予選開始
代表の8人が決まってから、2週間が過ぎた。
その間も授業はいつもどおり続き、運動場を使える日の放課後には18人で《六環球》の練習を繰り返した。
最初は声が重なり、同じ場所へ2人が走り、見ていたはずの相手を見失うことも多かった。
それでも何度も入れ替わりながら続けるうちに、少しずつ出来ることは増えていった。
クロードもリーゼも補欠だからと外にいるだけではなく、何度もコートへ入った。
そうして迎えたのが、1年生の予選だった。
運動場には、いつも一緒に授業を受けている18人だけではない。
少し離れたところには、これまでほとんど顔を合わせることのなかった1年GIFT組と1年《持たざる者》組の生徒たちが集まっていた。
それぞれの組の前には教師もいる。
魔法組にはマーサ・ミレナイン。
GIFT組の前にいるのはラウディス・ベルガント。
《持たざる者》組の前にはセリーナ・カルディオが立っていた。
その3組の間にワズカーが進み出る。
「これから1年の予選を始める!」
いつもどおり大きな声が運動場へ響いた。
「3組で総当たりだ!」
ワズカーが3つの組を順番に指す。
「勘違いするなよ! 勝った数で決めるんじゃない!」
何人かが頷く。
「2試合で取った点の合計だ! 一番多く取った組が1年代表になる!」
クロードたちにとっては、すでに聞いていた内容だった。
けれど本番を前に聞くと、少しだけ意味が違って感じる。
負けても、それまでに取った点は残る。
勝っても、それだけで決まるわけではない。
「それから競技中の魔法とGiftは禁止だ!」
GIFT組の方からも返事が上がった。
「自分の身体で走れ! 自分の目で見ろ! 仲間と動け!」
そこでラウディスが、組んでいた腕をほどいた。
「ところで、最初は私たちと《持たざる者》組でしたね」
「そうだ!」
ワズカーが答える。
ラウディスの視線が魔法組へ向いた。
「魔法組は、両方を先に見られるわけですか」
マーサがわずかに首を傾ける。
「順番を決めたのは私ではありませんよ?」
「もちろん分かっています」
ラウディスはそう言いながらも、少しだけ笑っていた。
すると今度はセリーナが口を開く。
「では私たちも、後で魔法組の試合をしっかり見せてもらいましょう」
「ええ、どうぞ」
マーサは穏やかに答えた。
「うちの皆さんも、この2週間よく頑張っていましたから」
「ほう」
ラウディスの眉が少し上がる。
セリーナもマーサを見る。
3人の間に、妙な沈黙が落ちた。
ワズカーが大きく息を吸った。
「教師が先に勝負を始めるな!」
魔法組の何人かから笑い声が漏れた。
マーサは何もなかったように微笑み、ラウディスとセリーナもそれぞれ自分の組へ戻っていく。
「最初に見られるのは得だな」
ノーゼスがクロードの隣で言った。
「うん」
クロードもGIFT組と《持たざる者》組を見る。
どちらも6人がコートへ入っていくところだった。
「でも次は、向こうも僕たちを見るよ」
「まあ、それはそうだな」
「だったら今見られるものは見ておきましょう」
エクリアが2人の反対側から言った。
「どっちかとは、このあとすぐ戦うんだから」
クロードは頷いた。
6つの門の近くには、それぞれ審判が立っている。
コート中央には球が1つ置かれた。
GIFT組と《持たざる者》組の6人が、それぞれ自分たちの位置へ散っていく。
知らない名前ばかりだった。
けれど今は、名前を覚えることより動きを見たかった。
ワズカーが手を上げる。
「始め!」
両組が同時に動いた。
中央の球を先に取ったのはGIFT組のレオナスだった。
取った瞬間、そのまま前へ出る。
1歩。
2歩。
前から《持たざる者》組のカルディが入ってきた。
レオナスは右へ向きを変え、すぐ近くを走っていたアルディナへ球を渡す。
アルディナは止まらない。
受け取ったまま2歩進み、正面の門へ投げると、球は横木の下を抜けた。
「1点!」
審判の声が上がる。
GIFT組から歓声が上がった。
「悪くありませんね」
ラウディスが満足そうに言う。
セリーナはコートから目を離さなかった。
「まだ1点ですよ」
球が中央へ戻される。
今度は《持たざる者》組が先に動いた。
ローディスが取った球をすぐ横へ渡し、受け取ったエルシーナが前へ出る。
GIFT組の1人が正面へ身体を入れた。
ぶつからない。
押さない。
けれどそのままでは前へ進めない。
エルシーナは足を止める前に後ろへ球を戻した。
そこにはさっき球を渡したローディスがもういない。
少し左へ走っていた。
「そっち!」
声が飛ぶ。
球が左へ渡る。
GIFT組の視線もそちらへ動いた。
その隙に中央が空いた。
クロードは思わずそこを見る。
別の《持たざる者》組の生徒が入ってくる。
返された球を受け、そのまま空いた門へ投げた。
「1点!」
今度は《持たざる者》組から声が上がった。
「……同じだ」
クロードが呟く。
