第90話 全精霊 大召喚②
——人間、なぜ我らを呼んだ——
大気が震え、空から遠雷のような声が轟く。
ライネフは空を見上げながら額の冷や汗をぬぐう。
レグルスは拳を何度も握り直す。
「精霊の娘、エリューを取り戻すためだ」
シェイドが毅然として声を発する。
「エリューを返して欲しい」
再び大気が震える。
——かの者は、自らの意思で来た——
「本意ではない。ここにいたら精霊界から使いが来る、帝国が滅ぶと思い、ここを離れた」
——そのとおりだ——
——かの者は精霊、精霊界で保護する——
「地上に必要な人だ。返してくれ」
——精霊に触れ、尊さを知った憐れな人間たちよ——
——思いを封印し、忘却の彼方へ葬るがよい——
「彼女は "ここにいたい"と言っていた。必ず取り戻す」
——ならば……己の愚かさを思い知るがいい——
辺り一面に炎の嵐が巻き起こる——!
「うわぁぁぁ!」
「か、構えろー!」
「伏せろー!」
「きゃああぁぁ!」
国民戦団の者たちは叫びながら身体を伏せる。
エルフ達は武器を構えたまま身を守る。
騎士団達はシェイドを盾で囲む。
——炎の嵐は通り過ぎると、フッと消えた。
「……みんな、大丈夫かー!」
「周りを確認しろ!」
「隊列を組み直すぞ!」
みな、声を掛け合う。
「くっ……バケモンだな」
レグルスは十字に構えた腕をおろしながら呟く。
丘の上にいるシェイドに目線を向け、無事を確認する。
『陛下を支える』
フラフラしてた俺が、陛下と共に戦って得た、生きる目的。
絶対、独りで戦わせない。
——冗談を言い、笑うエリューの顔が浮かぶ。
初めて俺に、戦地から生きて帰る楽しみをくれた、気の置けない友達。
陛下の隣で笑っていて欲しい。
「……下がれ」
「下がりません」
シェイドの周りでは、騎士団が盾を構えている。
「僕たちより先に陛下が命を落とすのだけは……絶対に嫌です」
ライネフもシェイドの前に立ち、盾を構える。
——いざという時には盾となり、陛下をお守りする。
そして……エリュー様が決めた道は、全力で応援すると言ったんだ。
帝国で生きる道を選んだエリュー様を、必ず取り返す。
「僕たちの魔法は、恐らく精霊には届かない。
だけど、小さな精霊達は常に身近にいるんだ。
彼らの力を借りて、全力で防御に力を注ぐんだ!」
セリクは詠唱し、大きな光の半円で隊を包んだ――
精霊達の圧倒的な力に、誰もがひるみかけたが
再び武器を構え、精霊達に向かい合った。
——天と地ほどの位階の隔たりを目の当たりにしてなお、なぜ抗おうとするのか。理解に及ばぬ——
ビリビリと痺れるような感覚が大気に充満する。
次の瞬間、空から光の柱が地上へかかった——




