↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『異世界転生した製鉄所主任、雷魔法と鉱物生成で成り上がる ~未知の世界は面白いことだらけでした~』~幼少期・王立学園編~  作者: 黎明の星
王立学園編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
126/257

そっち?

短い休みが終わり、戦術の2限目が始まった。

ノルダスは教卓の上に残していた木片を片づけず、1限目の最後と同じ位置へ並べたまま18人を見回す。

「前へ来い」

生徒たちが再び教卓の周りへ集まっていく。

クロードもナーンやヤンナと一緒に前へ出ながら、6つの木片を見た。

1限目が始まった時にも見た配置だった。

けれど今は、一つ動けば相手も動き、そのたびに次を考え直さなければならないことを知っている。

ノルダスは左右の木片を一つずつ指した。

「さっきと攻める側と守る側を入れ替える」

クロードたちの組では、ミナ、タンガ、ベンが攻める側になり、クロード、ナーン、ヤンナが守る側へ回る。

ノーゼスたちの組ではトルト、ピア、ミズーが攻め、ノーゼス、エクリア、カイルが守る。

ザナトスたちの組ではラン、リーゼ、マミヤが攻め、ザナトス、ガレス、レクシアが守ることになった。

「条件は同じだ」

右側の3人は1人でも向こう側へ抜ければいい。

左側の3人はそれを止める。

そこまでは1限目と変わらない。

ノルダスは6つの木片へ手を伸ばした。

「ただし今度は、一人一つだ」

ナーンが首を傾げる。

「一つ?」

「自分が担当する木片は、自分で動かせ」

ノルダスはそれだけ言って手を離した。

「最初に相談はしていいんですか?」

ヤンナが聞く。

「ああ」

「始まったら?」

「毎回3人で決めてから動かすな」

クロードは木片を見る。

1限目では途中から作戦を変えていたが、そのたびに3人で同じところを見て次の動きを話すことが多かった。

今度は自分が担当する一つを、自分で見て動かすことになる。

「考えろ」

ノルダスの声で3つの組に話し声が戻った。

クロードたちは守る側の3つを見ながら相談を始める。

「最初はどうする?」

ナーンが壁の左右を見る。

攻める側のミナたちも、少し離れたところで同じ配置を見ていた。

「3人で同じ方に行ったら、反対が空くよね」

ヤンナが言う。

「じゃあ最初は広がっておく?」

ナーンが中央と左右へ指を動かす。

クロードはその配置を見てから頷いた。

「相手が動いた方に近い人が行く?」

「それならいいかも」

ヤンナが答える。

ナーンも頷いた。

大まかな形は決まった。

右へ来れば右に近い人が見る。

左へ来れば左に近い人が見る。

中央なら中央。

ただ、それだけで最後まで守れるかは分からない。

相手も途中で動きを変えることは1限目で分かっている。

隣ではミナたちも相談を終えたらしく、タンガが一度壁の右側を指してから手を下ろした。

ベンも中央と左側を見比べている。

しばらくしてノルダスが声を掛けた。

「そこまで」

話し声が止まる。

「最初の組」

クロードたち6人が教卓の近くへ残り、ほかの12人が周囲へ回った。

クロードは中央の木片を担当し、ナーンが右、ヤンナが左に置かれた木片を担当する。

向かい側ではミナ、タンガ、ベンもそれぞれ一つずつ木片の前に立った。

ノルダスが6人を見回す。

「始めろ」

最初に動いたのはタンガだった。

右寄りの木片を壁の方へ進める。

ナーンがすぐに自分の木片をそちらへ動かした。

クロードは中央に残る。

最初に話していた通りだった。

タンガがもう一度進む。

ナーンも少し近づく。

その間に、今度はミナの木片が中央へ動いた。

クロードはそちらを見る。

自分の前へ来るなら、ここを止めればいい。

中央の木片を前へ出した。

その時、左側にいたベンも動いた。

壁の左側へ向かって進む。

クロードは一瞬そちらを見る。

左にはヤンナがいる。

ならヤンナが止めるはずだった。

クロードはミナを見る。

次にミナが少し右へ寄った。

中央からナーンの方へ近づいていく。

「こっち?」

ナーンがミナを見る。

ナーンの前にはすでにタンガがいる。

そこへミナまで来れば2つになる。

クロードは自分の木片を右へ寄せようとした。

その瞬間、ヤンナの木片が中央へ動いた。

