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『異世界転生した製鉄所主任、雷魔法と鉱物生成で成り上がる ~未知の世界は面白いことだらけでした~』  作者: 黎明の星


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11/26

畑の向こう側

五歳の誕生日が近づいたある朝、クロードは食堂へ向かう途中で父と母の声を聞いた。

普段ならそのまま通り過ぎるところだったが、耳に入った言葉に足が止まる。

「やはり今年は厳しいか」

ガルディオの声だった。

「ええ。昨日届いた報告でも、南側の畑は特に良くないみたい」

答えたのはエリスだ。

「北側は?」

「そちらも平年より少ないそうよ。ただ、南ほどではないって」

何の話だろう。

クロードは開いていた扉から中を覗いた。

「父さま、母さま」

二人がこちらを見る。

「どうした?」

「何が少ないの?」

ガルディオとエリスが顔を見合わせた。

先に答えたのはエリスだった。

「作物よ。今年はあまり育ちが良くないの」

「畑の?」

「ええ」

クロードは少し考えた。

領地を出るとき、畑なら何度も見ている。

町へ行ったときも馬車の窓から眺めたし、屋敷の周囲にもある。

けれど、育ちが良くない畑というものを意識して見たことはなかった。

「どうして?」

「それが一つの理由ではなさそうなの」

エリスは椅子を引き、クロードをそばへ呼んだ。

「雨の降り方も良くなかったし、場所によっては虫も増えているみたい。土が良くないんじゃないかと言っている人もいるわ」

「土が?」

「作物は土から水や必要なものをもらって育つでしょう? だから同じ種を植えても、どこでも同じように育つわけじゃないの」

クロードは黙って聞いた。

水。

土。

虫。

天気。

一つではない。

「どれが原因なの?」

「分かっていない」

ガルディオが答えた。

その一言で、クロードの視線が父へ向いた。

「分からないの?」

「ああ」

「調べてる?」

「当然だ」

短い答えだった。

けれどクロードには、それで十分だった。

原因が分からない。

だから確認している。

ただ、クロードの頭には別の疑問が生まれていた。

「育ちが悪いって、どんなふうになるの?」

エリスが少し困ったように笑った。

「そうね……いつもより小さかったり、葉の色が悪かったり。うまく実らないこともあるわ」

「全部?」

「全部ではないわよ」

「同じ畑でも違う?」

「あるでしょうね」

「場所で違うなら、土も違うの?」

「クロード」

エリスが笑いながら名前を呼んだ。

クロードは口を閉じた。

また質問が増えていたらしい。

けれど、一度気になると止まらなかった。

話を聞いているだけでは、どうにも形が浮かばない。

育ちが悪い。

土が違う。

場所によって状態も違う。

「……見てみたい」

ガルディオの眉がわずかに動いた。

「畑をか」

「うん」

「遊びに行く場所ではないぞ」

「遊ばないよ」

クロードはすぐに答えた。

「育ってないって聞いても、どんなのか分からないから見たい」

ガルディオはしばらくクロードを見た。

「一人では駄目だ」

「うん」

「仕事の邪魔もするな」

「うん」

そこまで聞いて、エリスが小さく息を吐いた。

「私が連れていくわ」

「いいの?」

「近くの畑ならね。私も様子を見ておきたいし」

クロードの顔が明るくなった。

「行く」

「今すぐとは言ってないわよ」

「いつ?」

「朝食を食べてから」

「分かった」

答えてから、クロードは食堂へ向かおうとした。

「クロード」

ガルディオに呼び止められる。

「なに?」

「走るな」

クロードは今まさに走り出そうとしていた足を止めた。

「……うん」

エリスが笑った。

屋敷を出てしばらく歩くと、景色は少しずつ変わっていった。

道の両側に広がる畑そのものは、これまでにも見たことがある。

けれど今日は、いつもとは見方が違った。

クロードはエリスと、付き添いの使用人から離れすぎないように歩きながら、畑を見比べていく。

最初は何が悪いのか分からなかった。

作物は生えている。

土もある。

遠くから見れば、普通の畑にしか見えない。

「母さま」

「なに?」

「どこが悪いの?」

「近くで見てみましょうか」

