第79話 結婚式のあと①
3日間に渡り開催された結婚式は、止むことのない祝福に包まれて幕を降ろした。
翌日、シェイドは戦線にいた。
魔物の襲来がない時間、丘に座り荒地の地平線を眺めている。
「……にしましょうか」
「陛下……あの、陛下?」
シェイドはハッと我に返った。
「あ……すまない……何と言った?」
「いえ、魔物の襲来が落ち着いたので、昼食にしましょうかと申し上げました」
「あぁ……食事をとってくれ」
「承知しました」
シェイドは立ち上がり、両手でパンッと顔を叩くと
歩いて行った。
「あの陛下が、うわの空だ……」
「……無理もないって。結婚式終えた翌日なんだから」
「そうだよな……」
騎士達が小声で話す。
「もっとゆっくりしていいのに……」
「自分に厳しいよなぁ……」
戦線で一夜明け、翌日。
魔物の襲来に対応しながら、シェイドは今までにない違和感に戸惑っていた。
(一夜明けても変わらない……)
(胸騒ぎがする。集中力が続かない)
魔物の群れを一掃すると、すぐ馬停めへ向かう。
「すまない、すぐに戻る」
騎士にそう告げると、城へ馬を走らせた。
城へ戻ると、まずエリューの元へ走った。
「……あれ!? シェイド、もう帰ったの?」
「いや、気になることがあって……すぐに戻る」
「エリュー……」
「ん?」
「何事も無いか?」
「え、うん大丈夫、元気だよ!」
「そうか……ならいい」
そう言うと、シェイドはアーカーの執務室へ向かった。
「陛下、どうなさいましたか?」
「アーカー……何か嫌な予感がして」
「嫌な予感……どのような事ですか?」
「何をしていても、戦闘中でさえも、急にエリューの顔が頭をよぎって、胸騒ぎがする」
「ほう……」
「もしかすると、何か気がかりなことがあったのに、失念しているのかもしれない」
「……なるほど」
「分かりました」
「陛下。驚かれるかもしれませんが……」
「恐らくそれは、恋です」
「…………」
「何をしていても、つい考えてしまう。
戦闘中だというのに集中できない」
「……いや、」
「胸騒ぎではなく、思い出すたびに胸がときめいているんですよ」
「…………」
「では、つまり……」
「恋をする者は……常にこんな動悸を抱えて日々を送っているのか?」
「しばらくは、そうです」
「これでは、まともに活動が……」
「ご安心ください。この先の人生、ずっと苦しいわけではありません」
「恋心は段々と穏やかな愛に変わっていきます。
今の抑えきれない気持ちは、今だけの特別なもの。
だから、大切になさってくださいね」
「……戦線に立つ者たちには、結婚休暇が必要だな。
こんな状態で戦線に出るのは危険だ」
「それでしたら陛下からお取りになれば隊員も続きますよ」
「いや……式の準備などで随分負担をかけた」
「悪い予感ではなくて、何よりだ。
もう戻る。休暇の法案を立てておいてくれ」
そう言うとシェイドは執務室を出て行った。
「……戦地育ちだから、無理もないですね。
でも、良かった良かった」
アーカーは微笑んで扉を見つめた。