「え?」

クロードの手が止まる。

ヤンナは左ではなく、クロードが離れようとした中央へ入ってきていた。

「そっち?」

思わず聞く。

ヤンナもクロードを見る。

「だって中央が空きそうだったから」

クロードは教卓を見る。

自分が右へ動こうとしたため、確かに中央は薄くなりかけていた。

ヤンナはそれを見て中央へ動いたらしい。

けれど左側ではベンが進んでいる。

「左は?」

「まだ間に合うと思ったの」

ヤンナが答える。

その間にも攻める側の番は続いている。

ベンの木片がさらに左側を進んだ。

ヤンナがそちらへ戻ろうとする。

今度はクロードが中央へ残った。

するとミナがまた方向を変えた。

右へ寄せていた木片を中央へ戻す。

「あ」

クロードがそちらを見る。

ナーンはタンガを止めるため右へいる。

ヤンナはベンを追って左へ戻った。

中央にはクロードだけだった。

最初は3人で広がって守るつもりだったのに、いつの間にかクロードから2人が遠くなっている。

ミナの木片が前へ進む。

クロードも進路を塞ぐように動かした。

止められる。

けれどその間に右側のタンガが向きを変えた。

壁の外側へ進むのをやめ、少し中央へ寄ってくる。

ナーンも追う。

クロードはミナとタンガの両方を見る。

どちらも自分の方へ近づいている。

右へ動けばミナが空く。

ミナを見ればタンガが近づく。

「ナーン、そっち……」

言いかけたところで、ナーンは自分から少し後ろへ木片を戻した。

「え?」

「2人来そうだったから」

ナーンはミナとタンガの間を見ている。

クロードはそこで気づいた。

ナーンも、自分と同じ配置を見ていた。

けれど自分が考えていたのは、どちらを止めるかだった。

ナーンが考えたのは、2つに寄られた時に自分が前へ出すぎないことだったらしい。

同じものを見ていても、考えたことは同じではなかった。

ミナがその隙を見て中央から少し左へ動く。

クロードも追おうとした。

すると今度はヤンナが先に中央へ戻ってきた。

「あ、そっちなら僕は……」

クロードは手元の木片を止め、反対側を見る。

ベンが壁の左側から離れ、中央へ戻り始めている。

ヤンナがそれを追えば、また中央が動く。

一手ごとに相手だけでなく味方まで位置を変える。

クロードは自分の木片を見るより先に、ナーンとヤンナの木片を見た。

そこから相手の3つを見る。

今、どこが空いている。

次に誰が動きそうか。

けれど考えている間にもタンガが右から動いた。

ナーンもそれを見て動く。

また配置が変わる。

「次は?」

ノルダスの声が飛んだ。

クロードはもう一度6つを見直した。

自分が何をするかだけでは足りない。

相手を見る。

その相手を見て動いた味方も見る。

味方が動けば、自分の場所の意味まで変わる。

クロードが中央から少し右へ動く。

ヤンナは今度は左へ残った。

ナーンは右から少し中央へ寄る。

さっきとは違う形になったが、3人とも同じ場所へ集まってはいない。

ミナたちもそれを見て動きを変える。

しばらく木片が動き続けたあと、ベンの一つが左側から大きく回ろうとしたところをヤンナが止め、反対側ではタンガをナーンが塞いだ。

中央へ戻ったミナの前にはクロードがいる。

そこでノルダスが手を上げた。

「そこまで」

6人が木片から手を離す。

ナーンが教卓を見る。

「忙しい」

ヤンナが笑った。

「1限目より見るところ増えてない?」

クロードもそう思った。

1限目は相手がどこへ動いたかを見るだけでも何度も考え直した。

今は相手だけでなく、ナーンとヤンナがどこへ動いたのかまで見なければ、自分がどこへ動けばいいのか分からなくなる。

「最初に決めた通りだった?」

ヤンナが聞く。

ナーンがすぐ首を振った。

「途中から全然違った」

「僕も」

クロードが答える。

最初に話したことが無駄だったわけではない。

けれど同じ話を聞いた3人が、そのあと同じように動いたわけでもなかった。

ノルダスは木片を元へ戻す。

「次」

ノーゼスたちの組が教卓の前へ出た。

守る側はノーゼス、エクリア、カイル。

攻める側はトルト、ピア、ミズーだった。

クロードたちは外側へ回り、今度は6つ全部が見える位置から眺める。

1限目でも外から見た方が分かることがあった。

今度は相手だけでなく、同じ側の3人がどう動くのかも気になった。

