
次の再開で、エクリアはすぐには前へ出なかった。
ノーゼスへ球を渡す。
ノーゼスが右を見る。
タンガが走る。
《持たざる者》組の1人がそちらへ寄った。
「左!」
今度はヤンナが声を出す。
ノーゼスがすぐに左へ送った。
ミナが受ける。
前へ2歩。
相手が寄る前にエクリアへ戻す。
エクリアはそのまま門を狙った。
球が横木の下を抜ける。
「1点!」
2対1。
魔法組から声が上がった。
クロードも息を吐く。
全部止められているわけではない。
でも向こうは、さっきの試合を知っている。
球が中央へ戻る。
《持たざる者》組が動いた。
カルディが球を取り、ローディスへ渡す。
ザナトスがローディスの前へ入る。
ローディスは横へ逃げず、すぐ後ろへ戻した。
そこへエルシーナが走り込む。
ミナが追う。
エルシーナは球を持ったまま右を向いた。
ミナもそちらへ寄る。
けれど球は右へ行かなかった。
中央へ戻る。
カルディが受け取る。
その前の門が空いていた。
投げる。
「1点!」
3対1。
「また変えた」
リーゼが隣で言った。
「うん」
クロードも頷く。
最初の試合で見た時とも違う。
《持たざる者》組も、自分たちを見ながら変えている。
コートの中では、ノーゼスが膝へ一度手を置いてからすぐに立ち直った。
ヤンナも息を吐きながら位置へ戻る。
さっきの試合から続けて走っている。
相手はその間、外から試合を見ていた。
同じ6人でも、今の条件は同じではない。
得点が入ったところで、魔法組側から交代が伝えられた。
ワズカーが手を上げる。
「魔法組、交代!」
リーゼがすぐに立ち上がった。
「ヤンナ、出ろ! リーゼ、入れ!」
「はい!」
ヤンナがコートの外へ向かう。
すれ違う時、リーゼが手を上げた。
ヤンナも軽く手を上げ返す。
リーゼがコートへ入った。
再開する。
リーゼはすぐに球へ向かわなかった。
少し外側へ走る。
《持たざる者》組の1人がそちらを見る。
さらに広がる。
カルディも少し位置を変えた。
その分、中央が少し空いた。
エクリアがそこへ入る。
「ミナ!」
球がミナへ渡る。
ミナからエクリアへ返る。
相手が中央へ寄った。
エクリアは投げない。
横へ走ってきたリーゼへ渡した。
リーゼが受ける。
目の前へ1人入る。
すぐに後ろへ返す。
そこへミナが来ていた。
ミナが門へ投げる。
「1点!」
3対2。
リーゼが入っただけで、《持たざる者》組の動きが少し変わった。
クロードはそれを見る。
リーゼが特別なことをしたわけではない。
ただ今までいなかった1人が入った。
それだけで、誰が誰を見るのかが変わっている。
けれど《持たざる者》組も止まらなかった。
次の攻撃ではリーゼの動きにもすぐ人がつく。
エルシーナが球を持つ。
前へ出る。
エクリアが正面へ入った。
エルシーナはすぐローディスへ渡す。
ローディスが受けた瞬間、マルティナが反対側へ走った。
ノーゼスがそちらへ寄る。
その後ろへカルディが入る。
球が戻る。
カルディが投げる。
「1点!」
4対2。
リーゼが入って変わった。
その変化も、すぐに見られた。
「やっぱり、向こうも見るんだ」
クロードが言う。
リーゼが入れば終わりではない。
またそこから変わる。
魔法組も球を回す。
ザナトスからタンガへ。
タンガが前へ出る。
カルディが正面へ入った。
タンガは止まる前にエクリアへ渡す。
エクリアが右を見る。
リーゼがいる。
けれど投げずに中央へ戻した。
そこへザナトスが入っていた。
ザナトスが受け取る。
すぐに門へ投げる。
「1点!」
4対3。
コートの外から魔法組の声が大きくなる。
ガレスたちもさっきより前へ出て試合を見ていた。
クロードも拳を握る。
あと1点。
けれど追いつくだけでは終わらない。
次を取らなければならない。
球が中央へ戻った。
その時、再び魔法組側から交代が伝えられた。
ワズカーが手を上げる。
「魔法組、2回目の交代!」
クロードが立ち上がる。
「ノーゼス、出ろ! クロード、入れ!」
「はい!」
ノーゼスがこちらへ走ってくる。
すれ違う直前にクロードを見る。
「見られてるぞ」
「うん」
「思ったより来るの早いからな」
「それも見てた」
ノーゼスが少し笑った。
「じゃあ行ってこい」
クロードはコートへ入る。
立った瞬間、向こう側からいくつもの視線が向いた気がした。
自分もさっきの試合で途中から入った。
どこへ走ったか。
何を見たか。
どう動いたか。
向こうは外から見ていた。
再開する。
ザナトスが球を持った。
クロードは右へ走る。
前の試合でも最後に走った方向だった。
