第84話 喪失
「…………行かなきゃ」
しゃくり上げながら、バルコニーへ向かう。
戻ってきたら、もう離れられなくなる。
出自を知らされた彼は、きっと私を離さない。
そして……
みんな、消えてしまう。
バルコニーから飛び降り、風を操り着地する。
どこへ行こう
どこでもいい
どこか目立たない場所で
この腕輪を外そう
——当てもなく木々の中を駆ける。
シェイドは足早に王の元へ向かった。
一体、何を言った……
こぶしを握りしめ、唇を噛み締めながら進む。
——王の話は、予想だにしなかった。
言葉を失い、愕然とした。
泣きじゃくるエリューの顔が浮かぶ。
世界でただ一人、異質な存在と知り、どんなに心細いだろう。
部屋を出ると、足早にエリューの元へ急ぐ。
すぐに駆け出す。
一秒でも早く抱きしめたい。
部屋の扉を開けると、エリューは居なかった。
バルコニーの窓が半分開いている。
ゾワッと背筋がこおる。
窓に駆け寄り、バルコニーから乗り出して辺りを見回す。
……遠くの木々の隙間に、駆ける人影がある。
「エリューーーー!」
——大好きな声が聞こえる。
エリューはたまらず、駆けながら腕輪を外す。
大気が揺れ、エリューの全身からまばゆい光が放たれる。
光は大きな柱となり、天へと伸びる。
柱は徐々に細くなり、消えた――
シェイドはバルコニーから飛び降り、光の柱が消えたところへ駆け出す。
いない……
辺りをくまなく見渡すが、人影は無い。
草の中で、何かが光る。
シェイドは拾い上げた。
エリューの腕輪だ。
シェイドは腕輪を持ったまま、座り込んだ――
「……陛下!」
ほどなくして、アーカーとレグルスがやってきた。
「アーカー……」
「エリューが……」
シェイドは放心したまま呟く。
「光の柱を見ました。あれは、エリュー様ですね」
「城に戻り、話しましょう」
レグルスはシェイドを起こし、肩を貸して歩いた。
執務室で、シェイドはエリューの出自を明かした。
「なるほど……では、エリュー様は精霊の元へ行かれたのですね」
「……俺が、王の元へ行かず傍にいれば……」
「……いいえ。真実を知った以上、遅かれ早かれエリュー様はここを去ったと思います。自分がいる限り、いつか精霊軍がやってくる……帝国を守るため、離れたのです」
「エリュー様を取り戻すには、精霊軍と対話をする必要があります。そして、いつか攫われ破壊されるという不安を無くさなければいけません」
「その方法を、これから全力で探しましょう。陛下、気をしっかりお持ちください。エリュー様を必ず……取り戻しましょう!」
憔悴していたシェイドの瞳に光が戻ってきた。
「あぁ……すまない」
「必ず、取り戻す」
「レグルス隊長、皆を大広間に集めてください。緊急会議を開きます」




