第88話 精霊との交流
「エリュー」
リュシアが美しく澄んだ声で名前を呼ぶ。
「精霊たちを紹介するわ」
リュシアが手をかざすと、その手から虹色の光がこぼれる。
四角い空間に6体の精霊が姿を現す。
エリュー達よりもだいぶ大きい。
「火の精霊イフリート」
イフリートがエリューの前に歩み出る。
炎が人の姿に形作られたように見える。
ガッシリと体格の良い男性のような姿だ。
(凄い迫力……)
「……エリューです。よろしくお願いします」
エリューは手を差し出した。
イフリートがリュシアの方を向く。
「握手してって。手を握るのよ」
イフリートは無言でエリューの手を握る。
じんわりと温かい、大きな真綿を握るような感覚だ。
炎でできた手だが、熱くない。
「水の精霊ウンディーネ」
水の塊が女性の形を成したような姿をしている。
「初めまして」
手を握ると、ひんやりと弾力がある。
ウンディーネの手は水の塊だが、握手してもエリューの手は濡れなかった。
「風の精霊シルフ」
霞が集まり、少年の形を作っているような姿だ。
「よろしくね」
手を握ると、フゥーと手に息をかけられるような感覚がする。
全身にフワッとそよ風を感じた。
「木の精霊ドリアード」
木を人の形にしたような姿をしている。
男性とも女性ともつかない。
(散々中間管理職って言ってごめんね)
「お会いできて嬉しいです」
細長い枝の指をまとめて握る。
雨の後、乾いたばかりのような弾力のある枝の感触がした。
「土の精霊タイタン」
土を人の形にしたような姿をしている。
若い青年のような形だ。
「初めまして」
耕した土を優しく固めたような感触。
しっとりと手に馴染む。
エリューの手には土はつかない。
「光の精霊サンダルド」
ぼぅっと光る大きなワシの姿をしている。
「かっこいいね」
エリューはサンダルドの頭を撫でた。
静電気に触れる時のような、反発する磁石を合わせた時のような不思議な感触がする。
パチッと光が爆ぜたが、痛みは無かった。
「いつもみんなで、ここで過ごしているの?」
「いいえ。みんなそれぞれの属性の営みを見守っているの。時々その手伝いをしながら」
「火山に溶岩が詰まってきたら噴火をしたり、空気が集まりすぎたら風を流したり……」
「私はここで、この子達を見守っている」
「みんな、話せないの?」
「いえ、話せるわ。まだ、あなたと何を話していいかわからないのよ」
「みんな、純真無垢な子どもみたいな感じよ」
精霊たちは一斉にフッと姿を消した。
「あれ、居なくなっちゃった」
「…………」
「つまり、お母様はずっとここに一人でいるの?」
「そうよ」
「寂しいね……」
「そうね、でも、ずっとそうしてきたから」
「お父様と一緒に過ごした時間は、楽しかった?」
「……えぇ、忘れることは無いな」
「シューメル村で初めてパジの実を食べたの。とても美味しくて、喜んでたら手の平いっぱいに摘んで、差し出してくれた」
「あなたを授かった時は、泣いて喜んでたわ」
——大気が揺れるのを感じる。
「……なに?」
エリューは辺りを見回す。
リュシアは切ない表情で呟いた。
「……あの子達が、呼ばれたみたい……」




