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『異世界転生した製鉄所主任、雷魔法と鉱物生成で成り上がる ~未知の世界は面白いことだらけでした~』~幼少期・王立学園編~  作者: 黎明の星
王立学園編

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127/241

伝える

翌朝、1限目の戦術が始まると、ノルダスはこれまでの授業で使ってきた木片を教卓へ並べた。

6つの小さな木片と、壁として使ってきた細長い木片。

クロードは席からそれを見ながら、昨夜ノートの最後に書いた一文を思い出す。

『味方が何を考えているかは、どうすれば分かる?』

答えは書けないままノートを閉じた。

ノルダスが18人を見回す。

「前へ来い」

椅子が動く音が重なり、生徒たちが教卓の周りへ集まった。

クロードもナーンとヤンナの近くへ立ち、並べられた木片を見る。

昨日は相手だけでなく味方も動かした。

同じ配置を見ていても、自分とナーンとヤンナが同じところを見ているとは限らなかった。

ノルダスが木片へ手を置く。

「昨日、何が分かった?」

少し間が空く。

ナーンが先に口を開いた。

「味方も自分と同じところ見てるとは限らない」

「ほかには?」

ヤンナが木片を見ながら言う。

「味方が動いたら、空くところも変わる」

ノーゼスも手を上げるでもなく続けた。

「相手も味方も動くから、最初に決めた通りにはならない」

ノルダスは答えを聞き終えても頷かず、6つの木片を見る。

「味方が何を考えているか、分かったか?」

クロードは昨日のことを思い返した。

ヤンナが左から中央へ動いた時、どうしてそちらへ来たのか最初は分からなかった。

ナーンが一度後ろへ下がった時も同じだった。

動いたあとに理由を聞けば分かった。

けれど動く前には分からない。

「動いたら分かる時はあるけど……」

クロードが言う。

ノルダスがこちらを見る。

「動く前は?」

クロードは答えられなかった。

周りでも何人かが木片を見ている。

「聞けばいいんじゃない?」

ヤンナが言った。

クロードがそちらを見る。

ヤンナは少し首を傾げた。

「何するのって」

「あ」

昨日はそこまで考えていなかった。

味方を見ることばかり考えていたが、見ただけで全部分かるわけではない。

エクリアが続ける。

「聞かれる前に、自分から言ってもいいでしょ」

ノーゼスが頷く。

「俺はこっち行く、とか?」

ノルダスはそこで初めて木片を動かした。

昨日と同じように壁を置き、その両側へ3つずつ木片を並べる。

「ではやれ」

何人かが顔を上げた。

「昨日と同じですか?」

カイルが聞く。

「ああ」

右側の3人は1人でも向こう側へ抜ければいい。

左側の3人はそれを止める。

一人一つの木片を担当するところも同じだった。

ノルダスは6つを指す。

「ただし、動かす前に味方へ伝えろ」

少し間を置く。

「短くでいい」

ノーゼスが木片を見る。

「相談するんじゃなくて?」

「相談は最初だけだ」

ノルダスは答える。

「始まったら、自分が今どうするつもりかを伝えろ」

クロードは教卓を見る。

昨日と同じように一人で考えて動く。

違うのは、その前に考えたことを味方へ伝えることだけだった。

「昨日と同じ組に分かれろ」

18人が動き始める。

クロードたちの組では、昨日と同じくミナ、タンガ、ベンが攻める側になり、クロード、ナーン、ヤンナが守る側についた。

最初に3人で配置を見ながら話す。

「最初は昨日みたいに広がる?」

ナーンが聞く。

ヤンナが左右を見る。

「うん、でも今度は動く前に言うんだよね」

「そうみたい」

クロードは自分が担当する中央の木片を見る。

右がナーン。

左がヤンナ。

向かいにはミナたち3人がいる。

相談が終わると、ノルダスが6人を見回した。

「始めろ」

攻める側で最初に動いたのはタンガだった。

右側から壁へ近づこうとする。

ナーンが自分の木片へ手を伸ばす。

「右見る」

短く言ってから、タンガへ近づくように動かした。

昨日なら、クロードはナーンが動いたあとでその位置を確認していた。

今日は動く前から、ナーンが右へ行くことが分かる。