カルディがすぐについてくる。
さらにもう1人が少し右へ寄った。
「やっぱり」
小さく呟く。
空いていると思った場所へ先に入るのではなく、自分が入る場所を向こうも見ている。
ザナトスから球は来なかった。
ミナへ渡る。
クロードはそのまま右へ行かず、少し中央へ戻った。
カルディも動く。
「戻る!」
声を出す。
ミナがこちらを見る。
けれど球はクロードへ来ない。
リーゼへ渡る。
リーゼが受け取ったところへ相手が寄る。
「中央!」
今度はタンガの声が飛ぶ。
リーゼがすぐ球を戻した。
ザナトスが受ける。
クロードは空いた中央へ入ろうとする。
マルティナが先に入ってきた。
止められた。
だったら別を見る。
左側が少し空いている。
「エクリア、左!」
エクリアが動く。
ザナトスの球が飛ぶ。
エクリアが受け取る。
その前に相手が寄る。
エクリアは無理に投げず、ミナへ返した。
ミナがすぐに門を狙う。
球が抜けた。
「1点!」
4対4。
声が上がる。
クロードは息を吐きながら戻る。
自分が言った場所から、そのまま点が入ったわけではない。
声を聞いた誰かが動く。
それを見て相手も動く。
また別の場所が空く。
球はそこへ渡っていく。
試合が続く。
《持たざる者》組もすぐに攻めてきた。
ローディスが前へ出る。
クロードが正面へ入る。
横へエルシーナが走った。
クロードはそちらを見た。
球が飛ぶ。
リーゼも寄る。
エルシーナは受け取るとすぐ後ろへ戻した。
今度はマルティナが中央へ入る。
「中央!」
クロードより先にタンガの声が飛んだ。
ザナトスが動く。
マルティナが投げる前に進路へ入った。
球が横へそれる。
こぼれ球へ何人も走った。
先に拾ったのはリーゼだった。
「前!」
エクリアの声が飛ぶ。
リーゼが走る。
相手も戻る。
前に1人。
リーゼは横へ球を送る。
クロードが受けた。
正面へカルディが入る。
右にも1人いる。
前の試合なら、そのまま別の空いた場所を探していた。
今は味方の声も聞こえる。
「後ろ!」
ザナトスだった。
クロードはすぐに球を戻す。
ザナトスが受ける。
そこからミナへ。
ミナが投げようとする。
相手が寄る。
さらに横へ。
タンガが受け取った。
門へ投げる。
球が横木の下を抜けた。
「1点!」
5対4。
初めて魔法組が前へ出た。
コートの外から大きな声が上がる。
けれどクロードはすぐ中央を見る。
まだ終わっていない。
あと1点。
《持たざる者》組も同じだった。
次の再開では、さっきまでより声が増えた。
「右!」
「戻して!」
「中央!」
魔法組からも声が飛ぶ。
相手側からも声が返る。
言えば相手にも聞こえる。
それでも、何も言わなければ味方にも伝わらない。
球を持つ人が変わる。
走る人が変わる。
空いていた場所が埋まる。
塞がれていた門の前が空く。
そのたびにまた声が飛ぶ。
《持たざる者》組が球を持った。
カルディからローディスへ。
クロードが寄る。
ローディスはすぐに反対へ送った。
リーゼが追う。
エルシーナが受ける。
門へ向く。
エクリアが正面へ入った。
投げられない。
後ろへ戻る。
ミナが手を伸ばした。
球に触れる。
地面へ落ちた。
タンガが先に拾う。
「行け!」
ザナトスの声が飛ぶ。
タンガが2歩進む。
前にカルディが入った。
すぐにザナトスへ渡す。
ザナトスが受け取る。
ミナが中央へ走る。
《持たざる者》組がそちらへ寄った。
リーゼが左へ動く。
クロードは右へ走る。
カルディがまたクロードを見る。
ついてくる。
クロードはそのまま走った。
球は来ない。
ザナトスからリーゼへ渡る。
リーゼが受け取ると、今度は左へ相手が寄った。
「戻して!」
クロードが声を出す。
リーゼが中央へ返す。
ミナが受け取った。
クロードの方へ寄っていた相手が戻ろうとする。
その後ろ。
タンガが空いていた。
「タンガ!」
ミナが投げる。
タンガが受け取る。
1歩。
門を見る。
投げる。
球が門を抜けた。
一瞬だけ、何も聞こえなかった。
次の瞬間、運動場に大きな声が響いた。
「1点!」
ワズカーが腕を上げる。
「そこまで!」
タンガがその場で両手を握る。
リーゼが駆け寄る。
ザナトスも大きく息を吐いた。
クロードは足を止めたまま、門を抜けた球を見る。
「6対4! 魔法組!」
コートの外からさらに声が上がった。
代表に選ばれなかった10人も、同じように喜んでいる。
ガレスが大きく腕を上げ、ピアやレクシアの声も聞こえた。
ベンやトルトたちも、その横でこちらを見ている。
2週間、何度も相手になってもらった。
審判もしてもらった。
球を奪われた。
