第82話 バルクシア王の告白②
——壁にかけられた振子時計が軋む音が部屋に響いている。
「彼女は、すべての精霊を統べる存在と言っていた。記憶を無くし、過ちを犯したと……」
「自分を取り戻した今、ここにいると精霊たちが取り返しに来る、ここには居られない。……そう言って、抱いていたお前を寝かせ、外へ出て行った。私は後を追った。 外に出ると、空に巨大な精霊達が群をなして現れた」
「……凄まじい光景だった」
「彼女は私にお前を守るよう告げると、まばゆい光の柱の中へ消えていった」
エリューの握り締めた手が震えている。
「愛する人を失い、私はお前を守る事に必死になった。どうすれば守れるのか考えた」
「精霊達に見つからないよう、城の外に出すことを禁じた。自らの身を守れるよう、剣や武術も学ばせた」
「帝国に年の近い皇太子がいる事は知っていた。皇妃が選抜されることも……他の国では守り切れない。皇妃になれるよう教育を施した」
「……もし選ばれなければ、バルクシアにいるより庶民に紛れた方が安全とも考えた。どんな仕事でも食べていけるよう、あらゆる技術を磨かせた。
……お前は何をさせても天才的だった」
「魔術は人の域を超えた才能を発揮した。詠唱せずとも発動させるので、必ず詠唱するよう厳しく教え込んだ。凄まじい魔力を秘匿するため、魔封じの腕輪を着けさせた」
「エフォルテやダンスの芸術面は隠し切れなかった。人前で披露する事を禁じ、社交場には一切触れさせなかった。教師達には才能を他言せぬよう箝口令を敷いた。また、お前が慢心して道を外すことを恐れ、優れていると認識させぬよう厳命した」
——バルクシア王は胸の内を全て吐き出すと、ひとつ大きな深呼吸をした。
「……お前が帝国でじっとせず、方々に探訪している話を聞いては血の気が引く思いだったが……」
「異種族の力を持って守護してもらえる事は、結果的に安心に繋がった」
「これからは、帝国で…………守ってもらえ」
そう言うと、王は談話室を出ていった。
エリューは固まったまま、しばらく動けなかった。