クロードは中央へ残った。

次にミナの木片が中央から少し右へ動く。

クロードはそちらを見る。

ナーンの前にはタンガがいる。

その近くへミナも寄ろうとしていた。

自分も右へ行くべきか。

考えて木片へ手を掛けた時、左から声がした。

「中央見る」

ヤンナだった。

クロードは手を止める。

ヤンナの木片が左から中央へ少し寄った。

昨日もヤンナは同じように中央へ来た。

その時は動いてから初めて気づいて、「そっち?」と聞いた。

今日は違う。

ヤンナが動く前から中央を見るつもりだと分かった。

クロードは右側をもう一度見る。

「じゃあ僕、右見る」

自分の木片をナーンの方へ少し寄せる。

ナーンもクロードの木片を見る。

右側に2人。

中央にはヤンナがいる。

その間に、ベンの木片が左から前へ進んだ。

ヤンナが左を見る。

「左戻る」

中央へ寄せていた木片を左へ戻した。

クロードはその声を聞き、中央へ視線を移す。

ヤンナが離れれば中央が空く。

「僕、中央戻る」

右へ寄せていた木片を元へ戻した。

昨日より言葉は増えた。

けれど不思議と、昨日より迷う時間は短かった。

誰かが動いてから位置を見て、どうしてそこへ行ったのか考える必要がない。

動く前に少し分かるだけで、自分が見る場所を先に変えられる。

攻める側も動きを変えてくる。

タンガが右から中央へ向きを変えた。

それを見たナーンが言う。

「右……いや、中央行く」

言ったことがすぐ変わった。

クロードは思わずナーンを見る。

ナーンもこちらを見る。

「だって変わったし」

「うん」

相手が動けば、さっき考えたことがもう使えなくなる。

伝えたからといって、その通りに最後まで動くわけではなかった。

ミナが今度は右から左へ少し戻る。

クロードも6つ全部を見る。

「中央残る」

今度は自分から言った。

ナーンが右。

ヤンナが左。

クロードが中央。

最初に相談した形へ一度戻ったが、そこへ戻ろうとして戻ったわけではない。

その時の相手と味方を見た結果、たまたま同じ形になっただけだった。

木片はさらに何度か動く。

そのたびに、

「右見る」

「中央行く」

「左戻る」

短い声が3人の間を行き来した。

途中でミナが大きく方向を変えた時には、クロードとナーンが同時に中央へ寄りかけた。

「僕、行く」

「じゃあ俺戻る」

重なる前にナーンが位置を戻す。

クロードはそこで、昨日との違いがはっきり分かった。

見ているものは昨日と同じだった。

相手がいて、味方がいて、壁があって、位置も距離も変わり続ける。

違うのは、味方の頭の中にあるものが少しだけ外へ出ていることだった。

しばらくしてノルダスが手を上げる。

「そこまで」

6人が木片から手を離した。

ナーンが最後の配置を見る。

「昨日よりやりやすい」

ヤンナも頷く。

「『そっち?』ってならなかったね」

言われて、クロードは少しだけ笑った。

「うん」

「でも途中で言ったの変わったよ」

クロードがナーンを見る。

「変わるだろ」

ナーンは当然のように言った。

「相手も動くんだから」

その言葉にクロードはもう一度木片を見る。

伝えたことも、作戦と同じだった。

一度決めたら終わりではない。

状況が変われば、伝えることも変わる。

ノルダスが木片を最初の位置へ戻した。

「次」

ノーゼスたちの組が前へ出る。

攻める側はトルト、ピア、ミズー。

守る側はノーゼス、エクリア、カイル。

クロードたちは教卓の周りへ下がり、今度は6つ全部を外から見る。

最初の相談が終わる。

ノルダスの合図で木片が動き始めた。

トルトが中央から進み、ノーゼスがそれを見る。

「中央行く」

ノーゼスが自分の木片を動かした。

次にピアが右へ動く。

エクリアもそちらを見る。

「右を見る」

カイルは左側のミズーを見たまま動かなかった。

「俺は左にいる」

3人の位置が少しずつ変わる。

昨日なら、外から見ているクロードには3人が何を見ているのか動いたあとでしか分からなかった。

今は声でも分かる。

トルトが少し右へ寄った。

ノーゼスがそのまま追おうとする。

「俺、右に行ってトルト止めるから、エクリアはピア見て、カイルは左のままで――」

「短くでいい」

ノルダスの声が飛んだ。

周りから小さく笑いが起こる。