「何が?」
ノーゼスが聞く。
「球を持ってない人が動いて、空いたところが変わった」
「いつも俺たちがやってたやつだな」
「うん」
ただ、相手が違う。
走る速さも、球を離す場所も、声を出すタイミングも違っていた。
同じ《六環球》なのに、見える動きは同じではない。
試合はそのまま続いた。
GIFT組が1点を取れば、《持たざる者》組も取り返す。
《持たざる者》組が門の前を塞げば、GIFT組は別の門へ走る。
クロードは球だけを追わないようにした。
今持っている人。
次に受けそうな人。
何も持っていないのに走り始めた人。
守っている3つの門。
その全部を見ようとすると、やはり遅れる。
だから今は、球の周りと、その少し先を見る。
GIFT組のセルディオスが球を受けた。
前へ出る。
《持たざる者》組の1人が正面から進路へ入った。
セルディオスは身体を捻って横へ逃れる。
もう1人が近づく。
1歩。
2歩。
さらに向きを変える。
クロードも足を数えていた。
5歩。
6歩。
セルディオスが球を投げようとした時、身体がもう一度前へ出た。
審判の声が飛ぶ。
「《越歩》!」
セルディオスが止まった。
「《持たざる者》組から《返球》!」
球が相手側へ渡される。
「あれが《越歩》か」
近くでタンガが言った。
「6歩まではいいんだよね」
リーゼが確かめる。
クロードは頷く。
「今のが7歩目」
練習でも教わっていた。
けれど本番の速さで見ると、自分で走っている時より数えるのが難しい。
そこから《持たざる者》組が素早く再開した。
GIFT組が戻り切る前に球が動く。
ラウディスの表情が少し変わった。
「切り替えが早いですね」
「練習しましたから」
セリーナが答える。
少し前に聞いた言葉だった。
マーサが2人の間で小さく笑った。
試合は4対4になり、さらに5対5まで進んだ。
どちらが取っても終わる。
GIFT組が球を持つ。
レオナスからアルディナへ渡る。
アルディナが前へ出ようとしたところへ、カルディが正面から入った。
アルディナは横へ逃げる。
その先にも1人いる。
球が後ろへ戻された。
今度は《持たざる者》組が手を伸ばした。
指先が球へ触れる。
球が地面へ落ちた。
一斉に何人も動く。
先に拾ったのはローディスだった。
「右!」
声が飛ぶ。
ローディスは右を見た。
けれど投げない。
そのまま2歩進む。
GIFT組の2人が寄った。
次の瞬間、ローディスの球は反対側へ飛んだ。
誰もいなかったはずの場所へ、エルシーナが走り込んでいる。
受け取る。
その前の門が空いた。
エルシーナが投げた。
球が門を抜ける。
「1点!」
一瞬遅れて、《持たざる者》組から大きな声が上がった。
ワズカーが腕を上げる。
「そこまで!」
コートの中で何人かが足を止め、息を吐く。
「6対5! 《持たざる者》組!」
セリーナがゆっくり息を吐いた。
「まず1つですね」
ラウディスはコートを見たまま答える。
「勝敗は、ですね」
セリーナがそちらを見る。
「こちらには5点あります」
「ええ、分かっています」
2人とも笑っていた。
クロードは得点を頭の中で並べる。
《持たざる者》組は6点。
GIFT組は5点。
負けた方の5点も消えない。
次の試合で何点取るかによって、まだいくらでも変わる。
「勝つだけじゃ駄目なんだな」
ノーゼスも同じことを考えていたらしい。
「うん」
「6点取らないと勝てないんだから、勝てば6点は入るけど」
エクリアが言う。
「負けても5点なら、ほとんど差がないわね」
その言葉にクロードはもう一度コートを見る。
さっきの1点。
最初の1点。
途中で取り合った1点。
どれも同じ1点だった。
ワズカーが中央へ歩いていく。
「次だ!」
魔法組の空気が変わった。
「魔法組! GIFT組! 準備しろ!」
エクリアが先に前へ出る。
ノーゼス、ザナトス、ミナ、ヤンナ、タンガも続いた。
クロードとリーゼはその場に残る。
最初に入る6人は、練習を始めた時から何度も一緒にコートへ立ってきた6人だった。
向こうではGIFT組も次の6人を整えている。
さっきまで外から見ていた相手。
どこへ走るのか。
誰へ渡すのか。
どこで向きを変えるのか。
少しは見えた。
けれどクロードは、昼間の剣術で向かい合ったランを思い出す。
外から分かる距離と、自分がその場所へ立った時の距離は同じではなかった。
《六環球》なら、もっと多くの人が動く。
見ていたことが、そのまま使えるとは限らない。
それでも、見なかったよりは分かることがある。
「クロード」
リーゼが隣から声をかける。
「うん?」
「呼ばれたらすぐ行けるようにしとこう」
「うん」
クロードはコートから目を離さなかった。
中央へ球が置かれる。
エクリアたちが構える。
GIFT組の6人も位置についた。
今度は、自分たちの組が見られる番だった。
ワズカーの手が上がった。