門も通された。
同じ場所へ走ってぶつかりそうになったこともある。
そのたびに止めて、またやり直した。
ワズカーが3組の前へ出る。
「予選終了!」
さっきまでの声が少しずつ静かになる。
ワズカーが得点を確認する。
「GIFT組、10点!」
ラウディスが自分の組を見る。
「《持たざる者》組、10点!」
セリーナが小さく息を吐いた。
そしてワズカーが魔法組を見る。
「魔法組、12点!」
クロードたちの方から、また声が上がりかける。
ワズカーがさらに声を張った。
「1年代表! 魔法組!」
今度こそ歓声が上がった。
コートの中にいた6人だけではない。
外にいた12人からも声が重なる。
マーサが少しだけ目元を緩めた。
「皆さん、よく頑張りましたね」
クロードは周りを見る。
エクリア。
ザナトス。
ミナ。
タンガ。
リーゼ。
コートの外にはノーゼスとヤンナもいる。
そのさらに後ろには、ずっと練習相手になってくれたクラスのみんながいた。
ワズカーがもう一度声を上げる。
「大会へ出るのは8人だ!」
クロードは顔を上げる。
「だが忘れるな!」
ワズカーが18人全員を見る。
「ここまで来たのは8人だけじゃない!」
クロードも後ろを見る。
代表を決めた日から、ずっと18人で練習してきた。
「この組で取った代表だ!」
「はい!」
いくつもの声が重なった。
クロードもその中で返事をした。
最初は相手を見ていた。
次は自分たちが見られた。
分かったと思えば変えられて、変えればまた見られた。
それでも最後まで、誰かの声を聞いて、誰かへ声を返して動いた。
1人で取った6点ではなかった。
8人だけで取った12点でもなかった。
クロードは18人の声の中で、もう一度6つの門を見た。
1年代表が決まった。
◇
その夜、クロードは寮の自室でノートを開いた。
戦術の授業から書き続けてきた頁をめくり、その先の新しい頁へ鉛筆を置く。
最初に今日の結果を書いた。
『1年予選』
『GIFT組 10点』
『《持たざる者》組 10点』
『魔法組 12点』
『1年代表 魔法組』
書き終えてから、少し前の頁へ戻る。
『見る』
『考える』
『伝える・聞く』
『動く』
『変わる』
『また見る』
さらにその後には、
『何を見るかも、その時で変わる』
と書いてある。
授業で木片を動かしていた時より、今日の方がずっと速かった。
見る前に誰かが動くこともあった。
見たと思った時には、もう違う場所が空いていることもあった。
第1試合を見ていたことは役に立った。
レオナスたちの動きを先に知っていたから、球へ触れられた。
けれど次は違う動きをされた。
最終戦では、自分たちが先に見られていた。
さっきまで使っていた場所へ動こうとすれば、先に塞がれた。
クロードは新しい頁へ戻った。
『先に見ると、次に動きやすい』
その下へ書く。
『でも、見た通りになるとは限らない』
少し考える。
『相手も見ている』
今日一番違ったのはそこかもしれない。
こちらが相手を見て考えるように、相手もこちらを見て考えている。
リーゼが入れば相手の見る場所が変わった。
その変化もすぐに見られて、また相手が変わった。
クロードはもう1行書く。
『1人替わるだけでも、動き方が変わる』
そして試合の終盤を思い出す。
「右」
「中央」
「後ろ」
「戻して」
短い声がいくつも飛んでいた。
言えば味方に伝わる。
けれど当然、相手にも聞こえる。
クロードは鉛筆を動かした。
『声は相手にも聞こえる』
その下で一度手を止める。
それでも最後まで声はなくならなかった。
むしろ試合が進むほど増えていった。
『でも、言わなければ味方にも分からない』
クロードはそこまで書いて、前の頁をもう一度見る。
見る。
考える。
伝える、聞く。
動く。
変わる。
また見る。
今日も同じだった。
ただ、教室で木片を動かしていた時とは違う。
自分だけがそれをしているわけではなかった。
味方も見ている。
相手も見ている。
みんなが別に考えて、別に動いている。
だから変わり続ける。
クロードは新しい頁の一番下へ書いた。
『見る。伝える。動く。変わったら、また見る』
少し眺めてから、その下へもう1行加える。
『でも、それをするのは僕だけじゃない』
クロードは鉛筆を置いた。
予選は終わった。
1年代表にはなれた。
けれど学園大会には、他の学年の代表も出てくる。
誰と戦うのかはまだ分からない。
クロードは最後に短く書いた。
『次は、学園大会』
ノートを閉じる。
今日見たものは、次もそのままとは限らない。
それでも、見るところから始めればいい。