ノーゼスが振り返った。

「分かってるって」

「今の長かったよ」

エクリアが言う。

「じゃあ右行く!」

ノーゼスが言い直して木片を動かした。

「それなら分かる」

エクリアも右側を見ながら自分の位置を少し変える。

ところがトルトが途中で中央へ戻った。

ノーゼスも追って戻ろうとする。

その時エクリアが先に言った。

「中央戻る」

ノーゼスの手が止まる。

昨日なら、エクリアが動いてから自分の場所を変えていた。

今日は動く前に分かる。

「じゃあ俺、右残る」

ノーゼスはその場へ木片を残した。

カイルは左側のミズーを見たまま、

「左そのまま」

とだけ言う。

3人とも別の場所を見ている。

けれど今は、誰がどこを見るつもりなのかが少しずつ分かっていた。

それでも全部がうまくいくわけではない。

ピアが急に中央へ向きを変えた時、エクリアがそちらへ動き、ノーゼスも同じ相手を見て一歩寄った。

右側が空く。

トルトがそこへ動いた。

「あっ」

ノーゼスが声を上げる。

「右空いた!」

「見れば分かるわよ!」

エクリアが返す。

カイルが左から中央へ寄る。

「俺、中央行く」

その声でノーゼスが右へ戻った。

一度空いた場所をすぐに埋め直す。

外から見ていたナーンが小さく言った。

「言ってても間違えるんだ」

クロードも頷く。

伝えれば間違わなくなるわけではない。

見落とす時はある。

同じところへ動いてしまうこともある。

でも間違ったあと、誰がどこへ動くのかが分かれば、その次を合わせやすい。

何度か動いたところでノルダスが手を上げる。

「そこまで」

ノーゼスが木片から手を離した。

「今の最後、戻せたよね?」

「最初から空けなければよかったけどね」

エクリアが言う。

「戻せたんだからいいだろ」

「よくはないでしょ」

いつものように言い合いかけた2人へ、ノルダスが声を掛ける。

「次」

最後はザナトスたちの組だった。

攻める側はラン、リーゼ、マミヤ。

守る側はザナトス、ガレス、レクシア。

3人が木片の前へ立つ。

最初の相談で、ザナトスは中央を指した。

「俺は真ん中見る」

ガレスが右を見る。

「じゃあ俺は右」

レクシアは左側の木片を見る。

それぞれの位置が決まる。

攻める側の相談も終わった。

「始めろ」

ノルダスの声で、リーゼが中央から進んだ。

ザナトスがすぐ木片へ手を伸ばす。

「中央行く!」

そのまま前へ出る。

右側ではマミヤも少し動き、ガレスがそれを見る。

「右見る」

左からランが中央へ寄った。

レクシアもそちらを見る。

「中央に寄る」

ザナトスはリーゼだけを見たまま、さらに中央へ木片を進めた。

ガレスが右側から戻る。

「俺も中央戻る」

ザナトスは聞こえていたはずだった。

それでも自分の木片を中央へ置いた。

ガレスの木片も同じ場所へ近づく。

2つが並び、右側が空いた。

マミヤの木片がそこへ進む。

「あ」

ガレスが右を見る。

「だから俺、中央戻るって言っただろ!」

「聞いてる!」

ザナトスが返す。

「聞いててなんで来るんだよ!」

「こいつ止めるんだよ!」

「俺が戻るなら、お前まで来なくていいだろ!」

周りから笑いが起こる。

ザナトスが何か言い返そうとしたところで、ノルダスが声を掛けた。

「伝えたか?」

ガレスがすぐ答える。

「言いました」

ノルダスはザナトスを見る。

「聞いたか?」

ザナトスが黙った。

「……聞いた」

「では、なぜ重なった?」

ザナトスは中央に並んだ2つの木片を見る。

ガレスが中央へ戻ると聞いた。

けれど自分は、自分が中央へ行くことを言う方ばかり考えていた。

聞こえてはいた。

その言葉を次の動きに使ってはいなかった。

「……俺も中央行こうとしたから」

ノルダスはそれ以上何も言わない。

「続けろ」

木片がまた動き始める。

リーゼが中央から左へずれる。

ザナトスが追おうとして、一度ガレスを見る。

ガレスは右へ戻りながら言った。

「右見る」

レクシアは左側にいる。

「左にいる」

ザナトスは中央を見る。

「じゃあ俺、中央」

今度は3つが重ならない。

相手が動けば、3人の声も変わる。

「右行く」

「中央戻る」

「左見る」