ノーゼスたちは最初に短く相談する。

「広がりすぎない方がいいよね」

ノーゼスが言う。

エクリアが左右を見る。

「でも同じところだけ見ないようにしないと」

「相手がどっちへ来るか見てからでもいいと思う」

カイルが続ける。

3人の話が終わる。

攻める側のトルトたちも相談を済ませた。

それぞれが担当する木片の前へ立つ。

「始めろ」

トルトが中央から進んだ。

ノーゼスも中央へ出る。

最初は正面から向かい合った。

次にピアが右へ動く。

エクリアがそちらを見る。

そのまま自分の木片を右へ寄せた。

残ったミズーはまだ左側にいる。

カイルは動かない。

クロードは3つの守る木片を見る。

ノーゼスが中央。

エクリアが右。

カイルが左寄り。

今のところは大きく崩れていない。

トルトが中央から少し右へ寄った。

ノーゼスもついていこうとする。

けれどエクリアはすでに右側でピアを見ている。

2人とも右へ行けば中央が空く。

「ノーゼス」

エクリアの声がした。

ノーゼスの手が止まる。

「あ」

自分が動こうとしていた先を見る。

そこにはエクリアの木片がいる。

ノーゼスは右へ行くのをやめ、中央へ残った。

今度は左側からミズーが動く。

カイルがそちらへ寄る。

その瞬間、中央にはノーゼスだけになった。

トルトがまた正面へ戻ってくる。

「またこっちかよ」

ノーゼスが木片を少し前へ出す。

周囲から小さく笑いが起きた。

けれど次にピアが右から中央へ寄ると、エクリアは追わなかった。

その代わり、自分の位置からノーゼスとピアの間を見る。

ノーゼスもエクリアを見る。

少し離れている。

その間をピアが進む。

カイルは左でミズーを見ている。

ノーゼスがピアへ寄ろうとする。

するとトルトの前が空く。

「こっち残るわ」

エクリアが言った。

ノーゼスが手を止めた。

エクリアの木片が中央へ少し戻る。

ピアの進む先とトルトの間に入る位置だった。

ノーゼスはその動きを見て、自分の木片をピアへ寄せた。

カイルは左から戻らない。

ミズーをそのまま見ている。

3人とも最初に決めた配置とは違う。

けれど今は、誰かが動いたあとに残った場所を別の誰かが埋めていた。

クロードはそれを外から見ていた。

「今の、決めてたのかな」

隣にいたナーンが小さく言う。

クロードも首を傾げる。

最初の相談では、そこまで細かく話していなかったはずだった。

それでもノーゼスが右へ寄ればエクリアが中央を見る。

カイルが左へ行けば、2人はそちらまで追わない。

何度か木片が動き、最後まで攻める側は向こう側へ抜けられなかった。

ノルダスが手を上げる。

「そこまで」

ノーゼスが息を吐く。

「今の結構よくなかった?」

カイルが木片を見る。

「途中からだけど」

エクリアも最後の位置を確かめていた。

ノルダスが聞く。

「最初から決めていたか?」

3人が顔を見合わせる。

「全部は決めてない」

ノーゼスが答えた。

「途中でエクリアがこっち来たから、じゃあ俺はこっちかなって」

エクリアも頷く。

「ノーゼスが動いたから空いたところを見ただけよ」

カイルは左側の木片を見る。

「俺はミズーがこっちにいたから残った」

同じ動きを3人で考えていたわけではない。

それでも互いの位置を見たことで、結果として空いた場所が埋まった。

クロードはさっき自分たちが動かしていた時を思い返した。

ナーンが予想と違う方へ動いた時、自分は一瞬迷った。

ヤンナが中央へ来た時にも「そっち?」と思った。

ノーゼスたちも最初から同じことを考えていたわけではない。

違うのは、味方が動いたあとにその動きを次の判断へ使っていたことだった。

ノルダスが木片を戻す。

「次」

最後はザナトスたちの組だった。

守る側はザナトス、ガレス、レクシア。

攻める側はラン、リーゼ、マミヤになる。

ザナトスは木片を見るなり口を開いた。

「今度は抜かせなきゃいいんだろ」

ガレスが隣から見る。

「それはそうだけどな」

ザナトスは中央を指す。

「真ん中は俺が見る」

ガレスとレクシアもそれぞれ左右を見る。

1限目のように全員で中央から押す側ではない。

今度は相手がどこから来るのかを見て止める側だった。

攻める側の3人も相談を終える。

ノルダスの合図で始まった。

最初にランが左側へ動く。

ガレスがそちらへ寄った。

続いてリーゼが中央へ進む。