畑で働いていた者にエリスが声をかけ、入っても構わない場所を確認する。

許可をもらってから畑の端へ入った。

近づいてみると、ようやく違いが見え始めた。

背丈が揃っていない。

葉の大きなものもあれば、その隣には明らかに小さなものがある。

黄色くなっている葉もあった。

「これ?」

「そうね」

クロードはしゃがみ込んだ。

同じ場所に植えられているのに、全部が同じではない。

「こっちは大きい」

「ええ」

「隣は小さい」

「そうね」

「なんで?」

「だから、それを大人たちも調べているのよ」

エリスに言われ、クロードは口を閉じた。

すぐに答えが返ってこない。

それが少し嬉しいと思ってしまった自分に気づいて、クロードは畑で困っている人たちのことを思い出した。

面白い。

けれど、これは誰かが困っていることでもある。

その二つは別に考えなければならない。

クロードは葉には触れず、今度は足元を見た。

土の色。

乾き方。

小さな虫。

落ちている葉。

見ようとすると、さっきまでただの畑だった場所に違うものが次々と現れる。

もちろん、見えたからといって意味が分かるわけではない。

「これだけ見ても分からないな」

思わず呟く。

「だから農家の人たちは毎日畑を見るのよ」

エリスが言った。

「毎日?」

「昨日と今日で違うこともあるでしょう?」

その言葉にクロードは顔を上げた。

一度だけ測って分かったつもりになるな。

石の記録を始めてから、自分でも何度か似たことを経験している。

畑なら、それが毎日変わる。

「記録してる人はいる?」

「いると思うけれど、みんなが同じやり方で残しているわけではないでしょうね」

また聞きたいことが増えた。

何を記録するのか。

天気はどう残すのか。

雨の量は測っているのか。

土の違いはどう見分けるのか。

虫が増えたというのは何と比べたのか。

けれど今日は、調べに来たのではない。

まず見るために来た。

クロードは立ち上がった。

「もう少し見てもいい?」

「畑の人の邪魔をしないならね」

「うん」

畑の端に沿って歩く。

少し進んだところで、クロードの足が止まった。

作物ではなかった。

土の上に転がっているものが目に入ったのだ。

「……あれ?」

しゃがみ込む。

小さな石だった。

家の近くで拾うものより少し色が濃い。

表面には細かな粒が見え、光の当たり方によってわずかに違って見える。

手に取ってみる。

「クロード?」

「母さま、この石」

エリスが覗き込む。

「石?」

「家の近くのと違う」

指で表面をなぞる。

硬さは分からない。

重さも比べるものがなければ判断しづらい。

それでも見た目は違う。

もう一つないかと周囲を探す。

あった。

少し離れたところにもある。

その先にも。

「いっぱいある……」

クロードは一つ拾って隣に並べた。

形は違う。

色も完全には同じではない。

けれど似ている。

もう一つ。

あと一つだけ。

そう思って手を伸ばしたところで、後ろから声がした。

「何してるの?」

クロードは振り返った。

知らない女の子が立っていた。

自分と同じくらいの年だろうか。

服の裾には土がついていて、片手には小さな籠を持っている。

クロードは手の中の石を見てから答えた。

「石を見てる」

女の子が石を見る。

それからクロードを見る。

「……石?」

「うん。この辺の石、家の近くのと少し違うから」

「それ、いっぱいあるよ」

クロードは顔を上げた。

「ほんと?」

「うん」

女の子は当たり前のように畑を指した。

「畑にあると邪魔だから拾うけど」

「邪魔なの?」

「邪魔だよ?」

クロードは石を見る。

女の子も石を見る。

二人の間に、少しだけ沈黙が落ちた。

「こんなにあるのに?」

クロードが聞く。

女の子はますます不思議そうな顔をした。

「こんなにあるから困るんだよ?」

どうやら同じものを見ているのに、まったく違うものに見えているらしい。

クロードはもう一度、手の中の石を見た。

そして少しだけ笑った。

知らない石を見つけた。

そのうえ、その石を邪魔だと思う人にも出会った。

畑へ来る前には、どちらも知らなかった。

「ぼく、クロード」

女の子が瞬きをする。

「ミーニャ」

それが、クロードとミーニャの最初の出会いだった。

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