ザナトスも自分のことを言うだけではなく、ガレスやレクシアの声を聞いてから木片を動かすようになった。

しばらくしてランが左から中央へ大きく寄った時、ザナトスがそちらへ動こうとする。

その前にレクシアが言う。

「私が見る」

ザナトスの手が止まった。

「じゃあ俺こっち」

反対側へ位置をずらす。

ガレスが笑った。

「今度は聞いたな」

「うるさい!」

また周りから笑いが起きた。

それでもザナトスは木片を戻さなかった。

ノルダスが手を上げる。

「そこまで」

最後の6人も木片から手を離した。

ノルダスはすべての木片を最初の位置へ戻し、18人を教卓の周りへ集める。

何度も見た配置だった。

最初の戦術の授業では、ただ6人が向かい合っているようにしか見えなかった。

今はその一つ一つが動き、考え、そのたびに周りまで変わることを知っている。

ノルダスが聞く。

「最初に何をした?」

トルトが答える。

「見た」

「何を?」

今度はいくつかの声が続いた。

「相手」

「味方」

「位置」

「距離」

「周り」

少し遅れてクロードも言う。

「何をするのかも」

最初の授業で、自分が気になったことだった。

何のために動くのかが違えば、同じ配置でも考えることが変わる。

ノルダスが木片を一つ動かす。

「動いたら?」

ミナが答える。

「変わる」

「何が?」

「ほかの場所も」

「相手も動く」

ノーゼスが続ける。

ヤンナも言った。

「味方も動く」

ノルダスはまた一つ動かした。

「味方が何を考えているか、見れば全部分かるか?」

今度はクロードが首を振る。

「分からない」

昨日なら、そこで終わっていた。

でも今日は続きを知っている。

「だから伝える」

ノルダスがこちらを見る。

「それだけか?」

クロードは一瞬考えた。

ザナトスとガレスのやり取りを思い出す。

自分の考えを言っても、相手の言葉を使わなければ動きは合わなかった。

「聞く」

クロードが答える。

ガレスが横で頷く。

「言うだけじゃ駄目だった」

ザナトスがそちらを見る。

「分かってるよ」

「さっき分かったんだろ」

「うるさいな!」

小さな笑いが広がる。

ノルダスは止めず、木片をもう一度最初の位置へ戻した。

「最初に作戦を決めれば、それで終わりか?」

「違う」

今度は何人もの声が重なった。

「なぜだ?」

クロードは6つの木片を見る。

相手が動く。

味方が動く。

自分も動く。

一つ動けば、さっきまで考えていた形はもう同じではない。

そのたびにもう一度見なければならない。

「変わるから」

クロードが答える。

ノルダスは教卓の上を見渡す。

「見る」

一度言葉を切る。

「考える」

次に3つの木片を指した。

「味方へ伝える。味方の話を聞く」

一つを前へ動かす。

「動く」

さらに相手側の木片も動かした。

「状況は変わる」

そして手を離す。

「変わったら、もう一度見ろ」

教室が静かになる。

ノルダスは18人を見回した。

「最初に決めた作戦へ、最後までしがみつくな」

クロードはその言葉を聞きながら、これまでの授業を思い返していた。

最初は何を見ればいいのかを考えた。

次は相手が動き、決めた通りにはならないことを知った。

昨日は味方も自分と同じようには動かないと分かった。

今日は、その味方が何を考えているのかを少しでも知るために、自分の考えを伝え、相手の言葉を聞いた。

どれか一つだけでは足りない。

見て、考えて、伝えて、動く。

動けばまた変わるから、もう一度見る。

作戦は最初に決めた答えではなかった。

変わったものを見ながら、そのたびに考え直していくものだった。

ノルダスが最後に言う。

「今のお前たちがまず覚えるのは、そこまでだ」

その直後、1限目の終わりを告げる魔導の鐘が鳴った。

張っていた空気が少し緩み、生徒たちが席へ戻り始める。

クロードも歩き出しかけて、教卓の上を振り返った。

6つの木片は、また最初と同じ位置へ戻されている。

けれどもう、並んでいるだけの6つには見えなかった。

一つ一つが別に見て、別に考え、それでも同じ側で動こうとしている。

そのためには、自分だけで考えて終わるわけにはいかなかった。

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