↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『異世界転生した製鉄所主任、雷魔法と鉱物生成で成り上がる ~未知の世界は面白いことだらけでした~』~幼少期・王立学園編~  作者: 黎明の星
王立学園編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
112/244

詳しい人

翌朝、クロードはいつもと同じ時間に目を覚ました。

窓の外はまだ静かで、休暇中の学園には普段の朝のようなざわめきがない。

着替えを済ませると、壁際に置いていた木剣を手に取った。

部屋を出て第2運動場へ向かう。

外へ出ても人影は少なく、校舎の周りを歩く生徒もほとんど見かけなかった。

第2運動場にも先に来ている者はいない。

「広いな」

普段なら何人かが身体を動かしている場所を1人で使うと、いつもより広く感じる。

クロードは軽く身体をほぐしてから木剣を構えた。

ザナンから教わった動きを思い出しながら、1つずつ振っていく。

休みの間も毎日続けていたので、久しぶりという感覚はなかった。

ただ場所が実家から学園へ戻っただけだ。

踏み込み、振り下ろし、構え直す。

同じ動きを何度も繰り返しながら、崩れたところがあればやり直す。

しばらくすると額に汗が浮かび、身体もすっかり温まっていた。

クロードは最後にもう1度木剣を振り下ろすと、ゆっくり息を吐いた。

「よし」

特別なことをしたわけではない。

今日もいつも通り、決めた鍛錬を続けただけだった。

木剣を持って寮へ戻り、汗を拭いて着替えてから食堂へ向かう。

朝の食堂もまだ人は少なかった。

静かな席で朝食を済ませると、そのまま部屋へ戻って外出の支度をする。

昨日開いたノートを鞄へ入れ、クロードは学園を出た。


◇


学園の中とは違い、王都の通りには朝から多くの人が行き交っている。

店を開ける者、荷を運ぶ者、仕事へ向かう者。

休暇中の静かな学園に戻ってきたばかりだったせいか、その賑やかさが少し大きく感じた。

クロードは人の流れに混じりながら、ゴルダ・バヌアレブの工房へ向かった。

工房へ近づくにつれて、金属を叩く音が大きくなっていく。

中へ入ると、いつもの熱気と金属の匂いが鼻に届いた。

「ゴルダさん」

クロードが声をかけると、ゴルダが作業の手を止めて振り返った。

「おう、坊主か」

ゴルダはクロードの持っている鞄へ目を向けた。

「今日は何だ?」

以前にも的や鉄球のことで相談しているので、クロードが何か頼みに来たことはすぐに分かったらしい。

「今日は作ってほしい物じゃないんです」

「じゃあ何だ?」

「金属について聞きたいことがあって」

ゴルダは手にしていた道具を置いた。

「仕事止めさせるほど長い話じゃないだろうな」

「たぶん大丈夫です」

「なら聞け」

クロードは鞄からノートを取り出した。

「シルグリドが何で出来てるかって、分かりますか?」

「何で出来てるか?」

ゴルダが眉を寄せる。

「はい。何が入ってるのかとか、中がどうなってるのかとか」

ゴルダは少し考えてから首を振った。

「そこまでは分からんな」

「ゴルダさんでも?」

「加工するのと、中身を調べるのは別だ」

ゴルダはそう言って、近くに置かれていた金属材を指で軽く叩いた。

「硬いか柔らかいか、削った時にどうなるか、火に入れたらどう変わるか、そういうことなら仕事で見る」

クロードは頷いた。

タングスから聞いた話とも似ている。

「でも、何がどれだけ入ってるとか、中がどうなってるかまでは調べない?」

「ああ」

ゴルダは腕を組んだ。

「それを調べる方法を知ってる人っていませんか?」

クロードが尋ねると、ゴルダはしばらく黙った。

やがて何かを思い出したように口を開く。

「鍛冶師ってだけなら、この国で俺より上はいくらでもいる」

「そうなんですか?」

「当たり前だ」

ゴルダは呆れたように言った。

「その中でも1番と言われてるのが、バストラ・マヌダリアだ」

「バストラ・マヌダリア……」

クロードは知らない名前だった。

「この国で1番の鍛冶師なんですか?」

「そう言われてる」

「その人なら分かるかもしれない?」

「俺よりはな」

クロードはすぐにノートへ名前を書き留めた。

「どこにいるんですか?」

「王宮だ」

鉛筆が止まった。

「王宮?」

「王室専属の職人だからな」

ゴルダは何でもないことのように答える。

クロードは書いたばかりの名前を見た。

この国で1番の鍛冶師。

けれど王宮の中にいるなら、工房を訪ねるように気軽に会いに行ける相手ではない。

「じゃあ、会うのは難しいですね」

「そりゃそうだ」

ゴルダは笑った。