ザナトスも正面へ出る。

マミヤは右側に残ったままだった。

しばらく3つの木片がそれぞれ向かい合う。

ザナトスは正面のリーゼを見ながら、自分の木片を少し前へ出した。

その時、ランが左から中央へ寄った。

ガレスも追おうとする。

「ガレス、そっちじゃ……」

ザナトスが言いかけたところで、右側にいたマミヤが動いた。

壁の外へ回るように進み始める。

レクシアがそちらへ寄る。

ガレスはその動きを見て、左から中央へ戻った。

「そっちじゃないだろ」

ザナトスがガレスを見る。

「右も動いたんだよ」

ガレスが返す。

ザナトスは教卓を見る。

レクシアは右へ寄った。

ガレスは中央へ戻った。

自分は中央の少し前にいる。

3人とも中央に残れば右が空く。

ガレスが戻ったことで、少なくともそこは塞がっている。

ザナトスは一度口を閉じた。

攻める側がまた動く。

リーゼがザナトスの前から少し左へずれた。

ランはそのまま中央へ入ろうとする。

ガレスがランを見る。

ザナトスも見た。

2人が同じ相手へ寄れば反対が空く。

ザナトスの手が一度中央へ動きかける。

そこで止まった。

「じゃあ俺こっち見る」

自分の木片を少し右へ戻す。

ガレスが中央へ出る。

レクシアは右側のマミヤを見ながら位置を保った。

「今度はそっち行くのかよ」

ガレスが言う。

「お前が真ん中いるだろ!」

「さっき文句言ったじゃねえか」

「今は違うだろ!」

周りから笑いが起きる。

ザナトスは笑われても木片から目を離さなかった。

1限目では相手が思った通り動かず、そのたびに自分の手を変えていた。

今度は味方まで、自分が考えた通りには動かない。

それでもガレスが中央へいるなら、自分までそこへ行く必要はない。

レクシアが右を見ているなら、今の自分はその間を見ることが出来る。

攻める側も何度も位置を変える。

守る3人も、それに合わせて場所を入れ替えていった。

一度、ランが左から大きく回ろうとした時にはガレスが追い、その空いた中央へザナトスが戻る。

マミヤが右から前へ出ればレクシアが近づき、リーゼがその間へ動くと今度はザナトスが少し右へ寄った。

最初に決めた「真ん中は俺が見る」という形は、もう残っていない。

けれどザナトスはそれを戻そうとはしなかった。

目の前にいる味方と相手を見ながら、その時に空いている場所へ自分の木片を動かしていた。

しばらくしてノルダスが手を上げる。

「そこまで」

ザナトスが木片から手を離す。

「今のは抜かれてないだろ」

ノーゼスが外から言う。

「そこ気にするんだ」

「守る方なんだから当たり前だろ!」

ガレスが笑いながら最後の配置を見る。

「でも最初と全然違うな」

ザナトスも教卓へ目を落とした。

自分の木片は最初にいた中央から右へずれている。

ガレスは左から中央へ来ており、レクシアも何度か位置を変えていた。

「……別に、守れてるならいいだろ」

ザナトスが言った。

ノルダスは何も評価せず、6つの木片を最初の位置へ戻した。

3組が終わり、教卓の周りへ18人がもう一度集まる。

1限目から何度も見てきた配置だった。

「相手だけ見ていたか?」

ノルダスが聞く。

「いや」

ノーゼスが答える。

「味方も見てた」

「最初からか?」

ノーゼスが少し黙る。

「途中から……かな」

エクリアが横から教卓を見る。

「自分が動いたら、味方の場所も変わるもの」

ナーンも頷いた。

「味方が動いたら、自分がいた方も空くし」

ヤンナがクロードを見る。

「クロード、途中で『そっち?』って言ってたよね」

「あ」

言われて思い出す。

「だって左にいると思ってたから」

「でも中央が空きそうだったでしょ?」

「うん」

ヤンナにはヤンナが見ていたものがあった。

ナーンにもあった。

クロードにもあった。

同じ6つの木片を見ていたのに、3人がその瞬間に見ていた場所は同じではなかった。

ノルダスが聞く。

「最初に決めた通りだったか?」

「違った」

ナーンが答える。

ノーゼスも頷く。

「俺たちも途中から変わった」

ザナトスは腕を組む。

「味方まで勝手に動くからな」

「勝手って言うなよ」

ガレスがすぐ返した。

周りからまた笑いが起こる。

ザナトスも言い返そうとしたが、少し考えてから教卓を見る。

「……でも、動いたの見て変えた」

ノルダスはそこでザナトスへ答えを返さず、全員を見る。

