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『異世界転生した製鉄所主任、雷魔法と鉱物生成で成り上がる ~未知の世界は面白いことだらけでした~』~幼少期・王立学園編~  作者: 黎明の星
王立学園編

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できるもの

翌朝、クロードはいつものように庭で木剣を振り、小さな雷で《放つ》と《曲がる》を繰り返した。

朝食を済ませると使用人へ声をかけ、昨日に続いてタングスの工房へ向かう。

今日は金属を持っていく必要はなかった。

聞きたいことだけをノートに書き、懐へ入れてある。

工房へ着くと、タングスは作業台の前で金属を削っていた。

扉から入ってきたクロードを見ると、手だけを止める。

「また来たのか」

「昨日、明日聞こうって決めたので」

「俺は聞いてないぞ」

「言ってませんから」

タングスが小さく息を吐いた。

それでも追い返されなかったので、クロードは作業の邪魔にならないところまで近づく。

「昨日の金属のことで聞きたいんです」

「まだあるのか」

「あります」

「言ってみろ」

クロードは昨日ノートへ残した言葉を思い出した。

「金属が何からできているのかを調べる方法って知ってますか?」

タングスの眉が少し動いた。

「何からって、鉄なら鉄だろ」

「そうじゃなくて、もっと細かくです」

クロードは言葉を選ぶ。

「いくつかのものが混ざっているなら、何がどれくらい入っているのかとか」

「知らんな」

答えは早かった。

「じゃあ、その金属の中がどうなっているかを見る方法は?」

「割るんじゃ駄目なんだろ」

「もっと細かいところが見たいです」

「それも知らん」

タングスはそう言うと、手にしていた金属を作業台へ置いた。

「俺がやるのは切る、削る、溶かす、叩く、形にする、そんなところだ」

「組成とか構造までは調べない?」

「そんな言葉で呼んだこともない」

クロードは少し考える。

前の世界なら、金属の成分を調べる設備があった。

鋼材の成分表を見ることも珍しくなかったし、組織を見る方法があることも知っている。

けれど、その設備がどういう部品からできていて、どうすれば一から作れるのかまで知っているわけではない。

知識として存在を知っていても、この世界ですぐ使えるわけではなかった。

「王都なら、調べられる人がいると思いますか?」

「いるかもしれんな」

「かもしれない?」

「俺は王都中の職人を知ってるわけじゃない」

「それはそうですね」

「ここより人も道具も多いんだ」

タングスは作業台へ向き直った。

「帰ったら聞いてみろ」

「はい」

今ここで考えても、組成と構造を調べる方法は見つかりそうになかった。

クロードは礼を言い、工房をあとにした。


◇


屋敷へ戻ると、クロードは自分の部屋でノートを開いた。

『組成を調べる方法』

『構造を調べる方法』

昨日書いた2つの下へ新しく書き加える。

『タングスさんも知らない』

さらに少し考えてから、その下へ続けた。

『王都へ戻ったら調べる』

これでシルグリドについて今すぐできることは、一度なくなった。

まだ分からないことはある。

けれど、それを調べる方法がない以上、同じところを考え続けても仕方がない。

クロードは机の上に置かれた金属を眺めた。

「今できることか……」

シルグリドを作れなかった理由を調べるうちに、逆にまだ確かめていないことがあると気づいた。

自分は何を作れるのか。

鉄やアルミはこれまで必要になった時に生成している。

けれど、前の世界で知っていた金属を順番に試したことはない。

イリシアは、対象について十分な理解が必要になると言っていた。

ならば、自分がどの金属を十分に理解しているのかを確かめることもできる。

クロードは新しいページを開いた。

前の世界で知っていた金属を思いつくまま書き出していく。

鉄。

アルミ。

銅。

鉛。

錫。

マンガン。

クロム。

ニッケル。

チタン。

亜鉛。

モリブデン。

金。

銀。

名前だけなら、どれも知っている。

けれど、シルグリドを調べた今では、それだけで十分だとは思えなかった。

クロードは最初に鉄を思い浮かべる。

前の人生で、最も長く向き合ってきた金属だった。

《鉱物生成》。

魔力が抜けると同時に、掌の上へ小さな鉄の塊が現れた。

クロードはそれを机へ置く。

『鉄 できる』

次はアルミ。

これも生成できることはすでに分かっている。

小さな塊が現れ、鉄の隣へ置かれた。

『アルミ できる』

「次は銅」

前の世界では、配線や設備の中でもよく目にしていた。

色も重さも、熱や電気の通しやすさも思い浮かぶ。

《鉱物生成》。

掌の上へ赤みのある金属が現れた。

「できた」

銅を机へ置き、ノートに書き込む。

次は鉛だった。

重く、柔らかく、他の金属とは違う独特の扱いをする。

それを思い浮かべて魔力を込める。

鉛も現れた。

『鉛 できる』

錫も試す。

前の世界で鉄ほど深く関わった金属ではない。

それでも、その性質や使われ方は具体的に思い浮かべることができた。

掌の上へ小さな錫の塊が現れる。

クロードは少しだけ眉を上げた。

「これもいけるんだ」

生成した錫を机へ置いた。

次にマンガンを思い浮かべる。

鋼材の成分を見る時、何度も目にした名前だった。

含まれる量によって鋼の性質が変わることも、仕事の中で見てきた。

《鉱物生成》。

成功した。

クロムも同じだった。

ニッケルも生成できた。

クロードは机に増えていく金属と、ノートに並んでいく文字を見比べる。

鉄。

アルミ。

銅。

鉛。

錫。

マンガン。

クロム。

ニッケル。

ここまではすべて生成できた。