「王宮の中まで行って、鍛冶師に聞きたいことがありますなんて言って入れるわけないだろ」

「ですよね」

詳しそうな人物は見つかったが、簡単に話を聞ける相手ではなかった。

クロードがノートを見ながら考えていると、ゴルダが口を開いた。

「そこまで金属そのものを知りたいなら、ドワーフも当たってみたらどうだ」

「ドワーフ?」

クロードは顔を上げた。

「金属を扱わせたら、あいつらは昔から評判がいい」

ゴルダは工房の中にある工具の1つへ目を向けた。

「ドワーフの金属は質がいいし、あいつらが作った物は壊れにくい」

「そんなに違うんですか?」

「ああ。道具でも武器でも、ドワーフ製ってだけで欲しがる奴がいるくらいだ」

「どうして壊れにくいんですか?」

「それが簡単に分かれば、みんな同じ物を作ってる」

ゴルダは肩をすくめた。

「鉱石を見る目が違うとも言うし、金属の扱いそのものが違うとも言う」

「ゴルダさんも分からない?」

「詳しいやり方までは知らん」

ゴルダはそう答えてから、クロードのノートを見る。

「ただ、お前が知りたいような話なら、普通の人間の鍛冶師を何軒も回るより、ドワーフに聞いた方が近いかもしれんな」

クロードはノートへもう1つ書き加えた。

ドワーフ。

その下に、ザクラスと書く。

ドワーフの国の名前くらいはクロードも知っている。

「ザクラスなら、分かる人がいるかもしれない?」

「いるかもしれんな」

ゴルダはそこで手を上げた。

「ただし、誰に聞けなんてところまでは俺に聞くなよ」

「そこまでは聞きません」

「ならいい」

ゴルダは置いていた道具を再び手に取った。

クロードもノートを閉じる。

「ありがとうございました」

「今度は何か作らせるなら、ちゃんと先に条件を考えてこいよ」

「はい」

クロードは工房を出た。

外へ出ると、王都の通りには朝よりさらに人が増えていた。

クロードはしばらく歩きながら、先ほど聞いたことを考えた。

バストラ・マヌダリアには簡単には会えない。

それなら、もう1つ聞いたドワーフのことを調べてみよう。

せっかく王都の街まで出てきている。

本屋なら、ドワーフについて書かれた本くらいはあるかもしれない。

クロードは通りを歩きながら本屋を探した。

しばらくして見つけた店へ入り、並んでいる本を眺めていく。

「ドワーフ……ザクラス……」

棚を探していると、ザクラスやドワーフについて書かれた本が何冊か見つかった。

クロードはそのうちの1冊を手に取り、ページを開く。

ドワーフは鉱山や鍛冶に長けていること。

多くの鉱石を扱い、金属加工の技術に優れていること。

ドワーフが作った武器や道具は質がよく、丈夫なことで知られていること。

読み進めていくと、ゴルダから聞いた話とよく似たことが書かれていた。

けれど、クロードが知りたいところまでは載っていない。

どんな鉱石をどう調べているのか。

金属に何が含まれているのかをどうやって知るのか。

金属の中がどうなっているのかを調べる方法についても書かれていなかった。

別の本も開いてみたが、内容はそれほど変わらない。

ザクラスの土地や暮らし、ドワーフの文化、鉱山や鍛冶について広く書かれているだけだった。

「やっぱり、こういう本じゃ分からないか」

クロードは本を棚へ戻した。

一般に売られている本なら、これくらいなのかもしれない。

もっと詳しく書かれた本があればいい。

そこでクロードは学園の図書館を思い出した。

王立学園の図書館なら、この本屋には置いていないような本もあるかもしれない。

「帰ったら見てみよう」

クロードは店を出ると、そのまま学園へ戻った。


◇


学園へ戻ったクロードは、寮へ向かう前に図書館へ足を運んだ。

休暇中の校舎周辺は相変わらず静かだった。

図書館の前まで来ると、クロードは扉へ手を伸ばしかけて止まった。

閉まっている。

「……あれ?」

入口の横を見ると、掲示が出ていた。

休暇中、図書館は閉館。

クロードはもう1度扉を見た。

「閉まってるのか」

せっかく戻ってきたが、今は中へ入れないらしい。

クロードは鞄からノートを取り出した。

バストラ・マヌダリア。

王室専属。

この国で1番と言われる鍛冶師。

王宮にいるため、簡単には会えない。

その下には、ドワーフとザクラスについて書いてある。

金属の質がいい。

作った物は壊れにくい。

本屋で調べたが、詳しいことまでは分からなかった。

クロードは最後に、学園図書館と書き、その横に小さく閉館中と付け加えた。

「仕方ないか」

ノートを閉じて鞄へ戻す。

今日はここまでだった。

クロードは閉まった図書館をあとにして、寮へ向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。