第91話 全精霊 大召喚③
リュシアは大きな水晶玉を発現させ、エリューに見せる。
第二戦線を空から眺めている映像が映し出される。
中央に巨大な装置、その周りに大勢の人間が集まり、精霊達と対峙している。
「え……なんで……」
「召喚魔法を使ったみたい」
「召喚……!」
「みんな、あなたを 取り戻したいのね……」
「…………」
固唾を飲んで水晶玉を見つめる。
突如、第二戦線を炎の嵐が襲った。
「……いやぁぁぁ!」
「どうして……! こうならないために離れたのに……!」
「みんなも、あの子達も、あなたを守りたい……
どうしたらいいのかしらね……」
リュシアは両手でこめかみを押さえる。
「だとしたら、こんなのおかしい!」
エリューの身体から眩い光が放たれ、地上へ光の柱が伸びる。
エリューは丘の上に降り立ち、両手を広げる。
「待って、違うの! みんなを攻撃しないで! わたしの大切な人達なの……傷つけないで!」
「エリュー……!」
シェイドは切実な瞳でその姿を見つめる。
再び、光の柱が地上へ伸びてくる。
柱はバルクシア王のすぐ隣に伸びた。
傷つき、跪く王の背にリュシアが現れ、抱きしめる。
「全ては私の過去の過ちのせい……自分の身の上も責任も忘れて、この人を愛してしまった……本当にごめんなさい」
リュシアは精霊達を見た。
「あなた達がこうなるのを恐れて、私は精霊界へ戻った。大丈夫、私は、あなた達を見捨てたりしない」
「でも……」
「私も娘も、地上に愛する人がいるの」
「どうしようもない……」
リュシアは王の背中に頬を寄せ、涙を流した。
——アーネリュシア——
精霊の声が響く。
セリクは目を見開いた。
「精霊アーネリュシア……
神話の本にある、全ての精霊を統べる精霊……」
——解せぬ。なぜ人間を愛したのか——
「……あなた達が理解できるような説明ができない。一緒にいて、幸せだったの」
——そなたは精霊。精霊界に存在するべき——
「分かってる! だから、そうしたのよ……!」
「――話し合いたい。みんなが納得できる案を探そう」
エリューが精霊たちに語りかける。
「居る場所を、どちらかに決めなきゃいけない? どちらにも居ることは出来ないのかな」
「人間もエルフもセントールもドワーフもノームも精霊も……自分が好きなところで、好きな人と過ごせればいいのに」
「あなたたちも、地上へ来て、みんなと触れ合って。わかって欲しい……」
「それじゃ、だめなのかな……?」
——なん……だと——
——ゴゴゴゴゴゴ、と、激しい地響きと共に轟音が響く。
雲が速く流れ、大気が震える——
シェイドはエリューの元へ走り、強く抱き寄せ
その身を庇う。
騎士団は盾を持ってシェイドとエリューを取り囲む。
「みんな、攻撃に備えろ!」
「伏せるんだ!」
大きな地面の揺れに、みな立っていられず
その場にしゃがみ込む。
魔術団はありったけの魔力で大きな障壁を作る。
みな、衝撃を覚悟して全身に力を込めた——
——しかし、揺れは、少しずつ収まっていく。
激しい轟音が遠くなっていく。
——エリューは空を見た。
精霊達の姿が消えている。
黒い雲の隙間から後光が差し始める――
「え……」
「消えた……」
「精霊達が、いなくなった……」
みな、おそるおそる動き始める。
「エリュー……」
リュシアが呟く。
「……あなたの想い、分かってくれたみたい」
「え…………」
「……好きなところに、いていいって」
空を見上げるリュシアの目から涙がこぼれ落ちた――。




