第83話 困惑するエリュー
バルクシア王が談話室を出て行き、しばらくするとリーサが入ってきた。
「姫さま……エリュー、大丈夫?」
「……うん」
「また何か、言われたの?」
「…………ちょっと、まだ頭がぐちゃぐちゃで」
「いいの。部屋に戻ろう」
リーサはエリューを立ち上がらせ、手を引いて部屋に連れて行く。
エリューは放心したまま、バルコニーのそばに置いた椅子にゆっくりと腰掛ける。
「……何か話したくなったら、いつでも言ってね」
リーサはそっと声を掛け、部屋を出た。
エリューは椅子にもたれかかり、窓の外に視線を投げる。
空は夕暮れで赤く染まる。
「私……人間じゃなかったのか……」
精霊って、なに? 生き物なの?
この世で、私だけが、違う……
どうして隠してたの?
お母様、生きてたんだ
なぜ、私を置いていってしまったんだろう
なぜ一度も会いに来ないんだろう
今までの苦しみは全部、私を隠すためだったのか
——ポロポロと涙が頬をつたう。
これから、どうしよう
誰かに伝えるのが、怖い
とても怖い
シェイドが聞いたら、どう思うだろう
シェイドは……シェイドは……
きっと……受け止めてくれる
変わらず、接してくれる
だけど……
エリューの脳裏に、巨大な精霊軍が帝国の空に現れる光景が浮かぶ――
ここにいたら……
みんなが……
エリューはハッとした。
……だから、お母様は……
——シェイドは戦地から城へと馬を走らせていた。
到着すると、すぐにエリューの部屋へ向かった。
エリューの部屋の前には、リーサが泣きながら立っていた。
「……どうした」
「……陛下、お帰りなさいませ」
リーサが手で涙を拭いながら答える。
「姫さまは、今、塞ぎ込んでおられて……」
「何があった」
「今日の昼過ぎに、バルクシア王とお話をされ、そこからずっと……」
シェイドはエリューの部屋の扉を見る。
ゆっくり扉を開けると、窓際の椅子にもたれるエリューの姿が見えた。
シェイドは足を進め、エリューの傍に寄る。
エリューは椅子の上で膝を抱え、ぼんやりと遠くを見ている。
頬は涙で濡れ、シェイドが近寄っても気付かない。
「……エリュー」
「エリュー」
エリューはハッと我に返った。
「……あ、ごめん、シェイド……気づかなかった」
両手で涙を拭い、立ち上がる。
「お帰りなさい」
涙声で言う。
「……どうした」
エリューは両手を顔に当てる。
何も言わない。
シェイドはエリューの頭を撫で、抱き寄せようとする。
「皇帝陛下……」
マルサが扉から声を掛けた。
「……バルクシア王が……お呼びです」
——エリューが咄嗟にシェイドの腕を掴んだ。
「……ここにいた方がいいか?」
エリューは、ゆっくり首を振った。
静かにしゃくり上げながら、腕を離す。
そして、シェイドの胸元を弱々しく押した。
「……行け、ということか」
エリューが頷く。
「……すぐに戻る」
もう一度頭を撫でると、シェイドは踵を返し部屋を後にした。




