いくつもの声
朝、クロードが部屋を出ると、廊下にはいくつもの声が響いていた。
少し前まで足音さえほとんど聞こえなかったのに、今日はあちこちの部屋から生徒が出てきている。
久しぶりに会った相手へ声をかける者もいれば、荷物を片づけ終えたばかりなのか、まだ鞄を抱えたまま歩いている者もいた。
クロードは少しだけ足を止めた。
「戻ったんだな」
静かな学園も過ごしやすかった。
けれど、これだけ声があると、ようやくいつもの学園に戻ったようにも感じる。
クロードは人の増えた廊下を歩き、食堂へ向かった。
食堂も昨日までとは違っていた。
空いていた席の多くが埋まり、話し声と食器の音が重なっている。
クロードは朝食を済ませると、始期式へ向かうために食堂を出た。
廊下へ出て少し歩いたところで、聞き慣れた声がした。
「クロード」
振り向くと、ノーゼスがこちらへ歩いてきていた。
「ノーゼス」
「久しぶりだな」
「うん、久しぶり」
ノーゼスはクロードの横へ並ぶと、そのまま一緒に歩き始めた。
「いつ戻ってきた?」
「少し前」
「早かったんだな」
「ノーゼスは?」
「昨日」
そんな話をしていると、前の方からエクリアがこちらに気づいた。
「あ、おはよう」
「おはよう、エクリア」
「おはよう」
エクリアもそのまま2人の横へ並ぶ。
「ちゃんと帰ってきたのね」
クロードはエクリアを見る。
「帰ってきたよ」
「前にちゃんと帰ってきてって言ったでしょ」
「覚えてる」
「ならいいわ」
エクリアは満足そうに頷いた。
「そういえば、クロードは休みの間何してたんだ?」
ノーゼスが聞く。
「畑の仕事を手伝ったり、金属を調べたりしてた」
「畑?」
「草を取ったり、いろいろ」
「お前、そんなこともするんだな」
「前にもやったことあるよ」
エクリアがクロードを見る。
「それより金属を調べてたって何?」
「まだ調べてる途中」
「また何かやってたのね」
「面白かったから」
「それ、答えになってるようでなってないわよ」
エクリアが呆れたように言うと、ノーゼスが笑った。
「まあクロードだしな」
「ノーゼスは何してたの?」
クロードが聞き返す。
「俺は――」
ノーゼスが答えようとしたところで、後ろから大きな声が飛んできた。
「おい、クロード!」
3人が振り返る。
ザナトスがこちらへ向かって歩いてきていた。
「休みの間も練習してたんだろうな」
いきなりそれだった。
「してたよ」
「どれくらいだ?」
「毎日」
ザナトスの眉が動く。
「……毎日?」
「うん」
「そうかよ」
少し黙ったあと、ザナトスは腕を組んだ。
「ザナトスも毎日やってたの?」
クロードが聞く。
「当たり前だろ!」
「そっか」
「何でそんな普通に返すんだよ!」
ノーゼスが吹き出した。
エクリアも口元を押さえている。
「何だよ!」
「別に」
「笑ってるだろ!」
ザナトスの声に、近くを歩いていた生徒が何人か振り返った。
クロードたちはそのまま人の流れに混じり、始期式へ向かった。
◇
始期式が行われる場所には、休暇を終えた生徒たちが学年ごとに集まっていた。
あちこちで小さな話し声が続き、教師が前へ出るたびに少しずつ静かになっていく。
クロードも同じクラスの生徒たちと並んだ。
前期の終わりにも見ていた顔ばかりなのに、60日離れていただけで少し懐かしく感じる。
前方には教師たちが並び、その向こうに壇上が見える。
やがて周囲の声が収まり、始期式が始まった。
後期の始まりが告げられ、生徒たちは前を向いて話を聞く。
入学した時のような緊張はなかった。
けれど、長い休みが終わり、また授業の日々が始まるのだという感覚が少しずつ戻ってくる。
話が終わると、並んでいた生徒たちが動き始めた。
静かだった場所に再び声が広がっていく。
始期式を終えたクロードたちも、教室へ戻った。
◇
教室の扉を開けると、そこにもいくつもの声があった。
席へ向かう者。
友達の机のそばへ寄る者。
休みの間にあったことを笑いながら話している者もいる。
クロードは自分の席へ座った。
少し前まで人のいない学園を歩いていたせいか、同じ教室なのにずいぶん違って見える。
ノーゼスが自分の席へ向かいながら振り返った。
「また始まるな」
「うん」
「今度は後期ね」
エクリアもそう言って席へ向かう。
ザナトスは少し離れたところで、別の生徒に休み中の練習の話をしていた。
クロードは教室を見回した。
前期最後の日、この場所でみんなと別れた。
また後期に。
そう言って、それぞれが学園を離れていった。
そして今は、また同じ教室にいる。
クロードの耳には、あちこちから違う声が届いていた。
長かった休みは終わった。
今日からまた、王立学園での生活が始まる。