「じゃあ、チタンは?」

名前も知っている。

軽く、強く、錆びにくい。

用途もいくつか思い浮かぶ。

知らない金属ではなかった。

クロードはチタンを思い描き、《鉱物生成》を使う。

魔力が減った。

けれど、掌には何も現れない。

「……できない」

もう一度試すことはしなかった。

シルグリドと同じだ。

発動はしているのに、金属は現れない。

『チタン できない』

クロードは少し考える。

チタンについて知識は持っている。

けれど、前の人生でチタンそのものを材料として扱ってきたわけではない。

鉄のように削った時の感覚を知っているわけでも、アルミのように身近な材料として何度も触れてきたわけでもなかった。

「知ってるだけじゃ駄目なのかな」

次は亜鉛だった。

これは仕事でも見たことがある。

特に思い浮かぶのは亜鉛メッキだ。

鉄を錆びにくくするために表面へ使われる。

見慣れていたという意味では、チタンよりずっと身近だった。

《鉱物生成》。

魔力だけが減る。

何も現れない。

「亜鉛も駄目か」

クロードは首を傾げた。

しばらく考えてから、ノートへ書き込む。

『亜鉛 できない』

前の世界で何度も見ていた。

だが、自分がよく知っていたのは亜鉛そのものではなく、亜鉛メッキされたものだった。

目にしていた回数だけなら多くても、その金属そのものを理解していたとは限らない。

次のモリブデンも生成できなかった。

成分表の中で名前を見ることはあった。

鋼に使われることも知っている。

けれど、モリブデンそのものを手に取って扱った記憶はほとんどない。

『モリブデン できない』

クロードは成功した金属と失敗した金属の間に線を引いた。

残っているのは金と銀だった。

どちらも知らない人の方が少ないだろう。

金は重く、柔らかく、錆びにくい。

銀は電気をよく通し、装飾品にも使われる。

前の世界で得た知識ならいくつも出てくる。

けれど、金を生成しようとしても何も現れなかった。

銀も同じだった。

クロードは2つとも『できない』と書く。

一覧を上から見直す。

知らない金属だけが失敗しているわけではない。

むしろ、全部知っている。

違うのは、その知り方だった。

鉄やアルミは実際に材料として扱ってきた。

マンガンやクロムやニッケルは、鋼の成分として何度も数字を見て、その違いが材料へどう影響するのかを仕事の中で考えてきた。

一方でチタンや金や銀は、知識として知っている部分が大きい。

亜鉛はよく見ていたが、亜鉛そのものではなくメッキとしてだった。

モリブデンも成分として名前を知っているだけに近い。

「理解って、そういうことなのかな」

まだ断定はできない。

どこまで知れば生成できるのか、その境目も分からない。

けれど、名前や代表的な性質を覚えているだけでは足りないことは見えてきた。

クロードは成功した8つの金属へ目を向けた。

そこでようやく、机の上がかなり賑やかになっていることに気づいた。

「……増えたな」

その時、廊下から足音が近づいてきた。

扉が開き、イリアが顔を覗かせる。

「おにいちゃん」

「イリア?」

イリアは部屋へ入ると、そのままクロードの机へ近づいてきた。

並べられた金属を見つけると、目を丸くする。

「また石のおべんきょう?」

クロードは一瞬、机の上を見る。

イリアにとっては昔から変わらないらしい。

「うん、そんなところかな」

「ずっとしてる」

「え?」

イリアは少し頬を膨らませた。

「おにいちゃん、かえってきてからずっと石のおべんきょうしてる」

「ずっとじゃないよ」

「ずっと」

即答だった。

「イリア、おにいちゃんとかえってきたらいっぱいあそぶとおもってたのに」

クロードは言葉に詰まった。

領地へ戻ってから、一緒にいる時間がなかったわけではない。

けれどここ数日は、シルグリドや雷鳴鋼を持って工房へ行き、戻れば部屋で記録をまとめている。

イリアから見れば、兄が帰ってきたのに石ばかり見ているように見えても不思議ではなかった。

「ごめん」

「つまんない」

イリアは机へ両手をつき、クロードを見る。

「明日は?」

「明日?」

「あそぶ?」

クロードは机の上のノートを見る。

シルグリドについては、王都へ戻るまで調べる方法がない。

《鉱物生成》についても、今日だけでいくつか新しいことが分かった。

急いで続きをする必要はなかった。

「うん、明日はどこか行こうか」

さっきまで膨れていたイリアの顔がすぐに明るくなる。

「ほんと?」

「うん」

「おそと?」

「そうだね」

「いく!」

イリアは嬉しそうに頷いた。

その時、もう一度扉が開いた。

「2人とも、何をしているの?」

エリスだった。

「あ、おかあさま」

イリアが振り返る。

エリスは部屋へ入り、まずクロードを見る。

次に机を見る。

並べられた金属へ視線が止まった。

さらに、その近くに置かれている箱を見る。

クロードもその視線を追った。

何となく嫌な予感がする。

エリスが微笑んだ。

「クロード」

「はい」

「鉱物も、箱に入るだけだからね?」

クロードは机の上を見る。

今日だけで8種類増えている。

全部小さく作ったとはいえ、どう見ても以前より数が多い。

返事を考えていると、隣にいたイリアがエリスの真似をするように人差し指を立てた。

「おにいちゃん」

「なに?」

イリアは少し得意そうな顔をする。

「はこにはいるだけ」

「……はい」

「はこにはいるだけ」

もう一度言われた。

エリスが口元を押さえて笑う。

クロードは机に並んだ金属を見ながら、小さく息を吐いた。

明日は石の勉強を休んで、イリアと外へ出ることになりそうだった。

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