第87話 それぞれの想い
アーカーはバルクシア王の元を訪れた。
部屋に入ると、王は椅子にもたれ、憔悴していた。
アーカーは王の前に立った。
「……あなたはきっと、王妃殿下が自分を捨て精霊界へ帰ったと、ずっとそう思っておられたんですね」
王はゆっくりとアーカーを見る。
「王妃様があなたを守るために離れたとは、考えなかったんですね」
「……過ちを犯したと、彼女は言った。私との出会いは過ちだったと……」
「ご自身の責務を忘れ、一介の少女になり自由に生きたことを過ちと言ったのでしょう。記憶を無くさなければ、誰かを愛することもできない、縛られた日々だったのでしょう」
「そして……あなたと過ごした日々はきっと、今までにない輝きを持つ日々だったのでしょう」
「それを壊したくなかった。バルクシアを滅ぼしたくなくて、去ったのでしょうね……。あなたを守るため……」
「……そうか。だから、娘は行ってしまったのか……」
「そう、思います」
アーカーはそれだけ告げると部屋を出ていった。
——王は頭を抱えた。
リーサとマルサは隣り合って座り、お互い寄りかかる。
「エリュー、今どうしてるかな」
「精霊界に、リュシア様もいるのかな」
「今ごろ、会えてるかな」
「……どんな話、してるだろうね」
「……私たちはもう、会えないのかな」
二人で泣きじゃくる。
——エリューは薄灰色の四角い空間にいた。
何もない部屋。
そこに、見たこともないほど美しい人がいる。
ただ佇んでいるだけで、その人から光がこぼれているような感覚がする。
「……お母様……?」
その人は笑った。
「エリュー、会えて嬉しい。
結局、ここへ来てしまったね」
ふんわりと抱きしめられる。
「二人を守りたくて、バルクシアを去った。
あの子達に、あなたの存在を隠したかった」
「エイヴァンはあなたまで失う恐ろしさに、あなたを閉じ込めた……あなたはとても、苦しかったね……」
「……自分が同じ立場になって、分かりました。
大切な人と、大切な場所を壊されたくなくて……
だから、お母様は去ったんだって」
「ここにいれば、みんなを守れるなら……」
エリューもリュシアを抱きしめる。
「私もここに……います」