「1限目に何を見た?」

少し間が空いたあと、トルトが言った。

「相手が動いたら、変わる」

ミナも教卓を見る。

「自分たちが動いても、ほかの場所が変わる」

「今は?」

今度はすぐには声が出なかった。

クロードは6つの木片を見る。

相手が動く。

味方も動く。

自分も動く。

そのどれか一つが変われば、さっきまで見ていた配置はもう同じではない。

「味方も見る」

クロードが答えた。

ノルダスがこちらを見る。

「何を見る?」

クロードは少し考える。

味方がそこにいることだけではなかった。

「どこに動いたか」

一度口にしてから、さっきのヤンナを思い出す。

「その人が動いたら、どこが空いたかも」

ノルダスは答えを正しいとも間違いとも言わなかった。

「ほかには?」

ナーンが少し考える。

「同じところ見てるとは限らない?」

ヤンナが頷いた。

「クロード、私が中央見ると思ってなかったもんね」

「うん」

ノーゼスが自分たちの最後の配置を見る。

「でもエクリアが中央に戻ったの見えたから、俺は右に行けた」

「最初からそう決めてたわけじゃないけどね」

エクリアが返す。

クロードはその言葉を聞きながら、もう一度1限目の最後を思い出した。

最初に考えることは必要だった。

でも相手が動けば、その通りにはならない。

2限目では、それに味方まで加わった。

同じ作戦を聞いていても、同じ場所を見て、同じことを考えるとは限らない。

それでも味方が動いたことを見れば、自分の次の動きを変えることは出来る。

ノルダスは教卓の木片へ視線を落とした。

「今日はここまでだ」

ほとんど同時に、2限目の終わりを告げる魔導の鐘が鳴った。

教室の空気が緩み、生徒たちが少しずつ席へ戻り始める。

クロードも戻ろうとして、もう一度教卓を振り返った。

6つの木片はまた最初の場所へ戻っている。

どれも動いていない。

けれど今は、相手の木片だけを見ても足りないことを知っている。

味方も、自分と同じように見て、考えて、動いている。

なら次に考えることは、その先にある気がした。

自分が見ているものを、味方はどう見ているのだろう。


◇


その夜、クロードは寮の自室でノートを開いた。

机の上へ鉛筆を置き、今日の戦術で動かした6つの木片を思い出す。

1限目では最初に考えた通りに動こうとしても、相手が違う動きをすればすぐに配置が変わった。

そのたびに止まり、もう一度見て、その時に出来ることを考えた。

2限目では、さらに味方まで動いた。

クロードは新しい頁へ鉛筆を走らせる。

『最初に考える』

その下へ続けた。

『相手が動く → 変わる』

『味方が動く → 変わる』

そこで一度手を止める。

相手が動いたから変わるのは分かりやすかった。

相手は最初から自分たちとは別に考えている。

けれど今日は、同じ作戦を相談したはずのナーンやヤンナとも考えていることが違った。

クロードが右へ動こうとした時、ヤンナは中央が空くことを見ていた。

クロードがどちらを止めるか考えていた時、ナーンは2人に寄られた時のことを考えていた。

誰も何も考えずに動いたわけではない。

同じ場所にいて、同じ6つの木片を見ながら、それぞれ別のところまで見ていた。

クロードはもう一行書き加える。

『同じものを見ても、同じことを考えるとは限らない』

書いた文字を眺めながら、昼間のノーゼスたちも思い出す。

ノーゼスが動いたあと、エクリアが空いた場所へ入った。

カイルは別の相手を見てその場へ残った。

3人が最初から全部同じように考えていたわけではない。

それでも味方が動いたことを見て、自分の次を決めていた。

クロードは最初に書いた3行へ視線を戻した。

相手を見る。

味方を見る。

何かが動いたら、また見る。

見るものは、授業を受けるたびに増えていく。

けれど今日最後に残ったのは、見るだけでは分からないことだった。

ヤンナが中央へ動く前に何を考えていたのか、クロードには分からなかった。

ナーンが後ろへ下がると決めたことも、動くまで分からなかった。

クロードは頁の一番下へ、もう一つだけ書いた。

『味方が何を考えているかは、どうすれば分かる?』

答えは書かなかった。

しばらくその問いを見てから、クロードはノートを閉じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。